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第20話 スラム街の孤児、……NYっぽい。

 ニューロン少年の後を歩いてるがやたら変な道を通るな。

 さっきなんて多分人ん家の庭だったぞ。


「ホントにこの道なのか?なんでこんなわかりにくいとこ通るんだ?」


「隠れ家なんだよ、簡単な道だと盗賊どもにばれちまうよ」


「……盗賊?何を盗まれるんだ?」


 どう見ても金持ってないだろう。


「俺達が盗まれるよ、あいつら俺達みたいな孤児誘拐して他の国に奴隷として売ったりしやがるんだ」


 ああ、超重たい答えかえって来ちゃったよ……。

 ていうかそんなとこに今日会ったばっかの見ず知らずの青年を連れていっていいんだろうか。

 俺から好青年オーラでも出てしまってるんだろうか。


「いいのか?そんな隠れ家に俺みたいの連れていって」


「兄ちゃんの顔見たらすぐわかるよ。兄ちゃんは騙したり盗んだりする顔してない。生粋の騙されたり盗まれたりする方の顔だよ」


 急に失礼なこと言いだしたぞ。


「ついたよ」


 おお、着いたのか。

 ……なるほどな四方が家と塀に囲まれてる狭い範囲にボロい掘っ立て小屋が幾つかある感じだな隠れ家とはよくいったもんだ。

 ……うん、入ると中は臭い。

 サバイバルおじさん達が沢山いる公園と同じ臭いがする。

 座ったり寝たり、他にも何人か子供がいるな。犬族やら猫族、他の人族もいるな。みんな4~8才位ってとこか?

 みんなもれなくガリガリだわ。

 みんなこっちを見てぎょっとしてるが特に何も言ってきたりはしない。

 ニューロン少年が一番年上なんだろう。

 基本的にこいつがみんなの面倒みてるのかもしれん。

 

「シナプス、起きてるか?病気治してくれる人連れて来たぞ」


 え、名前シナプスって言うの?

 兄ニューロンで妹シナプス?

 賢そうな名前だこと。


「お……兄、ちゃん」


 ああもう、ガリガリで頭ぼっさぼさの女の子がボロい布被ってござの上に寝てる。ろれつもまわってない。

 うわあ、もう見てるだけで非常にいたたまれない。この子が一番ヤバそう。

 えーと。


名前   シナプス ♀

年齢   4才

職業   病人

種族   人族

称号   よろよろの子


レベル  1

HP   3/8 ※病(重たい風邪、栄養失調)

MP   3/3


STR  1

AGI  1

VIT  2

INT  3

MND  3

DEX  5


装備


なし


所持スキル


布の声


余談


両親共に冒険者でダンジョンの探索中に事故で亡くなり孤児になった兄妹の妹の方。

病気はカワウソ子供らの魔法で治せます。

魔法で治したら胃に優しい御飯を食べさせて数日安静にすれば元気になります。



 孤児なあ、事故か……。

 まあ、治せるらしいことはわかった。

 ていうか、どうすっかな。

 他にも子供いるし、みんな鑑定したら半分以上が状態異常栄養失調って出る。残り半分は状態異常過労。

 魔法の部屋出すか?ホワイトシャインベリーですぐ治せるしな。

 理性が子供とは言え魔法の部屋見せるのはまずいんじゃないか?と訴えてくるが、んなもん知らね。

 ああーでもダメか病気やら治して飯食わせて、しばらく寝させるまでセットだろ。

 シナプス妹は数日とか寝かさんとダメよな。安静にってあるしな。

 結局ここじゃ無理だわな。強権発動で婆ちゃんギルドマスターに任せたが、カワウソ子供組何日もほっとくわけにいかん。


「ニューロンよ、他の小屋にも子供いんのか?」


「ん?うん、全部で18人いるよ」


「そうか、おまえら飯食わしてやるからみんなついてこい」


「え、御飯?」

「食べさせてくれるの」

「ほんと?」


 子供が一斉にこっちを見る。


「いや、ダメだよ兄ちゃん、シナプスだけならまだしもそんな大人数で出歩いたら盗賊に見つかって必ずつかまっちまうよ。いつもは俺一人だから逃げ切れてるだけなんだ」


 俺のナイスアイデアにニューロンが拒否の声をあげる。


「そ、そうだよ」

「盗賊こわい」


 盗賊か、これはとうとう俺のブーメランが火を吹く時が来たようだな。


「大丈夫だなんとかなる」


「いや無理、兄ちゃん人は良さそうだけど、よわっちそうだもん」


 失礼な。いやまあ、あながち間違ってはないが。

 まともに人殴ったことすらない俺VS盗賊だからな。

 盗賊っていうからには、なんかこう搦め手で攻めて来そうだもんな。毒とか痺れ薬とか使ってきそうだ。

 ……いやいやさすがにレベル86あればなんとかなるはずだろう。

 きっと、きっとなんとかなるっ。 


「大丈夫だ。なんとかなる」


「無理無理」


「絶対大丈夫だって。助けてやるから」


「やだ、無理そうだもん」


「大丈夫だってまじでまじで、こう見えて兄ちゃん結構すごいから」


「無理無理絶対無理」


「大丈夫だから信じろってまじで」


「兄ちゃんの精神は信じてる、でも兄ちゃんの肉体は信用できない。助けてくれるって精神は信じてるけど、肉体的には絶対盗賊にぼこぼこにされるよ」


 なにこのやり取り。

 なんか難しいこと言い出したぞこいつ。


「うーん、じゃあめんどくせえけど何人かに分けて往復で冒険者ギルドに行くのはあり?」


「……うーん、まあ、それなら」


「よし、じゃあそれでいくべ」


 まだ悩んでるようだがなんとかオーケーが出たようだ。




 とりあえず妹を俺がおんぶして、あと二人位連れて冒険者ギルドに移動した。

 おっかなびっくり進んだが盗賊は出なかった。

 ギルドの中はまだ閑散としている。盗賊追っかけてったオッサン達はまだ帰ってないらしい。

 どこまで追っかけてったんだ?


「なんだい、帰ってきたと思ったら予定より多くないかい?」


 お婆さんギルドマスターに話しかけられ、こっちの事情を説明して、孤児受け入れるために部屋を貸して貰った。

 二つ返事で貸してくれた。

 ブラックカードの力絶大。


「ぺぺちゃん、この子にキュアかけてやってくれ」


「わかった」


「キュンキュンキュンキュキュン、キュアっ!!ハァ!!」


 相変わらず魔法の呪文はカワウソがキュンキュン鳴いてるだけに聞こえるな。


挿絵(By みてみん)



「ぺぺちゃんっ、必殺技っぽく撃っちゃだめだっ」


 ぺぺちゃんの手から出た青い光がシナプス妹に吸い込まれていく……うん、状態異常消えたな。

 顔色もよくなったような、いやわからんな顔真っ黒で汚いからわからん。元気になったら風呂もだな。

 ニューロン少年は必殺技っぽい出し方に一瞬ドキッとしていたが、今はほっとした顔をして地面に座り込んでいる。

 12才なのに大したもんだ。妹やら他の孤児やらの面倒見てタンポポ売って。逞しいわ。

 俺が12の頃なんてなにしてたべ、ちょっと賢いゴールデンレトリバー位の知能しかなかったんじゃねえかな。

 さすが異世界の孤児は生きる力が違うな。

 格好いい言い方をすればアナザーワールドオーファンだからな。なんで格好いい言い方したのかわからんが。


 ……おっと、また思考がそれてたわ。

 とりあえずあれだ。シナプス妹に布団的なのをかけてやらんと……。

 俺がうろうろしてると、婆ちゃんギルドマスターが「こっちはあたし達に任せて早く行きな」と格好いいセリフを投げ掛けてくれた。ギルド職員の人達も手伝ってくれるらしい。

 俺はトイレに行くふりをして魔法の部屋を出して、キッチンから食材を山ほど魔法の袋に移し、それを職員に渡しといた。

 飯も作ってくれるそうだ。

 ブラックカードの力はまっこと絶大だぜえっ。


 そして子供達をピストン移動する。

 あれだけ盗賊盗賊言ってたにも関わらず、盗賊には一切エンカウントしなかった。

 おかしい、あんなにフラグ建っていたのに。

 俺のブーメラン炸裂せずだ。

 ……まあ、正直助かった。


「出ねえじゃねえか盗賊」


「あれえ、おかしいなぁ、いつもはそこらへんうろうろしてるのに」


 ニューロン少年がすごい首を傾げてる。よっぽど珍しいことなんだろうか。

 冒険者ギルドの入り口から良い匂いがする。


「よし、おまえら飯食わしてやるぞ約束だからな」


「わーい」

「やった~」

「ごはーん」


 最後の子供達が走ってギルドに入っていく。

 ニューロン少年と俺で最後だ。


「俺達も早く食うべ、腹へったわ」


「うん、兄ちゃん、……ありがとね」


 始めて笑った顔見たな。


「おう」


 ギルドに入ると、子供達はみんな飯食わずに待ってる。

 シナプス妹は別室でお粥的なのを食った後、ベッドでぐっすり寝てるそうだ。

 なんでみんな食ってないんだ?あ、もしかして俺のこと待ってんのか?

 ていうか飯がとんでもない量なんだけど、でっかいテーブルにぎゅうぎゅうに皿が置かれて、もれなく食い物が乗ってる。

 なんかチャーハンとか唐揚げとかラーメンっぽいのもある。

 どことなく町の中華屋さんっぽい。定食からラーメンまで色々ありますみたいな。

 こんなん食わして大丈夫か?胃に優しい方がいいんじゃねえかな?

 あ、お粥がたくさんあるから、これ中心に食わそう。

 しかし量がすごいな。魔法の部屋から出した食材もろもろで百キロ位あったかもしれん。

 おっと犬族の子供よだれがだらだらだ。


「見てないで食え、あ、とりあえずお粥食え、油っこいのだと気持ち悪くなっちゃうかもしんないからな」


 お粥を取って子供達に配ってやる。


「よし、食べろ」


 子供たちが一斉に食らいつく。


「「「いただきますっ」」」


 よし俺も食うかね。

 あ、旨い。なんだか旨い。ラーメンっぽいのスープが優しい味だわ。胃に優しそう。これは食わしても大丈夫だろうか。

 チャーハンと唐揚げはまんまチャーハンと唐揚げだった。

 唐揚げ生姜効いてて旨い。


「おいしーい」

「おいしーね」

「……おいしい」


 ぺぺちゃん達カワウソ子供組が賞賛の声をあげる。


「カワウソ様のお口に合ったようでなによりです」


 料理作ったらしいおばちゃん職員さんがほっとしてる。

 料理スキルを持ってるようだ。


 孤児達は、もう無言でお粥をかきこんでる。ニューロン少年もがつがつ食ってる。泣きながら食べてるやつもいる。


「ゆっくり食えよ。あ、唐揚げとか油っこいのはあんま食うなよ」


 ホントは唐揚げとか肉的なの、思いっきり食わしてやりたいけどな。

 お粥ばっか食わしてると、何やら外から騒ぎが聞こえてきた。

 あ、ごついオッサン冒険者達が帰ってきたらしい。

 うわ、みんな傷だらけなんですけど、なんだこりゃ。

 傷だらけ血だらけなのに、なんかみんなニヤニヤしてるし、気持ち悪。


「オババーッオババーッ、やったぞクライミチのアジトを壊滅したぞっ」


「!?何だって!?詳しく話しなっ!!」


「その前にコイツらに魔法か薬くれ、深手なんだ」


「よし、みんな薬持ってきな」

「は、はいっ」


 ばあちゃんギルドマスターが職員の人に指示を出してる。

 子供組で唯一ウォーターヒールを使えるミカンちゃんもオッサン達を回復しに行った。

 ん?ごついオッサン達の後ろに縄で、縛られたおっかねえ顔したタンクトップ連中がいる。

 あれ盗賊か?ていうかそもそもクライミチってなんだ?

 俺が悩んでると、冒険者の集団から二人組の兄ちゃんが出てきて、こっちに向かってきた。この人らも傷だらけだな。

 てか、誰?


「カワウソ様にタツオミ様ですね。よかった。私は本部のギルドマスターの命を受けて、あなたを護衛していた金ランク冒険者、名をダマールと申します」


「同じく領主様より護衛の命を受けた兵士長のベルベール・ナランと申します」


 ああ、あの隠れて護衛してくれてたって人達か。

 冒険者が長身ボウズで、兵士の方が金髪ロンゲだ。ボウズとロンゲの凸凹コンビだ。


「我々はタツオミ様を影ながら護衛していたのですが、今の今まで見失っていたのです。申し訳ありませんっ」


 ボウズとロンゲが二人揃って頭を下げる。

 黙ってりゃばれないのにわざわざ謝ってくるとは律儀だこと。


「いてててっもっとそっとやってくれっ」

「黙ってなっ高い薬使ってんだから贅沢言うんじゃないよっ」

「あのボウズと金髪のお二人さんが居なきゃ、まじ危なかったぜ」

「おお、これは回復魔法か、カワウソ様、ありがとうございます」

「……良いってことよ」


「おいおい、なんだこの飯すげえ豪華じゃねえか」

「なにこれ食っていいのか?」


「タツオミ様、すぐにでも領主の館に戻りましょう。カワウソ様のお子をスラムなどに置いておくわけにはまいりません」


「食っていいのか?ダメなのか?」

「この子達が食い終わるまで待ちな。この食い物はそこの兄さんのだから兄さんにお聞き」

「おいおい、兄ちゃん食っていいかいこれ?金は出すからよう」



 もう混沌とし過ぎて状況がまるでつかめない。

 じゃあ、俺の必殺技、ウルトラ鑑定。



場所名 ダンガンポート五番街冒険者ギルド


説明


現在多くの冒険者があつまっている。


余談


クライミチという盗賊団を壊滅させたとしてみんな歓喜している。

クライミチという集団は今まで様々な悪行を重ねていたが、下っぱ盗賊を使い捨てにするスタイル、しかも本拠地の場所がわからず、なおかつその本拠地もどうやら頻繁に変えているということで、いつまでたっても見つからず領主も手を焼いていた。


しかし今日、ある軟弱そうな青年と、高級な魔法の袋を丸出しで持っているカワウソ族の子供達が、無防備にうろついてるのに目をつけた盗賊達がいたことによって状況が変わった。


軟弱青年達を襲おうとしたところを、突然現れた金ランク冒険者と、ダンガンポートの兵士長に何度となく捕らえられて、クライミチの下っぱ盗賊がみんな捕まってしまった。

下っぱが捕まったことで、すぐに動ける盗賊はクライミチの頭領の息子グループしか居なくなった。


このアホな息子は

「どうやらあの軟弱そうな男とカワウソは腕利きに護衛されているようだ。

これは俺達を捕まえるための囮作戦だったのかもしれない。

ふう、いつも通り切り捨てられる下っぱを使ってよかったぜ。

お?うちの下っぱの相手をしているうちに軟弱野郎達と腕利き護衛がはぐれたぞ。これはチャンスだ。魔法の袋にカワウソ族、両方かなりの高値で売れる品だ。多少の危険をおかしても狙う価値があるぜえっ」

とか考えていた。


息子はまだまだ盗賊としての技量が低く、仲間内でもなめられていて功を焦っていたので、カワウソ族の子供と魔法の袋を手に入れて、一気に地位を確保しようとしたが、すんでの所で軟弱青年に逃げられ冒険者ギルドに入り込まれてしまった。

普通なら盗賊の懸賞金を狙う冒険者がいる冒険者ギルドに近づくなど、盗賊としては最低の行為だが、功を焦ってやらかした。

しかも諦めきれずにギルド前をうろついていた為に多数の冒険者に見つかり、追っかけられ、殺す気満々の冒険者の気迫にあてられて、こともあろうにクライミチの本拠地まで逃げ込んでしまった。


そしてクライミチの本拠地を発見した冒険者と、盗賊達の乱闘が起きた。

普通ならクライミチには多くの盗賊がいるはずで、スラムにいる下級冒険者程度に負けるはずはないのだが、下っぱ達はボウズと金髪の二人組にみんな捕まっており、数で圧倒的に負けていた。

だがクライミチの頭領は、有名な盗賊団の頭領だけあり、高レベルの盗賊で、その側近達も結構な高レベルの盗賊だった。

数では勝っているが、徐々に劣勢に追いやられる下級冒険者達。


しかしそこに現れたのは、護衛対象が盗賊にさらわれたと思い込んで、スラムを走り回っていたダンガンポートきっての冒険者と兵士長だった。彼等は下級冒険者の叫び声と剣戟の音を聞きつけてやってきたのだった。


で、下級冒険者ボウズ金髪連合が盗賊団を壊滅しましたとさ。

めでたしめでたし。



 …………長い。

 知らず知らずにとんでもない冒険活劇が繰り広げられていたようだ。

 冒険活劇の中での俺の役割は撒き餌役だな。


 俺は孤児達が食い終わって、山ほど余った食い物で宴会が始まったギルドを見回して、椅子に座って一息ついた。


「……はあーあ、色々くたびれたわ」

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