Ⅳ・『夏の鍵の物語』
あくまでパロディです!な第四話
本社に夏期休暇の取得申請を提出しようと総務部に連絡を取った。
先月本社で総務の久世部長に会ったときは『北陸営業所は売り上げも順当に推移しているし夏休みは他部門に気を使わず倉田くんもたまには羽を伸ばしてあげてきなさい』と言ってくれていた。
妙な言い回しもあったものだが、要はいつ取得してもいいよ、とのことだろう。
ならば久々に東京に帰省して夏コミにでも行こうかな。そういえば先日白井さんからもメールで新刊頼まれていたし、うん、そうしようか。
ん……携帯メール……なんだろう?
三柴社長からだ……。
『夏休みは一緒に富山湾でクルージングしましょう』
ちょっと待てぇぇぇぇ、社長!
なにが『しましょう』だ!
というかどこのバカだよ、僕の携帯アドレスを社長に教えたのは!?
夏休みは夏休みだよ!?
なんで自社のトップの接待しなきゃいけないんだよ!
いやそれよりも、待て……久世部長は『羽を伸ばしてこい』じゃなくて『羽を伸ばしてあげてこい』なんて言ってなかったか……。
なんだか知らぬ間に外堀が埋められている気がする。
いや……三柴さんは美人だし僕も年齢へのこだわりはないんだけど……。
いやいやいや、入社二年目の若造なんだよ、僕は!
◇◆◆◆◆◆
さて、もう仕事を切り上げて現実逃避しよう。
僕は毎回恒例のPCのブラウザを立ち上げるとお気に入りのサイト『小説家になろうぜ』を立ち上げた。
新着メッセージが1件あります!
マイページに赤字で表示される新着通知がある。
「…………」
早速クリックして見た。
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件名:倉田ぁ
送信者:熱血バカ
本文『伊上さんがお前の携帯アドレスなんか知らんが聞いてきたんで教えといてやったぜ。感謝しときな!』
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お前らが原因かぁぁぁぁ! この魔王師弟めぇぇぇ!!!
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件名:Re:
送信者:倉田信也
本文『……ちょっと今は忙しくて先輩に構ってる暇ありません。お気に入りの小説を発掘したんでしばらく読んでいてくれませんか』
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件名:Re2:なんか
送信者:熱血バカ
本文『素っ気ないなぁ、何かあったのか?
まぁどうせまた漫画絡みとかだろ。いいや、暇だし読むよ、どんな作品なんだ?』
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件名:Re3
送信者:倉田信也
本文『http://ncode.syosetunarouze.com/s8110b/
タイトル『夏の鍵の物語』
筆者『御徒町綾』
とある高校歌劇部に所属している七名の生徒が織りなす超巨編です。
ユグドラシルに通じるビフレストの門を開くための「夏の鍵」を巡る戦いに部員たちが巻き込まれていきます。
僕のお気に入りは、マリオネットの暗殺者イシュカちゃんです!
この子と歌劇部部長ことニーデルの親子模様は必見ですよ!
是非噛み締めるようにゆっくりと読んでください』
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「送信と……」
流石にこのシリーズを読むにはいくら先輩でも時間がかかるだろう。
この間に白井さんを通じて復讐に転じよう。目には目を、だ。
小野寺さん……覚悟しやがれ。
「ぉわ……?」
新着メッセージが1件あります!
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件名:読み終わった……
送信者:熱血バカ
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おいおいおいおい!
僕でも読み切るのに一週間かかったんだぞ! ゆっくり読めっていったじゃないか!
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件名:読み終わった……
送信者:熱血バカ
本文『いいないいな! 何か新鮮だ!
ドラクエでいうとⅣの章仕立てだな! 微妙に章ごとにリンクしてる作りがおもしれぇ!
お前もホントこういう名作拾ってくるの得意だよな!
神輪……姉弟の戦いも燃えたが、アズードとフルーラの夫婦関係も以心伝心って感じで良いよなぁ。それにしても核熱呪法か……ふむ、ちょっとこれはこっちでもアイデア使えそうだな。
英勇、守古者……古武術使いの出納先輩、自分の信念を強く持っている所が好印象だ。久保田にも見習わせたいぜ。
短編……なるほど。この部長の精神力、そして男らしさは共感できるな。俺も例えすべてを忘れても自分らしさを持っていたいぜ。
休日……そうそう、女を口説こうが酒飲もうが邪魔されんのは腹が立つ……このパンダぬいぐるみの監視は大学時代のアイツを思い出して憂鬱になるな。
白夜……麗人先輩と部長。ふむ宗教家の家庭か……うむいまいちピンと来ないが。まぁ行き倒れは俺も経験あるが~ああいう時拾ってくれると嬉しいよなぁ、俺も未だに伊上さんには頭上がんないぜ。
傀儡、浴場……好色先輩、どことなく相羽前社長にも通じるな、ぁはは、変態なとことか、はちゃめちゃなとことか。いや、友達にはなりたくないタイプだ、がはは。
汚職貴族……と、どうやら更新はここまでのようだな。クラード、根性見せろよ! 更新が楽しみだ。
っつーわけで一通り読了したわけだが、俺のお気に入りは歌劇部部長と出納先輩だな。
さっきのドラクエでいうと5章みたいな集合編があったら燃えるな!
御徒町先生か……もちろんブクマしたし評価も全章つけ終ったぜ!』
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マジで……マジでこの短時間で読み切りやがったよコイツ。
ぬぁぁぁぁ、もういい、僕一人で修羅の道を歩むものか、小野寺先輩……あんたにも、彼らみたいな後輩を思う気持ちをほんの一ミリでも持ち合わせているなら、これから僕がやる行動を恨まないでくださいね。
僕は白井さんのメアドを連絡先一覧から呼び出すと、先輩を追ってあちこち駆け巡っているというとある女性ヘの伝言を依頼した。
くくく、一緒に堕ちましょう、先輩。
「ふふふ……どこに散らばったか分からない後輩仲間を思いやるのにくらべたら、いる場所知ってる後輩一人を思いやるの何て楽ですよね……ふふふ」
笠平が好きな作品を小野寺と倉田が読んだらどうなるのかシリーズ
クレームあるまで続く。