儚い少女
「レイ、お前、社長とどういう関係なわけ?」
仕切り板の向こうから、アンドリューが尋ねてきた。
私は、シャワーの音で聞こえなかったことにして、無言で髪を洗い続けた。
「おい、聞こえてるんだろ?」
いらだたしげな声が、シャワー室に響く。
なおも私が無言でいると、いらだたしげに蛇口をひねる音がして、水の音が半分になった。
「はいはい、部外者には何も教えたくないってことね」
そして掛けてあるタオルに手を伸ばした、その時。
仕切り板の向こうで、人が倒れる…いや、崩れ落ちた音がした。
「レイ?
やっぱり傷が痛んでひとりじゃ立てないんじゃ…」
「うるさい」
それは震えた声だった。
「私は誰にも頼ったりしない。
誰に…も……」
身体中が、熱くて痛い。
ふやけた足に、力が入らない。
私は心の中で毒づく。
アイツに会わなければ…
頭痛と傷の痛みでぼんやりした意識の中
私に降りかかり続けていたお湯が止まったのに、気づいた。
「ったく、手間のかかる…」
後ろに、人の気配。
「ほら、腕通せ」
言われるままに、私はバスローブに腕を通した。
そのまま抱えられて、運ばれて。
ああ、私を運ぶのが、あなただったらいいのに。
愛しい、私の……
暴れて抵抗されるものと思っていたアンドリューは、自分の腕の中で眠る彼女に、驚きを隠せないでいた。
気を失ってもなお銃を握りしめたままだった少女は、今
どこにも力が入らないほど憔悴し、自分に身を預けていた。
「ほんと、無茶苦茶なヤツ」
何か言わないと。
何か別のことを考えないと。
自分の知らない自分が囁きかけてくる気がして。
アンドリューは、ひたすらぶつぶつと文句や小言を言いながら、
儚い少女を部屋へと運んだ。
壊れかけたモノをベッドにそっと置くと、すぐにピアスに触れて医師を呼び出した。
== レイかね?
「そうだよ。噂通り、無茶苦茶なお嬢さんだ」
== ……ああ。すぐに行く。
「頼む」
通信を切ると、彼女に向かってつぶやく。
「お前、どんだけ怪我しまくってんだよ」
いつものことだと言わんばかりの医師の様子に、そう言わずにはいられなかったのだった。




