一回戦 ババ抜き
はいはい注目。
僕は中だるみの二年生と言われる事にまったくの抵抗が無い、やんちゃな子です。しかし驚くこと無かれ。二年生になってから何と部活を始めてみたのです。偉いでしょー。ほめてほめて。えへへへー。
うわっ自分うざいなぁ。と言う訳で終了。
部活の話をちゃんとします。
入部とは言っても、青春の代名詞のような、必死の練習で全国を目指すような体育会系ではない。僕はそんなに体を酷使するのが好きな訳ではないし。面倒くさい。だるい。それに目的の違いというのもあるしね。
僕が入ったのは文化系クラブ。僕の通う高校は県下有数のマンモス校である故に、生徒もマンモスの毛の数位在籍している。嘘。でもまあかなりの数の生徒さんが校内でひしめき合ってらっしゃります。当然その分だけクラブの数も多くて、五十位が正式に登録されていて、愛好会の数まで含めると百近くになるとかならないとか。
その中でも超常現象研究会という奴に入ったのだ。
ただこの超常現象研究会。去年発足したばかりであり、なおかつ初期メンバーの半数が三年生だったため、彼らが卒業した今年は部員数が三人。
僕を合わせても四人しか居らず、部として認める最低人数が五人である我が学校では結構存続がやばめな部活の一つに数えられていた。まあ、僕が加入して暫くしてから、新一年生のお陰でそのレッテルは何とかなくなったようだけれど。じゃあ説明するなって話だね。
なぜ、そんな弱小の団体に加入したかと言えば、情報収集のためだ。
この研究会では様々な心霊系というか、まあそういった言った噂には事欠かないから。常に新しい情報が入り、また膨大な数の情報がストックしてある。単に都合が良いから入部した訳でしたり。
「ふう……」
僕は超常現象研究会、通称、超研の部室のドアを開けて突っ立っていた。現在時刻、十時とちょっと。少し長めの休み時間を満喫する事無く、ここに居る。嘘。現在始業前です。
件の今年入部した一年生に用があったのだがどうやら居ないらしい。というか部室に誰も居ない。まあ、何時も何時も部室に人が居るとは思っていなかったものの、この部活は何時も人がいなさ過ぎる。それが良いことなのか悪い事なのかは分からないけれども。考えるのも面倒くさいので、その事に思いを馳せるのは臨終間際の暇つぶしにでも取っておこうと思う。覚えてられるかなー。忘れても問題ないけど。
僕が入部した時に一度部長と名乗る、軽い感じのおにーさんにあっただけなのだ。それ以降、誰一人として会ったことが無いのだ。と言う訳なのです。
一年の奴を除いてだけど。
僕は部室で待つのか、電話をするかを考える。まあ、朝から部室に来る可能性はほぼゼロ。よって二択の答えは決定。ポケットから携帯電話を取り出して開きます。
しょうがない電話するか。若干、居ることを期待してたんだけど。意味なかったか。
「んーー、どかーん!」
背中の丁度真ん中から少し上くらいの位置にどふんと何かが物凄い勢いで突っ込んできた。
その衝撃で僕は吹っ飛びそうになった体を右足で踏ん張って堪える。が、肺にダメージがあったのか暫く咳き込んでしまう。プラス手に持っていた手に持っていた携帯電話が僕の手から踊るように飛び出して床を滑って遠くへ。ああっ携帯しゃまがぁー。
ごほごほ。
ちなみに僕に突っ込んできた何かは僕の背中にしがみ付いて、
「きゃー」
と楽しそうに叫び声をあげている。お腹は後ろから回された腕に圧迫されて変形しているし。何か廊下を歩く視線が痛いしで、どうにかしてよこの状況な気持ちになりました。
そこでとりあえず一言、言いたいことがある。
「放してくれ」
「えー」
背後の謎の生物Xは猫なで声と言うのか、そんな可愛らしい声で拒否の意を示す。抱け小ど俺はそれに従う訳にはいけないんだ。
「放してくれ」
「むー、同じ調子で二回も言わないで下さいよー」
僕にしがみ付いていた何かはぶーぶーと文句をお口という名の穴から垂れ流す。垂れ流しながらも、機能は正常に作動しているらしく、僕のお腹の辺りに絡み付いていた腕がするりと離れた。
僕は後ろを振り返る。
そこに立っていたのは女の子だ。
顔にはとても明るい笑顔を浮かべている。なにがそんなに楽しいんだろうか? 生きているのが楽しいんだろうね。頭に住んでいるのはきっとファンシーな小人なんだろうし。考えるのが面倒なので適当にこじつけておく。意味は僕にも理解不能である。よって質問は受け付けない。
で、年中脳内お祭り少女はにへらーと笑いながら、僕の事をじろじろ観察中だ。僕の視界を妨げるほどの身長の無い彼女の頭を撫でてみる。
「ふぐぁ!」
少女Aは奇声を発した。ふむなかなか良い髪質じゃ。
うん。わからん。
そうそう、脱線したがこいつの名前は。なんだかやたら僕に懐いている小動物系(猛毒を持っているので注意)な女の子である。僕は適当なタイミングで頭から手を離す。一までも擦って禿げられても困るので。困るのか?
琴坂は僕が手を離しても暫くは口をパクパク動かして、顔を真っ赤に染めて金魚の練習をしていた。
このままでは話が進まないと判断した僕は、つるりとしたおでこを人差し指で弾く。同時に意識が戻ったらしく。額を押さえて今度は鳥もまねを始める。忙しいやつではありますね。
「……先輩なにしているんです?」
真っ先に批判が飛んでくるかと思っていたら質問された。取り合えず、ストレートに用件を話してみる。
「僕? ああ、お前を探していたんだ。良かったよ今のタイミングで会えて」
「えっ、私? しかも会えて良かっただなんて、ううっなんて嬉しいことを言ってくれるんですか。私感動で泣いてしまいそうです」
琴坂は口を山型に閉じてわなわな動かし、一方で眼に乙女成分当社比1・5倍。
赤面プラスと言う本当に泣きそうなお顔でのたまった。暫く何か僕の知らないものをかみ締めてから、そっと僕の右手を取った。そして自分の胸の前にて両手で握り締める。
僕は神じゃないから祈っても何も出ないけど?
「そんないきなり……じゃあ、場所は変えましょう。ここは人通りが多いですもんね。先輩も人が居たら嫌ですよね?」
何を考えているんだろう。分からない。面倒だから考えてすらいないけれど。
「いや、ここでいいや。で、話なんだけど」
「もう、先輩ちょっとは乗って下さいよ」
なにやらぷりぷりと怒っている。泣いたり笑ったり怒ったり忙しい奴。
……僕は何かしたっけ? 分からないや。
「えっ? いやうん。なんだか分からないがすまないねぇ、婆さんや」
「いやぁ、えへへ。それはそれで、そうなったら良いなーなんて思いますけどぉ。えへへ。ねえお・じ・いさんっ」
また最初のにへらーって顔になられた。このままではまたループしてしまう。面倒だ。そう思った僕は早急に話を進めることを決意する。誓ったのだよ。ははは。
「で、笑ってるところ悪いんだけどさ。ちょっと調べてもらいたい事があるんだが調べてもらえるか?」
「いいですよ。先輩の為なら、某国の大統領の隠し子の数まで調べて見せます」
琴坂は胸を張ってそう答えた。
いやそれは無理だろう。どこだよ某国って。まあ、くじの当たり番号とかなら調べてもらいたい。
それはともかくとしてだが、僕はこいつの調査能力はかなりかっている。大統領の隠し子は無理だろうが、僕の通う学校に限ってはすべての人間の交友関係や、誰がいつ金を貸したとかその気になれば調べることが出来るだろう。
それぐらいこいつの調査能力は凄い。何時だったか僕の一週間の昼食のメニューをすらすらといった事もあったっけなぁ。いっそのこと、情報屋にでもなればいい。きっと金持ちになる。
「で、何を調べたらいいんでしょうか?」
「赤いトランプって知ってるか?」
「赤いトランプ? 知らないです」
「そうか」
こいつが知らないとなると、見つけるのは相当厳しいかもなぁ。
どうすっかなー。うーわー面倒臭そうなことになってきたなー。うーだるい。
「でも、トランプの話なら知ってますよ」
「なんだ?」
琴坂はまた胸を張って踏ん反りかえる。控えめな胸もこの時ばかりはと主張している。僕は実は控えめなほうがお好きなので、好感がもてます。やはり日本人は御淑やかに品が良くなくてはね。
いかん。脱線しすぎだ。
今だ健気に胸を張り続けたままの琴坂。けれどその頭には疑問が浮かんでいるらしい。首をかしげている。何かごめん。そんあ僕の心中を察してか琴坂はこほんと咳払いをしてから話を続ける。
「関係あるかは分からないんですけど、最近私たちの学校の生徒が、えーっと昨日までで三人、衰弱死してるって言うのは知ってますか?」
琴坂は指を三本立ててそういった。
「ああ」
「今時衰弱死なんておかしいと思いません? 若いんだし」
たしかにその通り、僕も同じ事を妄想していたわけだし。僕は小さく頷いて肯定を示す。
「ですよねー。私と先輩は同じ思考回路なんですね。うれしいなー。えへへ。で、その衰弱死した人たちは皆先輩と同じ二年生だって言うのは知ってます?」
「いや」
「で、先輩の学年で流行っているのはなんですか?」
「トランプ?」
「そうです」
「で、その死んだ三人は死ぬ直前まで、『トランプに殺される』って言ってたらしいですよ」
「ふーん」
「で、もう一個トランプに関する噂があるんです。まあ、衰弱死関係なんですけど」
「何?」
「何でも、死のトランプって言うのが出回ってるらしいです」
「なんだそれ?」
「えーっとですね、このトランプを手に入れてから三日以内にそのトランプで勝負をして勝たないと死んじゃうらしいんですよね。もし勝ったら、そのトランプの所有者はトランプで負かした人に移るんです」
「無限に連鎖する訳だ」
「そうですね。自分が死ねばそこで終わるわけですけどね」
「皆嫌がるよなあ。結局人間て自分本位な生き物だし。僕も含めてさ」
「んー。自分本位って言うのは些か同意しかねますけど。まあ、やっぱり死んじゃうのはやですからね。普通の事なのかも知れませんね」
そう言って、ちょっと寂しげに琴坂は笑った。
「そうだな」
琴坂は表情を明るいものに切り替え顔を上げた。
「で、私はその赤いトランプって言うのを調べればいいんですね?」
「ああ。お願いするよ」
「分かりました。じゃあ、ちょっと調べてみますね。そうだなー、じゃあ死んだ三人から当たってみようかな……じゃあ何かあったら連絡しますね」
琴坂は笑顔で大きく手を振って僕の前から姿を消した。と思いきや、直ぐに戻ってきた。何やらにやにやと笑っている。
「何だよ?」
「いやですねー。何かご褒美とかもらえるのかなーとか思ったりしたんですけど」
「ご褒美かー」
まあ、確かに僕は仕事の依頼主になるわけだし、何かあげてもおかしくないよなー。しかしどうしたもんか。
うーむ。
僕を見上げるキラキラとした瞳。これに答えられるご褒美をあげなくちゃあなぁ。うーむ。
「じゃ、今度飯でも食いにいくか」
言った瞬間である。琴坂の顔が紅潮し、何やら鼻息が荒くなっている。ご飯で興奮できるなんて素敵な性癖の持ち主なんですね。
「えっ? えっ? もしかしてもしかしてですか?」
「いや、何が?」
「一緒にご飯食べに行くんですよね? そういうことですよね?」
「いや、まあそうだけど」
「二人っきりですよね?」
「うーん、琴坂に対する報酬だし。複数って言うのはちょっとな。正直一人の方が僕もありがたいし」
主に金銭的な意味で。
「ぜんっぜん二人でかまいません。と言うか二人じゃなきゃ駄目ですっ。先輩と同じ考えです。二人で行きましょう? ね? ね?」
「あ、ああうん」
琴坂は胸の前で両手を合わせて神に祈りを捧げだした、そして嬉しそうに空の彼方へと意識を飛ばす。
視線の先は天井だけど。
今にも泣き出しそうに眼を潤ませて。「ハレルウヤ! サンキューゴッド」と祈りを捧げているご様子。丁度祈りの時間なのかもしれないけど、人前でやるのは止めておいたほうがいいよ。そう心の中で忠告しておく。口を動かすのが面倒臭いから。
本当か? 自分。
「じゃあ、約束ですよ絶対ですよ」
「ああ、約束だ。絶対僕はお前を食事に連れて行こう」
「……はい。くう」
琴坂は言いながら眉間にシワを寄せ目を閉じている。
「ん? 何だよ? 頭でも痛いのか?」
そう言って僕が琴坂の頭に手を乗せてみると、琴坂は体をびくりと硬直させて、それから一気に僕から遠ざかった。なんだ今の動きすげえ、野生動物みたいだった。
「えっ? なに」
僕が困惑していると、琴坂は物凄い勢いで手を振りながら、交差させながらぶんぶん振り回しながら、言った。
「え、あ、い、えあ。ダイジョウブデス。大丈夫。え、えへへ。今日はものすっごいい日です。さいこーです。じゃ、私がんばってきますから」
「あ、ああ」
「きゃほーい」
そう奇声を上げながらどたどたと走り去っていった。いや、どうしたんだあいつ。変な宗教にでも入ったか? 色々吸い上げられないように祈っておこう。面倒だからやらないけど。
さて、僕はどうするか……って、まあ決まっている。あいつだ。と、チャイムが鳴ったし、昼休みにでも声を掛けてみよう。
数学、化学、英語に国語っと。午前の授業を難なく消費し、いよいよ昼休みとなった。行動開始であります。
「ねー、今日はどこでお昼食べるー?」
「もちろんテラス。今日は日差しが気持ちいいからね」
「じゃけってーい」
と、女子なんかが弁当を抱えて教室を後にしたり、机を寄せ合って弁当を広げる男どもなどを横目で見ながら、僕は席を立つ。
僕は学食派なので、弁当は無い。というかまあ、寮生なので、よっぽどのことが無いと弁当なんか食う機会なんか無いのだ。だって作るの面倒だし。
どちらにしろ今日はきっと昼飯は抜きになるだろう。お腹の虫が頑張って抗議するけれど、気にしている場合ではないのです。
僕はすたすたと移動。ある一人の男子生徒の席に向かって歩く。
椅子に背中を預けるようにして、力なく座っている生徒の下へ。授業中もこんな調子で、先生の問いかけにも
「大丈夫ですから、ほっといて下さい」
としか答えていなかったのが印象深い。まあ、大丈夫じゃあ無いよね。命は大事にね。
そんな放心状態の男子生徒の肩にポンと手を置いて話かけた。反応は無い、只のしかばねのようだ。そう思うくらい無反応。面倒くさくて嫌になるけど。諦める訳にはいかないんだよね。辛いところですよ。
「北原君。元気?」
明らかに元気じゃないけど。痛む心を鬼にして聞いてみた。いや痛んでないけど。関係なき故に。
北原君は僕に気付いていないかのように、前方を睨みつけたまま微動だにしない。僕は、ちょっと声のボリュームを上げ、北原君の耳元に口を近づけて同じ言葉を繰り返した。
「北原君、元気?」
やっと気付いてくれたようで、ゆっくりと顔をこちらへと向けてくれた。
こちらへと向いた顔は、目の下のくま、こけた頬。更に生気が抜かれたかのような青白い顔。一瞬死人かと思うようなとんでもなく元気のなさそうな顔をしている。というか早く保健室行けよ、って言われそうな顔だ。もう言われてるかもしれないけど。下手すると救急車を呼ぶ奴が居てもおかしくない。
そんな北原君は、消え入りそうな細い声で、
「大丈夫、だから」
と言った。と思う。小さくてねえ。声が。うん、明らかに大丈夫ではない。
すぐに北原君と目を合せ、単刀直入に細かい説明も段取りも一切無しで切り出した。
「トランプしない?」
北原君の生気のない目に光が灯り、死んだようにだらりと垂らされた腕は跳ね上がる。
そして力強く僕の腕を握り締める。うおっ、効果的面。復活した北原君はいきいきと、むしろ爛々とした目で僕に食いかかってきました。
「ほ、本当かい? 俺とトランプをしてくれるのかい?」
「ああ。ここじゃ何だし、場所を変えない? ……出来れば人が居ないところがいい」
「じゃあ、美術準備室に行こう。あそこなら人が居ないはずだから」
細い手で、鞄の中にしまってあったトランプを取り出す。
ありゃりゃ。これはこれは。
取り出した曰くありげなトランプを手に、北原君は椅子からよろりと立ち上がった。そして早足で教室から出て行く。たまに左右に蛇行しているので追いつくのは簡単だったけど。
僕はずんずん迷走する北原君の細い後姿を見ながら思う。これはどうやら当たりっぽい。生気めっちゃすわれてる。
僕が北原君に声を掛けたのは、彼が必死にトランプをやろうとクラスの連中に声を掛けているのを見かけたのが丁度三日前だと言う事と。それに日に日に目に見えてやせ細って、死人のようになっていく様を見ていたからだ。まあ、分かりやすくて良かったよ。実際助かった。有り難う。
彼はおとなしく友達が多いタイプではない。まして自分から積極的に話しかけるなんてありえない。そんな彼が、今日までの三日間、誰彼かまわず話かけるというのは相当逼迫した状況だったのだろう。自分の命が危ぶまれるような。
まあ、ここまででも十分な証拠かも知れないけどね。ダメ押しが一個。彼が鞄から取り出した一組のトランプ。むき出しで、ただ輪ゴムで縛ってあるだけのトランプだったが、そのトランプから黒い糸くずが排出されていたのだ。
どうやら、そのトランプが北原君から生気を奪ったりしている元凶であるようだった。はい説明終わり。
僕たち二人は一切会話をすることなく、美術準備室に到着した。
北原君は中に誰も居ないことを確認して、中へと入っていく。僕もそれに続いて中へと入っていく。美術準備室には、真っ白なカンバスやスケッチ用の石膏の像が置いてあり結構不気味な部屋だね。
僕と北原君はその部屋の真ん中にある長机に向かい合うようにして座った。パイプ椅子が僕の体重をうけてギシっと軋む。
北原君は僕の顔を見つめて口を開いた。
「何する?」
「北原君が決めていいよ」
「じゃあ、ババ抜きで」
「いいよ」
北原君は無言で、トランプを束ねていた黄色い輪ゴムを取り払う。輪ゴムはポトリと床に落とされた。不器用な手つきで、束の中からジョーカーを一枚取りだした。一枚外されたジョーカーは机の端へと鎮座した。道化師が不気味な笑顔で笑っている。
「じゃあ、ルールなんだけど」
「ルール? ただのババ抜きじゃないの?」
「あ、内容はただのババ抜きなんだけど、そうじゃなくて、先に何回勝ったら勝ちかって事を決めようかと……」
北原君は申し訳なさそうに縮こまった。面倒だなぁ。
「ああそう言う事。北原君が決めていいよ」
「じゃあ、三回勝負して二回以上勝ったほうが勝利者ということでいいかな?」
「ああいいよ」
僕がそう答えた直後だ。
机の端に置かれていたジョーカーからゲル状のどろどろしたものがあふれ出した。文字のごとく、溢れ出したのだ。唐突に、どろりと。
半透明で赤色のゲルはみるみるうちに、増殖し広がっていく。僕はその様子を思わず眺めて見つめてしまう。
机を覆いつくし、床へと流れ、広がり、そして今度は壁を這い上がっていく。
「どうしたの? 何か見えるのかな?」
北原君は口を三日月の形に歪めている。ああ、悪魔っぽいなぁその顔。僕も飼ってるんだよね似たようなの。
北原君の質問には軽く首を振って答えた。
「そう。そうだ言うの忘れていたけれど、もう勝負が終わるまで帰れないからね」
確かにそのようだね。うん。面倒だなあ。
壁を這うように広がったゲル状の物体はすでに美術準備室を覆い尽くしている。ドアも当然のごとくそのゲルに目張りされている。きっと開けようとしても無理なんだろう。出るつもりなんて無いですけどね。ご苦労なことです。
きひひひ……。
ドアの小さな窓に映る僕の姿が小さく笑っている。まあ、待ってよ。もう直ぐだからさ。僕も小さく笑顔を作って、目の前の北原君に顔を向けた。そしてさも気が付いていないように言ってあげた。
「大丈夫。終わるまでは帰らないさ」
「そう。じゃあ始めよう」
北原君はそう言ってトランプをきりだした。
ババ抜き。
やったことが無いという人は恐らく皆無だよね。トランプといえば之と言う位、ポピュラー、かつスタンダードなゲームだ。
ルールも至って単純明快。
お互いに相手の手札を一枚ずつ引いていき、数字が揃ったら捨てる。先に手札が無くなったら勝ちというものである。
このゲームはいかに相手にババを引かせるかに勝負が掛かっているとかいないとか。
相手にババを引かせない限り、自分に勝ちが無いのだから。
しかし、今回に限っては負けが目的。ババをいかに自分に引き寄せるかが鍵となってくる。でもまあ、最終手段としてあからさまなイカサマをするって言う手もあるけどそれは使わない方向でいこうと思う。がんばれー僕。
僕は配られたカードを確認し、数の揃っているものをばしばし捨てていく。
そして残ったのは、ハートの8、同じくハートの2、スペードのジャック、そしてクラブの6だ。どうやらババは北原君が持っているらしい。
僕はちらりと覗き見るように北原君の顔を見る。
なにやら困ったような顔をしている。駄目だよー。ははは。勝てない訳だよ。まあ、二人でやっている以上ババの行方は明確にわかってしまうのだけど。
「北原君先攻でいいよ」
「うん。じゃあ引くよ」
北原君は僕の手札の一番右、彼から見て一番左のカードを持っていった。ハートの8だ。
北原君は、自分の手札からも一枚取り出して、それを捨てる。
まあ、二人でやっているんだから、引けば必ず捨てられる訳だね。さくさく進んで実によろしい。
さあ、僕の番。
僕は北原君の顔を見ながら、北原君の手札の淵を撫でるように指を這わせていく。
僕の指が、僕から見て右から三番目のカードに触れた時、北原君の顔に笑顔が浮かんだ。それでも構わず僕の指を隣に移すと、真顔に戻った。
本当分かりやすい。
ポーカーフェイスって言葉があるのを知っているかい? と思いながら、僕は北原君の右から三番目のカードを引いた。くるりと自分に向けたカードには、ゲル状のものを吐き出したジョーカーと色違いの同じ奴。彼は僕をあざ笑うかのように、笑っていた。
「残念でした」
北原君は笑顔でそんな事をおっしゃった。
「はは。本当だやられたよ」
僕はそう言ってババを北原君にも分かる様に、手札の一番左端に配置した。
それを見て北原君の顔にちょっとの驚きの色が浮かんだが、すぐに笑顔に変わった。そして僕のことを注意するでもなく、僕の手札を一枚持って行った。
うん。どうやらちゃんと勝つ気はあるらしい。良かった良かった。
あまりに手札が読みやすいので、本当は負けようとしているんじゃないかと思っていたのだ。だがどうやらそんな気は無いらしい。
しかし、北原君は将来絶対詐欺に会うと思う。うーむ。彼の将来が少々心配になってきた。まあ今は勝負に集中しなくては。
僕も無言で北原君の手からカードを奪う。
ハートの6。
僕は手札からクラブの6を取り出し、一緒に捨てた。
これで僕の手札は残り二枚。
北原君が僕の手札から、見事スペードのジャックを引けば勝利に一歩近づくわけだ。
その彼はゆっくりと僕の手札に手を伸ばす。
そして指を掛けたのは、スペードのジャック。
そうだ引くんだ。良いよ良いよ。
でも、北原君は微笑んで、隣のジョーカーへと指を移した。
ええー?
ありえないでしょ?
おいおいおい、何やってんだよ。そっちじゃねえ。隣だとなり。僕は心の中で連呼する。隣だよ、隣のを引け。ほら顔。顔ですよ。笑顔ですよ。それ取ったら僕嬉しくなっちゃうから。良く見てねぇ。お願い北原。
僕の思いが通じたのか、北原君は指をジャックへと戻した。
僕はほっと安堵した。しかし、それもつかの間。
北原君は、隣へと再び指を移したのだ。
あーもう何やってんだよ。
ジョーカーに来たら顔を笑顔に。ジャック来たなら嫌そうに眉間にシワ寄せたりしてるよ。
あーもー良いから。
早く勝ってくれ。
面倒くせえんだよ。
僕の願いが通じたのか、北原君は指をジャックに移動させ、すっと引き抜いた。
「俺の勝ちだね」
北原君は勝ち誇った顔をして、二枚のジャックを捨てた。
何が俺の勝ちだねだよ。この野郎が。僕はそう思ったが口には出さず、笑顔で言った。
「はー、負けた。強いね北原君」
もちろん真っ赤な嘘だ。
それでも北原君は自分が絶対無敵のギャンブラーにでもなったかのように不敵に微笑んだ。そして事もあろうにこう言いやがったのだ。
「ははは。顔に出てるよ。どれがジョーカーかね」
「そ、そうなんだ……はは」
何んなんだよ? 手前は。僕が勝たせてやってるんだよ? 分かってる? もしかしてさっき、指を往復させていたのは、僕の顔色を確かめるためだとか言うんじゃねえだろうな。
ちょっとおだてたら調子に乗りやがって。
僕は早口で、北原君のことをののしった。
いやまあ、心の中ですよ。
まあ、いや。だって。イライラしちゃたんだもん。
「ははは。そうなんだ。それはいいから次に行こうよ」
「そうだね」
北原君はそう言って、カードを集めてちゃっちゃと切り出した。
得意げな顔で。
うー、なんかムカつくぞ。
そして、配られた新しい手札。
このゲームで終わりだ。落ち着いて綺麗に終わらせるんだ。
僕はそう自分に言い聞かせ、手札を捨てていく。
北原君と僕の間には、カードが次々と捨てられうず高く積まれていく。
あれ、これはやばいんじゃないのか? この流れは……。
「あっ」
北原君の悲しげな声が美術準備室に響いた。
本当にキレイに終わってしまった。綺麗過ぎるって。これ。
北原君の手にはカードが一枚。
僕の手には無し。
そうでした。ババ抜きにはこれがあるんだ。
僕の手札はあれよあれよと言う間に僕の手の中から消え去った。最初の手札で全部終わってしまったのである。
二回目の勝負僕の勝ち。不本意ながら。僕の目の前で、がっくりと肩を落とす北原君。
「こんな事もあるよね。珍しいけど。大丈夫こんなの何回も続かないから」
うん。僕もそう思いたい。
北原君は小さく頷いて、手にしたババを詰まれたカードの山へと戻した。
「そうだよね。よし。じゃあ気を取り直してやろう。これが最後だ」
北原君は元気にそう言った。なんだか僕には空元気に見えた。まあ達観してしまったのかな。それもありえる。
北原君は緩慢な手つきで詰まれていた山をかき回す。一枚一枚カードを配っていく。心なしか北原君の手が震えているように見えた。
それも無理のないことだ。
だって、自分が生きるか死ぬかが、この一回のババ抜きで決まってしまうのだから。きっと、僕が、僕とのこの勝負が最後なんだろう。
きっと彼のリミットはもうぎりぎりなのだ。
「じゃ、じゃあ。始めよう」
僕らは手札を恐る恐る確認するように捨てて行く。
どうやら僕の手札にジョーカーがあるみたいだ。これでさっきと同じことが起きても、僕の負けが確定する。というか、これで確定して欲しい。
しかし、僕の願いは天に通じなかったようで手札が残ってしまった。
今度は北原君4枚。僕が5枚。
まず、北原君がカードを引いていく。
ゆっくりと慎重にカードを選び、一枚持っていった。
僕は北原君がカードを持って行ったのを確認して、さっとすばやくカードを引く。
こうして、ゲームは淡々と進んでいく。
そして、大詰め。
僕の手札が二枚。北原君一枚。ババの移動は一度も無い。
ここにきて北原君の運が本領を発揮したようだ。
しかし、まあここまでくれば運も特に必要ない。
北原君が、ジョーカーを引かずに上がればそれで終わりだし、もし、ジョーカーを引いてしまっても、僕は北原君のジョーカーがどれかが分かるのだから、毎回ジョーカーを回収すれば言いだけの話なのだ。
ちょっと安心。長かったねぇ。うんうん。
北原君は、顔に脂汗を輝かせ、息を荒くしながらカードを選ぶ。
荒い息はなんて表現は生温いかもしれない。もう過呼吸寸前だろう。
数回、いやもう数十回僕のカードの上空を行ったり来たりしていた北原君の指が意を決したように停止した。
ただしジョーカーの上。
北原君の指は無情にもジョーカーを強く持ち、持っていく。
「あ、ああああ……」
北原君の口からは、この世のものとは思えないような声があふれ出し、血の気が引いたように真っ青だった顔は更に青くなった。血の色が青くなったみたいに見事な真っ青加減。
北原君は力なくジョーカーを手札に加えた。
そして交ぜる事もせずにそのままの状態で、差し出してきた。
「もう駄目だ。きっともう駄目なんだ」
北原君は虚ろな目をしてそんな事をぶちぶちと唱えている。
「こっちだ」
僕は先ほどまでと変わらないペースで、カードを引いた。
顔の前でひっくり返したのは、もちろんジョーカーだ。
僕はそれを北原君に分かるように手札にくわえてから、手前に差し出した。
……。
……。
あれ?
待っても待っても北原君は呆けたまま手札を引く気配が無い。僕は北原君に声を掛けてみる。
「おーい。君の番だよ」
「えっ?」
北原君は驚いたような顔をして僕を見る。続いて自分の手札を見る。
顔には血の気がちょっと戻り、笑顔が作られた。
「まだ……続いてる?」
「当たり前だろう? 僕がジョーカーを引いたんだから」
「は、はははは。そうか。そうだね」
なんだか吹っ切れたような顔で力なく笑った北原君。
今度は迷わずにカードを引いて持っていった。
「や、ややややったあーーーーー」
北原君は揃ったカードを投げ捨てるように両手を挙げて喜ぶ。そしてそれを祝福するように投げ捨てられた二枚のカードが舞う。
我を忘れてはしゃぐ北原君を微笑ましい気持ちでしばらく見ていた。
こんなにはしゃぐのは当たり前だろう。
だってもう失ったと思っていた命が、ちゃんとあるのだから……。
さて、ここからが本番だ。一体何が起こるんだか。
僕は、うっすら笑って手札のジョーカーを、うず高く積まれた捨て札の上にゆっくりと置いた。置いた瞬間にカードが散らばる。空中を舞った。
「えっ」
唐突に腕に痛みが走る。
トランプの山がバラバラと準備室中に散らばった。
山の中から手が生えていた。猛禽類のような爪を持ち、ミイラのよう干乾びた腕。それがトランプの山を掻き分けて生えていた。
その腕は万力のような力で僕の腕をぎりぎりと締め上げる。みしみしという、骨のきしむような嫌な音がした。と同時に襲ってくる鈍い痛みに僕は顔を歪める。
「ががががががが」
そんな中、気味の悪い声を発し始めたのは北原君だ。
さっきまでの浮かれた表情ではない。
がくがくと普通の人間が出来ないような震え方をしている。
そしてそれは出てきた。
がくがくと揺れていた北原君の体の動きが止まったと同時に、北原君の口から。ゆっくりと這い出してきた。
顎が外れたかのように大きく広がった口。其処から干乾びた腕が生えてきて北原君の肩へと延びる。続いて現れたのは虫を思わせる複眼が覆った頭部。最初は細い状態で口から現れて、完全に出来ると風船に空気を入れたかのように膨らむ。
やせ細った、水分を失った体。
なんだ?
なんなんだあれは。
大抵のものは見てきたつもりだった。けどあれは。
その時僕が目にしたものは気持ちの悪さでは群を抜いていた。若干腰も引けてたと思う。
全体的には干乾びたミイラの表面を、うっすらと粘液が覆っているような感じ。頭部は前述したように虫の複眼が沢山ついていて。ミイラ酔うな体の肩からは虫の前足の様な腕が生えていた。硬質で針金の様な毛が疎らに生えたその腕は、えらく大きくて、伸びていて。恐らく自身の身長よりも長い。
ちなみに右手は肘から先が無い。多分僕の腕を掴んでいるから。
体は干乾びている癖に餓鬼のように出っ張っている腹を残った左腕が撫で回している。
それは苦しむようにしばらくぐねぐねと、床を這い回っていた。しかし、虫の両手を地面に突き立てて緩慢な動作で立ち上がる。
そして左手を上げて僕を指差してきた。
「オマエ……次。勝ツマデオマエノ、中デオマエヲタベル」
黒い空洞の様な口からごぼごぼと。緑の絵の具に黄色とか、ピンクとか混ぜたような気持ちの悪い液を飛ばしながらそう言った。そしてもう逃さないとばかりに、僕を固定している腕が力を更に込める。あああああ、みしみし鳴ってる。痛いから痛いから。
「うぐっ」
べちゃり。どちゃり。
泥の付いた長靴で歩くような音を鳴らしながら、そのなんだか分からないものは一歩一歩近づいてくる。
虫の目が僕の顔を覗き込む。
うわっくさっ。腐った肉みたいな臭いが。ひー。
思わず顔をそむけた僕にご立腹したのか、穴の様な口が大きく開かれた。うわあ中からエイリアンの口みたいな管が生えてきました。それは僕の顔を汚い液でどろどろにしていきます。ひー。勘弁。思っても腕がしっかり固定されているので無理っぽい。あひー。
ぶちい。
「ギャガガガ」
肉のちぎれた音と共に、汚い化け物さんが僕から一歩、二歩と下がる。
引きちぎられた舌の先端が液体を撒き散らし、空中を舞って。消えた。
「職務怠慢かよ。もっと早く出てきてくれよぉ」
僕は解放された腕をさすりながらぼやいた。痛た。
「しょ、しょくむ。知らないまずい。まずい。ひゃひゃひゃ」
机の上にはしゃがみこんで口を動かす『俺』。既に千切った舌は食い終わり、机から生えていた腕も現在租借中。終わり。
化け物さんはその会話に入りたかったのか、虫を思わせる腕を『俺』目掛けて伸ばしてくる。完全戦闘態勢ですね。あなた。
何かが爆ぜる様な音がした。
虫の腕は両腕とも半ばから消失していた。歪な傷口から推察するに、捻りあわされて千切れたらしい。
ごりごりごり、ばきん、ごき。
腕は硬い木を機械で潰すような音を立てながら『俺』がその体に取り込んでいく。
「まずい。でも、腹は膨れるな。まずいまずい」
にたにたと邪悪に笑いながら、『俺』は立ち上がった。
「ぎゃあいいいいい、あぎゅうう」
威嚇なのか。痛みの苦痛を訴えているのか。奇声を上げながらこちらへと視線を向けている化け物さ
ん。ああ、いや僕じゃなくて『俺』の方かな。複眼だからいまいち視線が読めない。
彼に対する感想を『俺』はこうのたまいました。
「うまくなさそうだな。硬そうで、硬そうで嫌になる」
お言葉と同時に机の上から姿が消えていた。ミイラの残った腕も。
「ぎゃああああああああ」
化け物は今度こそは本当の絶叫を上げる。化け物背後では『俺』が引きちぎったミイラの腕に噛み付くところだ。肉に歯を突き立てて引きちぎる。租借する。飲み込む。
「次次次。ど、どこ? そこ。そこが良いか?」
俺は首を傾げ化け物さんを上から下へと品定め。
「ぎゃ、う」
体を向けるのが、億劫なのか。丁度絶叫と同時に仰け反ったしこのままで良いかとおもったのか。取り合えず背中を逸らせるようにして、観察者へと視線を送る化け物。僕のほうにはぽっこりと突き出たお腹を向けて無関心なご様子。一安心。では無かった。
化け物さんは仰け反りを解除。僕を見つめる。その視線に殺気を感じ、引きつった笑顔と同時に軽く手を上げて挨拶をした。
「があああああ」
案の定、奇声を上げながらこっちに襲い掛かってきた。
途中で千切れたホースの様な舌をくねらせ、先端から粘液を撒き散らしながら僕目掛けて飛び掛ってきた。まあ、無駄な努力ご苦労様と言っておこう。
「うむ。ご苦労さん。そしてバイバイ」
僕の言葉に疑問を持ったのか、弛緩した表情で首を傾げた化け物さん。その顔は次の瞬間には上半分が楕円形に切り取られた。そして切り口に手が添えられ、真下へ引き落とされた。
床が抜けたんじゃないかと思うような振動が、準備室をがたがたと揺らす。
「ぎゃはぎゃははは。う、が。もういいいいい。しねしね。食われてくえ」
胴体の縦の長さを殆どゼロにされた化け物。それを潰した張本人である『俺』が哄笑を上げながら、解体し租借。飲み込む。
骨の折れる音と、肉が千切れる音と。
廃棄物の処理を終了した『俺』は恍惚とした表情で立ち上がる。天井を見上げたままお腹をさすって、その姿を消した。
ガラスに僕の姿が復活した事を確認して。辺りを見回す。
倒れて動かない北原君。床や机に散乱するトランプ。倒れた石膏像。汚いどろどろしたものは綺麗さっぱりなくなっているから良いとして。
「ああっと」
僕はため息を付いて頭を左右に振る。片付けは全部僕がやるのか。面倒くさいなぁ。
このあと予想外に飛び散っていたトランプを全部回収する前にチャイムが鳴ってしまった。なので気絶していた北原君を保健室に連れて行ったという理由で授業は結局サボった。
ああ何て怠惰なんだろう。
僕は男にしては軽すぎる北原君をベッドに寝かせたあと、屋上に行き改めて集めたトランプをマジマジと見た。うーんいたって普通。
全然赤くない。
でも、コレだよなあ。
まあいい。とりあえずコレを持って行ってみるか。
と言う事で、六時間目もサボリ決定。
僕はとりあえず、五時間目終了まで昼寝する事にした。誰も居ない屋上で寝そべる。うーん気持ちの良い青空が広がってるねぇ。そういえば琴坂になんて説明したものか。もう見つけちゃったし。ま、いいかそれは後で考えるとしよう。
おやすみなさーい。