Ⅰ・『異世界に巻き込まれ召喚されちゃいました』
相羽総合シリーズ幻の5作目投下
――2014年 夏
僕は倉田信也、ごくごく普通の23歳の会社員だ。
株式会社相羽総合サービスに入社して一年半、今では北陸営業所の所長を任されている。
同期の新卒連中からは異例の出世だなんて言われたりもするけど冗談じゃない。
営業所とは言ってもプレハブの掘立小屋。ちょっとした強風ですぐガタつくし、雨漏りも酷い。
北陸は能登地方奥地での慣れない土地、慣れない環境での生活。
しかもこの営業所に常駐するのは僕一人、仕事量も半端ない。
ITベンダーとしてしての地元からの大口需要はさほどないが、ここ珠洲市の商店街の皆さんは暖かく、公私ともに様々な相談を持ちかけられることが多々ある。
今でも時々思い出す。
時折あれは夢だったのかとさえ思う。
一年前……かつての直属の上司と共に旅した半年の経験を。
だが確かに紛れもない現実だ。
あの時の体験があるからこそ僕はこの手に多くのモノを掴むことが出来た。
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さて、いつもの配達と営業を済ませ、本社へ報告書を送信する。
時刻は17時。夕飯を食べに行くには少々早い時間だ。
僕はPCのブラウザを立ち上げるとお気に入りのサイト『小説家になろうぜ』を開いた。
新着メッセージが1件あります!
マイページに赤字で表示される新着通知がある。
「ん……誰だろう?」
早速クリックして見た。
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件名:アルバディアに帰国したんだが
送信者:熱血バカ
本文『な……なんでアイツがこっちにいるんだよ、聞いてねーよ!』
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それはかつての直属の上司。今は異国に設立されたとある会社の役員を務めている先輩からだった。ああ、コレって多分アレだよなぁ……ああ深くかかわりたくないなぁ。
スルーする方向で返信する。
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件名:Re:それより
送信者:倉田信也
本文『それより、最近お気に入りの小説を発掘したんですが読んで感想を聞かせてもらえませんか?』
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件名:Re2:それよりって
送信者:熱血バカ
本文『おい……それよりってなんだよ、それよりって!
まぁいいや、前のコメの件はかなり助かったからな、礼代わりだ、どんな作品なんだ?』
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件名:Re3
送信者:倉田信也
本文『http://ncode.syosetunarouze.com/n2751cc/
タイトル『異世界に巻き込まれ召喚されちゃいました』
筆者『なるる』
異世界転生モノの力作です。
元々職人の主人公『ライデイヤ』こと『ライディ』という凄腕融合魔術師と、ヒロインの『カオルちゃん』のコンビが織りなすドタバタ冒険劇です。
各章毎に違った特色ある世界観を上手く表現されています。1章パーティーが私のお勧めですよ。『カーデル』という創水師という変わった職業の少年と仲間達の熱い冒険は感動モノです。
あと筆者のなるる先生の活動報告はなんとキャラ達が先生の代わりに日常小噺を紹介しているのも面白いので必読です。是非感想を聞かせてください』
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「送信と……」
これで少しは誤魔化せただろうか。
なるる先生のファンとしては少しでも普及しておきたいし一石二鳥である。
さて、ではお気に入りの更新チェックをしてご飯食べに行くとしようか。
「ん……?」
新着メッセージが1件あります!
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件名:早速読んだ……
送信者:熱血バカ
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はやっっ! 読むの超はやっ!
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件名:早速読んだ……
送信者:熱血バカ
本文『最初は主人公ライデイヤの性格が軟弱だな。貯金をしろ、身体を動かせ、と思っていたんだが……。それに魔王と会ったら逃げろって、魔王に育てられた俺を見習えよハハ、とも思っていたが……まぁ得た力を有効活用しているのは好感持てるな。まぁ悪い奴じゃないようだ。
ヒロインのカオルについても同様だな。レイプは確かに問題だが、同じ学生時代にイジメを受けていた者として言わせてもらえば……ちょっと他力本願過ぎるだろう。もっと最初の段階で手を打っておけば違った未来になったんじゃないか? 不幸に酔うタイプってヤツか……ああ、でも諦めない気持ちとチャンスを逃さない観察眼……これは嫌いじゃない。
続いて1章のメンバーだか……最初のシーンは去年を思い出して懐かしかったよ。倉田、お前も召喚された時コイツらみたいにに慌てふためいてたもんな。正直お前みたいになよなよした連中だが、仲間の為に命を張れる『ブロイアン』はなかなか骨があるヤツだ。『カーデル』も根性見せたしな、お前もコイツら見習って頑張れよ。
なるる先生か……なかなかいい話書くじゃないか、俺もお気に入りに入れておくとする。次の更新楽しみだな』
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小野寺先輩……アンタいつからそんなにツンデレキャラになったんっすか……。
あと、あの時慌てふためいてたの僕ではなくアンタでしたよ。デカ猫に足噛み付かれてビービ―言ってたのもう忘れたんですか……。
ただ『お前もコイツら見習って頑張れよ』は正直嬉しかった。
カーデルの精一杯振り絞った勇気が奇跡を起こした。
想い人シャルロッテへぶつけた精一杯の愛情は本当に感動した。
ただ独りプレハブのオフィスで仕事に没頭する毎日。孤独で沈み行く気持ちに今でも自身を気にかけ頼ってくれる先輩の信頼感、そして励ましは活力を与えてくれる。
「あ~、自分にもカオルちゃんやシャルロッテみたいなステキなコとの出会いがないかなぁ」
クレーム大覚悟。でもひっそり更新。