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第13話 トイプー令嬢の帰還

 颯爽と帰ってきて着地を失敗してずっこけそうになって、まんじゅうに支えて貰って事なきを得た俺に、可愛らしいトイプードル令嬢パンナさんが、犬の脚力全開ですごい勢いで近づいてきて結果を聞いてくる。


「勇者様、街は……マリアシリールの住人達は助かったのですか?」


「ええ、なんとか全部の島に魔法かけて治癒できました。でも潜伏患者までは治せないみたいなんで、暫く滞在することになりそうです」


「……ああっ、ありがとうございます、ありがとうございます」


 パンナさんは座り込んで、顔を両手で抱え込んで泣きだしてしまった。

 ピンタさんが微笑みながらパンナさんの背中をさすっている。


「さあ、パンナさん出発しましょう」


「……ええ、そうですねピンタおじ様」


 俺達は馬車で出発した。

 そして、俺はピンタさん達大人組のカワウソ達とパンナさんに暗闇卿ことサイカ・ムツキのことを切り出した。

 パンナさんにとっては特にショッキングだろうから、どうやって切り出したもんだかわからなくててんぱってしまい、なんだかわけのわからない出来もしない手品なんかを披露してしまったが、とりあえず切り出して一連の暗闇卿関連の事実を話した。


「……まさか、ムツキ王子が」


 ピンタさんもビックリ顔だ。


「驚いたのう、第一王子は病弱で滅多に表に出てこないが、裏でそんなことをしとったとはのう」


 ピンタさんの親父さんのパニニ爺さんも難しい顔をしている。


「ムツキ王子、いやムツキめ、わたくしは目にしたこともありませんが、おのれ、パダルワン一族の牙にかけて目にものをみせてくれる」


 パンナさんは怒り全開だ。もう歯を出してガブッといく直前の顔してる。

 しかしトイプードルの牙か……どうなんだ、それは。


「ちなみにレベル43らしいですよ」


「なんですと!?」

「43!?」

「バカな、勇者や魔王クラスではないですか、本当ですか勇者様」


「間違いないです。きっちり鑑定しましたし」


 やっぱしレベル43はかなりヤバイようだな。

 ドラ○エで言えばラスボス倒すレベルだものな。

 しかも権力まで持ってるとなると、厄介極まりない存在だろう。


「まあ、もし直接的ななにかあってもなんとかなりますよ。まんじゅうのレベル70ですから」


「な!?70!?」

「ほんと!?まんじゅうちゃんが!?」


「本当ですよ。まんじゅう超強いですから」


 リンリンリンっ


 照れる~。のリンリンリンだ。


 ちなみに俺はレベル86だが、それは言わないでおく。人と戦うために生まれた戦闘民族のまんじゅうとは違い、俺は完全な素人だ。

 もし戦闘中に切羽詰まった場面になったら、かなりの確率でとんでもない大ポカをやらかす自信がある。

 そもそも基本がないからなにをどうしたらいいのかすらわからず、とんでもないミスをする可能性もかなりある。

 命のやり取りをする場でそれは絶対にいかんだろう。


 だがレベル86だと明かしたら、間違いなく当てにされるだろう。

 だから言わない。

 勿論どうしようもない場面ならがんばる所存だ。

 じゃあ訓練すりゃいいじゃねえかと言われるだろうが。

 事態が動き出した以上そんな時間も無さそうだ。


 それに二十歳後半で人生を急に武闘派にシフトするとか……嫌だ。

 できれば今まで通りインドアな仕事と生活をしたい。

 ごめんカワウソ達よ。もしもの時は頑張るから許してくれ。


 ……まあ、遅かれ早かれそのうちバレるだろうけど。

 そしたら訓練させられるんだろうか?

 ……いや、その時は俺の内向的パワーでカワウソ達を逆にインドア派にシフトさせてやる。

 血で血を洗うような危ない生活から、本のページ捲る時に手を切る位しか血を流さない生活にシフトさせてやる。

 ……あれ、なんの話だったっけ?

 なんか思考が明後日の方向にいってしまった。 



「暴力的な厄介事はなんとかできると思いますけど、貴族だの王族だのの権力的な厄介事はさすがに無理なんで、そっちは任せても大丈夫ですか?」


「ええ、お任せ下さい。貴族には貴族の戦いがありますわ」


「そうですな。そちらは我々にお任せ下さい」


 パンナさんとピンタさんがやる気顔だ。なんでピンタさんも?と思って聞いたら、やはりカワウソ達は貴族だった。

 俺のカワウソエリート疑惑は間違いではなかったようだ。

 かつて勇者の従者になったことがある一族は永劫貴族ってやつになり、伯爵位相当なんだそうだ。

 伯爵様の一族は俺が会うまでバッタだの食ってたようだが、貴族ってなんだろう。

 まあ、田中君の二千年またぎの茶目っ気と二千年たってから来た俺のせいなんだが。


「パンナさん、マリアシリールに着きましたよ」


「はい、ププルおば様」


 お、着いたのか、俺も出よう。

 そもそもこの浮いてる町どうやって入るの?



「パンナお嬢様っ!!よくぞご無事でっ、これはカワウソ様方、皆様がパンナお嬢様をお救いくださったのですね」


 なんかでっかい建物の回りにいる鎧着た人間達がこっちに向かって来た。その中でちょっと豪華な感じの鎧着た一番偉いっぽいオッサンが、パンナさんに話しかけている。

 ピンタさん達とも知り合いなのか、ピンタさんも隊長さんの顔を見て頷いてる。


「ミラルド守備隊長、すぐに領主様、そしてお父様に連絡をとってちょうだい。直接貴族街に参ります」


「ハッ、しかし今はお通しすることは出来兼ねます」


 パンナさんの遊び心なしのセリフに、隊長さんも何か緊迫感を感じ取ったのか、さっきまでの安堵した表情から一気にきりっとした顔になった。

 しかしあれだな。ちょっとでかいトイプードルが180センチはありそうなオッサンに偉そうにしてるのはシュールな光景だな。


「パンナ様、先程町の上空に青い雲が現れ町に異常が起きております。今は入ることはなりません」


「大丈夫だよ。ミラルド」


 俺の横にいたピンタさんが話始めた。


「ピンタ様、しかし……いや、何かご存じなのですね」


「ああ、二千年にも渡る我が一族の悲願が叶ったのだ。とうとう現れてくださったのだよ」


「!?、まさか……そう、ですか……先見勇者田中様の予言が、遂に……」


 隊長さんが泣き出した。

 あ、隊長さんの部下っぽい人たちも泣き出した。

 ああ、これはあれだな。勇者だと一発でばれたな。だって皆泣きながらすごいこっち見てくるもん。


「さっきの雲は勇者ヤスダ様の使い魔であるまんじゅうさんの回復魔法だよ。我が村も同じように疫病から救っていただいたのだ」


「……!?では、町の病は、セレナ病は……」


「ああ、患者は治癒されているはずだ。」


「まさか」

「家の娘も助かったのか?」

「おお、勇者様」

「うぐ、すぐ、島と連絡を」


 部下の人達が泣きながらなんか言っている。


「……わかりました。おい、昇降石を動かせそしてパダルワン家、領主館にも連絡、急げ」


「ハッ」


 部下の人が建物に走ってった。


「さあ勇者様、行きましょう」


 パンナさんとカワウソ達、馬車も一緒に建物の向こう側に移動する。

 ん?すげえでっかい手すりついたマンホールの蓋みたいのがあるな。

 百メートル位ありそう。

 昇降なんとかいってたからな。

 このでっかいマンホールの蓋浮くんだろうな。

 おう、ファンタジー。


 予想通り馬車ごとマンホールの上に乗って浮いてく。

 おお、すげえ、ファンタジー力が地球の科学力を越えたぜ。


 暫くこのすると、昇降石は一番上の浮島に到着した。

 森の中に別の昇降石を操作する建物があり、何人かいる兵士っぽい人達がパンナさんの帰還を喜んでいる。

 ん、なんか向こうから走ってくる?

 なんだあれは、あ、犬だわ、貴族っぽい服とか執事っぽい服とかメイドっぽい服を着た色んな種類の犬達が沢山走ってくる。

 おお、ちょっとおっかねえ。

 とある山に野犬が大発生してますってニュース映像みたいだ。

 あ、パンナさんも走り出した。


「お父様っ!!コッタ!!」


「お姉様!!」


「パンナっよくぞ無事で帰った!!」


 半泣きのパンナさんと、お父様と呼ばれた犬と、コッタと呼ばれた犬が抱き合っている。

 おお、あれパンナさんのお父さんらしい。

 あれえおかしいな、お父さん柴犬に見えるな。柴犬からトイプードル生まれたの?

 妹さんはスピッツだわ。

 ……メンデルさんがすごい頑張って発見した遺伝子の意味はどっかに飛んでいったらしい。


「おお、ピンタ殿、娘を救ってくださりありがとうございます」


「私ではないよソップ殿、こちらにいる勇者様と使い魔のまんじゅう殿のお陰だよ」


「ええ、聞いております。勇者様、私はパダルワン家当主ソップ・パダルワンと申します。こちらは我が家の次女コッタ、マリアシリールの危機を救ってくださり心よりの感謝を」


「いえいえ、安田龍臣です。こっちはまんじゅう正式にはまんじゅう三世って名前です」


 リンリンリンっ。


「我々マリアシリールの住人も勇者様の降臨をお待ち申し上げておりました。ピンタ殿、やりましたな。カワウソ族の悲願達成おめでとうございます」


「ありがとうございます」


 二人が感無量って感じで頷きあってる。


「もうすぐ馬車が参ります。それに乗り領主館へ向かいましょう、本当は領主様も共に勇者様をお迎えしようとしたのですが、何分お年を召した方ですので御容赦ください」


「いえいえ、全然構いません」


 領主さんはおじいちゃんかおばあちゃんなんだな。

 ふむ、馬車が来るのか、なんでこの人達、もとい犬達は貴族なのに馬車に乗ってないんだ。なんで自分の足で走って来たんだろうか。


 後で聞いたら「馬車から外の景色を眺めるのもいいが、やはり自分の足で走り回らねば落ち着きません」とのことだった。

 犬の本能が有り余ってる。


 馬車に乗って10分程度で城が見えてきた。

 森の中に立派な洋風の城がある。あれが領主の館なのだろう。

 この島は貴族街って名前らしいが、街らしい街はなくていくつかの貴族の屋敷があるだけなんだそうだ。


挿絵(By みてみん)


 なんか兵士っぽい人達が開けてくれた立派な扉から、領主の館に入る。

 執事っぽい人の案内で最上階に案内される。

 ぽいぽい連発だが、ほんとに兵士で執事なんだかは知らんからしようがない。

 ちなみに館の人々はみんな人間だ。それはわかる。


 お、一際立派な扉がある。ここに領主の人がいるのかな。

 執事っぽい人が扉を開けてくれた。


 ……ほう、これは想定外だわ……。


挿絵(By みてみん)


 まさかのロボだった。しかも昭和のブリキのオモチャ的なロボだ。


「勇者様ですね。私はマリアシリール領主トルクス・マリアシリールと申します。お迎えに出向けず申し訳ありません。足を悪くしておりまして」


 見た目はロボなんだが声はおじいちゃんだ。

 足が悪いってなに?ネジでも無くしたのか?


「ああ、安田龍臣です。こっちはまんじゅうです」


 まんじゅうもリンリンリンがない。ビックリしてるんだろうか。

 それとも何か通じるものを感じてるんだろうか。


 ……田中君のオタク指南のお陰でしゃべる動物までは受け入れられるが、頭おかしくなりそうだったからどうしてもとお願いして鑑定させてもらった。



名前   トルクス・マリアシリール ♂

年齢   89才

職業   領主

種族   機人族

称号   領主の鑑


レベル  11

HP   57/57 

MP   43/43


STR  28

AGI  14

VIT  15

INT  38

MND  42

DEX  23


装備

汎用機兵装甲・乙式


所持スキル


火魔法レベル1

ファイヤーボール、ファイヤーランス


算術レベル2

間違えない暗算、空想算盤


人を見る眼


精神集中


余談


機械いじりが得意な一族の出身、つまり中に89才のおじいさんが入って操縦しているだけ。

機人族はみんなそう。



 ああ、ロボの中に人が入ってんのね。

 なるほどなるほど、見た目はブリキのロボなのにあれの名前、汎用機兵装甲・乙式って言うの?

 名前だけめっちゃかっけえ。

 いやあ、スッキリした。

 ちなみにまんじゅうの魔法で足治してあげたら、めっちゃ喜ばれた。


 その後は、会議室みたいな場所に通されて、みんなで会議していた。

 この国の王子を告発するわけだから、色々大変なんだろうな。

 色々根回しが必要だかで、何々男爵とかほにゃらら侯爵みたいな名前が飛び交って全然わからんから、俺はひたすらぼうっとしていただけだった。


 俺が会議中に発したセリフは「それ、俺も乗れます?」の一言だけだった。

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