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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

無題。名前はまだ決まってない

作者: 快さん。

古代から人類は月と地球に住み助け合って生きてきた。人類は魔力を自在に操り頂点を競い合っていた。しかし、10年前突如地球上に生息している魔獣が大量に現れた。それを聞き、助けに走った月の人類を含め地上で魔獣との全面的戦争が行われた。

結果は圧倒的な力とその数で人類は勝利をあきらめた。何もかもがあきらめられたとき誰かが言った。

「月の人類が地球を征服するために魔獣を連れてきたのだと。」

ある一人のある言葉から地球と月で戦争が起こった。数の差は地球のほうが有利だったが月の人類はわずかな数で勝利した。地球の人類はまた数を減らしたが魔獣が地上にいることは変わらなかった。そこで、人類は開発途中であった地下都市を拡大化し、そこに移住することを決めた。そして、地上の魔獣の殲滅を目的とした学園が多量に設置されたのである。



現在、日本中心第三都市


かつて日本の最大都市であった東京都を地下空間にそのまま再現した日本中心都市の第三都市「日本中心第三都市」。日本中心第三都市は第七部まであるが第三都市は魔獣の殲滅を目的とした学園が一番多く設置されており昼の都内は学生たちであふれかえっている。

違う学園の生徒たちがそれぞれの学園の制服を着ていて、辺りを見渡したら人、人、人、そして人。しかし、そのほとんどが10代前半から20代前半のやはり学生たちであり、そこに大人が入るとそこだけ浮いているように感じられる。

高層ビルが立ち並ぶ中、黒い影とそれを負う黒い影絵があった。追われている黒い影は人間と確認できるが、もう一方の影は明らかに人間の影でなく、しかし人の形をしている。全長3mで腕は足の爪先につくかつかないかくらいの長さである。体をぐねるように走っている様子をみるからに、全身3mの黒い影はだれが見ても怪物、化け物というだろう。追いかけられていた少年は片手に小型の爆弾を持ち立ち止まった。


「どんだけの威力だかしらねーが、爆弾くらえー!!!」


声とともに手に持っていた爆弾に少年はオレンジ色に光り肉眼でも確認できるほどの魔力を注いだ。まるで飲み終えた空き缶を捨てるかのように少年はそのもう一方の黒い影に投げた。瞬時にオレンジ色の爆風が周囲の建物ごと黒い影を吹き飛ばした。投げた少年もオレンジ色に光る爆風に巻き込まれた。


「うぐぅっ!何ツー威力だ。しかし、これだけの爆風だ、ありえないが無傷だとしてもかなり距離を稼ぐことができるだろ・・・」


自ら投げた爆弾の爆風に巻き込まれ、頭部に軽傷を負いながらも少年は黒い影に対する緊張を解かない。しかし、爆風による煙が薄くなり目の前がはっきり見えるようになった瞬間30mくらい先にから黒い影が快速電車が通り過ぎるように少年に向かって飛んできたのだ。少年は防御体制に入ろうとするが、


「なっ・・・・うごかね・・・・・」

事実、少年の体には黒い影の怪物から出ているであろう漆黒の影がしっかりと少年の動きを封じていた。先ほどの爆風によるダメージも大きく、その影を弾くことが出来ない。


少年と黒い影の怪物との距離20mーいやいやいや、まずいだろ!!!


少年と黒い影の怪物との距離10mー魔法がつかえねぇ、爆弾使うにも手が封じてある・・・


少年と黒い影の怪物との距離5mとなったとき0、3秒前まで少年めがけて飛んできた黒い影の怪物は0.3という一瞬の間で巨大な氷の中で固まっていた。


「あ・・・・っぶねぇ・・・・・・」


少年が小声でつぶやくと巨大な氷はツボを地面に投げつけたように割れ散った。


「全長3mで人型。下の下級のBクラスの魔獣か、・・・・遅れてすまなかった、軌竜」


声の主は軌竜と呼ばれた少年の背後からコツコツとブーツの足音を響かせながら歩いてきた。軌竜は動けることを確認し立ち上がって右頭部の一部が失っていてよく見ようとしても血の色で何が何だか分からなくなっている状態である先ほどの声の主に話しかけた。


「伊吹!?そっちに行った魔獣はどうしたんだ?」


伊吹と呼ばれた少年は重傷を負った右頭部を右手で抑えながら言う。


「軌竜と別れた後すぐ俺にくっつき自爆した」


数分か前、軌竜と伊吹は2体の黒い影「魔獣」と呼ばれる怪物に追われていた。その途中、1対1のほうが効率化よいと考え別々になったが、伊吹を追っていた魔獣はなぜかすぐ伊吹を巻き添えにして自爆し姿を消したのだ。


「そうか、・・・まぁとりあえず園に戻ろうぜ。上に報告して体を休めよう」


「そうだな。飛ばないで歩いて行こう、歩きたい気分だ。ってか今の状態だととべねぇ」


(どうせ報告は俺がするんだろうなぁ)と思いつつ軌竜は背伸びをしながら「んぁあ」と伊吹の言葉に返事をした――――



 魔獣を倒したことを報告しに行く軌竜と伊吹が歩いている道に先に大勢の人の集団があった。おしくらまんじゅうでもしているのかの用に思うほどの人数がいた。その他道をただただ通行していく人たちは逃げるようにその場を去ろうとしている。

「路上ライブでもやっているのか?でもこんな道のど真ん中でやるには無理があるし少し様子がおかしいぞ」

軌竜がそういうと伊吹はそのまま目の前にある集団のほうへ歩き出した。

 「様子見だな。」



 学園前某路中

 ドサッ。という音とともに人の笑い声が広がった。男二人と女二人の四人組が一人の少女を中心に囲み、その周りにやじうまと思える人たちが集まっている。音の原因は白いコートを着ている短髪の男が少女の腹部を蹴り水たまりに転げ落ちた、というものだった。腹部を両手で押さえながら少女は吐血し立ち上がろうとするが今度は二人の女が少女の髪をつかみあげ、腰に収めていた小刀を取り出しそのまま少女の服を切り刻んだ。やじうまの中から歓声が起こり少女はほぼ裸の状態で放り投げだされた。

 「みじめよね。これが最強と謳われた人種だなんて、今の自分の姿を見てみなさい。どれだけみじめで哀れだかがわかるから。」

再び小刀を腰に収めた女はそういうと少女を睨み付けた。すると後ろからもう一人の女が冷水の入ったバケツを抱えて少女の頭上でそのバケツを百八十度回転させた。季節は秋の終わりで冬に入ろうとしている。少女は小刻みに体を震わせ辺りに何か体を隠せそうなものがないか見渡すと再び男が少女を蹴り飛ばす。

 「誰もお前のことなんか助けやしないよ。むしろ邪魔なんだよ。」

そういうと男女四人組が学園内に入って行きやじうまたちもその場を後にした。一人取り残された少女は寒さを我慢しながら着るものがなくこの状態では歩くことすらできずただその場で寒さをしのぐことしかできなかった。意識が朦朧としてきたとき少女は体がふわっと温まるのを感じた。我に返り少女は自分の体に黒いコートで覆われていることに気が付いた。後ろを振り向くとそこには二人の男が立っていた。

 「そんな格好でいると風邪ひきますよ?」

声を掛けてきたのはオレンジ色の髪で大人びた顔つきの少年だった。

 「氷属性のお前が言うなよ。お前といるだけでこっちは寒いんだから」

奥のほうから真っ赤な短髪でいかにもやんちゃオーラが出ている少年が腕を組みながら目の前の少年を見ていた。二人の少年は自分より年上と感じられるが、そんなに歳は離れていないと少女は頭の中で思った。奥の少年は黒いコートを着ているが目の前の少年は白いYシャツ姿だった。瞬時に少女は脳裏で目の前の少年がコートを貸してくれたのだろうと確信した。

 「あ…あの…。……ありがとうございます。」

 「気にしないで、ここじゃ寒いしまず園の中に入ろう。」

すると少年は少女の手を取り歩く……が、背後から声が響いた。

 「おいっ!報告どうすんだよ!」

 「面倒だからこの子も連れて行く。ダメかな?」

少年の顔を窺うと笑顔でこちらを見つめている。

 「私は構いませんが報告って任務のですよね?良いんですか私関係ないのに…」

 「関係なくはないよ。報告を終えた後さっきの出来事で聞きたいことがあるんだ」

そう言うと少年は再び少女の手を握り歩き出した。



 地球と月との戦争で地球全人類に対し、月側はたったの五人で戦争に挑んだ。地球の人類は魔獣との戦争で半分以上の数を減らしたが、四十億人以上いた。その四十億人以上の数を月の人類はわずか五人で地球の人類へ絶望を送りつけた。五人ひとりひとりの能力が地球の人類とは比べ物にならないほど桁外れで某三国を壊滅寸前まで追いやった。その国の中に日本も含まれていたのだ。月の人類五人は地球の人類の攻撃にびくともせず四十億人以上いた数を二十億人にまで減らし、多くの人々を殺していった。月から送られてきた五人の使者は今だ誰一人として身元が判明しておらず、今現在も謎に包まれている存在である。

第三都市学園 学園長室前通路

 日本中心第三都市の中心に堂々と立っている学園の最上階。学園の中で一番高い場所、時計塔の真下のフロアでガラス張りの壁になっている。室内から学園中庭だけでなく学園の敷地内を展望できる、学園内の生徒が皆好きといっても過言ではない場所。その学園長室前の通路に男女三人の姿があった。

「あの、やっぱり私部外者ですしここでお二人を待っていますよ。」

「大丈夫、大丈夫。君にも聞いてもらいたいことがあるんだよ。」

「ここで待ってるより俺らが園長と話してる間、学園の様子でも見てればいいさ。ここからの眺めは最高だ。じゃ、とりあえず扉あけるぞ。」

ガチャ。と広いフロアに音が響いた。空はもう夕暮れでちょうど人工太陽が学園長室をオレンジ色に照らしている。奥に机があるだけで他には何もない。園長の姿が見えなく少年二人はそのまま奥にあった机に腰かけた。

―なんで椅子じゃなく机に?

―そういえばここの学園って任務終えた後いちいち学園長に報告してたっけ…。

少女もその場で座り込み、くつろいでいる少年二人の姿をボーっと見つめていた。

―いや、学園長じゃなくても、誰にも報告する制度ないはずじゃ…。

そんなことを考えている内に、自分たちが入ってきた扉ではない扉からピンク色の長い髪の女性が入ってきた。見た目で年齢は二十代前半だと少女は直感的に思った。

「鏡河軌竜、龍爆伊吹。何回言えばノックをして入ってくるのだ。」

見た目からは想像もつかないたくましい声を発した。先ほどこの女性が言った二人の名前がこの二人の名前なのかと少女は心のどこかで納得した。

「それで、誰だこの女は。」

「さっき帰ってくるとき道端で拾ってきたんだ。かわいいだろ。」

まるで友達と話しているかのような感覚で少年は受け答えた。

「わ、私は結盟梓といいます。中等部二年です。」

「中等部だったんだ。」

「話を本題にするぞ、何かわかったことはあるか」

すると先ほどまで緩んでいた少年の雰囲気が急にキリっと変わり表情が怖くなった。

「今回現れた魔獣は下の下級のBクラスだ。二体現れたが一体は自爆もう一体は消滅した。」

声のトーンも下がり場に緊張感があった。

「やはり下の下級か…。最近学園都市で魔獣に襲われる生徒の被害があまりにも急激に増えているから、コンプュータカメラを地上に送り調査したのだ。そしたら第三都市にある北ゲートが故障…破壊されていた。」

「あ、あの。北ゲートってなんですか?」

おどおどした声で梓が訪ねた。教えるか否かと迷ったが赤い短髪の少年が答えた。

「地上と地下をつなぐ大きな門だ。普段は高度なセキュリティで人が使用する以外、魔獣の侵入を食い止めているはずだが、北にあるゲートが破壊されてるってことだ。」

「軌竜の言う通りだ。第三都市の上にはゲートが四つある。このゲートが二つでも機能しなくなったら世界中の地下に魔獣が広がってしまうのだ。」

軌竜と言われた少年は舌打ちをした。

「梓、このことはほかの生徒には他言無用だ。」

「はい…」

自分の体が震えているのがわかった。自分の目の前にいる三人はとてつもなく重大なこと話していると思うと、何も言葉が出せなかった。

「大丈夫。急にこんな難しいことを聞かせてごめんよ。でも君にも聞いておおいてもらいたいんだ。」

赤い短髪の少年が軌竜と呼ばれていたのでこのオレンジ色の髪の毛の人が伊吹なのだろうと確信した。しかし、なぜ自分にこの話を聞いておいてもらいたいのかが梓にはわからなかった。

「とにかく貴様たちには地上へ行きゲートの修理を頼みたい。」

「断る理由はねぇが生きて帰ってこれるとは到底思えんが。その前に二人で行くことか から根本的におかしい。」

「行くメンバーは貴様らで決めるといい。生存確率が非常に低いのは承知の上で頼んでいる。私が今回貴様たちを選んだ理由はこの学園内でまともに魔獣と戦えるのはごくわずかしかいない。その中で数多くの魔獣との戦闘を行い魔獣消滅を一番成し遂げているのが貴様たち二人なのだ。」

「行くメンバーは俺らで決められるんだ。戦力は俺ら次第ってことで良いだろ。」

軌龍と園長の話に伊吹が入った。

「園長からの依頼とやらは分かった。話題を変えさせてもらうぞ。梓をここに連れてきたのも関係がある。この学園の生徒はなぜ月の人類を嫌う。」

学園長の口元が笑ったことに梓はかすかに体を震わせた。

「ここの学園の生徒である子供たちは家族や友人、故郷をどっかの誰かさんが暴れたせいで失った子ばかりだ。梓のことだろう?我々地球の人類が月の人類に手を出さないようにしたいのであれば、お前たちのその驚異的な力でねじ伏せる他ない。これが最も手っ取り早いことだがお前にそれができるのか、龍爆伊吹。」

人工太陽のオレンジの光が消え地下大都市は夜になり一気に暗くなった。園長室のフロアが暗くなるとともに伊吹の姿が変わっていった。手色が肌色から黒く染まり腰のあたりから尻尾も生えてきた。目の下に黒い模様が現れそれは口元まで伸びてゆき両目が赤色に光った。先ほどの優しい面影はすべて消えていた。

「もし月の人類の生徒が一人でもそのようなことで死んだ場合、俺は躊躇なくその現場にいた者を殺す。」

異様な空気に包まれた。伊吹の目は血混ざった赤色に光り続け表情はまるで獲物をやっと捕らえた化け物だった。

「お前が暴れたら誰が止めんだよ。俺じゃ無理だぞ。」

「構わん、するかしないかは自分で決めろ。これで用件は伝えた、地上には明後日行ってもらう。それまでに行くメンバーを決めろ。」

そういうと学園長は白い煙に包まれ姿を消した。

 学園内時計塔

 人工太陽の光がすっかり消えても学園の敷地内にある電飾で昼間とは違う雰囲気をしている。話を終えた伊吹、軌竜、梓はそんな景色を見下ろしていた。伊吹の姿は元に戻っていて黒いコートをいつの間にか着ていた。 「あの、本当に昼間は助かりました。」

話題がなく気まずい空気を何とかしようと梓は再びお礼を言った。

「伊吹さんが貸してくれたこの黒いコートって何着もあるんですか?」 

「あぁ。なに、欲しいの?」

先ほどの伊吹とは別人のようで、でも元の伊吹に戻っていた。

「伊吹さんが良ければ欲しいです。」

「別にいいけど、この黒いコートは…」

一瞬伊吹はためらった。それを見て軌竜が言った。

「いいじゃねぇか、梓が欲しいって言ってんだから。そんなことよりお前が梓をわざわざ園長のところに行かせここに連れてきたのは別なんじゃねーのか?」

刹那、周りの音が消えた。

「もしかして昼間の…」

再び風が吹く。まるで三人を時計塔から落そうとするように風は上から下へを吹く。

「この学園での月の人類である生徒の死亡原因が生徒たちによる虐めだ。」

「なぜそうわかるんですか?」

「自分と同じ人種の者達が以上なほどにここ最近で数が減っていたからな。気になって調べたんだ。ま、俺はお前たちとはちっとばかし違うけどな。」

梓の質問に軌竜が答えた。

「じゃあ、伊吹さんと軌竜さんも月の人類なんですね。」

冷たい風が三人に当たる。広場が一気に明るくなり、建物から生徒たちが出てきた。今日は学園ができてちょうど十年を祝うパーティーが予定されていた。梓はふと横にいた伊吹に目を向けた。下を見下ろし寂しそうな表情を浮かべていた。梓は再び下を向く。

「外見が違うだけで……」

聞こえるか聞こえないかくらいの小声でつぶやいた。

「ん?」

反射するように伊吹が梓を見る。

「外見…、目、耳、手、足、が違うだけで…体に模様があるだけでなんでこんなに差別を受けなきゃならないんですか。同じ生物なのに。地球の人間は月の人類にほとんど殺されてそこに恨みがあるのは知ってますよ。でもそれをやったのは五人だけであって私は関係ない。あの戦争で多くの犠牲者を出したあの五人が悪いのに…」

「地球の人間たちはその五人に恨みを果たしたいと思ってるのは間違いないよ。でもその五人は未だ不明、確認されていないしわかったとしても五人で戦場に希望を絶望に変えたほどの力がある。だから、力のないように見える者達に恨みを当てている…。」

伊吹が言葉を発するのをやめた。伊吹の隣でそれを聞いていた軌竜が伊吹の肩をポンとたたいた。

「いい、お前はもう言わなくていい。よく頑張ったよ。」

そういうと、伊吹とは反対側の梓の隣へ行き座った。

「え⁉」

「月の人類ってのはあの五人だけじゃないんだ。」

「何がですか?」

「あの戦争でなぜ五人だけだったのか、みんなはあの五人が最強だと言っているけど、違うんだ。」

「軌竜さんが何を言っているのかわからないです。」

「梓、お前は気づいちゃいねーが、お前考え方次第でこの学園の半数の人間を殺せるんだよ。ただ、お前はまだそのことに築いていないだけだ。」

梓は軌竜が何を言っているのか、言っている意味が分からなかった。

「古代、太陽系から約二十光年離れたところにあるグリーゼ581b第一惑星、グリーゼ581c第二惑星、グリーゼ第581d第三惑星と太陽系連合軍との戦争時、太陽系に生息している悪魔、魔獣と人間の遺伝子を組み換え作り上げられた戦闘に優れた生命体、Rabid Fang People魔獣人として生まれた生物、それが月の人類。今は人工的な手は加われていないが、次世代の者達にも遺伝子が遺伝し続けているから、月の人類である者は自分の力を知ることのより本当の力を出すことができる。」

額に手を当てて伊吹はながながと月の人類の歴史を語った。下を向いたまま顔を上げようとしない伊吹。

「おい!余計ややこしくさせるな伊吹!。」

「伊吹さん、詳しいですね。私はもう何が何だか…。」

「伊吹の話は頭に入れるな。梓、お前次第で他の奴らより強くなれるんだ。今までのここの生徒の月の奴らはこのことを知らず虐めを受け続けていたんだ。」

軌竜が言い終えるのと同時に伊吹が立ち上がり梓に手を差し伸べて言った。

「明後日メンバー集めて地上に行く。今までこの学園内で地上に行った生徒はいない。無事帰ってこれたら梓はすごいとみんなに認められる。どうだ?俺らと一緒に来ないか?」

―変われるのかな。もう弱い自分じゃなくなるのなか…

梓は悩んだ。そこに梓の脳裏に今日の出来事が浮かんできた。「みじめよね。これが最強と謳われた人種だなんて、今の自分の姿を見てみなさい。どれだけみじめで哀れだかがわかるから。」夕方言われたことがついさっきのように。梓は心を決めた。

「行きます。私も連れて行ってください。」

生徒寮3号室

 学園内の生徒たちが生活するうえで学園は全面的に生徒に援助するため寮制となっている。1~30号室まである第一寮塔の第3号室の中伊吹と軌竜は布団をかぶり寒さをしのんでいた。部屋の壁には爆弾やナイフなど、武器が多く収納された黒いクローゼットが4つあり、そのほかに机とパソコン、ベッドがあるだけの普通の部屋である。

「さっぱ寒いなぁ。地下の生活は地上と変わりないが、冬の寒さも変わらないな。」

布団を頭かぶりながらかぶり震えている伊吹に対して軌竜はお茶を飲みながら考え事をしていた。

「なぁ、伊吹。よかったのか?梓を地上に連れて行くことになって。」

「梓への虐めを無くすためにはこれしかないと思っている。たとえ俺が死のうが任務を果たし彼女を地下に送り込むことによって彼女は、第三都市の英雄になる。」

部屋の電気はついておらず、外の街灯で部屋がやっと見えるという状況になっている。

「あまり責任感じなくてもいいんじゃないか?しかし、地上に行くとしたら彩菜と爆葉を連れて行かなくちゃならねーぞ。」

「亜厘子が生きていてくれればな…。とりあえず地上に行くのは明後日だ。明日二人に聞いてみよう。」

「じゃ、俺は寝るぞ。伊吹も早く寝ろよ。」

そういうと軌竜は自分の部屋へ帰って行った。

部屋で一人になった伊吹は一枚の写真を見ていた。その写真には伊吹と女の子との二人が写っていた。

「俺の時間が止まれば、お前は生き返る…。もう少し、もう少しだけ力を貸してくれ…詩織。」

少年の一日が終わり、新しい日が少年を迎えようとしていた。

 同時刻学園某所

 暗闇の中壁に寄りかかりながら夜空を見上げる少年の姿があった。学園内は夜でも昼とは雰囲気が全く違っていたが、それを好んで夜に行動する生徒も少なくはない。

「人口の夜空…。よくもまぁこんなにリアルに生み出せたものだ。」

少年は空を見たまま瞳に涙を浮かべた。

「亜厘子…」

暗い闇の中で、少年の声が響き渡る。

深い深い闇の中に…

学園内中庭噴水前

 時刻は午前七時半。

「え?いいよ。」

そこには二人の少女と一人の少年の姿があった。中庭には三人以外の生徒はおらず、噴水の音が心地良く聞こえる。

「いいのか?」

少年伊吹は声の主、輻焼彩菜に問いかけた。

彼女は伊吹のパートナーとして任務で行動を共にすることが多く、伊吹にとっても最も頼りになる者だった。

「逆に、何でパートナーに聞いてんだよ。」

もう一人の少女、剣恵爆葉が答えた。彼女は軌竜のパートナーである。二人はパートナー以外に伊吹と軌竜の幼馴染でもあり、古くからの旧友でもあった。

「出発は明日だ。俺と軌竜以外にもう一人行くことのなっているんだが…」

「他?誰なの?」

彩菜が聞き返す。

「中等部の女の子だ。彼女とは昨日会ったばかりで、俺が一緒に行かないかと誘った。」

そういうと伊吹は手のひらで電気でできた画面を出した。

「これが、その子の顔と個人情報だ。」

結盟梓けつめいあずさ中等部二年】

「おい、結盟ってまさか」

「亜厘子の妹…。」

「いや、わからない。まぁ彼女とも明日会うことになるだろう。彼女は絶対に死なせたくない。」

「お前のやりたいことは分かった。でも、お前が死んだらその体どうするんだ。」

腕を組み苛立ちを見せる爆葉。

「そん時は爆葉と彩菜に任せるよ。」

笑顔で答える伊吹に彩菜はため息をついた。

「北ゲートの不調を調べればいいんでしょ?そんな、上級魔獣が出ない限り私たちなら行けるよ。何弱気になってるの?伊吹らしくない。」

そういうと彩菜は伊吹の肩を叩いた。

「とりあえず、準備すっから夕方また呼んでくれ。そん時ちゃんと軌竜連れてこいよ。」

そういうと二人はその場を後にした。一人になった伊吹は辺りを見回して自分も学園内に戻ることにした。

「明日のために梓探して準備するか。」

 学園中等部校舎入口

 中等部と高等部の違いといえば、生徒が着用している制服が目立つ。中等部から高等部に上がるとき、その学年すべての生徒がトーナメント式で順位を決め、その順位をもとに高等部でのランクが決められる。

この学園は、小等部で属性を生み出す。この時の属性は、火、炎、水、氷、風、雷、土、岩、葉の九種類の属性と、光、闇の固定属性がある。小等部で九種類の属性の中から一つ生み出し、生まれながら持っている固定属性とうまく連合させ戦闘訓練を行い、中等部で実戦を踏まえ個人の能力を鍛え、高等部に入る前に行われるトーナメントで好成績を残したランクの者達が、高等部で地下に侵入してきた魔獣との戦闘を許可される。そして、地上の最前線での戦力とされる。という制度になっている。

中等部での生活を思い出しながら伊吹は小等部校舎に入っていった。もちろん、制服が違うことから周りの生徒たちの視線は集中し、完全アウェイという空気感が漂っていた。そんなことはお構いなしに奥へと歩く伊吹。

―梓のランク聞いてなかったな。

すると伊吹の進行方向から少年三人組が、今でも飛び掛かって来るような、険しい顔をしてやってきた。

「おい、てめーよくもそんなのん気で入ってこれたな。」

「わりーがよぉ、ここは俺らのテリトリーなんだよ。勝手にデカい顔されて入ってこられちゃ困るんだよねぇ、高等部のガキが。」

そういうと二人の少年が伊吹の両腕を取り押さえた。そしてもう一人の少年が腰から刀を抜き伊吹に向けた。

「どうやら俺は歓迎されているようだな。」

「ここに来た高等部の連中はみな泣きわめいてここから出て行ったぜ。さぁ、あんたはどうかな!」 

少年は言い終えると刀を大きく振りかぶり伊吹の頭上に振り落した。

刹那―周囲に金属音が響き渡る。

「なっ、どうしてっ…」

少年が振り下ろした刀と伊吹との間に、球状の氷の膜、壁が刀の動きを止めていた。少年は瞬時に伊吹との間合いを取り、マシンガンを取り出した。

「へっ、そんなんで強がってんじゃねーぞ。」

少年はトリガーを引く。弾丸が放たれる轟音で周囲にいた生徒たちは耳をふさがないと立っていられないほどだった。残り弾数が0になり少年はふと前を見ると、煙で覆い尽くされていた。

「はははは。これじゃ、ハチの巣決定だな。」

煙がなくなり少年の目の前に広がる光景は衝撃的なものだった。先ほどまで伊吹の両腕を取り押さえていた少年二人に少年が撃った弾丸すべてが当たり、床は血塗られ倒れていた。

「そりゃぁね、人を殺すつもりでマシンガン撃つのは構わないけど、目標を肉眼で確認せず乱射したら目標の周りの者に当たるのも当然だと、思うんだがな。」

無傷で血の一滴もついていない伊吹の姿を見て少年はその場でただただそれを見ているしかできなかった。

「もしかしてだが、最近月の人類の生徒が虐めを受け死亡しているんだが、お前は何か知っているのか?」

「そうか、そういうことか。あんたも月の人類だろ。その眼の模様、耳、手。なんでここにいるんだよ。お前らは地球上の人類をかなり殺しまくったんだぞ!なのになんで俺らと一緒に魔獣殲滅してんだよ!」

気が動転して大声を出す少年。それを聞きつけ野次馬が伊吹と少年を囲む。

「俺ら?お前は間違っている。実際に魔獣と戦っているのは月の人類だけだ。貴様ら地球の人類が魔獣に敵うとでも思っているのか?下の下級Dクラスの魔獣でも死人が出るような連中と一緒にするな。」

伊吹はゆっくりと少年に歩み始めた。

「なぜお前の刀、マシンガンが俺に通じ無いか教えてやろう。」

「来るな…」

「貴様ら地球の人類の戦闘能力は俺ら月の人類の百分の一にすぎん。まぁ、貴様ら中等部と比べたものだがな。」

「来るな…」

逃げ出そうとする少年の足に黒い鎖が飛んでいき、少年の身動きを封じた。 

「俺に喧嘩を売った時点でお前達三人に未来は消えた。まぁその内二人はお前が殺ったけどな。」

「ははっ…、俺を殺したらお前はこの学園を退学させられるぞ。」

伊吹が少年を見下ろし、目の色が変わる。

「安心しろ、お望みどおりお前は俺が殺してやる。学園を出ていくことになっても構わない。俺が出ていくとついでにあと三人出ていくことになる。そうなるとこの学園で魔獣に対抗できるのはいなくなる。」

周りの野次馬たちが写真や動画を取り始めた。

「どうなろうと俺は明日になればこの学園に戻ってこないだろう。つまり、今お前を殺しても殺さなくても変わらない。」

ゆっくりと両手を広げ、一メートルほどの氷の槍を三本出した。三本一気に少年に向け放ちそれは少年の心臓、左手、右太ももに刺さった。

「く、くそ…」

「もうすぐ楽にしてやる。散れ、氷嚢」

伊吹の言葉とともに少年に突き刺さった三本の槍が拡散し、少年の体が内側から爆発した。

周りにいた野次馬たちに少年の血と内臓が混ざった物体が飛び散った。

「さ、次は誰だ?」

真っ赤に光る伊吹の目を見て野次馬たちは叫びながらその場から全員姿を消した。

「ちっ…。強い奴には御用はないってか…。」

伊吹の目が赤から黒に戻った時、彼女がやってきた。

「伊吹さん…」

同時刻学園某所

「何を持っていけばいいのかな。」

「今現在の自分の最強の装備でいいんじゃねーの?」

彩菜と爆葉はそういいながら広い廊下を歩いていた。

「あ、爆葉に彩菜じゃねーか!こんなところで何してんだ?」

前方から二メートルほどの長さの鉄パイプを片手に持った赤い短髪少年がやってきた。

「びっくりしたぁ。なんでそんなもの持ってるの?」

目を大きく開き少年が持っている鉄パイプを見上げながら彩菜は言う。

「一時間ほど前、中等部に人探しに行ってきたんだが、ケンカ売ってきた女三人組がいたから殺って……とっちめてきた。」

「なんか最近そういうの多くね?あたしと彩菜もこの間夜間の散歩で中等部行ったら塩酸かけられたし。なぁ彩菜。」

「うん…。あの時とっさに跳ね返したから良かったけど、服がほとんど解けちゃった…。」

胸板に手を当て悲しい表情を浮かべた彩菜を見て、赤い短髪の少年軌竜は少し頬を赤らめる。しかし、数秒後軌竜の表情が歪む。

「塩酸⁉正気か?」

「まぁ、彩菜が跳ね返したおかげで服だけで済んだけど、それをあたしらにぶっ掛けてきた奴らはグロテクスになってたけどな。あっはっは。思い出したら笑っちまうわ。」

「や、やめてよ。思い出したくないのに。もしあの場に伊吹がいたらやばかったよ。」

「絶対野次馬とかその場にいた奴ら全員殺しそうだよなぁ」

二人の会話を聞き笑っていたが、ふと軌竜は疑問に思う。

「そういえば、伊吹…どこだ?」

「あ、そうそう、さっき伊吹と会ったよ。明日地上行くんだってな。」

手に拳をポンっと軽くたたき爆葉は軌竜に言う。しかし、軌竜はもう一度問いかける。

「それは今は後だ。お前らと分れた後、伊吹がどこに行ったか分かるか?」

「途中で振り向いたけど、しばらく噴水のところにいたけど。なんで?」

「爆葉が言ったようにもし伊吹も俺らと同じことを中等部の奴らにやられたら……。」

刹那―三人の時間が止まった。

「ま、まさか、だって伊吹が中等部に行く理由なんてないじゃない。」

「いや、明日地上に行くメンバーに俺達四人以外にもう一人いるって伊吹に聞かなかったか?」

「あ!亜厘子の妹!えっと、確か梓って奴か?」

「もし、会いに行ってたら…。」

「とりあえず、行ってみよう。」

そういうと三人は中等部へと走り出した。

 学園内中等部校舎内廊下

「伊吹さん…」

振り返ると、そこには昨日出会った少女、梓がいた。

「伊吹さんが昨日言っていたことって、こういうことだったんですか…」

目に涙を浮かべ伊吹を見上げる梓に、伊吹は戸惑った。梓が言っていることそのままであったからだ。

「梓の言う通りだ。だがあそこで俺が何もしていなかったら、自分が殺されていた。」

「私には自分のために人を殺すことは絶対にできません…。だったら自分が死んだほうがましです。」

伊吹はここで自分が何を言っても、彼女にとって悪く聞こえるだけだど思い、何も言わなかった。

「伊吹さんは力があっていいですよね。私にはそんな力はないし、伊吹さんのようなことはできません。」

縛っていた髪の紐が切れ今まで隠れていた長い髪が伊吹の顔を隠す。

「何も言い返せない自分がみっともない。梓の言う通りだ。俺は自分のために人を殺せる人間だ。梓とは違う。」

そういうと伊吹は黒い魔法のオーラを出した。

「明日、梓は来ないほうがいい。誘っておいてこんなことを言うのは申し訳ない。梓に自信を持てもらいたかったが、梓は強くなることを望んでいない。無理に行かせるわけにもいかない。悪かった。」

伊吹が闇の中に入ろうとした時だった。

「いたぞ!伊吹が移動しちまう、彩菜、伊吹を縛りつけろ!」

「あいよ!」

彩菜は黒い鎖で伊吹の足の動きを止めた。伊吹は抵抗する様子はなく、立ち止まった。

「軌竜さん⁉なんでここに。」

辺りを見渡して軌竜は大体の場の状況を読んだ。そして二人の少年の死体を炎で包み、跡形もなく燃やしつくした。

「どうやら、野次馬はいないようね。」

「軌竜、明日梓を連れて行くのをやめよう。梓を無理に連れて行くのは気が引ける。」

伊吹は顔を上げ軌竜を見た。

「梓、お前がそういったのか?」

「私は、伊吹さんや軌竜さんのように強くはなれません。」

ゆっくりと梓に近寄り優しく体で包み込んだ。

「じゃあ、前みたいに怖い思いをしてもいいのか?お前がそれを望んでいないことぐらいわかるぞ?」

「でも、人を殺すための力なんて欲しくないです。」

「伊吹は不器用だからあなたに変なことを言ったのかもしれあいけど、殺らなきゃ殺られる世界なのよ?その世界で、地上から生きて帰ってきたっていう肩書があるだけでみんなあなたを恐れるわ。そうすると今までのような虐めも受けなくなるし、今度はあなたが弱い人を守ることができるのよ?」

涙を浮かべた梓にそっと優しく言葉を差し伸べた彩菜。

「心配するな。地上に行ったら伊吹が責任もってあんたを守るから。なぁ、伊吹。」 

そういうと爆葉は伊吹のほうを見た。伊吹は梓のほうを見て笑顔でこういた。

「俺は死んでも構わない。俺は自分のために人を殺せる人間だが、人のために死ねる。もちろん梓が良ければだがな。」

「明日の朝、私の迷いに決心がついたら、連れていてください。わがままですが、まだ迷っていたら私を置いて行ってください。」

そういうと梓は涙を吹き、伊吹に頭を下げ謝った。

空はオレンジ色に輝き、日本中心第三都市は夜へ移り変わろうとしていた。この時間帯は任務に出ている生徒たちが学園に帰ってくる時間と同じでほとんどがの生徒たちが学園内に戻ってくる。それぞれ一日の出来事を話し合う生徒が集い、昼間より別の雰囲気であふれている。

「今日はなんでこんなににぎやかなんでしょ  うか。」

ドキドキしながらも、梓は伊吹に質問する。周りには暗いことを好いことにカップルたちが二人きりでいちゃついている。

「子供には刺激が強すぎたか?」

おちょくる伊吹に対して先ほどより顔を赤らめ心臓の鼓動が激しくなるのを感じた。

「こ、子供じゃないですよ…」

「ねぇ、あれってどう見ても梓ちゃん伊吹のこと…」

「伊吹は一途だからなぁ。それに、梓には悪いが明日で…。ま、お前ら二人も死なせねぇけどな。」

「ばーか、二人で何ができるんだっての。あたしらコンビでしょ、死ぬまで一緒よ。にしても、ライバル登場だな、彩菜。」

伊吹と梓の背後で会話し、二人の様子を見ている軌竜、彩菜、爆葉。伊吹は立ち止まり後ろを振り返る。

「まだ夕方だが明日のために俺は寮に戻る。   お前らも体を十分に休めた方がいい。」

そういうと伊吹は第一遼塔へ歩き出した。その姿を見た梓は伊吹を追いかける。

「待ってください、私もっ」

「俺も寮に戻るとするか。おそらく伊吹は自分の体で地上に行くんだろうな。」

「あの体は絶対傷つけたくない…か。」

「正直、私はあっちの方が好きだな。さ、戻るとしましょ。」

三人も自分の寮へと戻った。


 第一寮塔


  第一寮塔の玄関に入り、伊吹は自分の部屋に何か届いていないか共用ポストの蓋を開ける。何もないことを確認して階段を上り3号室へと向かう。自分の寮塔に誰が住んでいるのかは伊吹には興味がなかったが、第一寮塔に住んでいる他の人間はその逆で、伊吹と朝や夜会うと近寄ってくる。そんなことは不快に感じたことはなかったが、一番困るのは各寮塔に住んでいる学園の生徒は年齢がバラバラで高等部の生徒がいれば小等部の生徒がいる。生活習慣で伊吹はこの第一寮塔には中等部と小等部の生徒が多い事を把握している。しかも半数以上が女生徒ということに伊吹は困っている。夜遅く任務から帰宅して自分の部屋を開けたはずが、別の部屋だったこれは大問題だ。実際伊吹は五人もの生徒と部屋に間違って入り、疲れ切ってそのまま寝てしまったことがある。朝起きたらそこの部屋の持ち主は一度も怒らず、顔を赤らめただ「ありがとうございました」と言う。なにより、自分が寝ている間の何が起こっていたのかは伊吹は思い出そうとしても出てこず、廊下などですれ違った時、彼女たちは頬を赤らめ視線をそらすのだ。

 伊吹は、他の生徒がいないことを確認し、安全であることを確認した後3号室の扉の鍵を開ける。

「はぁ、まだ七時か…。とりあえず横になろう。」

ベッドに横になり、そのまま寝てしまう。

 


 某生徒寮某号室


「今夜は満月か…、あの日の夜も満月だったなぁ。」

あの日、過去最大の犠牲者を出した大戦争、[地月戦争]。昔のことを思い出し、夜空を見上げる少女の瞳は、どこか切なく、美しかった。

「あれからもう十年も経つんだなぁ。」

そういうと少女は夢の中へと入っていった。


 

 第一寮塔3号室


 時刻は十一時を迎えようとしていた。部屋の中は伊吹の小さな寝息がスース―聞こえるだけで月明かりが差し込んでいた。

コンコン

部屋の中に響くノック音。

「ん……。誰だ…」

寝ぼけながら目をこすり、扉を開ける。

刹那―伊吹の目が覚める。

扉を開けた先には梓が立っていた。

「すいません、眠れなくて…」

パジャマ姿で自分を見上げて見ている少女に伊吹はどうしたらいいかわからず戸惑った。

「寒いから、入って。」

ろうそくに火をつけ、小さな光が部屋を明るくした。とりあえず梓をついさっきまで自分が寝ていたベッドに座らせた。

「どうして俺のところに?」

単刀直入に質問しながら、椅子に座る。

「明日のことを考えると怖くて、気が付いたらもうこんな時間で、寂しくなって…。起こしてしましごめんなさい。」

「そっか、怖いのは当たり前だ。言ったことない世界に行くなんてな。しかも、命がかかってる。死ぬかもしれない。」

「私のせいで伊吹さん達が死んでしまったら…、怖くて怖くて…。」

涙を流す梓に伊吹は彼女の隣へ座り軽く抱きかかえる。

「気にするな。俺らを信じろ。別に死ににいくわけではない。北ゲードの不調を調べ直すのが任務だ。これを成功させれば俺らも梓も英雄だ。その中で、もし魔獣に出くわしたら俺らが戦う。上級魔獣が出てこない以上大丈夫だ。」

「もし、上級魔獣が出てきたら…」

伊吹を強く抱きしめる。

「君だけを地下に送り戻す。その間に俺たちが時間を稼ぐから大丈夫だ。」

伊吹は梓を横にさせた。

「今夜は俺が隣にいてやる。安心して眠って大丈夫だよ。」

 数分後


「あ、あの…。恥ずかしです。」

布団の中で体をもぞもぞと動かしながら梓は言う。

数分後


  梓はそのまま眠りに入っていた。伊吹は梓が寝たことを確認すると起き上がり、黒いコートに着替えた。

「戻れ、我、古の姿よ」

すると、伊吹は闇に包まれ、そこには別の少年が現れた。

「魔力制御」


 学園敷地入口


 夜は明け、人工太陽がうっすらと光りだす午前六時。学園敷地内から外へ続く大きな門の前にすでに三人の姿があった。

「あとは伊吹と彩菜ね。」

「早く来すぎちゃいましたね。」

第三都市はまだ眠っている。周りの建物はまだ暗くなっている。

「そろそろ来るだろ。ほら、来た来た。」

軌竜の視界に二つの人影が現れた。その片方は彩菜だということがわかるが、もう一方は誰だか梓はわからなかった。

「伊吹、大丈夫か?」

軌竜が彩菜の隣にいる少年を伊吹と呼んだ時梓は驚いた。

「え…、伊吹さんなんですか?いや、どう見ても別人ですよね?」

長いのか、短いのか、前髪は目元まで伸びていても横髪も首元まで伸びているが、後ろは短く真白く綺麗な色に紫メッシュがかかっている。

「説明はリフトの中でだ。みんな、準備はできてるか?」

少年はそういうと左手を無造作にいじる。

「俺らは大丈夫だ。」

「梓、お前はどうだ。行けるか?」

まだ、半信半疑だったが恐らく目の前にいるのが伊吹だと思うようにした。

「はい。行きます。」

「みんな、協力してくれたことを感謝する。最後の頼みを聞いてくれ。梓を…命に代えても守ってくれ。」

そして五人はリフトに乗った。



リフト内はとても広く、リラックスができたが五人はそんな様子はなく、戦闘態勢に入っていた。

「伊吹さん、なぜ、そんなに変わっちゃったんですか?昨日の夜だって、何の変化もなかったのに…」

「なっ、夜⁉伊吹!てめっ彩菜がいるだろ!。」

「軌竜、わめくな。ただ、一緒に寝ただけのことだ。今までの姿は、俺の妹の体だ。そして今の姿が本来の俺の体だ。」

「なぜ妹の体を…?」

「俺の妹、詩織は十年前に死んだ。でも、俺はその現実を認めたくなく、詩織の体の生命力維持することで、俺が死ねば詩織は生き返る。」

伊吹は魔力をため始めた。

―今まで妹の体で生命力を維持し続けながら任務を行ってきたのに、今回は自分の体ってことはやっぱりこの人死ぬつもりだ…

しかし、梓はあえてそれを口にしなかった。

「梓、感傷するな。集中しろ。お前の実績を見る限り、俺らと梓の能力は大差ない。お前に足りないのは自信だ。」

―自信、出来る。私は弱くない…。

集中して暗示をかける梓。

「初撃に注意。伊吹が前に居て。伊吹がガードした瞬間に私と爆葉が攻撃する。軌竜はその後の攻撃に備えて。梓は私たちを援助魔法で援護。いいわね。」

「もうすぐだ。行くぞ。」

リフトの扉が開く。

刹那―伊吹の右頭部が噛み千切られる。

「伊吹ぃ!」

「リフレックス」

突然現れた魔獣に対し伊吹は反射魔法を唱えた。遠くに吹き飛ばされた魔獣は粉々に砕け散った。

「伊吹さん……右目が…」

「他にも魔獣がたくさんいる。彩菜、ここから北ゲートまでの道で魔獣は何体いる?」

伊吹の頭部から血が流れ出す。

「行く途中で魔獣に出くわすことはないわ。でも、問題は帰りよ。帰りもここのリフトを使うから戻ってくる必要がある。その途中で魔獣に百パーセント出くわす。」

「伊吹、血を止めろ。さっさと調べて帰るぞ!」

梓を四人が囲むように北ゲートまで飛ぶ。伊吹はその間に血を止めるが、右目ごと右頭部を魔獣に食われてしまった。

「梓、爆葉、彩菜、不調を調べろ。俺と軌竜が見張ってる。」

「さっさと、修理しちまうぞ。」

手から電流をだし爆葉は修理し始めた。

「伊吹、絶対防御の範囲を広くしてくれ。」

「魔力解放、リフレクター解除」

伊吹を中心に氷の盾が球状に現れた。

「俺の防御を簡単にぶち抜いた奴らに、果たして絶対防御はきくのかねぇ。」

伊吹は右頭部を抑える。

「早くしろ!魔獣が来ちまう!」

「あともう少しだ。魔獣が来たら彩菜と梓もあの二人を援護してくれ。」

「了解」

「わかりました。」

―バリンッ

「絶対防御が壊された!中級以上の魔獣が来るぞ!」

「爆葉!そっちは任せた!魔力解放。リミッター解除‼」

軌竜の手足が変形し、黒い魔力があふれ出した。

「待って!おかしいわ、魔獣反応が無い。」

ゴーグルをつけ、辺りを見渡す彩菜。もう一度魔力の壁を作り出す伊吹。

「まさか…遠距離攻撃……。」

―バリン

再びはじかれる魔力の壁。

「こっちの位置、ばれてます!またもう一発来ますよ!」

「姿を隠すわよ!結界魔法!」

結界を出すが、もうすでに三発目が前方から向かってきていた。

「こっちで何とかする。彩菜はすぐに結界を広範囲にしろ。」

そういうと伊吹は両手から細い光線をものすごい勢いで放った。魔獣からの遠距離攻撃と激突し高音が響く。

「魔力制限解除」

言葉とともに光線が太くなる。

「結界張り終えたよ!」

しかし、今ここで自分が下がればこの強い遠距離攻撃にみんなやられてしまう。

すると、後ろから梓が飛び込んできた。

「伊吹さん、下がってください。」

そういうと梓は巨大な鏡を出し、それを弾き飛ばした。そして伊吹の手を取り後方に下がった。

「今のでかなりの量の魔獣がこっちに来ますね…。」

服の砂を払いながら梓が言う。伊吹は呆然と梓を見上げる。

「よし、修理というか、不調を直したよ。」

「結界の外の状況は確認できないけど、魔獣がいるはずよ。リフトまで飛ぶわよ。飛べる状況じゃなかったら仕方がない、戦うよ。」

彩菜の言葉で四人は立ち上がり、戦闘態勢に入る。

「リミッター解除」

「リミッター解除」

「リミッター解除」

伊吹、彩菜、爆葉の姿が軌竜のように変わる。

「え、それ私もできますか?」

「膨大な魔力が必要だ。俺の魔力を半分渡す。梓も戦闘態勢に羽織った方がいい。」

梓の胸に獣のような手を当て魔力を移す。

「すごい、力があふれてくる。リミッター解除?」

すると手、足、目が原型を失い獣のように変化した。身長も少し高くなり梓は自分の姿に驚いた。

「これが本当の私の姿…」

「この姿を見ても地球の人類は俺たちに同じことをできるのか。気になるな。」

両手に黒い剣を取り構える。

「結界解除するよ。」

黒い剣を構えながら彩菜が言う。

「魔獣がいるかいないか…。」

黒い剣を鞘から抜く軌竜。その横でも剣を構える爆葉。そんな四人を見て梓も腰に下げていた黒い剣を抜く。

「結界解除!」

刹那―五人は吹き飛ばされる

五人別々に吹き飛ばされた先には、一人一人を囲むように大量の魔獣が集まっていた。辺りを見渡しても魔獣の姿しか見えない状況下五人は場の状況を冷静に考える余裕がなかった。

「なっ、はめられた⁉」

全方位から魔獣からの攻撃が飛んでくる。

「くそ、魔獣に考える思考能力があるとは知らなかったぜ。」

「一人でこの数はきついな。みんなと合流しなければ。」

爆弾を投げる爆葉。周囲にいる魔獣は吹き飛ばされ、視界に軌竜がいることを確認した。すかさず軌竜のもとへ行き、再び爆弾を投げる。

「爆葉、一人じゃきついからな。後ろは任せたぞ!」

「あんたとこうして一緒に戦うの、久しぶりね。」

二人はお互い背を向け魔獣を切り刻む。百メートル離れた地点で伊吹も魔獣を切っていた。両手の剣を大きく振り回す。

「下級魔獣か。弱くてもこの数の中中級が来たら一人じゃきついな。」

その近くも同じことを考えながら剣を振るう少女がいた。

「思えば、一人で魔獣と戦うのは初めてね。」

そう思いながらも大量の花粉で魔獣を吹き飛ばした。

「あ、いた!よかったぁ」

「彩菜!近くにいたのか。他の三人は無事なのか。」

「魔力反応を見る限り、軌竜と爆葉は一緒にいるみたい。でも、梓が一人よ。」

梓の居場所を確認している彩菜に魔獣が突っ込んできた。魔獣は彩菜の右腕に噛みついており引きちぎろうとしている。

「彩菜から離れろ!」

声とともに魔獣に氷の槍をぶっさした。魔獣は低い声で叫び内側から爆発した。

「彩菜!大丈夫か⁉」

右手を引きちぎられることはなかったがかまれたとこから血が大量に出ている。そこ部分を伊吹は氷で止血をした。

「悪いわね、助かったわ。」

「早く梓を探さなければ。」

「居場所はここから近くよ。でも梓のところに魔獣が集中してるわ。」

そういうと彩菜は梓のいる方向へ走り出しその後の伊吹もついて行った。

梓が吹き飛ばされた先にいた魔獣は伊吹たちのところにいた魔獣とは明らかに大きさが違かった。

「デカい…。これが地上の魔獣…。いや、出来る。私でもこの魔獣と戦える!」

そういいながらも伊吹と彩菜が梓の方へ走り出すまで四体の魔獣を殺している。

「梓!大丈夫か!」

伊吹の声がした方を見ると伊吹と彩菜が息を切らしてそこに立っていた。

「よかった。さっき魔獣の奇声が聞こえたので不安でした。」

そう言いつつも梓の剣を振るう手は止まらない。

「ここにいるの中級魔獣よ。それを一人で戦ってるなんて…。すごいわ。」

「早く軌竜と爆葉と合流してリフトに行くぞ!」

その場にいた魔獣を氷魔法で凍しその場から走り出した。

「早く!後方からものすごい魔力の塊が近づいてきてるわ。おそらく上級魔獣よ!」

移動速度を速める三人の目の前に軌竜と爆葉が見えてきた。

「軌竜!それに彩菜、梓も。無事だったか。」

「早くリフトに戻るわよ!上級魔獣がこっちに…」

「危ない!」

軌竜が彩菜を突き飛ばした瞬間

軌竜の右腕が弾き飛ばされた。

「ぐぁぁぁぁぁ!」

伊吹が素早く後ろを振り向くとものすごい勢いで巨大な魔獣が飛んでくるのが見えた。

「くそっなんつー速さだ。みんな、リフトへ急げ!」

氷の壁で魔獣の動きを止めた。それを見て爆葉は軌竜を抱えてリフトに走り出した。しかし…

「きゃぁぁ」

反対方向からも巨大な魔獣が何体も飛んできた。彩菜が鎖で動きを止めるが、一人の力で抑えるのに限界があった。

「くそ!はぁぁぁぁ!」

伊吹の目の前にいた魔獣たちを一気に凍らせ彩菜が抑えてる魔獣に氷の槍を突き刺す。梓もすかさず鉄の槍で突き刺す。

「右腕が無くても戦えるんだよ!!」

左手から溶岩を出し、魔獣の方向へ投げつけた。

「梓!リフトに行って!」

「でも…」

梓がためらった瞬間真上から魔獣が落ちてきた。

―ドス

嫌な音がして恐る恐る目お開けると、そこには魔獣の手で腹が貫通している軌竜がいた。口から大量の血を吐く軌竜に梓は近づこうとするが彩菜が止める。

「梓!早く行け!」

血を吐きながらも叫ぶ軌竜。爆葉が軌竜の腹を刺している魔獣を真っ二つに切る。

「軌竜さん…」

「爆葉!軌竜を頼む!梓、リフトに行くぞ。」

梓の手を取り走る伊吹と彩菜。

刹那―すぐ隣にいた彩菜の姿が消える

「彩菜さん!」

後ろからの魔獣の遠距離攻撃をくらい、岩に叩きつけられる彩菜。

「今はリフトに行くことだけを考えろ。もうお前だけだ!」

そういうと伊吹は梓を前に押し後ろを向いた。

「嫌です!」

梓が伊吹に近づいたその時後ろから五本の槍が飛んできた。

「梓、危ない!」

梓は目をつぶった。

周りの音が何もなかったようになくなり、目を開けると梓は仰向けに倒れていて、その上に伊吹がまたがっていた。安心しかけたが伊吹の顔を見たとき、それはなくなった。

伊吹の顔の右の部分がきれいにえぐられ、体のに五本の槍が刺さっている。

「伊吹さん…私をかばって…」

伊吹の目には涙が流れていた。

「梓…最後の頼みだ…。余計なことを考えずリフトで地下に戻ってくれ。」

「でも…伊吹さん達は…」

伊吹は梓の頬に手を置いた。

「余計なことは考えるな。地下に戻り、学園長に任務の報告をしてくれ。」

伊吹はゆっくりと立ち上がり、一本一本自分の体に突き刺さった槍を抜いた。そして両手を地面につけ、青白い魔力の渦ができた。

「リフトはすぐそこだ。走ってリフトまで行け。」

伊吹は梓の方を振り向き笑顔でそう言った。

梓は言う通りリフトに走って向かう。

「爆葉!軌竜!彩菜!生きてるか!」

「軌竜の応急処置は終わったわ。」

「私は…大丈夫…。」

梓がリフトに乗って扉を閉めるとき、後姿の四人とその四人に向かってくる全長五十メートルの大量の魔獣の姿が見えた。

「ダイヤモンドダスト」

最後に聞いた言葉はそその言葉だった。リフトの扉が閉まり地下へと下がる。

―膨大な爆発音

リフトが大きく揺れ、梓は泣き崩れた。

 五年後…

 学園時計塔

あの時の私は、弱虫で自信がなく人に頼ることもできなかった。私がもっとしっかりしていて自分の力にもっと早く気が付いていればあの四人は死ぬことはなかったのだ。もう私は守られない。今度は私がこの手でみんなを守る。あの人が私にそうしてくれたように。……

     END


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