第14話 まんじゅうフィーバー
マリアシリールに着いて、王子ボコボコ血祭り作戦会議から一月が過ぎた。
俺達はパダルワン家の屋敷にお世話になっている。
ピンタさん達は、あれからもずっと色々な貴族に根回しだのをやっているようだ。
俺はすることがないから、カワウソ子供組やらマリアシリールの子供に勉強を教え始めた。
ファンタジー世界の定番なのかこの世界は学力が低い。カワウソ達は貴族だからなのか出来るが、一般市民はそうでもない。
勉強教え始めたせいか最近は先生と呼ばれてる。
この一ヶ月ほんとに色々あった。
マリアシリールの住人の前で表彰式みたいのをやられたり、潜伏患者の選別やら、セレナ病を発症した患者の治癒やら色々やった。
なんと俺とまんじゅうの銅像作られたりもした。
うん、このまんじゅうのサイズ感、俺のちっちゃさ。
まあ、活躍した割合的にもこんな感じだろう。
マリアシリールでのまんじゅう人気は、今えらいことになっている。
まんじゅうの魔法で治癒され、病気を流行らせた魔物を倒したのもまんじゅうなのだから、まあ当然かもしれない。
何やらまんじゅうの祭りだかなんだかが、近々開かれるらしい。
もうあれだ。まんじゅうは遠くに行ってしまったらしい。
そういえばこの一月でカワウソ達の装備も揃った。
だがまんじゅうからアイテムを取り出すと、やたら優秀だがやたら色物アイテムばっかりが出るのはどうしたもんだろうか。
例えばピンタさんの娘のぺぺちゃんはこんなんなってしまった。
なんで銃剣スタイルやねん。
うーん、優秀なアイテムなのは間違いないので、まあ別によしとしとく。
あ、あと田中君に貰ったお金も換金した。
二千年前の金使えんのかなと疑問に思ってたが、まあ当たり前に使えなかった。
だが古銭ってやつでとんでもない値段になった。
なんと約十倍、田中君に貰った二千万が二億になるというとんでもない結果になった。
もう働かなくてもいい。王子ボコボコにしたら何も成してないが、悠々自適の引退生活を送ろうかと思ってる。
「先生、相談があるのですが」
ソファーでゴロゴロしてたら、ピンタさんが真面目な顔で話しかけてきた。
「なにかありました?」
「いえ、もう各地の貴族たちに根回しもほとんど終わり、あとは機を待ってムツキ王子を告発するだけなのですが、それまでにもしもを考えて我々のレベルアップを計りたいのです。」
「レベル43のムツキ王子に勝つことは無理でも、せめてまんじゅう殿の足を引っ張らない程度には強くなっておきたいのです」
「ふむふむ、じゃあその辺の山やら森やらに入って魔物を倒す感じですか?」
「いえ、そこで相談なのですが、ダンジョン都市ダンガンポート、という場所をご存知ですか?」
おっと、わかりやすいファンタジー用語でたな。
そして個人的には嫌な響きの単語だ。
「ダンジョンあるんですか?魔物が山程出てきて、宝箱やらがあったりするやつ?」
「そうですそうです。世界にはいくつもダンジョンがあるのですがこの国で一番大きなダンジョン、そしていくつもの小規模のダンジョンが群生している場所がありまして、近くには都市を造り半年に一度のダンジョン開きには世界中から冒険者が集まってくるのです」
「ほうほう、ダンジョン開きって何です?」
「半年ほど探索をするとダンジョン内の宝箱や魔物の数が減りますから、半年ほどダンジョンを封印して宝箱や魔物を沸かせて、数を増やしてからまた開くのです」
俗に言うところのポップってやつだな。
「なるほど、で、そこにいってレベル上げをしたいってことですね。いいんじゃないですか?また馬車で行く感じですか?」
「ありがとうございます。馬車だと遠いので領主様が飛行船をだしてくださるそうです。飛行船で五日ほどの距離ですね。先生がよろしければ三日後には出発したいのです」
空飛んで五日か、かなり遠いな。
「わかりました。まんじゅうにも言っときますね。それでダンジョン開きってのはいつなんですか?」
「それが明日なのです。実は根回しをもう少し早く終えるつもりだったのですが、少し時間がかかってしまいまして、ダンジョン開きには間に合いませんでした。でもダンジョン開きから五日程度ならまだまだ魔物も多いでしょう」
で、ダンジョン都市とやらに行くことになった。
俺はどうしようかな。まんじゅうに任してカワウソ達にはゴーレムの杖渡しとけば大丈夫かな。
洞窟的な圧迫感のある場所苦手なのよね。
戦うのも苦手なのよね。
「まんじゅう、ダンジョン都市ってやつに行くことになったぞ」
リンリンリン。
夕食食ってる時にまんじゅうにダンジョン都市に行くことを話したら、ダンジョンって何?と聞いてきたので色々説明してやった。
宝箱が沸くってくだりでプレゼントボックスのことを思いだした。
「あ、そうだ。プレゼントボックスやらせて」
リンリンリン。
いいよー、のリンリンリンだ。
もうカワウソ達の装備も揃ったし俺がひいてもいいか。
お、まんじゅうの暗黒空間に手を突っ込む久しぶりの感覚。
アイテム名 男女逆転薬
分類 薬
レア度 A
価格相場 50000000G~60000000G
効果及び説明
性別を変える薬。一度変えたら戻りません。
おお、個人的には全く要らんがそっちの人達には夢のようなアイテム出たな。
よし次。
アイテム名 黄竜の大玉
分類 宝石
レア度 A+
価格相場 1000000000G~1500000000G
効果及び説明
大迷宮満月へ至る回廊の入り口を開く鍵。五色ある内の一つ。
余談
勇者アズマが月内部にあるダンジョンに行くために、集めている宝玉。
ダンジョン内部にいる邪竜リンドウを倒す為に集めている。
赤、青、黄、緑、黒の五色の玉があり、勇者アズマは赤と黄色と黒を持っている。
つまり黄色の宝玉が被った。
世界に一つずつしかない秘宝である宝玉の黄色だけが、二つになってしまった。
勇者アズマは、いまだに剣の封印を解く方法をさがして大図書館にいる。
ああ、また要らないアイテムが出てしまった。
なんだよこの黄色の玉。
ていうか月にダンジョンあんの?ビックリだな。
そしてアズマ君はまだ剣の封印解く方法さがしてんのか……。
気を取り直して最後の一回。
アイテム名 天草四郎がつけてるやつ
分類 防具
レア度 A
防御力 68
価格相場 20000000G~25000000G
効果及び説明
天草四郎がつけてるやつ。
出たよ、色物アイテム。
ていうか雑、名前も説明も雑。
これあれだろ、ひだ襟だろ。
確かに天草四郎が着けてるけどもさ。
防御力無駄に高い。
ああ、今回のプレゼントボックスはハズレだったなー。
まあこんな日もあるさ。
リンリンリン。
まんじゅうがダンジョン都市について調べないの?
と聞いてきた。
そうだな、一応やっとこう。
俺は紙にダンジョン都市ダンガンポートと書いて鑑定した。
ここ一月で紙に名前書くだけで鑑定できるのだと知った。
コピー用紙にボールペンで書いた物にも鑑定できるのだ。
なにをもって鑑定だよ。
場所名 ダンガンポート
説明
人口約三万人の都市。半年に一度ダンジョン開きがあり、その時期は人口が増える為に人口の推移が激しい。
冒険者とその冒険者を相手にしている商人が多い。
名物はダンジョンの魔物のドロップ品から作られる物が多い。
洞窟豚ステーキや暗魚の干物などがある。
余談
暗闇卿ムツキがダンジョンの封印中に、魔物のポップを増やすアイテム、ガンガンいこうぜ粉をまきまくり、ダンジョン内部にはあり得ないほどの魔物が溢れかえっている。封印を解けば魔物が大量に飛び出してきて、ダンガンポートは恐らく数十分で壊滅し近隣の都市も被害が出るでしょう。
ダンジョン開きまで後10時間38分。
まんじゅうの最高速でも間に合いません。
なんとかしてください。
「……ネクラヒキコモリポンコツ人間失格ゴミ野郎めえ……」
やばーい!!
とりあえずピンタさんと領主さんとパダルワン子爵に連絡だ。
お爺ちゃんロボ領主さん寝てるだろうがしかたない。
俺は大急ぎでピンタさん達に呼び掛けて、みんなに集まってもらいあらましを説明した。
「まさか、それはほんとうですか勇者様」
パダルワン子爵がビックリしている。そりゃそうだろうな。
ああ、ウルトラ鑑定のこと言ってなかったっけか。
「そういう能力なんです。事件起きたらすぐさま犯人わかるみたいな」
「先生はそれでパンナさんを見つけて下さったのだ」
横でピンタさんがうなずきながら言った。
「強力な魔物を使役する能力ではなかったのですな」
ロボ領主もビックリしてる。顔は見えないがビックリ声だ。
「領主様、ダンガンポートに魔導通信で連絡を入れて中止を要請しましょう」
え、電話みたいのあんの?
なんだ良かった。これで一先ず解決じゃん。
とりあえず遅らせて、現場に間に合えばあとはまんじゅうがなんとかするだろう。ちょうどいい魔法もあるしな。
久しぶりに俺のブーメランが火を吹くかもしれんが。
「いや、勇者様の能力を明かすのは得策ではあるまい。他の理由がいるだろう。それに勇者様は魔物使いの能力だと世間にも広まっておる。ダンジョン開きにあわせてマリアシリールからも多数の冒険者がダンガンポートに向かった。向こうでもそういう能力だと認識されておるはずじゃ。素直に事実を話したところで、疑われるだけであろう」
「それに半端な理由で中止になどすれば荒くれ者が集まる冒険者の町じゃ、暴動が起きるかもしれん。ダンジョン開きはダンガンポートの最大の行事だからのう」
「確かにそうですな。何かうまい理由があればよいのですが」
みんな顔を曇らせて悩んでる。ロボお爺ちゃんはにこやかなロボ顔だから曇らせてないが。
「ピンタさん、俺って権力どんなもんなんです?」
「はい?先生の、というか勇者の権力ですか?英爵位は公爵と同等の権力ですよ」
「じゃあ俺がダンジョン開きに間に合いたいから遅らせろって、痛いわがまま言ってるみたいなのではだめ?」
「勇者といえどもさすがにそれは通りますまい。それに悪評がたってしまいますよ」
ピンタさんが俺のアイデアを否定する。
「うーんじゃあ、ダンジョン開きに間に合いたいから遅らせろ、遅らせなければレベル70のまんじゅうを大暴れさせるかもしれないって、頭おかしいこと言ってるってのは?」
「……それなら確かに、通るかもしれんのう、まんじゅう殿の強さは町全体を癒す魔力の多さからも伝わっておる。しかし、それは……」
「領主様、なりませんっ、先生に脅迫まがいの言動で悪評がたつような真似はさせられませんっ」
領主さんがいけそうだと判断したが、ピンタさんは頑なにダメだと言う。
「いや悪評とか別にいいよ。地位と名誉とか生まれてこの方ほしいと思ったことないし」
そもそもぶっちゃけ魔物と戦う以外にすることがないダンジョン都市なんて、長居したくないのだ。
長居しない町で悪評がたとうがどうでもいいよ。
俺は視野が狭い人間だからね。
回りの人に嫌われなければわりとそれでいい。
「ついでにマリアシリール名物の塩大福が食べたいと大暴れして、店半壊させたっていうもっと頭おかしい悪評つけてもいいよ」
「勇者様、大福屋でわざわざ一時間くらい行列に並んで買っていたじゃないですか」
パダルワン子爵に二級市民街を案内して貰った時の話だ。
「あれは旨かったですね。並んだ甲斐があった」
「……先生」
「勇者様、本当によいのですな?」
「別にいいですよ。まあ、ずっと嫌われまくるのはさすがに嫌なんで、全部解決したらそれとなーく真相をばらしてくれると助かるかな」
「お任せ下さい、マリアシリール領主の名に懸けて勇者様の名誉は回復致します故」
「私もパダルワン家の名に懸けて誓います」
おおう、なんか重いな。
やっぱ貴族とかだと名誉だのが大事なんだろうなあ。
そして領主さんに連絡を入れて貰い。
俺達はダンジョン都市に旅立つことになった。
ダンジョン開きはきっちり延期になったらしい。頭がおかしい勇者ヤスダが爆誕。
「これ、ホントに貰っていいんですか?」
「ええ、貰って下さい、マリアシリールに住むすべての者からのお礼の気持ちです」
今は見送りにきてる人達と挨拶の最中だ。領主さんにパダルワン一家に色んな貴族たちが来てくれた。
町で運航しているダンガンポート行きの大型飛行船に乗るのかと思っていたんだが、なんと飛行船を貰えたらしい。
冒険出て最初の町で飛行船手に入っちゃった。
ちなみにカワウソさんたちが動かせるらしい。さすがエリートカワウソだぜ。
「先生、またきてねー」
「バイバイ先生、勉強教えてくれてありがとう」
「またね~」
「サヨナラー」
「お前らちゃんと漢字の書き取りと九九は復習しろよ」
俺が暇な時に勉強教えた二級市民街の子供も、親つれて見送りにきてくれたらしい。
犬やら人間やら猫やら様々な人種で、その親たちは頭を下げている。
「まんじゅう様万歳っ」
「万歳っ」
「万歳っ」
「万歳っ」
リンリンリンっ。
何やら背中にまんじゅうの絵が描いてあるはっぴみたいの着た人達もいる。なんだあれは?
「先生、飛行船の準備が出来ました。行きましょう」
ピンタさんが出発を告げる
「よしじゃあ行くべ、じゃあまた来ますね」
「お達者でー」
「後武運をお祈りしております」
「バイバーイっバイバーイっ」
「漢字教えてくれてありがとう」
「バイバイ先生ーっ」
「まんじゅう様ーっ」
「まんじゅう様ーっ」
「万歳まんじゅう様万歳」
「万歳っ万歳っ」
まんじゅう大人気だな。
そして俺達は、町中から嫌われてるであろうこと請け合いのダンジョン都市に旅立った。