Ⅷ・『異世界の無農薬モノ ~野菜少年vegetarian~』
いつもと趣向を変えまして。
「こ、これは……」
僕はゴクリと唾を飲み込む。
この作品は……
この作品は……
◇◆◆◆◆◆
<R15> 15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。
異世界の無農薬モノ ~野菜少年vegetarian~
作者:華叉蛇威羅
多毛作制のフリーファーマー男、篠春ユカタ。ある日害虫に遭遇し刺殺される。
しかし気が付くと見知らぬ農業女神様(笑)と見知らぬ空間に。
「え、なに農地転用させてくれるの?」
お約束展開に歓喜し、来世でも生産しまくりのウハウハ生活を目指す野菜馬鹿男。
しかし現実はそう甘くない。
「え?栄養管理の施肥は?」「単作主体ってどういうことよ?」
無力な底辺農家に成り下がるも懸命にセロリを追及する野菜少年。
だがウハウハとは真逆の人生。ある日隣の山田さんの畑は崩壊し斉藤さんの畑も田中さんの畑も大混乱。
続け様に見舞われる災難にナスもトマトも生き甲斐すらも失くしてしまう。
――これはキュウリにショウガを得た男の本気で農業を見つめ直す信念が、
動乱の畑に光をもたらすお話。
『王道異世界野菜耕作バトルファンタジー』ここに開幕!
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異世界の無農薬モノ ~野菜少年vegetarian~ 作者:華叉蛇威羅
第二章 ~有機農業編~
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第三十五話・『……いくらパパでも肉親を殺すのはよくないよ。だからちょっと文句言いに来たんだ』
見えてきた救出の希望、急襲する新たな脅威
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「――と、まぁそんなわけで、お前らが相手にしたイナゴは大した脅威じゃなかったわけだ」
「…………」
「そうか、それで合点がいった……通りで」
「アタシ達が倒した中型害虫は既に繁殖が終わったすっからかんの抜け殻だったのね」
「かなりよわっちかった……です」
「こちらもセレーナとたった2人で最強と名高いアブラムシを倒すことが出来ましたからね」
アイルとエリュフィーに合流したカーサ、ラドルフ、サエ、ユイネ。
事情を知らないアイル以外の5人はここでようやく異変の原因を知ることとなる。
あまりにも呆気なく片付いたイナゴ。それは新たな畑を食い尽くし既に寿命を使い果たした抜け殻に過ぎなかった。
「…………」
ぼんやりと無言で上空を見上げたままのカーサ。
「カーサ、何を呆けているんですか?」
「おなかでもいたみますか?」
「大丈夫?」
心配そうに見つめる女性陣。最初こそいろいろなトラブルはあったものの新参者であるカーサも今では既にこの輪の一員としてすっかり馴染んでいた。
「……え? あ、な、なんでもないのよ。ちょっとぼーっとしてただけ」
考え事というよりは明らかに不審な態度のカーサ。
だが今はそんな些細な変化に構っている余裕はなかった。
「あんまり気を抜くなよ。とっとといかないと畑の中にいる生産物害虫の胃の中に収められちまう」
「うむ。少々の疲労などで立ち止まっている時ではないぞ」
「そ、そうね……ゴメンなさい」
「アイル、ここも二手に分かれるか?」
「いや……イモムシの方は農協さん達がなんとかするだろう。アレでもウチの町内会長以上の使い手がゴロゴロいる歴戦の組織なようだしな」
「「「え……そんなに!?」」」
女性陣は先ほど見た小柄な少女が率いる一団の実力を過小評価していた。
エリェンの実力を肌で知るユイネ、それを伝え聞いていたサエやエリュフィーにとっても衝撃だった。あの30名ばかりの集団がそこまでとは想像もしていなかったのだ。
「実戦が一番農家を強くする、ウチの組合がこのイベントを開いた理由もそこにあるからな」
「なるほどな。では俺達は……」
「セレーナ達と……そして大根畑の救出ですね」
これまでで一番苛酷な戦いが待ち受けているだろう。
彼らはこの日の為に自らを鍛え上げていた。勿論それぞれの思惑があってのことだが、害虫討伐はいつかは行きつく目標であり、それが早いか遅いかの違いでしかない。
一同は火口の方角を向き、続いてお互いの鍬を合わせる。
「お前ら……相手は活きのいいアブラムシがわんさかだ。決して気を抜くな……例え合成ピレスロイドでも1人じゃ相手にならない」
アイルは女王蟲を撃破した。とはいえそれは絡め手であり正面突破は不可能なほど上位アブラムシの力は圧倒的だった。だからこそ決して先走らぬよう率先して注意する。
「もちっ、連携だね」
サエも余裕な口調とは裏腹に震えが止まらない。死ぬのは怖くない、ただ大根一本として失いたくはなかった。そしてそれを考えてしまうと余計に恐怖が止まなかった。
「お任せください、油断はしません」
やっとの思いで倒した抜け殻のアプラムシでさえ手こずったエリュフィー。先に赴いたセレーナの身を案じる。あの時のセレーナの感じた嫌な予感……もっとまじめに捉えるべきだったと後悔する。
「がんばります」
兄と共にある、そのために仲間と共に苦しい農作に耐えてきたユイネ。いつものまったり口調の中からは想像もつかぬほどの戦意が燃えたぎっていた。
「望むところだ」
昨日更なる農機を掴みかけたラドルフ。慢心はしないが強力な武器が倉の中に眠っていることを知っている。資産に胡坐をかくことなく己の農業特性そのままに真っ直ぐに敵の中へ意識を向けていく。
「…………」
そして……カーサ。先ほどからいつもの元気がなく、何かに意識を取られたままだった。仲間に心配かけぬよう、なんとかその動作だけは気取らずに足並みを揃えていく。
準備は整った。
組合セロリ畑担当の最強の6人。この顔触れなら害虫の群れにも引けは取らない。
誰もが振り返らず真っ直ぐに山頂に目を向ける。
アイル達6人は先ほどエリュフィーが降りてきた山道を目指し駆け出す。
先陣を切るエリュフィーが加速を始める。
まさにその瞬間だ。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
目に見えぬ速度で飛来してきた何か・・。
叫び声を上げるエリュフィー。
彼女の腹部が一瞬で血に染まる。
鮮血を大量に撒き散らしていく。
地に倒れ伏せていく。
……一体何が起きたのか。誰の目にも捉えることが出来なかった。
「「「エリュフィーーーーーーー!!」」」
「ユイネ、治療だ、早く!」
「は……はい」
アイルは全ての優先順位を繰り上げ彼女の延命を至急指示する。
ユイネもその指示よりも先に身体が動いていた。
一同はその攻撃が飛んできたであろう上空を見上げ叫ぶ。
「一体何者だぁぁ!」
澄み切った空にはその対象となる狙撃犯がいるはずだ。
アイルは目を凝らす。ラドルフは耳を澄ます。サエは必死で気配を探る。
だが影一つ確認できない。
だがエリュフィー程の使い手を一瞬で屠った何者かが上空から近づいてきていることだけは分かる。
そのビリビリと溢れ出る殺気の大きさだけはかろうじて確認できているからだ。
ゆっくりと近づく殺気。
遂に見え始める影が現れたのは1分程経過した頃だった。
そんな遠距離からエリュフィーを一撃で打ち倒したのだ。
それだけでこの驚異の大きさが計り知れる。
確実に目視できる距離まで到達したその影の正体――。
「え?」
「何?!」
「バカな」
それはアイル達とさほど変わらぬサイズの人間だった。
ただの人間……それも少女だ。
ブラウンレッドの乱雑な髪形に褐色の肌。少しキツめの吊り上がった目。
そんな一見どこにでもいそうな少女が……視認も出来ない距離からエリュフィーを狙い撃った、それもあり得い程の殺気を撒き散らしてだ。
一同は緊張に押しつぶされつつもその動向に警戒をする。
少女はゆっくりと歩み寄る。そして。
「ハーーイ」
……軽い。第一声はめちゃくちゃ軽かった。
手を軽く振り、まるで友達にでも挨拶するようなノリだ。
「おい、お前」
「ん、なぁに」
「お前がエリュフィーを撃ったのか」
「そうだよ?」
「な……なぜだ……」
「なんでって、ウチの娘たちがあっさりヤラレタんで様子見に来たわけよ。そしたら勢いよく飛び出す的が6つ……一番手前にいたから思わず撃っちゃった……えへ」
「……娘……だと?」
「あ~パパからしたら孫になるのか……もぉ、この身内殺しめ~このこのぉ」
からかうようにアイルを肘で小突く少女。
それよりも彼女が何を言っているのかさっぱり分からない。
「お前……何を言っている……」
「あ~、そのコ、早く手当しないと死んじゃうよ」
アイルの質問に答えるより先にエリュフィーを指差す少女。しかしそれも正論であり何よりも速く対処する必要があった。
「ユイネ! 頼む、連れてってくれ!」
ユイネはコクンと頷くとエリュフィーを担ぎ上げ医療天幕へ向かって走り去っていった。
「それと貴方と貴方」
「は?」
「え?」
続いてラドルフとサエを指差す謎の少女。
「急ぐんでしょ? 間に合わなくなるよ。さぁ行った行った」
まるで邪魔者を追い払うように……。そう、『アイルとカーサをこの場に残していけ』と言わんばかりの態度で手の甲を軽く払う。
「ラドルフ、サエ……行け」
これまた分かっていてもその通りだ。立ち止まっている余裕もないのは事実。ならば先に行かせるしかあるまい。
「気を付けろよアイル」
「すぐに追いついてきてね」
今はこの少女についてはアイルとカーサに任せるしかあるまい。戦わず行って良いと言うならばそれに越したことは無い。カエとルドルフは予定通り火口へと急スピードで向かっていく。
謎の少女の企みが何が分からない。
しかしこれでアイルとカーサ以外の4人はこの場から去った。
それが狙いだというなら受けて立つしかない。
アイルは一呼吸置き、そして慎重に言葉を選び再度質問を始めた。
「……さて、これで満足だな。何が狙いだ……そもそもお前は誰だ」
「誰ってパパの娘だよ。……あぁ、人間達の表現だと大型害虫……そのアブラムシ型って言った方が分かりやすいかな」
「……はぁぁ?! ふざけるな害虫が喋るわけないし、大型がこんな人里に来るわけないし、そもそもお前人間だろ!」
「むぅぅ、しっつれいだなぁ、誰がそんなこと決めたの! 確かにウチの子達は喋ったりしないけどワタシは喋れるもん! 大体パパだってワタシ達大型害虫を見たことないんでしょ、なんでそんな風に言い切るのさ?」
「ま……まぁそうだが……ってかなんでオレがパパなんだよ!」
「へ……なんでって……ママにマルチ栽培技術なことしてワタシ達作ったのパパでしょ?」
「……お、お前」
……まさかあの時の事を、アイルは6歳の時に犯した大きな失態を脳裏に呼び起こした。
「まぁ、おっきくなって暴れるのもそろそろ飽きてきたし。まぁ後は気楽にウチの子や孫達に任せとけばいいかなって思ってたんだけど……あ、勘違いしないで、パパとママの直接の子供であるワタシ達4人は元々卵埋めるんだ。だからワタシは処女だよ、嬉しいパパ?」
「…………」
呆気にとられるアイル、言葉も出ない。
「……いくらパパでも肉親を殺すのはよくないよ。だからちょっと文句言いに来たんだ」
呆然と立つアイル。
しかし隣に立つカーサはそれ以上先の言葉を認めることはできなかった。
「お黙り、アブラムシのお嬢ちゃん。……ダーリンはワタシ以外と畑作りはしないのよ、絶対に」
「ふ~ん、ニヤニヤ」
「何がおかしいの?」
「べぇつに~」
「このガキ……ただ妄言吐くだけの子供ならばと見逃そうと思ってたけど気が変ったわ」
「同感だね。ただ黙って見てくれるならパパと一緒に持って帰るだけで良かったんだけど」
「……やはりアンタだったのね、さっきからワタシに何度も分けわかんない声を掛けてきてたのは」
「なんだ、聞こえてたんじゃん。もう返事くらいしてよね~」
「生憎アブラムシと会話する口は持っていないのよ」
「むっかぁ、もう怒った。パパの前にお仕置きするよ……大体ワタシがアブラムシならキミは……」
「御託はいい、こっちから行くわよ!」
「はいはい。全く相変わらず・・・・・だなぁ」
アイルはこの少女が語る事実と自らが過去に犯した出来事の符号の一致にただ黙り込む。
カーサは自らを大型害虫と夢物語を抜かす少女へ千歯扱きを構える。
――大型害虫。
――それは害虫の頂点にして決して人里には現れない存在。
――ただ自然災害を引き起こし、小中型の個体を生み出す災厄の元凶。
――それは最大最強の畑の脅威。
――害虫が意志を持つ、そんな事実はこの15年で一度も確認されたことは無い、いや、そもそもその災いの元凶へ直接接触した者など誰もいなかった。
今、再び歴史が大きく動こうとしていた。
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◆◆◇◆◆◆
「なんなんだこの作品、バッカじゃないか!
なんだよ、アブラムシの少女って誰得だよ!
つーか農業モノで命懸けのバトルすんじゃねーよ! 農業やれよ!」
僕はPCのモニターにそうツッコミを入れた。
うん、ブクマの価値もない。
こんなもの先輩に紹介しようものなら怒鳴られるのが落ちだろう。
――小説家になろうぜ
この大手サイトが広く普及している現在、
投稿作みんながみんな良作とは限らない。
こんな底辺小説もあるから、良作がきっと輝くんだろう。
御徒町先生やYO!ちゃん先生、なるる先生のような書籍化間違いなし、僕イチオシ作者が輝くのもこのカサなんとかっていうゴミレベルのなんちゃって書き手がいるからだろう。
カサなんとかとやら。
もう名前を覚える価値もないだろうが、今後とも先生たちの引き立て役として頑張ってくれ。
僕はそっとブラウザを閉じ、仕事へ戻ることにした。
ぱ、ぱくりちゃうもん><