18話「戦争、最強姉妹」
第6階層メカニカル広場。
ガンアクション中心の近代的且つ機械的なその広場には大戦と言われるゲームがある。
エントリーしたプレイヤーやパーティがランダムにチーム分けされ、敵の全滅あるいは陣地の占領を目指すまさに戦争のような遊び。
銃がメインウェポンであるこの階層ならではと言える。
そして今、俺とエルを始めとして、凛華さんやお餅さん、如月さん、そしてサポートメンバーの鈴と、各人工知能たちを含めたパーティメンバーとともに俺はその大戦ゲームに参加していた。
端が目視で確認できない広大な市街地フィールドの廃墟と化した建物の中で、凛華さんを中心に作戦会議をしているのだ。
「こっちの陣地防衛はソロで参加してる他のプレイヤーたちに任せて、アタシたちみたいなパーティが敵の排除と陣地占領を狙うことになった。そこで基本は2人1組として警戒しつつ進んでもらおうと思う」
「敵の待ち伏せの可能性は?」
エルの問いに凛華さんは豪快に、しかし声量はやや控えめに笑ってみせた。
「あるかもしれないけどこのメンバーなら大丈夫さ。それじゃあさっさと行くよ!」
人工知能を連れている凛華さんとお餅さんと俺はそれぞれの人工知能と。
残ったエルと如月さんがペアだ。
「お互いの連絡は無線でする。危なくなったら逃げて合流しろ。いいな、青いマーカーで示されてるのは仲間だ。他のパーティの仲間を撃たないように」
今度はエルが無線機を振りながら指示を飛ばし、今度こそ俺達は散開した。
人の気配があてにならないほど、誰かに見られているような気がする。俺は持ちなれないアサルトライフルを適当に触りながら、ネイトとともに敵の陣地を目指して建物の影を警戒しながら進んでいた。
聴覚が捉えるのは風の音ばかり。始まったばかりであるというのもあってお互いのチームがまだ遭遇していないということである。
「近くに敵の部隊がいますー。その進行方向にこちら側の仲間数名。約3分で接敵するかとー」
「皆の位置は?」
「その敵味方を挟んだ向こう側にエリアルさんがいますよー」
その時、無線機が小さめにノイズを吐いた。
「こちらエル、ユウ、私たちの間に味方の部隊がいるわ。もうすぐ交戦開始すると思うから横合いから援護しましょう」
「わかった」
アサルトライフルを構え直して『神速』を使って加速。建物の上に立つとその味方の部隊が本格的な隊列を組んで進んでいた。人数は4人
「前方に敵部隊確認! 総員戦闘開始!」
一番前にいた人がそう叫ぶと、建物の瓦礫に身を隠しながら銃を構え、すぐに発砲した。
それを合図に俺は敵部隊の真横の建物屋上へと飛び移り、10人はいる敵のプレイヤーに弾丸の嵐をお見舞いしてやる。
正直全く当たらなかったものの、敵の何人かがこちらに撃ち返してきている。
しかし、こっちの本命は俺ではない。
「な!? 敵!?」
こっちを向いていた敵が、ナイフ両手に飛び込んできたエルを認識した時には喉を裂かれてすぐに無力化。慌てて彼女に銃口を向けた残りの敵プレイヤーも、遠距離から桁違いの銃声を轟かせた如月さんによって完全に沈黙した。
……俺、気を引く以外何もしてねぇ。
「助かった、ありがとう」
援護した仲間プレイヤーたちは皆屈強な容姿の男たちだった。
同行している彼らのサポート人工知能も似たような容姿に設定されているらしい。
「俺たちはこのまま進んで、仲間の合図とともに敵陣地の防衛プレイヤーを強襲する予定なんだ」
警戒しつつ進軍。その最中に世間話を進めていた。
『こちらオメガ、敵陣地観測地点を確保。偵察を開始する。送れ』
その部隊の隊長らしいボブさんの無線から何かの報告のようなものが響くと、ボブさんは了解、と短く応答して再び意識を張り巡らせた。
「なんか本格的ですね」
「俺たちはリアルでサバイバルゲームをしたり、ゲームでもガンアクションをやってたりする集まりなんだ」
「なるほど……」
「ご主人様、前方の大通りは敵の狙撃手の縄張りですー」
「だそうですよ?」
ネイトの報告を伝えるとボブさんは部隊の狙撃手をひとり近くに寄らせた。
「土方、前方大通りに敵のスナイパーが潜んでいる。我々が迂回して進んでいることを悟られないように敵狙撃手を釘付けにしろ」
「倒してしまっても構わんのだろう?」
「ああ、それはもちろんだが……死亡フラグだぞそれ」
「では行ってくる」
土方さんとやらが前進したのを確認して迂回ルートを進む。
「どうやら凛華さんとお餅さんが敵と遭遇したようですが問題なく退けたそうです」
「そうか、順調みたいだな」
ガンアクションが苦手だというネイトは敵の察知と味方との連絡に尽力してもらっている。敵の察知というだけで反則みたいな便利さだが、おかげで大きな戦闘は起こっていない。
「もうすぐ敵の陣地だ。敵の攻撃も激しいだろうが、怯むことはない」
「はい」
「行くぞ!」
敵はどうやら強いプレイヤーの多くを陣地防衛に残しているらしく、実はここからが難しいらしい。
「相手のチームは機関銃や迫撃砲を使って徹底的に迎撃してくる。まずは俺と他のパーティが全ての隔壁を攻める。その間に君たちのパーティが敵の陣地に入り込んで敵のボスを倒してくれ」
陣地の占領条件は旗を持つ敵ボスの撃破と、旗の奪取。
ボスを倒しても旗が別の敵の手に渡った場合は改めてその敵を撃破しなければならない。
「大切なのは旗を持つフラッグプレイヤーを確実に倒すことと、旗をすぐ奪うことだ」
「わかりました」
それから少しの時間が経過し、俺はエルとそのペアの如月さんとともに敵陣地要塞の西側に潜んでいた。
まだ内側ではない。
ついさっき陽動が開始され、すべての隔壁でほぼ同時に戦闘が起こった。
そのタイミングで俺たちは西側の隔壁からやや離れたところに接近したのだ。
「あのダクトから行きましょう。ネイトはどうするの?」
「私はー、ご主人様を影から見守ってますー」
ネイトはその姿を銀のネックレスに変えて俺の首に落ち着いた。
「では行きましょうか」
如月さんは大型の狙撃銃を構えるとそれを持ったままフェンスを上り始めた。
それに続くようにエルと俺がフェンスに手をかけると、如月さんが急に飛び降りた。
「え?」
戸惑いを向けると、如月さんの腹部が真っ赤に染まっている。
それが何で染まっているのか、考えるのも恐ろしい。
そして何より、どうしてそこが染まっているのか。
「ユウ!」
隣でフェンスを掴んでいたエルが体ごと俺をフェンスから引き離して地面を転がると、その場所に数発の銃弾が着弾した。
「連射可能なスナイパーライフル……しかもこの精度……!」
エルは敵の要塞中心部を睨み、すぐに俺の手を引いて走り出した。
「ちょ! 如月さんは!?」
「1発ならまだ大丈夫! 自分でなんとかするでしょ!」
狙撃手の視界から逃げるように物陰に走り、2人でダクトの隙間に飛び込む。
『悪い、アタシたちは別の部隊に遭遇してね。すぐきは行けそうにない!』
凛華さんとエクスもどうやら動けないらしい。
しかもどうやらお餅さんも敵に狙撃され、すぐには動けないという。
負傷者の治療は戦闘エリア外にいる鈴が遠距離から回復をさせるが、それが終わるまでは如月さんも動けない。
「なら私たちで行きましょう。ユウは援護して」
ダクトをそのまま進み、要塞の内部に入ると、やがて薄暗い廊下に出た。
「なんか暗いな……」
「もしかしたら暗視の装備かスキルを持ってるパーティが見回っているのかもしれないわね……」
するとエルは何かを察知したのか俺の手を引いて近くの部屋に飛び込む。
「あ」
「あ」
「あ」
俺たちが部屋に飛び込んだ直後、響いた間抜けな声は3つ。
ふたつは俺とエルのもの。そして残りのひとつは……。
「敵襲だ! 敵が入り込んだぞ!」
銃を構え直した敵兵士のものだった。
「この距離ならっ!」
ナイフを構えたエルが低い姿勢から駆け出す。
一瞬で距離を縮めて、致命傷を確実に与える刃を振るい、それとほぼ同時に銃声が響いた。
放たれた弾丸は人の血肉を貫く目的を果たすこともできず、ただその威力でもって天井にあまり深くない穴を空け、静止した。
その下には敵の拳銃を右手のナイフで跳ね上げたエルと、そのエルの左のナイフによって腹部から胸部までバッサリ下から上に切られた敵兵士の姿がある。
そして、直後に廊下から響いてくる複数の足音。
「私が派手に廊下に飛び出して敵の部隊と戦うから、ユウはその隙に敵のリーダーを探して!」
「わかった!」
エルは武器を小銃に持ち替えると、それにナイフを着剣する。
「生きてまた会いましょう」
余裕の笑みでエルはそう言い放ち、銃を構えると勇ましくこの部屋を後にした。
「ネイト、この大戦ゲームでもスキルは使えるんだよな?」
「スキルによりますー。ガンアクションにおいて反則級になるスキルの使用ができませんー」
「もしかして俺のスキル全部ダメってこと?」
「『神速』と『特火』は私が構築したスキルなので大丈夫ですー。でもー、『インビジブルサイレント』に関しては正規のスキルでー、大戦では使えませんー」
姿を消せればと思ったが、やはりそれはダメらしい。
それでも速度と攻撃力さえあれば問題はないだろう。
そう思い、俺は人の消えた廊下を走る。
足音が相応に響くが、それに気づいて敵が出てきた頃にはとっくに走り過ぎているのだから、今のところ攻撃どころか発見もされていない。
その動作にも慣れ、いよいよ敵のリーダーがいるらしい部屋の手前の扉にたどり着くと、躊躇いもなく一気に踏み込む。
敵の数は15。
広間のような広さの部屋の柱という柱に身を潜めていた連中がこぞって顔を覗かせ、銃口を俺に向ける。
「さっさと決めてやる!」
スキル『神速』ならそうそう弾丸が命中することはない。
もちろん、フルオート射撃でもされようものなら弾幕に呆気なく殺されるだけだろうが、この屋内で高速以上で動く標的を撃とうとしたら同士討ちは覚悟してもらうことになる。
一気に飛び出した俺に銃口こそ向けるものの、実際に発砲する者はいない。
予想通り……!
後はナイフで敵をこのまま倒せばいい。
そう考え、ナイフを構えた俺の足が唐突に止まる。
障害物などで進路を塞がれたわけでも、ましてや俺自身の意思では断じてない。
ただ、脳に満ちた『痛み』に足が止まったのだ。
その正体を探ることなく神速で元来た方向、扉へと向かい、廊下に飛び出す。
敵の追撃が来る前に廊下を駆け、小さいコンテナの裏側に身を潜め、改めて痛みを感じた場所、右の足首に目を向ける。
「何も……ない?」
転んで足をぶつけたような痛みの程度だが、その患部であるべき場所は綺麗な無傷なのである。
「いいえー、確かに着弾しましたー。右の足首を銃弾が貫通したんですー。でも鈴蘭さんが治してくれたみたいですねー」
ネックレスから響くネイトの言葉にゲーマー仲間の鈴の明るい笑顔が浮かぶ。
「でもあの速度に当ててきたのか……スキルとか?」
「必中のスキルなんかも根こそぎ使えないはずですからー、もしかしたら実力で当てた可能性がありますねー」
「化け物じゃねぇか……」
どうやら要塞内に侵入出来ているのは俺のパーティだけらしい。
しかし、エルが要塞内でひたすら戦っているおかげか敵のリーダーの守り以外は薄い。
ならば他のメンバーとなんとか合流して敵のリーダーを……。
「みーぃつっけた」
不意に響いてきた幼げな声に振り返る。
警戒心を解くような無垢な笑みと幼い容姿のツインテール、そして警戒心を湧き上がらせるような大型の狙撃銃。
その隣に立つ軽機関銃を手にした無感情な人工知能らしき少女。
「スナイパー!?」
「あはっ! おにーさん強そー!」
無邪気な笑みを浮かべたまま、死を告げる銃口が俺を捉える。
「させない!」
少女の背後からくすんだ白髪の少女、エルが飛び込んできた。
ナイフを持ち、身軽に床や壁を走る彼女はあっという間に銃が不利な距離までスナイパーの少女に詰め寄っていく。
「おねーさんも奈乃と遊びたいのー?」
楽しそうな笑みを浮かべた少女はスナイパーライフルでエルを狙うことをせず、その銃身でもってナイフを受け止め、鉄の塊として打撃の暴力を生み出す。
俺はエルと相対する無防備なその背中に拳銃を向け、やや躊躇いながらも引き金を引いた。
発砲音はふたつ。
ひとつは俺の、そしてもうひとつは俺の背後から。
振り返る間もなく、左胸を確実に貫かれた感覚に襲われ、直後、俺は戦線を強制離脱した。
「あの子、強すぎだろ……」
「奈乃さん。一部では『狂戦士』とも言われるガンゲーマーですねー。VRSGのガンアクションコンテンツのランキングでは常に2位にいますー」
「2位ってことはあれよりも物騒なのがいるってことか……」
「さっきご主人様を背中から撃った人ですねー」
「マジかよ……」
回復不能となり、ゲームオーバーとなったプレイヤーは自チームの観覧席へと転送される。
すでにこちらのチームメンバーの多くがゲームオーバーになっているらしい。
いくつか設置されている大型のモニターのひとつでは、ナイフを両手に持ったエルがスナイパーを構える少女と、その少女と正反対な長身巨乳のお姉さん、そしてそれぞれの人工知能の計4人と戦っている。
お姉さんは拳銃を左手に、ナイフを右手に持って前へ。
少女は大型の狙撃銃を構え、後ろへ。
人工知能たちもそれぞれで銃を撃ち、牽制する。
見事な前後の連携に、エルは持ち前の接近戦を発揮できていない。
狙撃銃の重く鋭い一撃をなんとか躱したところにすかさず襲い来る拳銃による銃撃。そして逃げ道を塞ぐ軽機関銃の掃射。
結局、守りにすら徹することができないエルが敗北し、それからさほど時間がかからないうちに他の仲間たちも掃討され、大戦は決した。
「おにーさんとおねーさん強かったー!」
大戦が終わり、参加者同士が互いに労う場で、俺とエルはそのふたりと再開した。
幼げな少女は長いツインテールを揺らしながらピョンピョン飛び跳ねて楽しそうだ。
「……奈乃がここまで楽しそうにするのは珍しい。いつもやりがいがないって不機嫌になるから……」
無表情のまま奈乃さんの頭を撫でるのは長身で巨乳のお姉さん。
黒い髪を後ろでポニーテールにしているが、それもやはり長い。
「ふたりはやっぱり姉妹だったりするのかしら」
「……そう。私たちは姉妹」
「おねーちゃんはねー、私より強いんだよー!」
姉妹揃ってガンアクション最強というわけだ。
「そういえばユウ、レベルは上がった?」
「ん? ああ、そうだな。確認しないと」
メニュー画面のパーソナルデータには85の数字が並んでいる。
「すげえ上がってる……」
「参加料のポイントが高いし、一戦が長いから貰えるものも多いのよ。勝ったら参加料の倍額も貰えるし、経験値ももっと貰えたんでしょうけど」
最強に近いメンバーを集めた俺のパーティの仲間たちでさえ、分野に特化した最強の前に惜しくも敗れ去ってしまった。
「俺もそんなふうになれるかな」
ちょっとカッコつけて、そんなことを呟いたらエルに笑われてしまった。
「なれるわよ。ユウならきっと。誰よりも強く!」




