第7話 とうとう脱出、そして第一村人との遭遇 、オーガはノーカン
――――うん、こんな感じかな……。
俺はロンTにジーパンで、マンジュウに呼びかける。
スーツで冒険はさすがにやめた。
「いけるかマンジュウ」
リンリンリン。
いけるのリンリンリンだ、よし。
今俺はマンジュウの口から出てきた、ひょろっとした手のようなもので胴体をグルグル巻きにされている。
マンジュウは俺の背中に後ろから抱きついている形だ。
この謎の手、確かめたら闇魔法のダークハンドらしい。
でもダークハンドなのに色は黒くない、白だ、俺が思うにオリハルコン製だという体の色が関係してると思う。
さて、この手で胴体をグルグル巻きにしてもらい、何をしているかというと、マンジュウは昨日何故か箱の後ろ面もとい背中から羽根を生やせるようになった。
そしてステータスが上がり、どんな重い物でも余裕でひょいと持ち上げられる(ダークハンドはステータス依存)ようになった。
俺の体程度ならもちろん楽勝だ。
そう、つまりマンジュウは俺を抱えて飛べるのだ。
これで、北海道位広いらしい森を一気に飛んで脱出してやろうと思ってる。
徒歩で北海道横断なんてやってられない。
「ようし、マンジュウあっちの方向に飛んでくれっ」
リンリンリン。
ギュワンって感じで加速がかかって、一気に森を見渡せる高度に上がる。
正直とんでもないスピードだが、風魔法のウィンドウォールがかかっているため、顔面の肉がぶるぶるしたりはしない。
「おお、すげえ景色だなマンジュウ」
リンリンリンッ。
30分程度飛んだところで森の端が見えてきた。
……ん?30分?
あのスタート地点から森の端まで150㎞位あったはず。
ええ?時速300㎞位出てんの?……
きっとマンジュウはミミック界のスピードキングだ。
「そろそろ降ろしてくれ」
リンリンリン。
森の切れ端手前で、着地する。
脱出は自分の徒歩でいきたいからな。
100メートルほど先に森の出口が見える。
小走りで、よし、森、脱出っ、こっからタナカ平原に突入だ。
「冒険の始まり始まりだなぁ、マンジュウ」
リンリンリン。
テンション上がってます。のリンリンリンだな。
さて、不思議な地図を見て、え~と、西北はあっちか。
「よし、あっちだマンジュウまた飛んでくれ」
リンリンリン。
今のは、えっ結局飛ぶの?みたいなリンリンリンだ。
飛びますよ、一番近い町までまだ300㎞位あるしね。
「しかし、地図に平原って書いてあったからなにもない地平線的なの想像してたなあ」
平原は平原なんだが所々でっかい岩山みたいのが散見してる。
……実にファンタジーな光景だわ、飛んでるから余計壮観なんだろうな。
「マンジュウ、試しにあの一際でっかい岩の頂上に行ってみよう」
リンリンリン。
わかったよ、のリンリンリンと共にちょっとファンタジー成分を地肌で補給しに行く。
なにせ飛んでっからね、頂上も簡単にいける。
着地っ、標高200メートル位ある一枚岩のてっぺんだ。
地面は当たり前だが岩だらけ、いっぱしの山のように、霧らしきものまで出てる。
おお、なんか足元に紫色の変な草が生えてる。
よし、鑑定。
アイテム名 偽救草
分類 草花
レア度 C-
価格相場 800000~900000
効果及び説明
鋼ムカデの巣の頂上に生える薬草、上級の状態異常回復の魔法薬の材料になる草だが、この薬草はそのまま食すだけでも中級の状態異常までなら回復することができる貴重な薬草。
それゆえ病に苦しむ貧民や冒険者が求めて取りに来るが、鋼ムカデはこの草をおとりに獲物がよって来るのを待っているため、よほどの幸運に恵まれない限りは鋼ムカデの餌食になる。
故に偽物の救いの草、偽救草と名づけられた。
……なんて嫌な予感しかしない鑑定結果だろうか。
このファンタジーな岩山は鋼ムカデとやらの巣だったらしい。
リンリンリン。
マンジュウの何かいるよ、の呼び掛けに振り向く。
……ああ、いる。数十メートル先の霧の向こうにでっかいなにかが完全にいる。
耳をすませば、何やら微かに金属の擦れるような音が……。
魔物名 鋼ムカデ
危険度 B-
レベル 23
HP 210/210
MP 28/28
STR 123
AGI 65
VIT 135
INT 18
MND 38
DEX 9
装備
無し
所持スキル
噛みつき
体当たり
酸ブレス
ドロップ
上質な鋼のインゴット
説明
タナカ平原の岩山が縄張りの魔物、岩山を堀り巣を作り、岩山の頂上に偽救草と言う高価な薬草を育て獲物を誘き寄せる。
霧状の酸のブレスを吐くので要注意。
余談
この巣で一番でっかいやつ。
「マンジュウ、ウォーターカッターだっ!!」
リンリンリンッ。
ピュアッ!!!!
マンジュウの口から超圧縮された水が放射され、霧のせいで全貌が見えるか見えないか位の登場前の鋼ムカデを真っ二つにしてやった。
正直この巣で一番でっかいらしい10メートル近いサイズのムカデなんて見たくもないのだ。
あっ!?でも見えちゃってるッ!!
マンジュウの魔法で霧が吹っ飛んでムカデの全貌が見えちゃってる!!
ああ、もうすんごい動いてる。
なんで真っ二つにされたのに死んでないんだよ……虫だからか?
でもグロいのかと思いきやグロくない。
スパッといったムカデの断面は生物感0だった。
なんと名前の通りそのまま鋼だ、鋼のように硬い体を持つムカデじゃなく、鋼そのものの体を持つムカデだったらしい。
というか複雑な機構で動いてますみたいなロボット感すらもない。
完全に鋼の塊スパッと切りました感しかない。
……もう何故か動いてるオブジェにしか見えない。
あ、とうとう動きが止まって煙になった。
煙の跡には、鋼のインゴットだろうものがたくさん落ちてる。
あら?魔物のドロップって一個じゃないのか?
まあ、せっかくだし魔法の袋に入れとこう。
魔法の袋収納スペース 259、6㎏/500㎏
内容物
上質な鋼のインゴット×23
偽救草×18
力の棍棒×1
一度に23個も落としたのか。なんでだ?
あ、レベルか?あのムカデ23レベルだった気がする。
ついでに生えてた偽救草も拾っといた。
しかしこの魔物ってなんなんだろ。
あまりに生物感が無いんだけど。でも家のマンジュウは生きてる感がすごい。
うーん……ウルトラ鑑定でちゃんと調べてもいいんだが、また地雷踏み抜くのも嫌だからなあ。
鑑定結果でまた訳のわからない世界の真理みたいのが出てこられたら、俺の軟弱な精神の胃袋でこれ以上消化できるかどうか……。
リンリンリン。
「ん?なんだ、まだなにかいるのか?」
マンジュウの他にもなにか居るよ、の呼び掛けに身構える。
そういや、鋼ムカデの巣だって話だったからな。
そりゃ他にも居るだろうな。巣だしな。
あ、確かになんか聞こえるが、さっき鋼ムカデが近づいてきた時の金属擦れる音とは違うな。
遠くのほうで金属同士を叩きつけるような音だ。
鋼ムカデ同士がケンカとかしてるんだろうか、もしくは……。
「……他にも誰か居る?」
その可能性を考え、久方ぶりの自前の足でのダッシュだ。
……音がする岩山の端が見えた。
あっ!!がっつり発見っ!!
三体の鋼ムカデに崖っぷちに追い詰められている兜した小さい人、子供!?が剣をふりまわして抵抗してるっ!!
辺りには血が点々として、どうやら怪我もしてるっ!!
ダーツの番組風に言えば、とうとう第一村人発見だ。
「でも、俺が投げるのはブーメランっ!!」
ロックオンマーカーがついた三体の鋼ムカデに向かって、とっておきの木で製作した十字ブーメランが三つに分裂して疾走していくっ!!
ガゴオォッッッ!!!!!!
三体の鋼ムカデの上半身を完全に吹っ飛ばした。
まあ、多足類に上半身とかあんのかわからんが、真ん中から上が吹っ飛んだ。
でもグロくはないよっ、散らばってるのはただの鉄の破片だからね。
鋼ムカデが煙になると、兜の剣士は一瞬呆然としたが、力が抜けたようにその場に倒れ込む。
おっと、ダッシュッ。
「大丈夫か!?」
無駄に高いステータスのお陰で地面に衝突する前にキャッチできた。
あ!?ていうかこの人、人間じゃねえっ。
毛むくじゃらの尻尾があるし、鎧の間から見える腕も毛むくじゃらだ。
動物感すげえっ。
「……れを……村……に」
兜の中から出てきた声は妙にハスキーな声だった。
だがかなり弱々しい。
「ん?何?」
「私はもう、こ、れを村にとど、け、て」
剣士の手には血まみれの紫の草、偽救草がある。
「さきほどの技、高名な、冒、険者のお方とお見受け、いたしま、す」
「私、は、ココッタ村、のピンタ、どうか、どう、か、この薬草、を村、に、どうか、どうか村を救って」
息も絶え絶えな剣士は最後の方は涙声で話している。
最後の力を振り絞って、話しているんだろう。
思いが込められた今際の際の頼みなんだろう。
「わかった、ココッタ村だな任せてくれ」
「おお、あ、りがたい……」
「でもどこにあんのか知らないから案内してくれ」
バシャアァァァァ!
俺に追い付いたマンジュウの水魔法、ウォーターヒールが発動して剣士はびしょびしょになると共に体力が全回復した。