Ⅴ・『女侍は麗少年に恋してる』
ユイナ誕生(製造)秘話ここに……
(まぁ実際産まれるのは4年後の2019年ですが)
年が明けた。新たな年だ。
僕がこの北陸営業所を任されてからもうどれくらい経つのだろう。
そう感じるくらい長くこの営業所にすっかり定着してしまった。
今年の正月休みは久々に実家に帰ってゆっくりしようと思ったのだが、何故かここでまた三柴社長の謎めいた言動による邪魔が入った。
『えぇぇぇ、お父様とお母様にご挨拶ですかぁぁぁ?! ムリです、まだムリです。あわわわわわ、まだ心の準備が出来ていません、もうちょっと待ってください!』
……なんで僕が暮れに実家に帰るのに社長の心の準備がいるのだろうか。
僕の帰省は本社の重大決議案だったりでもするのだろうか。
結局、僕の正月は三柴社長の初詣に同行する為東京行きとなってしまった。アレ……この社長付き添いってもしかして代休きくんじゃね? と思い本社の長峰さんに電話をしてみたが、「何プライベートの報告をさらっとしてきているんだ、何だね、自慢かね、いいからキリキリ働きなさい次期社長くん」と不思議な回答が返ってきた。
気になるワードがいくつもあったような気がしたが考えたら負けなのだろう。
結局今年も金沢の実家に帰れなかった。
いやいやいや、東京より全然近いのになんでさっ!
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さて、仕事始めと言っても得意先はまだ休みも多い。
僕は毎回恒例のPCのブラウザを立ち上げるとお気に入りのサイト『小説家になろうぜ』を立ち上げた。
新着メッセージが1件あります!
マイページに赤字で表示される新着通知がある。
「どうせ先輩だろうなぁ」
早速クリックした。
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件名:あけおめ倉田
送信者:熱血バカ
本文『新年朝起きたらすっぱたかの俺の下半身にアイツが跨っていたんだ……。ぁぁぁぁ、どういう事なんだよぉ、何で俺の居場所が割れたんだよぉぉぉぉ!』
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――ニヤリ。先輩、元気な子を作ってくださいね。
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件名:Re:
送信者:倉田信也
本文『あけましておめでとうございます、いや、不思議な事もあるものですね。さてお気に入りの小説を発掘したんでしばらく読んでいてくれませんか』
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件名:Re2:おいおい
送信者:熱血バカ
本文『それだけか?! 奇妙通り越して怖いだろう、もっと反応してくれよ!
まぁいい。気分転換に読むよ、どんな作品なんだ?』
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件名:Re3
送信者:倉田信也
本文『http://ncode.syosetunarouze.com/ n8965ce/
タイトル『女侍は麗少年に恋してる』
筆者『YO!ちゃん』
ショタ大好きの名家出身流浪の女侍ハァムと旅先で出会った少年ミロが巻き起こす壮大召喚バトルファンタジーです。
仲間のアレッサ姫を始め登場キャラも個性豊か。
ミロの隠された過去! 秘められた力!
終盤にかけての怒涛の展開は手に汗握ります!
是非ハラハラドキドキの物語をお楽しみください』
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「送信送信」
まぁ悪気はこれっぽちも感じないが少しやり過ぎてしまった感もあるし。ここはイチオシ作品でも読んでもらって頭をスッキリさせようじゃないか
いくら先輩でもこの大長編、完結まで行くには一週間は費やすだろう。
「ふえ……?」
新着メッセージが1件あります!
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件名:読み終わった……
送信者:熱血バカ
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おいおいおいおいおい!
ホントにちゃんと読んだのか! なにこの速読チートキャラ!
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件名:読み終わった……
送信者:熱血バカ
本文『おうおうおう! 未熟な部分もあるがなかなかいい作品じゃないか!
出会いから始まり、熱いバトルの大会! そして広がっていく戦乱!
また使役獣も色んなのがいて面白いな。
アレッサのサラマンドラは熱そうだし、ハァムのレイディーンは男を感じるし、ミロのウンデーネのクールさはナイスだ!
そして極めつけはアブソルートの絶対感!
こんな数々の設定をまとめあげるYO!ちゃん先生は一体何者なんだ!?
そしてオレ的お気に入りキャラはガルガの弟サルガだ。第一印象絶対敵だろと思ってたらなかなかどうしてバレンティンとの毒対時間停止の決戦なんか最後はミロにもっていかれたもののホント名勝負だ。
そして最後まで読み切った時の切ない感情。ハッピーエンドばかりが全てじゃない、まさにYO!ちゃん先生は一流のエンターテイナーと言えるだろう』
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あはは……やはり根っからの脳筋のこの人にとってバトルモノは大好物だったようだ。
流石は先輩いついかなる時もキャラがブレないなぁ。僕も仕事しよう。
ここ珠洲市――能登地方は僕の地元金沢市――加賀地方とは同じ石川県ではあるものの文化や生活形態がかなり違う。例えば今日子供たちが行っている『あまめはぎ』という行事もその一つ。まぁ秋田のなまはげの石川県は能登地方版みたいなものだけど。これは子供が大人たちに「怠け者はいないかぁ」と脅しに来る妖怪役になって家々を回っていくものだ。
「まぁまぁ、水たまりのぞいたら別人になってて転生してたなんて夢物語もそうそうないし。人間地道に働くのが一番、だね」
次話も近日投稿予定