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14話「ガンアクション、サイボーグ少女」

 ほとんど強制的にではあるがネイトと抱き締めあってから10分ほど後。

俺たちは互いに正座して向かい合っていた。

何故か足下には畳が敷かれ、ネイトと俺の間には小さめのテーブルがひとつ。

手狭な部屋くらいの大きさのところで互いに向かい合うものの、目線はそれぞれ明後日の方向に向いたまま時間が経過している。


「その……さ。お前って俺のこと、好き……だったりするのか?」

「いいえー」


あれ?


「俺のことが好きだからヤキモチとか……焼いたんじゃないのか?」

「いいえー」


おや?


「じゃあさっきのヤキモチは……」

「ソロネがサポート人工知能のほうがいいと言われたらどうしようかとー」

「じゃあ恋愛感情は……」

「ありませんー」

割ときっぱりあっさりと告げられ、もはや勘違いしても許される勘違いをしていた俺は目の前にあるテーブルに頭を叩きつけていた。


「私、こう見えて男の人を見る目はあるつもりですしー」

おいどういうことだてめぇ……。

つまり魅力がないと? ないよな。


「でも大丈夫ですー。どんなに魅力がなくてもサポート人工知能である限りは見捨てませんからー」

「俺のサポートじゃなかったら見捨てられるやつじゃん!」


ネイトは悪戯っぽい笑みを浮かべつつ、オンラインに続く扉へ俺を導いた。



「そうそう、早急にレベルを上げてもらう必要があるんでしたー」

「何かあんのか?」

「あまり時間に猶予もなくなってきましたからー、そろそろ次の階層に進んでもらおうかとー」

大会までの約1ヶ月。その短期間で最高レベルに近づいておきたいのは事実だ。

ネイトとの訓練やクエストなどで60に達したレベルだが、現最高レベルは150。

従来のゲームと同じならレベルが高くなればなるほど上がりにくくなっていくはずなのだ。


「レベル上げなら上の第6階層に最適なのがありますしー、行ってみましょうかー。第5階層の条件はとっくにクリアしてますからー」


欠伸をしながら今までと異なる趣の鋼鉄製の扉が現れた。

そのノブに手を触れ、ネイトは急にこちらに向き直った。

「グロテスクな表現は苦手ですかぁー?」

「いや、別に」

「無理そうだったら遠慮なく言ってくださいねー」


ネイトの言葉に疑問符を浮べつつ、開かれる扉へ足を進める。


まず五感で感じたのは臭い。

錆びた鉄のような、鼻につく刺激臭が生ぬるい風とともに漂ってきたのだが……。

そしてその正体を見る。

全体的に薄暗い世界。

夕暮れ色の空は厚く不気味な雲に覆われ、本来綺麗に世界を照らすべく太陽はその光を遮られている世界。

そしてその薄暗さに照らされる世界は今までのどの階層のそれとも似つかない。


「工場……?」

金属製のパイプやフェンス、機械。

煙突のようなところからは体にも環境にも悪そうな煙を吐き、そこかしこから耳障りな轟音を響かせている。


「なんか、第5階層の砂漠よりずっときな臭い気がするんだが」

「ここのクエストは拳銃向きのものが多く、近代兵器もショップで多く扱っていますー。……ふぁわ〜あ。またー、ここでは近代兵器を用いた集団戦クエストも多く行われていますよー」


「それがレベル上げに最適なクエスト?」

「いえ、それはその時にお話しますー」


ネイトは轟音と蒸気が噴き出す細い通路を興味なさげに突き進む。

すると上空から何かがネイトの目の前に降ってきた。

反射的に大剣を呼び出したネイトが、その姿を認識して容赦なく振り下ろした。


「ちょっとネイト様!? 私デスヨ私!」

「知ってるよー。だから斬ろうとしてるんでしょー?」

「なんデストー!?」

「まあ、いいやー。それじゃあちゃんと登場してちゃんと自己紹介してー」

「は、はぁ。わかりマシタ」


ネイトと話していた少女……少女? は俺の前に出て機械的な動きでお辞儀をして機械的に元に戻る。

顔は普通の人間。

しかし、手や足がくすんだ灰色の機械にしか見えないサイボーグのようなそれは、唯一機械感のない汚い茶髪を揺らしながら俺の手を取った。


「やっぱり機械なのか……」

勝手に握手された右手に伝わってきているのは冷たさと硬さ。

間違いなく金属のそれである。

「私はメカニカルと申しマス。メカでもニカルでもお好きな呼び名でドウゾ」

「なんでそこで区切るんだよ……」

それでも脳内でニカルを選択しているあたり、俺も俺なのだが。


「それでニカル、お前はもしかしなくてもこの階層の管理者ってことか?」

「そうデスヨ。第6階層、メカニック広場の管理をしてイマス」


案内シマス、と付け加えて戦闘を歩く彼女からは何故かモーター音のようなものや金属の動くガチャガチャといった音が聞こえてきている。


「でもなんでこんな階層?」

「剣を振るより銃を撃つほうが好きな方向けに造った階層なノデス」

そんな人がいるのか……。

「元々はファンタジー系じゃなくてガンアクションやストラテジーゲームをやっていた、というユーザーも多いでスカラ」


「着きマシタ。ここがメカニック広場の中央になリマス」

ガンアクション向け、というだけあって行き交う人々は軍服のようなものであったり、ラフな格好に銃武装という服装の人が多いが、それでも下の階層からそのままらしい騎士服や、鎧、獣人姿のプレイヤーもそこそこはいる。


「もし銃火器をお持ちでないならショップか職人ユーザーの元へ行くといいでショウ」


そう言ってニカルが示した道は薄暗く治安の悪そうな通りだ。

「治安に関しては下よりはいいほウデス」



 仕事があるというニカルと別れ、ネイトと一緒にショップの集まる並びを歩く。

美少女連れて買い物するような場所では絶対にないが、必要な買い物なら仕方ない。

最初は剣のようにネイトに銃になってもらえば、とも考えたのだが、どうやらネイトは銃が苦手らしい。

「弓ならまだ使えるんですけどねー」


「ところでさっきニカルが言ってた職人ユーザーっていうのは?」

「パーティに所属していないユーザーがお金儲けのために装備の販売をしているんですー」

「それって性能とかどうなんだ?」

「武器製作に必要なスキルとそのランクによって変わりますー。高いランクだとそれだけ性能もよくて値段も上がりますけどー」


周りのショップは既製品を売っているショップばかりだが、ネイトの話ではその裏通りに職人たちの工房があるらしい。

「オススメとかあるか?」

「私はこの階層に詳しくありませんよー」


眠たげに目を擦り、とりあえず裏路地に入ると、キョロキョロとあたりを見回す意外な顔を見つけることができた。

「あ、ユウとネイトじゃない! この階層に来ていたのね!」

こちらに気づくとくすんだ金髪に黒のローブの少女、エリアル・ビショップが駆け寄ってきた。


「エルはなんでこの階層に?」

「レベル上げよ。私はまだ最高レベルには達していないし」

そう言って示された彼女のレベルは135と表示されている。

「ここは頑張ればそれだけレベルが上がるの。もちろん、相応の腕は要求されるけど」

するとエルはこちらをチラッと見て何かを納得したように頷いた。


「この階層初めてなんでしょ? よかったらしばらく攻略を手伝ってあげるわよ」

そう言って彼女がその手の中で回すのはいつもの匕首(あいくち)ではなく、軍人が使うようなナイフだ。


「……銃は?」

「私にはそんなものいらないわよ。当然でしょ?」

当然でしょ? なんて言われてもそんな特殊なのはお前くらいだとしか思わない。

「オススメの職人ユーザーとか知らないか?」

「知ってるわよ。優秀な人をね」


薄暗く埃っぽい裏路地をさらに進み、道ではないような小道とパイプの隙間を通った先のわずかに広がった空間に静かに佇む小さな家。


汚れたレンガ造りのそれの扉をノックすると、中から薄汚れた作業着に身を包んだオッサンが姿を見せた。

「ビショップか。入れ。……そっちのは?」

「私が入ったパーティのメンバーだ。腕のいい職人を探していたからな」

エルの凛とした口調はまったく別人のようだが、それは俺がリアルでの彼女を知っているが故だ。


「いいだろう。入れ」

中は工房というより普通の家だった。

木のテーブルに椅子が2つ、部屋の隅にはベッドがあり、カセットコンロや武器のパーツらしいものが乱雑に置かれている。

「で、そっちのはどんな銃がいい? まさかビショップ(こいつ)みたいに近接武器オンリーってわけじゃないんだろう?」


「あははは……そうだな、軽くて取り回しやすいものがいいな。威力もそれなりには欲しいけど無理なら諦めるし」

「ならアサルトライフルにハンドガン系のオーソドックスなスタイルがいいな。ポイントはあるのか?」

ゲーム内通貨であるVP(バーチャルポイント)はほとんど使っていないのに結構貯まるため、今の所持ポイントは60万VPに達している。


「少ないな。一級品を手にするには倍くらい必要だぞ」

「それなら私が不足分を補おう。それでいいだろう?」

エルの申し出に目を丸くしたのは俺だけでなく職人のオッサンもだ。

「お前が他人のためにそこまでするとはな。少し意外だ。そういうことなら問題ない。少し待ってろ」


エルに礼を述べると、素で「大したことないわよ」と返ってきた。決算する時の彼女の所持ポイントが見えたが、桁が俺より3つくらい上だったので、彼女にとっては本当に大したことないのかもしれない。



「ほらよ。最高の出来だ」

体感で30分ほど待ってオッサンが持ってきたのはシンプルなアサルトライフルと少し大きめの自動拳銃だった。

「もしかしてリボルバー派だったか?」

「いや、別にそこにこだわりはないけどさ……」


リアルだ。手に持ってみても重すぎない。そのあたりの重量も高ランクの職人なら当然の配慮なのだろうか?

「試し撃ちするなら裏についてこい」


付属で作ってもらったホルスターに拳銃を収め、アサルトライフルを手に持ってオッサンについていく。

ゲームで見るような射撃訓練場ではなく、裏手の庭のような場所にカカシのようなものが立てられているだけの簡単なものだ。


「好きに撃ってみろ」

アサルトライフルを構えて引き金を引くが、想像していた爽快感はない。

というか弾が出ない。

「おいおい、安全装置をつけたままじゃ撃てるわけないだろう」

オッサンが示す安全装置とやらを解除して再び構え、一息に引き金を引く。


パパパパパパパパン、と軽快な音とともにカカシに命中。一気に風穴を開けていく。

全て撃ち尽くしたところで弾倉を換えてリロード。


アサルトライフルを首から下げたまま自動拳銃をホルスターから抜き去って同じように発砲、カカシのやや右を弾丸が通り抜けていった。


「銃系スキルを持ってないと狙いは完全なマニュアルになるだろうが、ビショップにでも教えてもらうといい」

オッサンに礼を言って、エルとともに店を出る。


「エルに教えてもらえって言ってもなぁ……」

そのエルが銃を装備していないのだが、と続こうとした言葉を飲み込み、隣のエルを見ると何やら上機嫌な笑みを浮かべていた。

「どうかした?」

「考えてること、当てていいかしら?」

するとエルは完全な不意打ちな速度でロープの中からそれを抜き放った。


無機質な黒いそれは弾丸でもって相手を殺すための兵器。

ついさっき俺が購入したものよりやや小さいが、脅威であることに何も変わりはない。

その脅威が、仲間の手によって俺の首もとに突きつけられているのだ。


「お、お前!? さっき銃はいらないって……」

「あら? 持ってない、なんて言ってないでしょう?」

大人しく両手を挙げて降参を示すと、エルは満足そうに銃を引っ込めてナイフに持ち替えた。

このゲーム内の彼女にとって短い刃物を手に持つのは一種のルーティンのようだ。


「私だって、刃物しか扱えないわけじゃないわ。そりゃあ刃物に比べれば苦手だけど」

アイテムスロットを開き、自動小銃を取り出したエルはその銃口の下あたりにナイフのようなものを取り付けて構える。

「銃剣なら近接戦闘もできるし」

そう言って明るく笑うのだった。



「ここの階層には突破条件がないのよ。ここはあくまでもガンアクションユーザー向けの階層なわけだから」

「じゃあもう次の階層に行けるってことか?」

隣のネイトがこくんと頷いて目で問いかけてくる。

次の階層に行くのか、と。


「次の階層はレベル上げには?」

「向かないと思うわ。次はレベルが突破条件じゃないもの」

「ここの階層ならレベル上げに向いてるってネイトから聞いたけど」

「ああ、それなら大戦ゲームね」

「たいせん、ゲーム?」

「世界大戦とかの大戦。集団で行う戦争ゲームみたいなものよ。仲間が相手を倒す度にほんの少しずつ経験値が貯まるから、最終的に塵が積もって……なんとかでドーンと稼げるのよ!」


ことわざが苦手そうなエルに苦笑いを向けながらもその有用さについて考える。

つまり自陣側の仲間が活躍すればするほど経験値が入るのか……。


「デメリットは?」

「参加費用は高いわよ?」

「……どれくらい?」

「1回100万VP」

「高すぎて無理だ……」


まずは所持金を増やすところから始めないといけないらしい、と思いつつ、俺はため息とともに現実へと戻ったのだった。

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