第29話 俺の頭ん中ってどうなってんだろうか。
タンポポが謎の進化を遂げてから約一月後、そろそろムツキボコボコにしに王都に行かなきゃならんので、今はダンジョンに来ている。
もう来たくないと心の底から思っていたのに、またダンジョンに来てしまった。
というのも孤児達のレベル上げの為だ。
孤児達はもう全員が算術スキルを得て、読み書きも覚えたので、あとはレベル上げさえすればとりあえず安心だからだ。
ちなみにスズキさんのような邪道なやり方じゃなくちゃんと魔物と戦ったり、サバイバル的な能力向上の為のレベル上げなので、ピンタさん達に指南して貰っている。
俺は基本見てるだけ。
もうダンジョン合宿六日目の最終日だ。六日間俺は主に見てるだけです。
心配だからついてきたが、何もできることがないのでね。
缶詰売りという名の食料ばらまき仕事があるスズキさんと、バインバイン姉ちゃん抜きで、あんまりうろつくとなにか怪しまれるかもしれないアズマ君は町に残ってる。
「魔物の攻撃を腕で受けたらいかんっ、毒や麻痺の能力があったら詰みだぞっ、基本は避けろっ、どうしても受けなければならんなら剣か槍、盾だっ」
「「「はいっ」」」
ピンタさんの激が飛んで、孤児達が威勢良く返事をする。
おお~、ザ修業って感じだ。
「がんばれ~、負けんな~」
「ちょっ、先生うるさいよっ」
ニューロンに怒られた。さーせん、黙りまーす。
そして魔物との熱い戦いが終わって、今は魔法の部屋で夕食だ。
もう、めんどくさいので孤児達には魔法の部屋解禁になった。
「あ、ニューロンとシナプスレベル上がってるわ」
「えっ、ホント!?」
ニューロンとシナプスが自分のステータス板を覗いてる。
名前 ニューロン ♂
年齢 12才
職業 剣士兼薬師
種族 人族
称号 多才な兄
レベル 8
HP 53/53
MP 15/15
装備
鋼の剣+5
鋼の胸当て+5
所持スキル
剣術レベル2
縦斬り、横斬り、受け流し
算術レベル1
正確な掛け算
調薬レベル2
初級魔法薬作成、合成成功率アップ
草の見極め
韋駄天(小)
名前 シナプス ♀
年齢 4才
職業 見習い魔導裁縫師
種族 人族
称号 多才な妹
レベル 7
HP 41/41
MP 33/33
装備
鋼の杖+5
鋼の短剣+5
カワウソ族特製鋏
皮の服+5
所持スキル
算術レベル1
間違わない足し算
裁縫レベル2
初級布装備作成、縫い上げスピードアップ
短剣術レベル1
瞬刺、受け流し
土魔法レベル1
ストーンショット、ストーンウォール
布の声
綺麗な字
レベル5あれば強者の領域に入るこの世界で、この兄妹はレベル8と7だ。
六日でレベル7やら6やら上がるのはかなりのハイペースらしい。
まあ一日で20以上レベル上げたスズキさんと子供組は別枠だわな。
シナプスに関してはなんと魔法を覚えた。カワウソ族の正統魔法使いクレープさんの指南のおかげだ。
クレープさんの話だとよっぽど才能があったらしい。
ちなみに算術スキルのレベルは上がってない。
どうやら算術スキルは中々レベルが上がらないスキルらしい。
まあ、算術スキルがでた時点で暗算のスピードが俺を超えてたからな。
ていうか電卓か?ていうスピードで暗算するようになったからな、こいつら。
そもそもそんなに発現するスキルでもなく、持っていれば貴族やら商会やらから、引っ張りだこになるようなスキルらしい。
シナプスの「間違わない足し算」も名前のイメージのようなゆるいスキルじゃないからね。
どんな桁の足し算でもホントに間違わなくなるのだ。
よくそんな凄いスキル出たな。と思ってたが、ピンタさんの話だと、あれだけやらせれば出ますよ。と言われた。
まあ、算数アホほどやらせたしな。
よし、じゃあ飯食って一息ついたところで、プレゼントボックスタイムだ。
孤児達もゴクリ、と唾をのみこみ神妙にしている。
まあ、まんじゅうのプレゼントボックスを一回づつ引かせるだけだけど。
六日間の合宿で孤児18人中15人はもうひいてる。
今日のニューロン兄妹ともう一人が最後組だ。
装備品出たら当たり、装備品以外の消費アイテムが出たら、カワウソ族の生産職の方々から装備品が贈られます。
ちなみにまんじゅうの口から出てくるのがチートなだけで、カワウソ装備も大分凄い。
装備の+みたいなのはよっぽど熟練職人じゃないと出てこない表記らしい。
+5は最高レベルの表記らしいので、鋼の剣+5とかはかなりの業物だ。平民なら家宝とかになるレベル。
「よし、プーヤンいけ」
「う、うん」
犬族の孤児プーヤンが、恐る恐るプレゼントボックスをひく。
ちなみにプーヤンの見た目は白い犬だ。
アイテム名 魔法盾の腕輪
分類 防具
レア度 B
防御力 30~50
価格相場 5000000G~6000000G
効果及び説明
魔力を込めると、魔法を反射し、物理的にも防御力のある重さのない透明な盾を産み出す腕輪。
込める魔力により防御力と大きさが変わる。
最大だと5メートルほどになる。
「当たり~」
鑑定結果をプーヤンに教えてやると大喜びだ。
「やったあ!!」
「よし、じゃあ次はシナプスいけ」
「はい」
アイテム名 デカ兎召喚の指輪
分類 アクセサリー
レア度 B+
価格相場 8000000G~9000000G
効果及び説明
レベル20の乗ったりできる4メートル程のでっかい兎を召喚できる指輪。
兎だけに早いし、デカいので強い。
「また当たり~」
「やったああっ」
シナプスも大喜びだ。
最後はその兄であるニューロンの番だ。
ニューロンもドキドキしながら手を入れる。
アイテム名 タンポポ
分類 草花
レア度 F-
価格相場 0
効果及び説明
ありふれた草花。
どこにでも生えている。
一応食用にもなる。
「ハズレ~超ハズレ~」
「なんでだよっ」
ニューロンは悔しがってる。
俺もびっくりだ。
カンストしてるまんじゅうのプレゼントボックスで、レア度最低のが出たのは始めてだ。
こいつタンポポ引っこ抜きすぎて、タンポポの呪いでもかかってんじゃないか?
ニューロンはみんなに慰められながら、カワウソ達からどんな装備がいいか聞かれてる。
よし、明日は町に帰還だ。さっさと風呂入って寝るべ。
みんなで風呂に入ってると、ニューロンが話しかけてきた。
「……先生、もうダンジョン都市出るの?」
「ん?そうだなあそろそろ出なきゃだなあ」
「……そっか」
「なんだ寂しいのか?」
「っ、別に~そんなことないけど~」
わかりやすいやつだな。
「漢字の書き取りはしろよ、紙とペン沢山置いてくからな」
「……うん」
「ちゃんと妹と、他の小さいやつらの面倒もみてやれよ」
「……うん」
「まあ、ちょいちょい戻ってくるよ」
「……うん……」
泣くなよな。
今日は俺も孤児達と同じ部屋で寝ることになった。
獣人の子供らが凄いくっついてくる。
暑いわ……。
ほわわ~ん、ほわわ~ん、ほわわ~ん、ほわわ~ん。
……?なんか変な音がする。
あれ?俺寝てなかったか?
ん?どこだここ……。
「……なんだこれ」
気がついたら訳のわからない場所にいる。なんだこれ、雲かこれ?その上にいる?
「いや、ホントになんだこれは……」
ええ~、なにこれ、夢か?
いやいや夢っていうわりに意識がふわふわしてないんだけど、はっきりしてるわ。
「……あのう、すいません」
「うわあっ」
いきなり何者かに後ろから話しかけられた。
……んん!?この村人C顔な青年は……。
「田中くんっ!!」
「安田さんっ、やっぱり安田だっ、よかった~」
おお、田中くんだわ。
「これは何だ?、田中くんよ、俺の田中くんに会いたい願望が夢の中に田中くん出したのか?田中くんに会いたい願望なんて、そんな気持ち悪いもの持ち合わせてないよっ」
「ん~、その一人でいったりきたりする感じ、間違いなく安田さんだ~、懐かしい」
どうやら、これは田中君に間違いないらしい。
「そうよな、やっぱ生の田中君よな。これ何よ」
「スキルだよスキル。昨日覚えた夢見通信ってスキルなんだよ」
田中君が言うには、そのスキルは寝てる知り合いの頭の中にアクセスして意志疎通できるスキルらしい。
なるほどな、……え?俺の頭ん中なのこれ?
「安田さん大丈夫だった?僕の魔法の部屋ちゃんと安田さんに渡った?」
「ああ、そうだわ、ありがとね。あの部屋のおかげで凄い助かってるよ。でも田中君が居なくなってから2000年経ってたよ」
「ええ!?2000年!?まじで!?」
「まじでまじで、あの柱とか折れてたし」
「まじで!?安田さん大丈夫だったの!?」
そして、色々情報交換をする。まあ情報交換っつっても田中君が何してるかは時々鑑定してたから知ってるんだがな。
「田中君あれでしょ?邪悪な巨人のとこにテレポートみたいのしようとして、失敗して別な世界飛ばされたんでしょ?そこでなんでか知んないけど納豆作ってんでしょ?」
ちなみに、田中君を鑑定すると……。
名前 タナカ(地球名、田中正晴)
年齢 28
職業 予言拳士
称号 先見
レベル 46
HP 323/323
MP 0/0
STR 中々
AGI かなりのもの
VIT かなりのもの
INT そこそこ
MND 見所がある
DEX かなりのもの
装備
王獣皮のグローブ
白磁糸のシャツ
所持スキル
体術レベル4
ジャブ、連射パンチャー、まわし蹴り、波動、オーラ拳、超かかと落とし
予知夢
創作物
夢見通信
余談
リリパットグラウンドを壊滅させかけた巨人の世界に転移失敗して、別な世界に飛ばされ、そこで食糧難になっている貧乏国をなんとかしようとして、唯一ある豆で醤油や納豆なんかを作っています。
あ、ホントだ。この間見た時は夢見通信なんて無かったのに、いつの間にか増えてるわ。
鑑定しても基本的に醤油作ってるか、納豆作ってるかしか鑑定結果でないから、まあ、元気そうならいいわと掘り下げずにいたのよな。
「え!!なんで納豆作ってることしってんの!?」
「知ってるよ俺のスキルそういうスキルだもの、ちなみにその巨人の人ね、この世界に間違えて転移してきちゃっただけで、邪悪な巨人でもなんでもないから、ただのサラリーマンだからね。罪悪感感じすぎて元の世界戻ったら仏門に入ったんだから」
「ええ!?」
本格的に情報交換、ていうか俺からの情報提供が始まった。
↓↓↓
「ええ~、じゃあ邪教とかどうなったの?」
「それはあれだ、田中君が巨人の世界に転移失敗してから数ヵ月後に来た日本人のお坊さん勇者が説教してまわってバッチリ解決したらしいよ。今邪教とか一切無いもの」
「ええ~、ちょっと僕なんの為に転移とかしたの?意味ないじゃない」
↓↓↓
「レベル86!?二ヶ月しか経ってないのに!?はあ!?僕五年位頑張ってやっと46なんだけどっ!?」
「しょうがない、プラチナソウルめっちゃ増えてたんだから」
「ええ~、納得いかないわ~」
↓↓↓
「ここあれだからね?安田さんの頭の中だからね。安田さんの頭の中の世界だから」
「ええ~、なんなんだよこれ………でもなんか不思議と落ち着く気がする」
やっぱ俺の頭の中の世界ってことなんだろうな。
「……僕はここに長く居たら、頭おかしくなりそうだよ」
↓↓↓
「神様!?ええ!?もう僕ら死なないの?」
「死なないよ、別な世界で記憶そのままで生まれてくるだけだよ」
↓↓↓
「うーん、じゃあもう、僕らもそっちの世界帰ろうかな。意味ないもんね」
「まあねえ」
「じゃあ今いる世界の食糧問題解決したら帰ろうかな」
「まあ、いいんじゃね」
「あ、そういえばね。安田さん僕結婚したんだよ」
「おい、その話は聞きたくない。ハーレムの話は聞きたくない」
↓↓↓
「うーん、こんな感じで夢の中に現れたキャラとしては、テンプレとして、なにか不吉な予言の一つもしてあげたいところなんだけどね。なにぶん昨日覚えたスキルの試運転で、安田さんに会いに来ただけなものでね、そんな気のきいたこともできないよ」
「いらねえよ。不吉な予言いらねえよ」
まあ、元気そうだな。
やっぱ顔見ると安心だわ。田中君ちょっと老けたな。
まあ、俺より微妙に年上になっちゃったからな。
二千年前にいた人だしな。
他の世界に転移する時間軸がなんやかんやで、年齢差がこれしか出なかったことのが凄いのかな。
「いやあ、よかった。正直安田さん死んじゃってんじゃないかってホント心配だったんだよ」
「死んじゃってないよ。ていうか俺視点だと田中君に会うの二ヶ月ぶりなだけだしね」
「ハハハ、そうか、安田さんにとっては最近の話なんだよね。不思議だわ」
ん?田中君の体透けてきたな。
「……あ、時間みたい。こんな感じに透明になって消える感じなのかな?えーと、また来るよ安田さん」
「あいよー、なんだろうなこのやり取り」
「うん、じゃあねー、安田さ……あっ、予知夢きた、安田さん小指気をつけて、足のこゆ……」
消えたっ、台詞途中で消えたっ。
「うおおいっ、不吉な予言残していきやがるなよっ!!」
ほわわ~ん、ほわわ~ん、ほわわ~ん。
「…………はっ」
……布団の上だ。孤児達もまだ寝てるわ。
やっぱ夢かあれ、夢っていうか田中君のスキルか、うーん。
……足の小指?
まあ、深刻そうな感じじゃなかったしな。
しかしあれだな。
異世界きてから色々あった田中君が満を持して出てきたけど、大事な情報くれるでもなく、特になにもないってある意味凄いな。
「……うーん、靴下はいてからまた寝るか」
……足の小指守るために厚手の靴下はいて、もう一度寝るべ。
はあー、しかしびっくりしたなあ。
ガンっ!!!!
「いぎいっ」
足の小指思いっきりドアに衝突した。
……つああああああ、予言的中だわ。
速い、予言の回収があまりにも速い。
なんてことだ、俺の大事な足の小指、守る暇もなかった。
すまない足の小指。
そしてヤスダとその仲間達はいよいよ、王都に出発することになった。
田中君の予言はこのことです。
他になにかある的な深読みは要りません。