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よういっ…

何らかの手違いで大役を背負うはめになったら、誤解を解けばいい…と、二人が気付かないはずがない。

この子たち、確信犯だ。

では、なぜ?


聞いて、呆れた。

二人は、墓穴を掘ったのだった。呆れるほど自分から、進んで。

まずダメなのが、智也くん。よってたかって彼をなじる友達に怒りから思わず「選手に選ばれなかったからって負け惜しみかよ」と、実は自分から喧嘩を吹っ掛けてたらしい。

そして彼らの怒りの火に油を注いでしまったのが佳奈ちゃん。口論でさんざん彼らを馬鹿にしたらしい。悪いけど、佳奈ちゃんが自分で言い過ぎと思うほどだったなら、余程言い負かしたんだろうなあ、と思う。

ホント、ばか。

自分たちもそう感じているのだろう、佳奈ちゃんは、誠心誠意で謝っていた。「私のせいなんです。本当に。だから、智也は責めないであげてください。お願いします」緊張しているのか、痛々しいほどに下唇をかみ、下を向いたまま動かない。


「ちゃんと言っとけよ、そういうこと。そういうの、ホントやな感じするからな」

一瞬、耳を疑った。

キレて二人に怒鳴るのではないかと言うほどきつい目で二人を見ていた先輩が普通の声で話したんだから。思わず、聞いてしまった。

「先輩なんでs」

「約束を破る奴にはなりたくないんだ」

…どう答えればいいんだろう。相手が先輩だからか、部屋を取り巻く妙にはりつめた空気のせいか、うまい言葉が思い付かない。代わりに佳奈ちゃんが呟いてくれた。

「…素敵ですね、そうい」「適当なおべんちゃらはごめんだ」

さっきとはうってかわって冷たい声が、彼女に最後までは話させなかった。先輩に冷酷な目付きがまた戻ってしまった。

「明日、6時に駅前の公園に居るから」

先輩はそれだけ吐き捨てる様に言うと、誰からの返事も聞かずに部屋を出ていってしまったのだ――


私はストップウォッチ係を割り当てられた。

汗にまみれ、歯をくいしばるようにして走ってくる智也くんのタイムを測定して先輩に伝える。

練習初日はうまくいったとは到底言えない様な状態だった。疲れの為か、緊張しているのか、タイムが出ない。いつもここで練習を重ねている陸上部によると、公園を斜めに突っ切ると丁度リレーで一人が走る長さくらいになるらしいけど、智也くんのタイムは30秒位。選手なら25秒はきってほしいと言われているのに、直線で走ってこれじゃあ、かなり大変だ。

それでも、智也くんは頑張った。陸上部の部活の日は朝から公園が使えないと知れば一人で近くの通りを走ったり、先輩のフォームをビデオに撮って研究したり。その甲斐あってか、タイムも段々縮まって来た。練習を始めて2週間で、タイムは26秒台まで上がってきていた。

本番まであと少し、練習もよりキツいものとなってきた。でも本人は勿論、先輩も、佳奈ちゃんもが不平一つ言わず黙々と練習していた。

皆、必死すぎた。

必死すぎて、気づかなかった。

公園の草むらに隠れた、人陰に。

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