第31話 徹夜だとワケわからんことを言ったりしちゃう。
「う~、眠い~」
体がだるい。昨日夜に王都についてから一睡もしてない、眠いわ。
「頑張りましょうヤスダさん。今日一日で全部終わるんですから」
アズマ君が慰めてくれる。
彼?も徹夜してるのに元気だな。これが若さか。
今俺達は王都の城に馬車に乗って向かってるところだ。
俺、ピンタさん、パニニじいさん、アズマ君パーティーがいくつかの馬車に乗ってる。
他のカワウソ達、スズキさんとトゲ蔵、マンジュウは居ない。
彼らは今、重大任務遂行中だ。
カワウソ子供組は自宅警備だ。
王都ってだけあって街並みも立派だし栄えてるようだ。
とてもわけわからんろくでなし組織が暗躍してるとは思えないね。
俺達は表向きの理由は、王様の孫のお姫様の誕生会を祝うって名目で王城に向かってる。
各地の仲間の貴族をうまいこと集められる理由でもある。
実際はムツキボコボコ作戦の締めをしに、国中の仲間が向かってるわけだが。
「嫌だわ~、俺の一番嫌いなことの一つが徹夜だからね。教員免許取ったのに教師にならなかった一番の理由はできれば朝は寝ていたいからだからね」
「シャキッとしてください。ほら、城に着きましたよ」
「アズマ様っ、お疲れさまです」
「ああ、どうも」
城に入ると、アズマ君に騎士だの兵士だのがみんな挨拶してくる。
みんなアズマ君見て、あこがれ、とか、尊敬、みたいな感じの顔してる。
そして俺のこと見て、敵意、とか、蔑み 、みたいな感じの顔してる。
この落差よ。
勇者ヤスダ君ネガティブキャンペーンは成功してるらしい。
俺のポンコツ勇者としての名が広まってるんだろう。
何人かは気遣い的な目線もあるな。あれは味方ってことなんだろな。
そして執事みたいな人にパーティー会場みたいなとこに案内されて、みんなで中に入る。
俺達が入ると会場がざわついた。
「アズマ様だ」
「ほう、あれが」
「カワウソ様もいるぞ」
「あれがヤスダか」
「あれが、アズマ様にこてんぱんにされたという」
「頭がおかしいという」
ぎんぎらぎんな高そうな服着てる貴族がたくさんいるな。
俺に蔑みの目線を向けてくるやつもたくさんいる。
こいつら助けるために一番嫌いな徹夜までしてんだけどな。
……睡眠不足も相まってイライラがほとばしるな。
……一人ずつビンタしていこうかな。
「……居ます?」
アズマ君がなにやら聞いてくる。
ムツキが会場にいるか居ないか聞いてるんだろう。
「居ないよ。そもそもアイツは滅多に表に出てこないよ。じゃないと俺が心の中でネクラヒキコモリポンコツ人間失格なんて呼んでないしね」
病弱ってことにしてて、半年とか一年に一度程度しか表舞台に出てこないやつだ。
部下との連絡も双子水晶使ってのがほとんどだ。
だから裏工作もうまいこと捗ったわけだが。
「……そうですか」
アズマ君はほっとしてる。
ムツキ居たら、色々ごまかすのに演技して時間稼がないといけないからな。
「よし、じゃあ俺はアズマ君から離れてなにか食ってるわ。アズマ君と俺に集まる視線が嫌、ビンタしたくなる」
「あ、はい、いやビンタしないでくださいね」
よし、あの魚いきます。
なんかでっかい魚焼いたよくわからん丸焼き的なのがある。
あ、魚のまわりうろちょろしてたら向こうから誰かが来る。
カワウソだわ。
「兄者」
「うむ、元気そうだのピピルよ」
ああ、このカワウソさんがパニニじいさんの弟さんのピピルさんか。
このカワウソ様は、なんとこの国の宰相らしい。
カワウソ族エリートすぎ。
まあ、最近知ったのだが、カワウソ族がエリート街道まっしぐらなのは俺達日本人のせいだ。
どうやらカワウソ達は、日本人の仲間になる確率がやたら高いらしい。
……やっぱ、可愛いからかな。
俺も仲間にしちゃってるしな。
例えばピンタさん達の名前があざと可愛いのは、日本の女子高生の勇者が可愛い名前にすべしって言ったからだし。
家名がやたら仰々しいのは、中二男子の勇者が仲間のカワウソ達に中二ネームの家名をつけた結果だ。
だから名前と家名がこんなちぐはぐな感じになってるのだ。
この時点で二人の勇者の従者になってるわけだが、他にも色んな勇者が関わってたりなんだりしてるらしく、カワウソ達には色んな日本技術やら、複数の勇者と一緒に旅したことで培った魔法やらスキルの知識が豊富なのだ。
そして勇者の従者の末裔として、世のため人のために働く種族として、世に知れ渡っている。
だから彼らはカワウソ様カワウソ様言われてるのだ。
話がそれたが、このカワウソ宰相様が王都の仲間で、裏工作してくれた中心人物だ。
こっちすごい見てる。
「ヤスダ様ですな。お会いできるのを楽しみにしておりました」
「どうも、安田龍臣です」
「……我らカワウソ族の悲願、素晴らしい勇者が降臨なされたと確信しております。二千年に渡る時間は無駄ではなかったと、待った甲斐があったと……ぐぅ」
……おおふ、涙目だ。
あ、そう言えば、例のカワウソ族に託した二千年またぎのゴミポエム問題タナカ君に伝えてなかったな。
タナカ君に文句の一つも言って、なんならビンタしねえと。
「うまくいけばいいのですがね。どうですかね」
「きっと上手く行きますよ、ヤスダ様のスキルは偉大です。敵に全く悟られることなくここまでこれましたから」
泣きそうなカワウソを前に微妙な気持ちになってると、また誰かがこっちに来た。
アズマ君の手を引いてピンクのふりふりドレス着たちっこい娘だ。
ああ、この子が今回の誕生会の主役か。
確か五歳だ。五歳を祝う誕生会だったはず。
場合によっては誕生会叩き潰すことになってしまう可哀想な娘さんだ。
「ぬしが腰抜け勇者ヤスダかの?ヒデチヨこやつか?」
お、罪悪感が少しだけ減りましたよ。
アズマ君がなにやら申し訳無さそうな顔をしてる。
「ええ、この人がヤスダさんですよ、フヅキ姫様」
「傍若無人なことをして、ヒデチヨに懲らしめられたらしいのう、正座させられたとか」
正座のことまでバレてんのかよ。
「ええ、某がヤスダでござ候、息災でござるか姫君、さむうなってまいりましたので風邪などめされぬように努々お気をつけなさいませ」
……侍語で言ってやったわ。
姫様はなに言ってんだこいつ?って顔して、困ってキョロキョロしてる。
「……ヒデチヨ、今のは日本語か?」
「ええ、日本語ですよ。ヤスダさん、普通に話してあげてくださいよ」
「ああそう?姫様、このおっきな魚はなんですか?」
「……なんじゃ普通に話せるではないか、この魚か、ふむ、……キング鰤という魚だそうじゃぞ」
姫様はお付きの女性にゴニョゴニョ聞いてからこっち向いて答える。
「ほう、キングブリ、……え!?鰤なのこれ」
「え?鰤?」
俺もアズマ君も同時に驚いちまったわ。
でっかいマグロくらいのサイズなのに、これ鰤なの?すげえな異世界。
「なんじゃ魚が珍しいのか?ジパングではみんな魚ばっかり食べているのであろう?」
外国人みたいなこと言い出したな。
「いえ、姫様、日本は今食糧難でみんな食べるものが無いのですよ」
「なんと!?そうなのか!?」
アズマ君がなに言ってんのこの人、て顔してるわ。
「ええ、食べるものが無さすぎて今はみんなつくしを食べています」
「つくしを!?」
「そうです。つくしの先っちょのモコモコしたところをちぎって食べるのです」
「先っちょだけを!?」
「そうです。だから春先以外はみんなお腹ぺこぺこなんです姫様、春が来るまで夏秋冬は部屋の隅でひたすらじっとしているのです」
「なんと、そのようなことになっておったとは、なぜ茎の部分を食べんのじゃ……」
「いや、嘘ですよ姫様、ヤスダさんなんでそんな嘘ついたの?」
あ、アズマ君がすぐばらした。
「嘘なのか!?なぜ嘘をついたっわたしは姫だぞ」
「魔が差しました。すいません」
「はやいっ、あやまるのもはやいぞヤスダよっ」
そんなおかしなやり取りをしていたら奥からギラギラしたおじいちゃんとオッサン二人が出てきた。
みんな道をあけてるとこ見ると、王様と王子二人だべな。
「アズマ、そちらが勇者ヤスダ殿かな?」
「はい、そうです王様」
「どうも、安田龍臣です」
「うむ、ワシがサイカ国の王、サイカ・ウズキじゃ」
「第二王子、ミナツキだ」
「第三王子、ジューンです」
んん、普通に挨拶されてると思いきや、すごい社交辞令感だ。
この三人も俺がポンコツだと思ってんだろうな。
三人とも目が全く笑ってない。笑ってんの口だけ。
ちなみにお姫さんの父親は第三王子だ。
すごい上っ面な会話が続いてる。
もう目線が痛い。こいつポンコツ勇者なんだろうなって目が物語ってる。
まあ、王族は今回のすったもんだ何も知らんからな。
ポンコツ勇者ヤスダとして、口開けながらボーッとしとこうかな。
……ん?
あ、来たわ。
ちきしょう、最後まで引きこもったままだったらよかったのに。
俺はネクタイを締め直す動作でピンタさんに合図を出す。
ピンタさんもさりげなく動き出した。
アズマ君も合図に気づいたな。
バインバイン姉ちゃんが来ないことに不信感を抱き出したムツキがいよいよ動き出した。
会場がざわつく。
「ムツキ王子」
「大丈夫なのですか、お体は」
「おお、ムツキ王子がお姿を」
また、人がよけてできた道を一人の男が歩いてくる。
……これがムツキか、若いなあ、これ43かよ。
でもなんか病んでる感がすごいな。
根暗オーラが見える気がするわ。
「ムツキか、起きたのか」
「おお、兄上、大丈夫なのか体は?」
「兄さん、あまり無理はいけないよ」
王様と二人の王子がムツキを気遣ってる。
兄弟仲は良い、つもりなんだろうな。
ほんとのところムツキは王様も兄弟もバカだと見下してるわけだが。
「うん、今日は調子がいいみたいなんだ。フヅキ、お誕生日おめでとう」
「あ、ありがとうございます。叔父上」
おや、姫さんはなにやらムツキに心開いてないな。
子供は変に勘が鋭いことがあるからな。
邪悪さに気づいてんのかもな。
「アズマ君、一年前に会って以来かな。病床についていても君の活躍は聞こえてくるよ」
「あ、ありがとうございますムツキ王子」
「……」
名前 サイカ・ムツキ ♂
年齢 43才
偽装職業 王子
職業 真なる悪王
種族 人間族
偽装称号 病弱王子
称号 邪神ムロの使徒
偽装レベル13
レベル 43
余談
警戒し観察していた勇者アズマのいつもとは微妙に違う態度で、なにかあることには気づきました。
スパイのシラールが居ないことにより、自分の正体がばれているんではないかとの疑問をいだきました。
ヤスダに関してはいまだに眼中にありません。
鋭いっ、ずっと引きこもってた癖に数分でなにか答えをつかみはじめとる。
そして眼中にない俺。
おのれムツキめえ。
ムツキがアズマ君に探りをいれる為なのか、続けて話しかけてる。
「アズマ君、勇者として高みをのぼりはじめた君には、世界がなにか違って見えるかい?」
「また兄上の問答が始まったな」
「ほんとですね」
王子二人が苦笑いしてる。
「勇者とはなんだろう、素晴らしい力を得て、何をなす為にこの世界にくるのだろう」
「……自分にはまだわかりません」
「……ふむ、何かを掴んだのかな?以前とはまた違った顔をしている」
名前 サイカ・ムツキ ♂
年齢 43才
偽装職業 王子
職業 真なる悪王
種族 人間族
偽装称号 病弱王子
称号 邪神ムロの使徒
偽装レベル13
レベル 43
余談
勇者アズマの変化に気がついて、この短期間の間にあった事柄からヤスダの存在に注目し始めました。
おっと、こっち見た。
「あなたがヤスダ殿かな?」
「どうも、安田龍臣です」
「勇者とはなんだと思いますか?」
神様です。
「さあ、考えたこともないですね。最近俺が考えてることなんてひたすらハッピー○ーン食べたいなってことくらいですし」
「……ハッピー○ーンとは?」
「お菓子ですね。美味しいお菓子です。一昨日も夜に食べたくなって仕方なかったんですが、異世界では食べようもないので歯を食いしばって寝ました」
これは本当のことだ。
「そ、そうですか」
「いや、本当に美味しいんですよ。なにか甘じょっぱい粉がね……」
「いや、もう、結構なんで」
「え?日本にいた頃に最近粉がたくさんついたやつもあるって知ったので、わざわざ色んな場所を探しまわってたんですよ?それほどのお菓子ですよ」
「いや、もうハッピー○ーンの話いらないから」
「ハッピー○ーンを要らない?そんなバカな、あんな神のごときお菓子を要らないと?あんな美味しいのに?」
「……神のごときお菓子……いやいや、意味がわからない。僕は真面目な話をしてるんですよ?」
「いやいや、俺だって真面目な話をしてるんですよ。俺はハッピー○ーンを要らないっていう王子こそ意味がわかりません」
「いや、要らないでしょ?見たこともないんだから」
「じゃあ、絵に描きましょうか?ハッピー○ーンの絵を」
「いや、要らない」
「要りませんか?」
「要らない」
「ええ?袋になんかハッピー○ーンをモデルにした可愛いキャラクターも描いてあるんですよ?」
「要らないよ」
「……そんなバカな……あのハッピー○ーンですよ?……ええ?そんなバカな」
「……要らんから」
「ええ~、じゃあどうしますかっ?ハッピー○ーンの良さをどう伝えればいいんですかっ!?もうっ、わがままだなっ」
「え?わがまま?はあ!?」
「ハッピーター○の美味しさを伝える方法がないじゃないですか!?」
「い……えよ」
「ええ?なに?」
「……要らねえよ」
「はあ?病弱だから大きな声だせないんですか?なに言ってんの?結局ハッピー○ーン食べたいんでしょ!?」
「知らねえよっ!!!!ハッピー○ーンなんて、このボケなすがあっ!!!!」
ボファァァっ!!みたいな音と共にムツキから魔力がほとばしる。
あ、ムツキが正体を現した。
まさかこんなどうでもいいやり取りで化けの皮剥がせるとは思ってもみなかった。
ていうか、俺なんでこんなわけわからん話始めたんだ?
……ハッ○ーターン?
……やっぱ徹夜だといかんな。




