第19話 下町さんぽってヤツだな
領主の館を出て町をぶらぶらしてる。
みんなちょいちょいこっちを見てくるが、カワウソ子供組に注目が集まってるようだ。俺には特に注目が集まってない。
ムキムキ領主さんの、化け物勇者擬装作戦は成功のようだ。
しかし基本的にみんなカワウソ様って呼ぶのよな、様つけなのは貴族だからなのか優秀な一族と認識されてるからなのか。
町を歩いていたら、うまそうな匂いが漂う通りにでた。
出店がならんで色んな食べ物を売ってる。
町は基本的に西洋の感じなんだな。でも所々なにやら胡散臭い感じがする。
見た目は洋風なんだが、どの家も中に入るときには靴を脱ぐのよな。なんだろう日本人が憧れる洋風な建物って感じだろうか。
まあ、現代の日本人が文明に深く関わってるようだからな。
現代の日本人が昔からの文明に深く関わるってちょっと意味わからんけど。
あ、焼き鳥の看板つけてるのに思いきり豚肉の串焼きだわ。
すごい日本臭だ。せっかくなので人数分買って食べながら散策再開だ。
旨いな、甘辛いタレも旨いが何より肉が旨い一本50ゴルド、だいたい50円とはとても思えない旨さだ。
畜肉がダンジョン都市の名物らしいからな。
一通り歩いていたら、なにやら町並みがボロっちくなってきた気がするな。
なんかさっきみたいなたくさんの出店もないのに、そこかしこで喧騒がすごいわ。
……これはあれではないのか、スラム街ってヤツでは?
冒険心出して変な狭い脇道をちょいちょい通ったのが悪かったかな。
大丈夫なのか治安は……。
よし、こういう時に便利な……ウルトラ鑑定。
場所名 ダンガンポート五番街
説明
治安が良くない。俗に言うスラム街。
冒険者崩れの盗賊などが根城にしている。
冒険者紛いのチンピラも沢山いる。
すごく治安が良くない。
なぜなら、ダンガンポートの領主とその息子が勇者ヤスダの警護にと密かにつけた優秀な兵士と冒険者が、勇者ヤスダを襲おうとしていた盗賊の対処で手一杯になっているから。
優秀な冒険者と兵士なので盗賊の十人や二十人余裕で対処できるが、勇者ヤスダがいかにも襲われそうな細い路地から細い路地にやたら入るので、総勢で三十人の盗賊に五回ほど襲われそうなタイミングがあった。
護衛の冒険者と兵士はその対処で手一杯になり、勇者ヤスダを見失っている。
ダンジョン都市の領主に、勇者様の気晴らしだから出来る限りは姿を見せずに陰ながら守れと命令されていたのも仇となった。
ちなみに5人組の盗賊が今にも襲おうとしているので、角を曲がった所にある冒険者ギルドに入ることをオススメします。
「あばふ」
…………えらいことになっていたらしい。思わず変な声でてしまった。
すごい申し訳ないことしてるわ。
後で護衛の人に超謝ろう。顔も見たことないが。
さっきの喧騒ってもしかしなくてもこれか?
ていうかブーメランに火を吹かせた方がいいだろうか?
いや逃げるべ。鑑定に書いてあるし。
「みんなあそこの冒険者ギルド行こうか」
俺はカワウソ子供組を抱えて冒険者ギルドに小走りだ。
「どうしたの先生」
「ひゃひゃひゃ」
「はやーい」
「はやーい」
子供組の呑気なセリフと共に冒険者ギルドに入店っ。
おう、テンプレ通りにごついおっさんやおっかねえ顔した兄ちゃんだらけだわ。
建物は、食事どころと窓口カウンターあって、部屋の壁には依頼の紙?みたいのが張ってある板が並んでる。
なぜか食事どころが併設されてるとこもテンプレ通りだな。
「どうした兄ちゃん、そんな慌てて盗賊でも出たのかい?」
「それカワウソ族か?」
「カワウソ様?」
なんかごついおっさん達が、ヒョロイ兄ちゃんおちょくる感丸出しで話かけてきた。
「いやホントに5人組の盗賊に追われてたんです」
入り口から覗いて鑑定する。
ああいるわ。なにやら冒険者ギルド遠巻きにうろうろしてるわ。
ガタガタっとごついおっさんやら、おっかねえ兄さんやらが一斉に立ち上がる。
なにやら一番強そうなおっさんが足早に近づいてくる。
え、何?
「まじでか?どいつだい?」
俺は窓の下に体隠れるようにして、目線で盗賊を知らせる。
「あの角の所にいる5人組ですね」
「……あれか、よし、行くぞオメーら絶対逃がすなよっ!!」
「「「おうっ」」」
おっさんの合図と共に冒険者ギルドにいるやつらのほとんどが勢いよく飛び出していった。
「待てこらぁっ!!」
「盗賊このやらあーっ!!」
「逃がすなあっ、追えーっ」
おお、土煙上げながら逃げる盗賊を追っかけていった。
なんか牛追い祭りみたいだな。
「盗賊捕まえると領主から賞金が出るからね。スラムにいるような貧乏冒険者は必死なのさ、所でカワウソ族を連れてるところを見るとアンタ貴族だね。なんでこんなスラムに来たんだい?」
静まりかえった冒険者ギルドの奥からくるくるパーマの典型的なばあちゃんスタイルのばあちゃんが話かけてきた。
ああ、だからあんなヤル気満々なのか。
「いやあ、道に迷っちゃって、この町来たばかりなんで」
「なるほどね、ダメだよスラムに子供なんて連れてきちゃあ」
「すいません」
「うん、まあもう少ししたらさっきの連中の何人かは戻ってくるだろう。そしたら上町まで送らせよう。ふむ、ここは貴族には落ち着かんだろ。奥に入って待ってな。茶でも出そう」
送ってくれるのはありがたいね。
ていうか貴族って認識をされてるな。
……俺は貴族ってことでいいのか?
「ありがとうございます。あー、やす、じゃねえや職業教師のタツオミです」
「……あたしはこの支部のマスターのミーニってもんだよ」
なんとこの人ギルドマスターだったのか。
こんな普通のばあちゃんなのにな。
「アンタこの子達の腰につけてるの魔法の袋だろ。こんな高価なもんつけてたらそりゃ盗賊もよってくるよ」
ああ、それでか、そうだよな、これ高級品なんだよな。見た目薄汚い袋な上にアホほど持ってるから忘れてたわ。
カワウソ子供組の腰に、思いっきり丸出しでついてる。
ちなみに俺の貴重品が入ってるやつは、紐でくくって首に下げて服の中だ。
ばあちゃんと話してると、なにやら人が少なくなったギルドで騒ぎが聞こえてきた。すごい泥だらけの人間の子供がなんかギルドの窓口?で騒いでるようだ。
「なんでだよっこの草だって食い物だろっ、換金してくれよっ」
「食い物ってこれタンポポだろうがっ、なんでタンポポばっかこんな持ってくんだよっ、根っこついてるから土だらけじゃねえかっせめて薬の材料になる草拾ってこいや」
「た、頼むよう、妹が病気なんだよ。薬がいるんだ」
「うるせえ、お前この間もそんな嘘ついてたじゃねえかっ、帰れ帰れお前みたいのの言うこと聞いてたらギルド潰れちまうよ」
「こ、今度は本当なんだよう、頼むよ、頼むから」
狼少年っぽいのとギルドの職員さんが騒いでるようだ。
名前 ニューロン ♂
年齢 12才
職業 無色な無職
種族 人族
称号 孤児
レベル 2
HP 10/13
MP 3/3
STR 3
AGI 5+10
VIT 5
INT 3
MND 2
DEX 5
装備
なんか汚い棒
所持スキル
剣術レベル1
縦斬り
草の見極め
韋駄天(小)
余談
買い取り金額を上げる為に嘘ばっかつく少年だが、今回は嘘じゃなくホントに妹が病気というリアル狼少年。
ちなみに妹は結構重い病気なので下級回復魔法や、下級魔法薬以上の物でなければ治らない。
雑草オブ雑草であるタンポポの売値じゃあ絶対無理。
……あーあ。
なんで俺もなんとなく鑑定しちまったかな。
「少年、そのタンポポくれ」
「え!?……か、買い取ってくれるのかい!?」
「貴族様、いけませんよ。このガキはいつも嘘ばっかつきやがるんだ」
「いや、買い取りはしないけども、タンポポくれるならこの子供カワウソ様が妹の病気治してくれるよ」
「ホントに!?」
まあ、まんじゅうは自分の口から出てきたタンポポ植え木鉢に入れて育てるっていう、なんだかよくわからん趣味あるしな。増えても別に問題ないべ。
あー、でもどうすっかな。
妹のとこに回復魔法使えるカワウソ子供組連れてければ一番だけど、盗賊に狙われてる子供組を今外に出すわけにはいかないし、レベル2の少年のあのガリガリな腕で妹ここまで運べるのか?
うーん、ここにカワウソ達だけ置いといてもいいのかどうか……ここもスラム街には違いないしな、ホントに安全なのか……。
あっ、そうか。
「ぺぺちゃん達ちょっとここで、待っててくれるか?」
「うん、わかったー」
「……わかった」
俺はさっきから黙ってこっちを静観してる婆ちゃんギルドマスターに向き合って、伝家の宝刀ダンガンポート家身請け証明ブラックカードを取り出して見せる。
使わないって思ってたのに一時間もしない内に使うことになるとはな。
「この子達ちょっと預かって貰ってもいいですか?」
「ん?……!?アンタこれ……わかった。任せな」
「よし、少年妹んとこ案内しろ、ここまで妹連れてきて治してやるから」
「わ、わかった」
俺は少年と一緒にギルドを出る。
じゃあ妹救いにいくかね。




