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第26話 俺のナイーブな精神がズタズタになりますよ。いいんですか?

 勇者アズマ君との邂逅の後、俺はまだスラムの冒険者ギルドにいる。

 アズマ君の仲間のバインバイン姉ちゃんに、鑑定スキルあることがばれたらムツキがクーデターを起こす。

 だから今俺は、鑑定スキルなんて持ってないよただの力に溺れたアホだよ作戦決行中だ。


 具体的には、スラムの冒険者ギルドの床で正座して、アズマ君から説教をされている。


挿絵(By みてみん)


「だから、悪いことしたらダメですよ。凄い力を持っていて、その力を振りかざしたりしたくなる気持ちもわかりますけど、ヤスダさん大人なんですから」


「はい、すいません」


 そう、これは作戦なのだ。

 チート能力を得たから調子のって脅迫とかしちゃったけど、別の勇者に咎められて説教される男を演じている最中なのだ。

 外見的には20なかばの俺が、17の少年に正座させられて説教されてるように見えるだろうが、これは作戦なのだ。魂をガリガリ削られる捨て身の作戦決行中なのだ。


「ちょっと、ヤスダさん聞いてるんですか?」


「はい、聞いてます。すいません」


 ……ツラーい。自分で自分がいたたまれない。


 ちなみにスズキさんは、彼らが勇者アズマ一行だとわかってからは、こそっと他人のふりをして、下級冒険者の溜まり場のテーブル席についてる。

 スズキさんはスズキさんで、できれば存在がばれたくないからだ。

 勇者スズキはどうやって見つけたんだ?から俺の鑑定スキルに繋がる懸念があるのだ。


 スズキさんは、テーブル席で気配を消しながら下を向いてる。

 でかい体なのに気配を消すのがうまい。

 今は下を向いて、肩を震わせてる。

 俺のために泣いてくれてるんだろうか。

 ……いやあれ、いい大人が正座させられてるのを見て笑ってるだけだな。


 スズキさんは、途中口を挟もうとした下級冒険者をさりげなく止めたり、カワウソ子供組を離れた所に連れて行ったりしてくれてる。

 俺はチート能力にうかれて、脅迫まがいのことしたアホ日本人にならなくちゃいけないからな。

 余計な口出しとかされたら、どうなるかわからん。



「お前が勇者ヤスダだったのかよっ、このばか野郎っ」

「そうだそうだ。お前のわがままのせいでダンジョン開き遅れたんだぞっ」

「まあ、そのおかげで助かったんだけどな」


「……すいません」


 何も知らないアホ冒険者が、いい感じに俺に罵声を浴びせてくる。

 おお、ありがとう、何も知らない下級冒険者たちよ。おかげで作戦がはかどるよ。

 後でお礼にビンタをくれてやる。


「……まあ、結果的に町も救えたってことですからね。罪とかには問われないと思います。でも方々に迷惑はかけたんだから謝らないとダメですよ。ヤスダさん」


「はい、すいません」


 いかつい鬼みたいな外見なのに、アズマ君は言葉使いがものすごい優しい。中身確かに乙女だわ。



「……ヒューイはどう?なにか聞きたいことある?そもそもヤスダさんは、二月位前にこの世界に来たって言ってるけど」


 アズマ君が、濡れ衣で俺を殺す可能性があった美少女に言葉を投げかける。

 美少女は俺の顔をじっと見た後。


「……ううん、無い。コイツ悪いことする顔してない。生粋の悪いことされる方の顔。力手に入れて、ちょっと調子のるのしょうがないこと。ヨクアルヨクアル」


 美少女は俺の肩をポンと叩いて。


「元気出せ」


 励まされた。なんだこれ。


「そう言えばヤスダさんは、凄く強い魔物が仲間にいるって聞いてましたけど?居ないんですか?あと、カワウソ族?でしたっけ?ああ、カワウソ族はあの子たちですかね。あ、かわいい」


 アズマ君はまんじゅうの事も、カワウソ族も知っているようだ。

 部屋のはじっこにいるカワウソ子供組を見つけた。

 スズキさんも近くにいるが、あのおっきな体で見事に気配を消している。凄い特技だ。


「……魔物の方は、ちょっと今日は留守番してるというかなんというか」


「ヒデチヨあれよ、魔物使いってあまりにレベル差があると魔物言うことあんまり聞かなくなるのよ。そうでしょ?あんた自分の魔物もて余したんでしょ?」


 バインバイン姉ちゃんが、俺を侮りまくった発言をしてくる。

 ていうかレベル差があると、言うこと聞かなくなんのか、始めて知ったな。


「ええ、まあ」


「そうでしょ?アナタなよっちいものね」


 なんなんだこの女、なよっちいってどういう言葉だ。

 嫌いだわーこの人。自分はスパイのくせにさあ。

 まんじゅうは超忠実だっつうの。

 昨日なんて洗濯物干した後アイロンまでかけて、寝る前にマッサージまでしてくれたんだぞ。

 お礼にまんじゅうの好物の肉じゃがを沢山食べさせてやったんだからな。

 俺達超蜜月だからなっ。



「じゃあ、自分達今日は帰りますけど、次に来た時には領主様とかに謝りにいきましょう。自分も一緒にいきますから」


「……うん、ありがとう」


 よし、アズマ君帰るらしい。早く帰ってくれ。


「え?帰るの?もう少し居ても良くない?」


 おっと、バインバイン姉ちゃんが引き留めようとしてる。

 情報収集とかが終わってないからか?



名前    シラール・ザッハール ♀

年齢    32

職業    緑魔法使い

称号    緑炎

レベル   21

HP    117/117

MP    130/130


装備


緑王杖

黒呪の羽衣


余談


可愛らしいわあ、カワウソ族の子供、もうちょっと見てたいわ。

と考えています。


十代の子に公衆の面前で正座させられて説教されるやつに知識系スキルなんぞ絶対にない。との確信を得た為に、ヤスダは既に眼中にありません。

でも次に来た時には、一応ある程度ヤスダ周りの情報収集をしようとはしています。



 おお、作戦は完全に成功したようだ。

 俺の精神をズタズタにした甲斐があったぜ。


「でもシラール姉さんほら、荷物とかそのままで出てきちゃったじゃない?まさかカガミのレベル上がって、テレポートできるなんて思って無かったし」


「あーそうねえ、じゃあ、しょうがないか」


 あ、テレポートとか言ってるわ。

 ええ、テレポートなんてあんの?て顔つくっとこう。


 あの正統派な美少女のスキルだよな。


名前    カガミ・マリッサ ♀

年齢    15

職業    黒色魔導

称号    影の共

レベル   25

HP    120/120

MP    125/125


装備


黒金杖

鋼の小剣

銀色魔導服


所持スキル


黒魔法レベル3

ダークボール、鈍足の呪い、影縫い、シャドウエッジ、影渡り、影渡り(長距離)


杖術レベル2

受け流し、回転叩き、突き回し


小剣レベル1

たて斬り、よこ斬り


影剣


余談


魔法が得意だから勇者のパーティに誘われただけの、特に何もない当たり障りのない貴族の令嬢です。



 特に何もないヤツに、一番のハプニング起こされたわけだがなっ。

 あの影渡り(長距離)ってのがテレポートだな。


「じゃあヤスダさん、自分達は帰りますけど、次に来たときには一緒に謝りにいきましょう。三日後の昼位に、またここのギルドに来ますからね。居てくださいね」


「うん、わかったよ。ありがとう」


 そして、鬼乙女勇者アズマ君は帰っていった。


 俺は出口から出ていくアズマ君を見届けてから、その場に倒れた。

 はああ、もう立つ気力もない。

 心が疲れたし、ズタズタだし、もう無理。


「ヤスダ君!?大丈夫かい?」


 スズキさんが慌てて近づいてくる。


「大丈夫じゃない、正座だよ二十なかばで十代の子に正座で説教されたんだよ?心砕けたわ」


「……ブフっ」


 笑ったな。


「先生大丈夫?」

「大丈夫センセー」

「なんかあるようだから口挟まなかったが、なんなんだい一体?」


「……まあ、色々あってね」


 あんまり何もわかってないカワウソ子供組とか、ニューロン少年とかミーニ婆さんとかが、心配してくれたり疑問を投げ掛けてきたりするが、まともに言葉を返す気力もない。

 結局孤児達に新たな宿題を出して、領主の館に帰ることになった。すぐにでも報告しないとダメだからな。

 次はムキムキ領主一家を巻き込んで「アホだから脅迫とかしたがポッキリ心をおられた勇者ヤスダと怒っている領主一家の巻」みたいな題目で、訳のわからない演技合戦をしないといけないんだろうか。

 ……また正座で説教とかされんのかな?

 ……また心えぐれちゃうな。

 罵ってきた冒険者にビンタをくれてから帰路についた。



 そして、スズキさんにおぶられて領主の館に帰ったら、みんなびっくりして凄い心配してくれた。

 簡単に説明したら、大変だ大変だの騒ぎになり、領主一家が演技の練習した方がいいだろうかとか言ってたが、俺は精神的にボロクソなので、もう寝ることにする。

 詳しい説明はスズキさんに任せよう。


 魔法の部屋に入って横になると、まんじゅうが毛布をかけてくれた。やさしいなあ、まんじゅうは。


「……あ、まんじゅうプレゼントボックスやらせて」



 気分転換にプレゼントボックスやらせてもらうことにした。

 こんなに気分を転換させたいのは生まれてはじめてかもしれない。

 転換させ過ぎてグルグル回りながら大空の彼方に飛んでいってしまいたい。


 寝ながら異空間に手を入れる。

 さてさて何が……。

 あ、取りづらい、なんだこれツルッとしてるわ。

 あ、ここ引っ張れるわ、よし。


 え!!?


挿絵(By みてみん)


 なんだこれ、禿げたオッサン出てきた。

 まんじゅうの口から禿げたオッサン出てきたーっ。

 ええ~怖いぃ……。

 なんだこのオッサン、こっちじっと見てなんにも言わねえよ。

 ええ~、なんか俺の顔見ていい顔でうなずいてる。

 はあぁあぁ~、なんだか知んないけど握手された……へえあわ~怖いぃ~。

 ……禿げたオッサンは親指立てて、いい笑顔でまんじゅうの口に帰っていった。


「………………え~、まんじゅうなんだ今の」


 リンリンリンリンっ!!


 知らなあーいっ!!気持ち悪ーいっ!!禿げたオッサン出てきたーっ!!のリンリンリンを出しながら、まんじゅうは風呂場に飛んでいった。

 オッサンの脂がついたのかな……。


 ていうか何だったんだまじで……。

 ……握手した時に、なんか渡されたな。

 なんか、透明な玉?



アイテム名 解徐の玉

分類    回復アイテム

レア度   ?

価格相場  ?G~?G


効果及び説明


呪いや、魔法による状態異常を解除できるアイテム。

これがあればシラール・ザッハール(通称バインバイン姉ちゃん)のもつ双子水晶の使用者登録を解除できるし、旦那の呪いもまんじゅうに頼らずともすぐに解ける。

先程の禿げたオッサンはこの世界の管理者の一人、ピナンシャーム・パラオ、ヤスダの頑張りを見て空間系スキルを使い、まんじゅうの口からヤスダを応援しに来た。

解除の玉は管理者達により急遽造られたアイテム。

ヤスダの正座を見た管理者達の「頑張れーっ負けんなーっ」との想いが込められている。

彼は他の管理者達の想いを乗せて大分無理をし、凄い頑張ってここまで来た。



「あれこの世界の神様!?」


 マジかよ。

 普通のTシャツ着たオッサンだったぞ。

 ていうか俺、神様の残り少ない髪の毛ギチギチに引っ張っちまったけど、大丈夫だったかな……。

 神様の髪様を……ギチギチに……。


 ……うーん、管理者って複数人だったのか。

 同情してくれたアイテムがこれなの?

 ちょっとしょぼくね?

 でもなんか、無理してここまで来たとかあるな。

 なんかお決まりの、世界に干渉してはいけないルール、みたいのがあるんだろうか。


 まあ、これでアズマ君襲来第二波はなんとか正座しなくてすむのかな。

とうとう禿げたオッサン出してしまいました。


次話は月曜です。

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