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12話「新たな仲間、漆黒の気配」

 ネイトから新しいスキルである『特火』と『神速』をもらってから数日。

週末の土曜日となって、朝から晩までVRSGをプレイしようと考えていた俺は、さっそく寝起きから二次元に飛び込んでいた。


「それじゃあさっそくー、今日も特訓始めますよー」

大きめの欠伸を噛み殺し、そういったネイトはその姿を消し、同時に俺の装備が白銀の鎧と、いつものシンプルな刀へと自動的にに変わる。

『だいぶ馴染んできましたねー』

ネイトの声が頭に直接反響して聞こえてくる。


今、俺とネイトが行っている訓練は、互いの意思疎通とコンビネーションを高めるための訓練だ。

ネイトがその姿を剣と鎧に変えて俺がそれを装備、そしてネイトの自動戦闘に俺の思考が追い付くようにするのが当面の目標である。

「私のリードだけで戦闘を行ってもー、やはり若干のズレが生じてしまいますー。この状態で最高のパフォーマンスを実行するためにはご主人様(ますたぁ)自身が私と呼吸を合わせて動く必要がありますー」

それからすぐに、目の前に現れた半透明で薄い青色の人型と軽い戦闘を行う。

あいての戦闘力自体は大したことはないが、それでもネイトとの呼吸を合わせるためなら問題はない。

「右、右……次、左!」

一応、俺がこれから動く方向を口に出し、ネイトがそれに合わせるという訓練を平日に何度かこなしたおかげで、ほとんど問題なくベストに近い動きができるようになってきているのだ。


装備形態を解除し、人の姿に戻ったネイトが眠たげに目を擦る。

「ほとんどチートのようなものですがー、これで最強の仲間入りですねー」

最強。

その言葉で脳裏によぎるのは漆黒の男ただひとり。

管理者からの寵愛を受けるチートを超えるプレイヤー。

決して勝てないと、そう言われた……。


「考えてもしかたありませんよー、とにかくオンラインを先に進めましょー」

いつも通り、銀髪美少女を伴いながら、俺はオンラインへの扉を開いた。



 実は今日、凛華さんからパーティメンバーへの招集がかけられた。

欠けてしまったパーティメンバーの補充についての話らしいのだが……。


と、いうわけで、俺が亡霊と戦っていた間に、凛華さんたちが獲得した領地……まだ名前のないその場を俺とネイトは訪れた。

「お、早いね」

街のような場所の中央の広場にテーブルと椅子を用意して先に腰掛けていたのは、パーティのリーダーである凛華さんとその人工知能のエクスだった。


「補充のメンバーが見つかったんですか。?」

「ああ、しかもかなり役に立ってくれそうな奴さ」

「お待たせしました!」

「おっと、待たせてしまうとは、カッコイイ僕としては申し訳ない」

さほど待つこともなく、残りのメンバーも揃い、パーティメンバー上限にふたり欠けた8人が、10人掛けのテーブルに落ち着く。


「じゃあ新メンバーを紹介しようか。ふたりとも、こっちに」

凛華さんが近くの小道の方へ声をかけると、その中から2人の人影が姿を見せた。

ひとりは、黒いローブにくすんだ金髪の美少女。もうひとりは青緑色のストレートな長い髪をゆらゆらとさせる美少女。

「き、如月(キサラギ)さん!?」

俺が思った感想と同じことを(すず)が先に口にする。

てっきり運営側の彼女がパーティに加わるなんてことは考えていなかったのだが、そんな俺達の心を知ってか知らずか、如月さんは丁寧に腰を折った。


「凛華さんと大友様、それから高嶺様は(わたくし)のことはご存知かと思いますが、それ以外の方もいらっしゃるようですので一応ご挨拶をさせていただきますわ。(わたくし)はバーチャル・ゲーマー・カンパニーの広報担当、如月と申します」


初対面であろうお餅さんとビショップが驚いて口を大きく開けたままフリーズしているが、先に状況を飲み込めたらしいお餅さんが引き攣った笑みでギギギっと頷く。

「ま、まぁ、僕や凛華(リン)さんもカンパニーと契約をしているって聞いてたし今さらもうひとり増えたって……」

お餅さんの額にものすごい汗が浮かんでいる。ここは二次元のはずなのに。


「なるほと、女帝(エンプレス)から聞いてた通り、『公式』側に属する組織というわけだな」

くすんだ金髪をさっと撫でながら、新メンバーのビショップが納得を示した。

「おいおいサザーランド。ここでは素で話せって言っといたじゃないのさ」

凛華さんにサザーランドと呼ばれたビショップはやや顔をしかめて凛華さんをキツめに睨みつける。

「し、仕方ないじゃない! 1度このキャラで話した相手に素で話すのはなんかこう……は、恥ずかしいのよ!」

恥ずかしそうにそう怒鳴る様子に微笑ましさを感じていると、ネイトやお餅さんも同じような気持ちなのか少しニヤけた顔になっていた。

「そうは言ってもそもそもエリアルさんの現実(リアル)での同級生もふたりこのパーティにいるので問題はないと思いますわよ?」


「へ? 同級生?」

俺はすかさず視線を逸らし、鈴はよく分かっていないようで首を回してキョロキョロしている。

「ま、まさかアナタたち……ユウとスズなの!?」

「あ、ああ。名前だけじゃ判断できないよなー、ははは……」

「まさかエリアルさんがビショップさんだったなんて……!」

俺は何とか誤魔化し、鈴は驚きを口にする。……おいおい、気づいてなかったのかよ。

ビショップ……いや、エリアルさんは俺と鈴を交互に見て深くため息を吐いた。

「……まあ、それなら素で話しても構わないけど」


「よぅし、これで一つ目の話は終わりだね」

「一つ目?」

「そう、まだアタシたちにはやることがあるのさ。この『領地(エリア)』の使い方さ」

すると、凛華さんではなく、鈴のサポート人工知能であるユノが視線を街のほうに向けて皆の注意を集めた。


「領地はサポートメンバーである私とご主人様(マスター)に任せてもらうわぁ。とりあえずぅ、戦闘系の支援重視でいいわねぇ?」

「ああ、それで構わないさ」

「前に優くんが別の階層で買った家もこの領地に移しておくねー」


「……ネイト、領地ってどんなも……って」

隣に座っていた彼女はウトウトと首を上下させ、すでに言葉が届かない微睡みの中へと落ちてしまっていた。

「領地は『街』と『家』があって、『家』はいわゆる私たちパーティメンバーの拠点。そして『街』は、そこにサポートメンバーが施設を建設することで他のメンバー全員が効果を受けられるっていうもの」

エリアルさんが空気を読んでちゃんと説明してくれた。


「それから、さん付けとかしなくていいわよ? 私だってユウって呼んでるんだし。そうねぇ、エリアルじゃ呼びにくいかもしれないから、エルでもいいわ。スズも、そう呼んで」

手持無沙汰な様子のエルは右手の中で匕首(あいくち)をくるくると回している。暇な時のペン回しのようなものか。

……刃物を暇つぶしに回すのってどうなんだろう?


「それで、ユウはこの後何か予定あるの?」

「いや、特には何も」

「だったら、一緒に行動しましょうよ! 仲間と行動するのにも慣れておいたほうがいいわ」

「それでしたら(わたくし)も同行させて頂きたいですわ」

「如月さんも?」

「メンバーとの交流はパーティ戦での戦闘に必要ですわ。お邪魔でなければ、ですけど」

「それなら私のことはエルでいいわ。……あなたのことはなんて?」

「如月で結構ですわ」

「そ、そう。レベルは?」

「150、ですわ」

「「げ!?」」

俺とエルの声が全く同じように重なる。


「あら、何かおかしかったでしょうか?」

確かに彼女が公式の人間であるなら当然かもしれないが……。

「スキルは?」

「まあ、それなりに」

如月さんは具体的なことを口にしようとしない。

俺はなぜか、亡霊(ファントム)に近い何かを彼女に感じていた。


「もしかして、如月さんも規格外に強かったりとか……?」

「どうでしょう? 開発中のテストプレイヤーの中では強いほうだったとは思いますけど。詳しいことはわかりませんわ」


「そういえば前、サポート人工知能みたいなのとスマホ越しで話してませんでした?」

「あれはあの時だけ、伝達役として借りたものですわ」


とりあえず俺は眠ったままのネイトを背負い、二人と一緒に別の階層に向かうことにした。

本来なら、階層を渡る扉は人工知能が開くのだが、公式に属する如月さんや、人工知能を受け取らなかったエルなんかは自分で開けるらしい。



「どうしてエルはサポート人工知能を拒否したりなんか?」

第4階層の街中を歩きながら、俺は気になったことをエルに聞いていた。

「どうしてって言われても困るわね……。いらなかったからとしか答えられないわよ?」

「まあ、サポート人工知能として用意されているのはどうしてもそこそこの性能の子たちしかいませんものね。どうしても優れたユーザー様にとっては足手まといになってしまうようですし」

人工知能が弱すぎたりした場合に、それは足手まといになってしまうし、逆に強すぎたりしたら主体であるはずのユーザーの立場がない。ゆえに中途半端な性能になってしまうのは仕方ないのだろうか。


そんなことを考えながら、大きさにやや見合わない軽さで背中に乗る彼女の事を思い浮かべる。

普通なら決してユーザーのサポートとして動くことはなさそうな強力な人工知能。

そんな彼女が俺のサポートとしてこの場にいることが、今更ながらすごいことだと実感してしまう。


「……私は、別にすごくなんてありませんよー。あむっ」

「うひゃっ!?」

耳元で囁かれ、直後に唇で耳たぶを挟まれたこそばゆさと驚きで変な声を出してしまった。

「お前、起きてたのか……」

「少し嫌な気配を感じたのでー」

「……もしかしてあいつか?」

「亡霊じゃないのはたしかですー」

ネイトは背中から降りるとゆっくりあたりを見回し、気配を巡らせる。

「……ソロネ」

ネイトが独り言のようにそう呟くと、虚空からこの間の銀髪の女性が現れた。

「無理に介入する必要はないから偵察を。必要があればソロネの判断で攻撃及び防衛は許可するから」

「了解しました」


「今のは?」

さっさとどこかへ消えていった女性を探しながらネイトに問うと、彼女は短く「部下です」とだけ答えたのだった。



「正直、私はあんまりVRゲームは得意じゃないのよ。ユウだって現実(リアル)ではインドアなんでしょう?」

街中の喫茶店で、やや上品な動作でティーカップに口をつけてから、エルはそんなことを言ってきた。

オンラインゲームでリアルに関わる話は普通マナー違反であるが、リアルで友達ならこれくらいは当然だろう。


「どっちかって言うと俺も引きこもりなほうだしな……。如月さんは?」

(わたくし)は試作段階からこのオンラインにいるので慣れたものですわ」


俺からの問いをさらっと受け流しす如月さん。

「VRゲームなんだからもう少し自由度があって爽快感があっても良さそうよね」

「と、言いますと?」

「オンライン上にいる私たちは現実の生身ではないんだから、空くらい飛べたり、スタミナ気にせず動き続けられたりしてもよさそうかなって、思っただけよ」

「ユーザー様からの貴重なご意見として受け取らせていただきますわ。最も、その多くが次の大型アップデートで実装されるとは思いますが」


「アラ? そうなの?」

「レベル上限や新階層のオープン次第ではありますけど、それも決して遠くはないかと」



 その時、パトカーのサイレンに近い不安感を煽る警報が空間に響き渡った。


突然のことに辺りを見回すと、似たように様子を伺っているプレイヤーばかりだ。

「ちょっと(わたくし)も行ってきますわ」

「いったい何事?」

「これは違反者の警報でございます。保安の人工知能の出動気配もありますし恐らくPKでしょう」

「プレイヤーキル? この階層で?」

私闘が黙認されているのは第5階層のはずだ。

「黙認されていなくても私闘そのものは可能ですわ。その場合はこちら側(公式)も介入しますけれど」


椅子から優雅に立ち上がると、彼女の手に大きな鎌が現れる。

濃い紫色のそれは、ゲームで死神が持っているようなイメージのそれである。


駆け出す如月さんを追って、エルとそして覚醒していたネイトとともに問題の場所へと急行する。

「これは……!」


現場は異様だった。

同じ顔をした銀髪の少女たち15人が倒れ、その中央に向かい合うふたり。

先ほどネイトが話していた銀髪の女性と、狂気じみた笑みを浮かべる黒髪の男。全体的に細いシルエットと馬面の顔、そして貼り付いた笑みが、ただただ異様。

「典型的なプレイヤーキラーですのね。それならこちらも手加減はいたしませんわ」

如月さんは鎌を背中側で2、3回ほど回して優しく笑う。


直後、風を切る轟音と共に鎌が命を求めて躍動した。


男は武器である剣を振るおうとしたその初動も虚しく容易に細切れにされ、その肉体がこの世界から跡形もなく消えていく。


完全な勝利。湧き立つ観衆たちの声と高揚感は、勝利者であるはずの如月さんが地面に倒れた瞬間に驚きへと一変する。

「如月さん!」

駆け寄ろうとした俺をネイトの手が制す。

そのネイトも彼女に駆け寄ろうと、そして安否を問おうとしないのだ。

そして立て続けて、唯一残っていた銀髪の女性も力なく、唐突に倒れ伏した。

観衆のざわめきに紛れるように、ネイトは俺の手とエルの手を握って転移した。


ただし、階層を渡ったのではなく、少し離れた建物の屋上へ。


「ネイト、さっきのは……」

何だ、と問おうとした言葉をネイトは再び制し、人差し指を自らの口元に当てる。

真剣な表情から考えて真面目な話なのだろう。

エルも緊張した面持ちでネイトの反応を待っているようだ。


ネイトは声を出さず、代わりにマップを表示すると、俺たちから少し離れた……さっきの現場に近い建物に赤いマーカーを表示する。

そしてその方向を指さして双眼鏡を俺たちに手渡した。


マーカーの示す箇所へそれを向けると、先ほどのプレイヤーキラーなど問題にならないほど異様なそれがいた。

黒髪のツインテール。

黒のゴスロリのような服を着た美少女が、その現場を見て、そしてその場所へと右手を(かざ)している。


すぐに望遠鏡から視線をネイトに戻す。

彼女は待機するように、と手で合図した。

彼女にはアレの危険性が理解出来ているようだ。



少し間を空けて、ネイトがその姿を消す。

恐らくあの少女のほうへ向かったのだろうと思いつつ、エルとアイコンタクトをすると、俺達は躊躇いなく駆け出した。

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