第30話 いやだから、多くね?
ダンジョン都市で何やら盛大に送り出されて、今は空の上、飛行船の中だ。
王都まで飛行船で二日程の行程だ。
領主さんから冒険者ギルドの職員、下級冒険者に孤児までみんな見送りに来てて大騒ぎの中での出発だった。
まあ、ぶっちゃけ領主さんも半日遅れで王都に来るわけだが。
飛行船に設置した魔法の部屋で、操縦してくれてるカワウソ達以外で昼御飯中。
「ていうかヤスダ君、飛行船なんて持ってたの?」
スズキさんがカツ丼食いながら、驚いてんだか微妙な表情で聞いてくる。
「あれ?言って無かったっけか?マリアシリールの領主さんに貰ったんだ。いいっしょ、うらやまっしょ」
「……うらやまっしょ、じゃないですよヤスダさん。飛行船ってめちゃくちゃ貴重で、個人で持ってるの王族の人位だって知ってました?」
アズマ君があきれ顔で衝撃の事実を告げてくる。
え、まじで?
「ピンタさんそうなの?」
ピンタさんの方を向いて聞くと、苦笑いで頷いてた。
「ええ、領主様は先生を気に入っていましたからね。今までの歴史でも勇者に貸し出すことはあっても、譲り受けた勇者は先生が始めてだと思いますよ」
「まじでか、じいちゃんロボ領主さんが……俺そんな気に入られることしたかな?」
……そのロボに俺も乗せてくれって我が儘言ってたことはあったが、うーん、思い当たらん。
「……じいちゃんロボ領主ってなに?」
俺の台詞を拾ったスズキさんが疑問に思ったらしく聞いてくる。
表情を見る限りアズマ君も同じ疑問を抱いたらしい。
「ホントにロボットに乗ってんだよ。機人族って種族らしいんだけど、お爺ちゃんがね、ブリキのおもちゃみたいなロボットに乗って領主やってんの」
「……嘘だあ、そんなわけないよ。ロボットって……」
「機人族、なんか鎧みたいの着てる人達って聞いてましたけど、自分まだ会ったことないんですよね」
あ、スズキさんが信じてない。
あと、アズマ君は間違った情報を得ている。
まあ、ブリキのおもちゃって感想は日本人じゃなければ出ないからな。
「ホントだよ89才のお爺ちゃんがね、足悪くしながらロボ操縦して頑張ってたんだから、まんじゅうの魔法で足治してあげたらすげえ喜ばれたんだから、俺最初ロボットが足悪いって聞いて、ネジでも取れて足の部分が故障してんのかと思ったんだから」
ああ、そういやまんじゅうの魔法で足治してあげたから飛行船くれたのかな?
「絶対嘘だよ~、ヤスダ君の時々出るわけわからない作り話でしょ?」
「いやいや、これはホントだからね。多分王都にいるから見たらいいよ。ピンタさん、マリアシリールの人達もう王都いるんですよね」
「ええ、もう到着しているはずです」
「スズキさんはロボ領主さん目撃して、その人を疑う濁った心を悔い改めたらいいよ。ホントだったら高級カニ缶50個ちょうだいね」
「ええ、いつもあげてるから別にいいけど、全然想像できないなあ~、ブリキのおもちゃ?」
よし、カニ缶50個ゲッツ。
あ、そうだこの流れでアノ話もしちまおう。
「まあ、アズマ君もスズキさんもね、もう、チームヤスダのパーティーメンバーなわけだから、信用してほしいよ」
「……?、え、なに?チームヤスダ?」
「チームヤスダってなんですか?ヤスダさん」
スズキさんとアズマ君が疑問に思ったらしく、会話ボールを返球してくる。
まあそうだべな。
俺は目線を斜め上45度にして、すっとぼけた顔しながら衝撃の事実を告げねばならん。
「……ステータス見てみ?」
「……ステータス?……ん?あ!」
「ヤスダさんなんですかこれ、僕たちみんなヤスダさんのパーティーに入っちゃってるじゃないですか!?」
そうなのだ。なんか入っちゃってるのだ。
田中君が夢に出てきた次の日にパーティーメンバーステータス確認をしたら、なんだかわからんがスズキさんとアズマ君が俺のパーティーに加入していたのだ。
パーティーメンバーステータス確認をすると。
ヤスダ(地球名、安田龍臣)
26才
職業 最強の教師
マンジュウ三世
1才
種類 王箱ミミック
ピンタ・リバーフェニックス ♂
42才
職業 魔導戦士
パニニ・リバーフェニックス ♂
70才
職業 魔槍使い
ププル・リバーフェニックス ♀
38才
職業 魔導裁縫師
ぺぺ・リバーフェニックス ♀
8才
職業 カブトライダー
アクゲンタヨシヒラ ♂
1才
種類 真炎のカブトムシ
モンブラン・グレイシードラゴン ♂
31才
職業 魔法鍛冶師
クレープ・グレイシードラゴン ♀
31才
職業 樹術魔導師
ショコラ・グレイシードラゴン ♀
7才
職業 拳闘魔法師
タルト・グレイシードラゴン ♀
4才
職業 杖術魔法師
プラム・ホワイトブリッツ ♀
73才
職業 魔法薬師
マスカット・ホワイトブリッツ ♂
74才
職業 戦勝大工
リンゴ・ホワイトブリッツ ♂
26才
職業 侍頭
モモ・ホワイトブリッツ ♀
25才
職業 魔導上級調理師
ミカン・ホワイトブリッツ ♀
6才
職業 湖の魔法使い
スズキ(地球名、鈴木義一) ♂
36才
職業 異世界剣士
トゲ蔵1号
6才
職業 世界樹の苗木
アズマ(地球名、東秀千代) ♂♀
17才
職業 剣士
ヒューイ・リンダバーグ ♀
13才
職業 暗殺技師
カガミ・マリッサ ♀
15才
職業 黒色魔導
シラール・ザッハール ♀
32才
職業 緑魔法使い
タナカ(地球名、田中正晴)
28才
職業 予言拳士
シーリン・リリパット ♀
26才
職業 真炎の魔法使い
マール・ギアマイル ♀
24才
職業 乱刃剣士
ララア・ミラージュ ♀
23才
職業 瞬光の魔導士
……なぜか田中君パーティーまで加入してるからね。
びっくりだよ。
ただでも多いのにもっと多くなっちまった。
「え、なんなんですこれ?ヤスダさんなにかしました?勇者の福音とかなってないですよね。あの昔のゲームみたいな音」
「うん、多分鳴ってないね。俺も全くわからんが朝ステータス見たらこうなってたんだよ」
「ヤスダ君これ、タナカ?って誰?」
スズキさんが当然の疑問を投げてくる。
「俺のアパートの隣人なんだけど、一昨日夢の中に出てきたんだ」
「……夢?なにそれ、ていうか大丈夫なのこれ?なにか問題とかないのかなこれ」
「先生、タナカとは先見勇者タナカ様ですか!?」
カワウソ達も聞いたことある名前出て反応してる。
俺はカワウソ達を見て頷いてやる。
「おお、先見勇者タナカ様が」
「すごい」
カワウソ達は感動してるし、スズキさんとアズマ君は困惑してるし、俺はもうわけわからんからカツ丼を再開します。
まあ問題ないとは思うんだが、よくわからんのよな。
鑑定しても、特に何も無いことしかわからん。
鑑定したら……。
鑑定結果
なぜだかパーティーメンバーが増えただけで、特に何もないと思います。多分。
と出たのだ。何もわからんし、思いますとか多分とかあいまいだわあ。
「……まあ問題ないと思うよ。多分、ていうか俺もなんでこうなったのかまじで知らないからね。タナカパーティーに関してはタナカ君の嫁さんなんだろうけど、タナカ君以外の三人は見たことすらないからね。見たことも無い人達にパーティーメンバー入られたんだから。俺もぶっちゃけちょっと嫌よ」
タナカ君も心底びっくりだろうよ。
しかもタナカ君の話だと食糧問題解決するとかで、少なくとも後数年はこっちに戻る予定ないからね。
この分だと会ったことも無い人達なのに、会ったこと無いまま数年間は俺のパーティーに入りっぱなしだからね。
「ええ~、……いや、まあいいけどね別に、ヤスダ君ほっとけないし、一緒に冒険することになるんだろうなと思ってたし」
「まあ、自分も別にいいですけど、ヤスダさん目を離したらとんでもないことになりそうですしね」
お、スズキさんとアズマ君が納得してくれたわ。
俺は納得いかない理由だが。
「ヤスダ、私達ヤスダのパーティーメンバーになったのか?」
アズマ君パーティーのちびっこ暗殺者ことヒューイが話しかけてくる。
こいつカツ丼に夢中だったのに、話聞いてたのか。
「そうだな。リーダーヤスダです。よろしく」
「よろしく」
「よろしくお願いします」
ヒューイと、普通の娘さんカガミちゃんが謎の挨拶をしてきた。
あと浮いてるサボテンことトゲ蔵も何やらふわふわしてこっちに来てる。なんらかの挨拶か?
「……ん?レベル86!?ヤスダさんレベル86もあったんですか!?」
「え!?ホントに!?」
あ、しまった。
アズマ君とスズキさんはパーティーメンバーステータス確認のスキル持ってるんだった。
まずいばれた。
「ホントかヤスダ、オマエ弱いからいつも後ろの方にいるんじゃないのか?」
「ええ!?ダンジョンとかでも戦わないですよね、なのにレベル86!?」
アズマ君パーティーの二人がデリケートな部分にぐいぐいくる。
はあ~あ、ばれた~。
あ~、戦わされる~。
ん?カワウソ達はなにやらそんなに驚いてないな。
「……ピンタさん達、もしかして知ってました?」
「ええ、まあ薄々気づいてはいました。先生は戦いたくないのだろうな~、と思いましてなにも言いませんでした」
カワウソ様ー!!
どうやらカワウソ達はレベル高いの知ってたようだ。
なんとなく、野生の勘的な感じで多分高レベルなのだろうと予測していたらしい。
「よし、じゃあ今まで通り、俺は後方支援兼使われない最終兵器ポジションで頑張るから」
「いや、戦ってよ」
「ほんとですよ。でもまあ、前線に居たらなにやらおかしなことしそうですから、後方支援ポジションでいいのかな?」
「ああ、まあそれもそうか」
スズキさんとアズマ君がすごく失礼な納得の仕方をしてるが、全く気にしない。
俺は後方支援を頑張る所存。
このポジションは誰にも譲らないという確固たる信念を持っている。
そして、ヤスダパーティー侵食事件があってからなんやかんやで、王都についた。
「ピンタさん、あれが王都?」
「ええあれが、王都ロイヤルリリパットです」
仲間のみんなもキリッとした顔になってる。
さすがにシリアスモードだ。
「マリアシリールの貴族、選りすぐりの戦士達ははすでに到着しています。ダンガンポートの貴族、兵士、冒険者も半日後には到着、計画に賛同してくれた他の仲間の貴族達、戦士達も集まっているでしょう。準備は万端です先生」
俺達はいよいよムツキボコボコ計画を始動させた。
次話は月曜です。