サイプロピロティ=プロフップの回想
私の名前はサイプロピロティ=プロフップ。
アカシックレコード管理機構で働いている神だ。
でもぶっちゃけ地球の日本風に言えばオフィスレディーってヤツが一番近いと思う。
神だけどもOLです。
「……ふう」
意識通信を終えて一息。あの安田って子凄いわね。
異世界飛ばされて二日で正式な神の領域に踏み込む子がいるなんて。
やっぱし地球産は違うわねー。
「サイプーさん何?意識通信?もしかして地球の?」
アカシックレコード管理機構の同僚で、隣のデスクの地球語で言うところの犬型の肉体をしたカマンベールさんが話しかけてくる。
ちなみに私はクラゲ型の肉体だ。エメラルドグリーンの触手がチャームポイント。
カマンベールって名前は偶然にも地球産の食物の名前と被っていたと、本人が喜んで話していた。
アカシックレコード管理機構とは知識系スキルからアカシックレコードに接続することができる能力を有した存在の補佐や補助をするのが仕事だ。
「そうそう、アカシックレコードに接続する能力に覚醒したのが異世界飛んで二日目だって、凄くない?」
「はっやっ、それもしかして新記録じゃない?」
「どうだろ?私が覚醒したのは確か異世界飛んでから200年とかだった気がするなあ」
「ええ?それも早いよ、私なんて1300年位かかったよ」
私達神の位に至る存在には異世界に飛ばされた時になにかしら能力が芽生える。
その種類は様々で、それまでの人生とは全く関係のない能力が芽生えるのがほとんどだ。
例えば私は、「無限パンペン焼き」という食物を生み出す能力が芽生えた。
パンペンとは地球で言うところのお好み焼きに似ている食べ物だ。
それが無限に出せる。
いまだに意味がわからない。
それから200年位たってから「記録読者」というアカシックレコードに接続できる能力を得た。
アカシックレコードに接続できる能力は転移初期には発現しないことがほとんどだ。
神と言ったところで、なんでもできる訳ではない。
私のできることは知識と食物に関することだけだ。
カマンベールさんはアカシックレコード接続と確か宇宙の端っこまで飛ばせるビームが出せるんじゃなかったかな?
神の能力を日本人風に説明すれば、青いロボットがポケットから出す道具をいくつかランダムに入手できる。みたいなものだろう。
全知全能の神のごときスペックを誇るポケットその物ではなく、あくまで道具数個分だ。
所詮そんなものだ、我々が本当に万能の神のように振る舞うためには、たくさん集まり、ポケットの使える道具の数を増やして、能力の幅を広げる必要があるのだ。
「……サイプーさんはさ、高次元宇宙に移行するときにどのくらい生き残ってた?」
カマンベールさんが突然踏み込んだ質問をしてきた。
……まあ、地球のことが成功した今だからこそできる質問でもあるのかもしれない。
「……私は4人だけだったよ。生き残ってたのは」
「……そっか、私は23人だった。私の方が少し多いね」
二人で苦笑いしながら話す。
少し前ならこんな会話はできなかった。
この手の話は、私達神の会話における最大のタブーだ。
普通高次元宇宙に移行する時にはどんなに環境が整っている惑星にも生命体はほとんど残ってないのが当たり前なのだ。
なんの力が働くのか、なんの因果がめぐるのか、どう頑張っても大概は死滅する。
だからわずかに生き残り、神に至れた私達は生命体を守るためになんでもする。
新たな神に会いたいから、仲間が、友人が、家族が欲しいから。
この暗く広い無限にある宇宙で幾星霜の孤独を味わうのが、味わわせるのが嫌なのだ。
だから神を増やす、何があろうと死なせないとの信念を持って仕事をする。
このアカシックレコード管理機構も、その信念の元に作られた。少しでも能力を使いこなし、滅びに向かう世界を救って欲しいから。
あの地球は奇跡だ。
はじめは一人の神、確か水を生み出す能力位、スポーツドリンクみたいなの出せるだかなんだか、しか持ってない人が数億年かけて色々やったら生命が生まれたらしい。
これだけでもかなり凄いことだ。
そもそも宇宙規模で見た場合それが知性を持っていない生命だとしても価値を測れないほど貴重なのだ。
それをゼロから生んだのだから、彼は我々神の間では尊敬されている。
後百億年以内に高次元宇宙に移行するであろう宇宙では本当に凄い。
移行が近づいていなくても生命は滅多に生まれないのに、移行が近づいてる宇宙では妙な力が働いて生命はもっと生まれない。
彼はその離れ業をやってのけたのだから。
その後数人の神が手伝って何十億年もかけて、生命体が繁殖していった。
確か、恐竜っていったかな?そんなのが山程増えてみんな大喜びだったって話だ。この時に地球の高次元宇宙への移行はあと一億年もなかった。
近々この恐竜達が神の元となる知的生命体になるんじゃないか?
その時に高次元宇宙への移行が起きたらどんなことになっちゃうんだと、みんなワクワクしていたらしい。
でもある日隕石が落下してきて、あっさり絶滅してしまった。
いつもそうなのだ。
地球を管理していた数人の神の中には、隕石程度なんとかできる神もいたはずだ。
だがその日、その時だけ、たまたま留守にし、知識系スキルを有している神もたまたま他の事象に目を向けていたのだ。
なぜか救えないのだ。
高次元宇宙への移行が近づいてくるととんでもない不運が重なって悲劇が起こり、何かの力が働いて生命を守れないのだ。
数人の神達は生き残った生命を救おうと奔走したらしい。
もうみんな悲しみのどん底で、泣きながらの作業だったそうだ。
痛ましくて見ていられなかったと上司が言っていた。
だが思った以上に生き残った生命がいた。
普通はそんなことがあればもう絶滅一直線になるはずが、どうやらまた生命が増え出した。
これはなにかが違うと、他の神達も気づきだした。
そして一人、また一人と地球の繁栄を手伝い始めた。
私が神に至れたのはたしかこの辺り。
そして、猿が進化してついに知的生命体が生まれた。
あのときは凄かった。みんなで泣きながらの大宴会だった。
その頃には存在する神のほとんどが地球に関わっていた。
それからも色々あった。
文明が起こって繁栄したと思ったら、その文明が海に沈んでしまったり、戦争が起きたり、戦争が起きたり、戦争が起きたりした。
科学が発達する頃になると、みんなハラハラしっぱなしだった。
今までと違い石の槍や斧ではなく、鉄でできた武器や火薬を使う戦争だ。死ぬ数が圧倒的に増える。
悲しくって悲しくって、やめてよやめてよと神達も介入はするのだが中々戦争は止められない。
多分いつも通り滅びに向かう何かの力のせいだ。
核に手を出した辺りでは、ああ、これはもう終わったなと思った。
だが、しかし、そんな日常を送っていたある日、ついに来たのだ。
高次元宇宙への移行の兆し、エネルギーが地球のある宇宙に集まりだした。
60億もの知的生命体が、そして数えきれないほどの生命体が、神と神に準じる存在になった。
私はあの光景を絶対に忘れない。
地球を包む輝き。
神の子らが旅立っていく光の流星群。
そして神々の歓喜の叫び。
那由多の彼方、無限のような年月でも、今までに生まれた神々の総数はたったの8035877人だ。
たった数十憶年で70倍になった。これがどれ程凄いことか。
ところで日本では八百万って神の数はばれてたらしい。
誰か教えたのかな?
60憶もの神が、仲間が、家族が増えた。
彼らは奇跡の子、数多の宇宙に散らばり正式な神に至る存在。
彼らが手伝ってくれたら、これからはもっともっと多くの生命を守れるだろう。
彼らが手伝ってくれたなら、もっともっと多くの生命を育めるだろう。
もっともっと仲間を増やそう。
私達神はこの広大な際限の無い宇宙で無限に続く人生を得てしまったんだ。
仲間がいないとみんな寂しいよ。
「サイプーさん、お昼休みだよ。ご飯行こう」
おっと、もうそんな時間か。
地球産の食事が最近の神の食ブームだ。
「サイプーさん、今日なに食べる?」
「うーん、またうどんいかない?讃岐うどん」
「えー、またあ?サイプーさんうどん食べると、透き通ってうどん見えるから寄生虫にとりつかれたクラゲみたいになるんだよ」
「ちょっとー、ひどくなーい?」
「あはは、ごめんごめん、じゃあうどんにしようかー」