第25話 勇者アズマくんの秘密
ダンジョンでのレベル上げを終えて、今は領主の館だ。
勇者アズマ君襲来まであと二日だが、さてどうしようとみんなで話し合っている。
鑑定出てすぐに、ムツキがクーデター起こす前に王都に乗り込んで、ムツキボコボコにする案を押したんだが、脚下された。
正直王都の貴族やら兵隊が、結構な割合でムツキに取り込まれてるから、そいつらが暗躍してただの兵隊たちを先導しだしたら、もうなし崩しで戦争になっちまう可能性が高いそうだ。
そういや前にロボじい領主さんに、どの貴族が敵か鑑定使って調べさせられたっけな。
難しいわ。まつりごと。
結局、アズマ君をなんとかやり過ごすしかないってことになった。
アズマ君は、表向きは視察ってことになっているらしい。
もしかしたら、手荒いことになるかもしれないって話も出てる。
俺化け物ってことになってるしなあ。
出会い頭に化け物退治するノリで斬りかかられる可能性も、十分あるのか……。
前にもやったが、勇者アズマ君をウルトラ鑑定する。
名前 アズマ(地球名、東秀千代) ♂♀
年齢 17
職業 剣士
称号 無双
レベル 32
HP 233/233
MP 0/0
戦闘力 1330
装備
ミスリルの大剣(黒)
魔法銀の軽鎧
所持スキル
剣撃無双
剣術レベル4
たて斬り、横斬り、一線突き、真空牙、切り裂き、千手剣撃
体術レベル2
正拳突き、まわし蹴り、飛び膝蹴り
パーティーメンバーステータス確認
もうステータスをここまで見ただけで、かなりげんなりした。
だってステータス無いからね。
戦闘力ってだけしか書いてないし、その戦闘力もまか○こうさっぽうの時のピッ○ロさんと同じ数値だからね。
勝てる気しないんですけど……。
とか思っていたら、余談のところでもっと度肝を抜かれた。
名前 アズマ(地球名、東秀千代) ♂♀
年齢 17
職業 剣士
称号 無双
レベル 32
HP 233/233
MP 0/0
戦闘力 1330
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余談
正義感あふれる戦闘の申し子のような高校生、めっちゃ強い。
ちなみに肉体は男性だが、中身は乙女。
しかし本人は誰にもカミングアウトをしていないので、男らしく振る舞っているつもり。
実は勇者アズマは、この世界にある伝説の性別を変える薬を血眼になってさがしている。
これはなんというか、こんな感じの人とはファーストコンタクトすぎて、どうしたらいいのかわからん。
そういえば、確かに名前の横の性別マークが変だった。
彼が探してるのは、まず間違いなく男女逆転薬だろう。
ちょうど持ってんだよな俺。
……まあ、アズマ君はさておき、問題は彼?のパーティメンバーの方なのだ。
鑑定したら、色々大変だった。
アズマ君の乙女関連以外の、アズマ君のパーティメンバーの問題はみんなにも話しておいた。
だから手荒いことになるかもしれないって話も出たわけだが。
まあ、ムツキは俺に鑑定みたいなスキルあるかどうか調べるために色々やってるわけだから、鑑定スキルらしきものを持ってないようになんとかごまかして見せるだけでいいのだ。
ぶっちゃけ、アホっぽく振る舞えばいいだけなんだよな。
俺のパーティメンバーのみんなも、そこはまあなんとかなるだろうって感じだ。
……俺普段そんなアホっぽいのかな?
会議はとりあえず手荒いことにならないように、穏便に話をつける方向でまとまった。
手荒いことされたら、どうしようもないから戦うそうだ。
そのために、万が一を考えて子供組のパワレベもしたわけなんだが。
血生臭いことにならなきゃいいなあ……。
会議も終わったし、とりあえず今日は気分転換もかねて、スラムの孤児達に勉強教えに行くか、みっちり勉強やらせるつもりが、こっちの都合で二日も休んでしまったからな。
スズキさんも来るらしい。
自分を見つけてくれたきっかけの孤児達に、お礼を言いたいそうだ。
カワウソ子供組とスズキさんでスラムのギルドに行く。
一応化け物勇者とタツオミ君は別人って設定なんで、まんじゅうは留守番だ。
「先生~」
「センセー」
スラムのギルドに着いたら、孤児達が寄ってきた。
うん、シナプス妹も元気になったな。ちゃんとしっかりした足取りで歩けるようになってる。
みんな、がりがり具合がましになってる気もするな。
風呂にでも入ったのか、小汚い顔が綺麗になってる。
スラムのギルドにカワウソ大工マスカットさんと、カワウソ鍛冶師モンブランさんが、凄いでかい風呂作ってくれたんだよな。
オババギルドマスターこと、ミーニ婆さんが大喜びしていた。
風呂一回100ゴルドだそうだ。
金取ってるらしい。まあ大分安いらしいが。
ギルド職員と孤児は無料。
スラムでは凄い人気でみんな入りに来るらしい。
ここはもうギルドじゃない、銭湯だ。
「あれ?あの汚ない髭の太ったオッサンじゃないの?」
ニューロン少年が、オブラート無しの言葉をスズキさんに投げかける。
「えー、あの汚ないオッサンなのー」
「ほんとにー?」
他の孤児達も呼応するように、汚ないオッサン汚ないオッサンと連呼している。子供は残酷たぜ。
「そうだよ。汚ない髭の太ったオッサンから、太ったオッサンになったんだよ」
スズキさんは、ニコニコしながら孤児達に言葉を返す。
おおらかな人だわ。
「ていうかお前ら、ちゃんと宿題の漢字の書き取りと、計算やったんだろうな」
「うん、やったよー」
「もちろんやったー」
どれどれ、よし、まだ計算ミスなんかはちょいちょいあるが、ちゃんとやってるな。
ニューロンシナプス兄妹は間違いなし、満点、こいつら賢いわ。
さすが脳細胞と同じ名前だけあるわ。
「なにこれ、甘いっ」
「おーいしー」
あ、スズキさんがありがとうねー、とか言いながら果物の缶詰を孤児達にやってる。
あ、ニューロン兄妹もスズキさんのとこ走っていった。
おおふ、せっかく貯めた孤児たちの俺への好感度が、みかんの缶詰に持ってかれたぜ。
……俺も貰お。
ミーニ婆さんの話だと、孤児たちは孤児院できるまでは、ギルドに住みながら、ギルドの下働きを始めたんだそうだ。
ギルドが銭湯になったこともあり、働き手が必要だったから中々役にたってるらしい。
孤児らの人生が良い方に進みだしたようで、よかったよかった。
そんなことを考えつつ、缶詰に舌鼓をうちながらぼうっとしてたら、なにやらギルドが静まりかえっている。
ん?なんだ?なんか空気が張りつめたような……。
おお、なんか鬼みたいなオッサンがギルドに入ってきたな。
おお、オーラが凄い、兵とか士て感じ。このオッサンのオーラでギルドが静まりかえってるようだ。
鬼のオッサンの仲間なのか、美少女二人とバインバインの美女一人の計三人が後ろを歩いてる。
ハーレムパーティだっ!!さすが鬼は違うなあ。
鬼のオッサンが下級冒険者の溜まり場に向かう。
空気がピーンと張りつめて、下級冒険者達は鬼のオッサンとは誰も目を合わせようともしない。
「ちょっと、聞きたいのだが」
「へ、へい、なんでしょうかダンナ」
下級冒険者のオッサンが、びびりまくった対応を見せる。
俺の時は、ヘイヘイ兄ちゃん的なおちょくる対応だったのに、凄い格差だ。こいつらダメだ。
「勇者ヤスダって人が、この町にいると聞いたのだが」
えーっ!?
お、俺かっ!?まさかの俺に用があんのか!?
その会話が出た瞬間に、ミーニ婆さんとニューロン少年、あと何人かの下級冒険者達が、こっちをちろっと見た気がする。
まあ、ぶっちゃけカワウソ達に色々やって貰ってる時点で、多分ばれてるだろうなとは思ってたけどね。
スズキさんはおっきな体で、それとなく俺の前に出て鬼の視線から見えないようにしてくれてる。
「ああ、なんかそんな話も聞いた気がするなあ、勇者来たとかなんとか、なあ」
「ん?ああ、そんな話もあったかなあ、えー、どうだったかなあー?」
ごまかすの下手か。
「なにか、脅迫騒ぎがあったそうだが」
「いやあ、俺たちスラムの下級冒険者は、その日その日を生きるので精一杯なんで、世の中のことにはあんま興味が向かねえんですよ。でもそんな悪い噂は聞かねえですよ、なあ?」
「う、うん、そんな悪いやつじゃないんじゃないかなああー」
いらないよ、変なフォローいらないよ。
お前ら世の中のことには興味無いっつっといて、途中から知ってる感じになってるじゃねえか。ごまかしに全力投球してくれよ。
「……そうか」
なにやら怪しんでるようだが、誤魔化せたのか?
つうかこの鬼一体なんなんだ?
よし、こそっとウルトラ鑑定。
名前 アズマ(地球名、東秀千代) ♂♀
年齢 17
職業 剣士
称号 無双
レベル 32
HP 233/233
MP 0/0
戦闘力 1330
装備
ミスリルの大剣(黒)
魔法銀の軽鎧
所持スキル
剣撃無双
剣術レベル4
たて斬り、横斬り、一線突き、真空牙、切り裂き、千手剣撃
体術レベル2
正拳突き、まわし蹴り、飛び膝蹴り
パーティーメンバーステータス確認
余談
数時間前に勇者アズマのパーティメンバーのレベル上がって、瞬間移動の魔法を覚えたためにここに居ます。
精神的には間違いなく乙女です。
「うえええっ!!?」
あ、思わず凄いでっかい声出しちまった。張りつめた空間だと俺の声凄い響く。
ギルド中から、こいつバカじゃねえのって視線が俺に集まってる気がするが、なにも考えられない。
え?乙女?これ17才?
これが……。
乙女?
「ヒデチヨっ、アイツだ。アイツがヤスダだ」
あ、ばれた。
あの仲間の美少女が、鑑定スキル持ってるやつだな。
要注意人物その2だ。
名前 ヒューイ・リンダバーグ ♀
年齢 13才
職業 暗殺技師
種族 人間族
称号 黒刃
レベル 22
HP 168/168
MP 33/33
装備
ミスリルの短剣
銀狼の革鎧
軽業師の腕輪
所持スキル
短剣術レベル3
瞬刺、連続刺し、毒斬り、分身刃、百手、一撃刺し
投擲レベル2
投擲補正、精密射撃
鑑定レベル2
名読み、見破り
余談
砂の民と呼ばれる砂漠に住む一族の娘、一族は流行り病でほとんどが死んでしまっており、その病を流行らせたのがヤスダなのではないか、という心理誘導をムツキの部下にされている。
もちろん真犯人はムツキ。
しかし町に来る直前にアズマから「ちゃんと事実を確かめて考えてから動くこと、むやみに感情で動いてはだめ」という一言を貰っており、いきなり飛びかかったりはしてこなかった。
アズマ君ナイスだ。要注意人物その2のこの娘は、濡れ衣で俺を殺す動機ありありなのだ。
ポンコツ王子め。アズマ君のお陰で助かった。さすが乙女。
しかしその鬼乙女勇者は美少女のセリフを聞いて、なにやら身構えてる。
おお、鬼のオーラが怖い。
ひとまず、落ち着こう。
勇者アズマは、俺に鑑定スキルみたいのがあるかどうか、それを確かめるために送り込まれたムツキの駒だ。
ここで一歩でも間違えると、ムツキがクーデター起こすな……。
くそう、まだ二日は猶予があったはずなのに、レベル上がって瞬間移動してくるとか、想定外すぎるだろ。
最大の懸念は要注意人物その1の動向だ。
アズマ君の仲間にウルトラ鑑定かけたら見つけた。
このバインバイン姉ちゃんが最大の要注意人物だ。
名前 シラール・ザッハール ♀
年齢 32
職業 緑魔法使い
称号 緑炎
レベル 21
HP 117/117
MP 130/130
装備
緑王杖
黒呪の羽衣
所持スキル
風魔法レベル3
エアカッター、エアカッタートリプル、風の歌、無音、癒しの風、エアカッタートゥエルブ
杖術レベル2
受け流し、石割り、痺れ突き
余談
暗闇卿ムツキのスパイ、旦那に呪いがかけられており、人質にとられている。
双子水晶と呼ばれる光を点滅させることで、対になる水晶と通信できるアイテムを持っており、それを使って暗闇卿ムツキにヤスダの能力の報告をするように命じられている。
このアイテムは登録方式で他人には使えない。
24時間以内に何らかの連絡が来なければ旦那は殺されます。
ヤスダの能力を報告されれば、即座にクーデターを起こされます。
旦那の呪いはまんじゅうの魔法でなんとかなります。
クーデターを起こされたら王都で大量に死人が出ます。なんとかしてください。
なんとかしてって言われてもなあ、「俺はレベル86あってあんたの旦那を助ける手段もある。信じてくれ」て言うのは簡単だが、ニューロン少年の事例でもわかる通り、俺の見た目と雰囲気には信用性がない。
ここは、鑑定スキルなんて持ってないよアホだからね作戦を実行したい所だが、準備をしてないからな。
普段の俺の知性オーラが出てしまってはないだろうか。
くそ、せめてハゲカツラか、天草四朗のやつだけでも着けていれば……。
どうしようか、チラチラとバインバイン姉ちゃんを見て何度も鑑定してしまう。
今のとこばれてないが、どうしようか、うーん。
名前 シラール・ザッハール ♀
年齢 32
職業 緑魔法使い
称号 緑炎
レベル 21
HP 117/117
MP 130/130
所持スキル
風魔法レベル3
エアカッター、エアカッタートリプル、風の歌、無音、癒しの風、エアカッタートゥエルブ
杖術レベル2
受け流し、石割り、痺れ突き
余談
なにこの人、凄いあたしの方チラチラ見てくる。
どうせ胸見てんだろうな、アホ丸出しね。ばれてないと思ってんのかしら、知識系スキルなんてこいつ絶対持って無いわね。
と考えています。
……ほう、作戦の入りとしては成功だわ。
俺の心が犠牲になったが。