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二次創作・リクエスト作品等

単発リアルタイム型グルメノベル 蠱毒ルメ

作者: 蠱毒成長中

エッセイっつーか、ルポ?まぁいいや。

 私に書かせてみたい作品はありますか


 ある時、私は日頃から入り浸っている某SNSでそんな問いを不特定多数の知り合い達へ投げかけた。すると、それに目を付けたらしい知り合い二人からそれぞれ違う答えが返ってきた。


 一人は問い掛けをすぐさま見付けたらしい、それなりに交遊の深い知り合いで『虫の出て来る不気味なホラー小説』という、残忍かつ陰気で虫好きな私にピッタリの題材を差し出してきた。

 もう一人は問い掛けを暫く経ってから見付けたらしい、先程の人物より更に付き合いの長い知り合いの一人で、作品やキャラクター共々私を高く評価してくれている数少ない人物でもあった。

 付き合いの長さ故、その人物は昔から話し相手になってくれることが多かったので、この手の話題に食いついてきてくれるのはさして珍しいことではなかったし、まして愉快などでは当然なかった。ただ私は、彼が差し出してきた題材に少々驚いてしまったのである。


 彼は言った。

『お前の書いたグルメ小説が読みたい』と。


 その発言は、実に『彼らしい』ものであった。何せ彼は愛らしい見た目に違わず温厚で思いやり深く、そして何より自作料理を身内や客に振る舞うことに生き甲斐を感じる少年だ。日々より優れた料理を作るべく勉学や修業に勤しみ、新たな知識や技術の体得に尽力する真面目で勤勉な努力家として知られていた。故に彼が料理の知識を求めてグルメ小説を読みたがることは火を見るよりも明らかだろう。

 だが同時に、彼は私という人間がどういう奴なのかを深く知ってもいる筈だ。ともすれば、私がさしてグルメに興味のない、大した料理知識もない奴なのだということも悟っているだろう。なのに彼は、それでも私のグルメ小説を読んでみたいと言ってきたのである。


 正直、グルメ小説など想定していなかった。というか彼は本当に、何故私のグルメ小説を見たがったのか今も疑問でならない。正直書ける気もしなかったので最初は断ろうかとも思ったのだが、単に断るのも気が引ける。故に私は『自分がグルメに対するこだわりや知識のない男であり、一般的なグルメ小説らしいものを手掛けることはまず無理である。だが、あくまで期待外れであろう代物なら書けないとは限らない』と返信した上で、今(2014.6/21.8:12)現在大学へ向かう列車の中でこうしてこの文章を書いているのである。


 ここまで読んだ読者諸君の中には『ろくな料理・美食知識もない癖にグルメ小説なんて書いて大丈夫か? というか、書けるのか?』などと思われる方も居ようが、もう書き始めてしまったのだから後戻りなどしたくはない。ここはいっそ失笑を誘うことも覚悟の上で『無知な奴が書いたグルメ小説』を書いてやろうじゃないか。そう、それはまさしくちっぽけな虫ケラ風情がゼウスに喧嘩を吹っ掛け見事勃起機能不全に陥れその性生活生命を絶つような『弱いからこそ強い』という拙作『ヴァーミンズ・クロニクル』のコンセプトに通じるものがある。こう考えると俄然やる気が沸いて来るのだから人間という奴はよくわからないものである。


 ともすれば題材だが、私は料理が上手いわけでもなければ高級な外食店を知っているわけでもない。精々地元のファミリーレストランやうどん屋、高校時代友達と行った駅地下のラーメン屋を知っているぐらいで、確かにどれも題材としては申し分ないだろう。然しそれではこの作品のコンセプトに反する。普通の庶民向け飲食店ではまだ強すぎる。より安っぽく、またショボく、然しそれでいて余りにもそうではない、そんなグルメこそこの作品には相応しいのである(尚余談であるが、彼の専門であろう野外料理の類については知識・経験・予算等の都合により候補から外さざるを得なかった)。


 ではそんなグルメと言えば何か? そんな答えは思案するまでもなく決まっていた。

 単刀直入に言えば、それは私の昼飯である。我が最愛の母が私の為にと拵えてくれた二段弁当と、大学の売店で売られているカップ麺。月並みなようだが、この二種類こそ私のグルメ小説には相応しいのである。


 8:53 講義室に到着。ここでまず朝食代わりに弁当の上段を食す。

 メニュー

・茹でブロッコリー(+白フレンチドレッシング)……普通に美味い。軸まで適度に火が通っているのでドレッシングとの相性もいい。

・レバーと人参の煮付け……脂の乗っていないレバーは若干食べ辛いが慣れれば中々美味い。人参も然り。蒟蒻も相性がいい。

・具入り卵焼き3つ……中には刻んだ野菜や肉が入っている。何とも美味い。

・ミートボール4つ(+キムチ鍋の素入りトマトケチャップ)……酸味と辛味がいい具合に混在していて文句なしに美味い。

・野菜ジュース500ml……これも母によるものだ。健康の為、日課として毎日飲んでいる。複数の市販品を混ぜ合わせただけで味も微妙だが、健康効果は抜群だ。


 12:31 二つの講義が終わり、昼休みに入る。多くの学生や職員の流れに乗って、私は大学構内へ売店のように存在するコンビニエンスストアの一つへ向かう。カップ麺を買う為だ。店は相変わらず混雑していたが、目当てのカップ麺――運営から文句を言われそうなので具体的なメーカーと商品の名は伏せるが、私好みのキムチ味のもの――を無事に買うことができた。備え付けの給湯器から湯を注ぎ待つこと四分。箸で麺をほぐし、粉末スープと調味オイルを入れある程度掻き混ぜる。この時忘れてはいけないのが、粉末スープを入れるタイミングだ。近頃は後入れ型という、食す直前に入れるタイプが増えている。カップ麺なぞ皆同じと思わず、袋の記述をよく読もう。

 さて、早速麺を食らうとしよう。食らうに当たって個人的に気をつけているのは、一気に大量の麺を口に含まず適度に噛み切ること、なるべく器に顔を近付けて食らうこと、麺だけを食らうことの三つだ。こうすると熱気と辛味でむせ返らず、周りを汚さず、この次に待つ最後のお楽しみを存分に味わえるからだ。

 さて、あらかた麺を食い終えた所で私の昼飯は最終段階に入る(尚、麺はスープと調味オイルがよく絡んで何とも美味かった)。朝方残しておいた弁当箱下段の中身――ぎっしり詰め込まれた冷や飯――の出番だ。炊き込みワカメの白飯と芽出し玄米の赤飯という中々に豪華な下段の中身を、私は豪快かつ丁寧にスープの残されたカップ麺の容器へ沈めては、崩すように混ぜていく。これぞ最後のお楽しみにして我が昼食の大トリを飾る醍醐味中の醍醐味、その名も冷や飯粥である。スープの高温と冷や飯の低温が程よく中和された粥を、自前のレンゲで掬い取っては喰らうのである。読者諸君の中には麺類のスープなど捨ててしまう方もおられよう。捨てずとも飲むのが普通であろう。だが貧乏性で食い意地の張っている私は、このような方法を用いるのが当たり前になっているのである。


 以上を以て、我が生涯初となったグルメ短編を終わりたく思う。


2014.6/21.13:16

もっとカッコイイ話が書ければ良かったんだけどね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] どこか論文のような(高校生の私はまともな論文なんて読んだことないけど)口調が読んでいて楽しかったです。 [一言] テンポのいい面白いルポでした。
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