誤算 × ドジ = 貧乏くじ
更新が遅くなってしまいました。
切りどころがわからなかったので、今回は長いですが、
皆様の暇つぶしになれば幸いです。
そこから僕はテレビを見ても本を読んでも全く頭に入ってこない。
11個の鍵はどこに行ったのか?
きっとこの11個の鍵の持ち主の中に犯人はいる。
犯人はこれを隠したかったのだ。
僕の仮説が現実味を帯びてきた。
この仮説以外からアプローチする方法はないだろうか?
例えば後藤の事件から。共通点は『トラップの行進』を持っていたこと。
それが同一か否かは別として、おそらく同一人物の犯行だと思わせたかったに違いない。
どうして同一だと思わせたかったのだろうか?
あと、対処が中途半端なのが気になる。
表紙が違うのを持たせたのは何か理由があるのだろうか?
同一犯であるなら後藤の殺害方法は地味すぎる。
もっと派手な演出方法があったはずだ。
なんというかやり方がしっくりこない。
違和感がある。
考えられる範囲はここまで。
やっぱり後藤の方からのアプローチは難しいか。
うーん。
そこで部屋に備え付けられた電話が鳴る。
夕食の準備ができた。
一旦思考はストップ。
料理を楽しもう。
運ばれてくる料理は今日も豪華だった。
肉も魚介類も野菜も全てが美味しかった。
きっと料理人の腕がいいのだろう。
説明する仲居さんも控えめで上品で気にならない。
「いやぁ。美味いですね」
「ありがとうございます」
「こういう日本料理っていうのかな。結構、味が難解すぎて、美味いのかまずいのかわからないこと多いじゃないですか。これは美味い。ただ美味い食べ物として脳が処理できますね」
「りょう君、褒め方が難解。要するに美味しいということですから、後半は気にしないで下さい」
彼女が僕の意見に指摘と説明を補足した。
仲居さんはそのやりとりを聞いて少し笑ってくれた。
「そのご意見は料理長、喜ぶと思います」
仲居さんは控えめにお辞儀をする。
「今日の昼のかき揚げも料理長さんの配慮ですか?」
彼女が口元に手を当てながら仲居に訪ねた。
「えぇ。もしかすると旦那さんは奥さんに気を使って同じ蕎麦にしたのかもしれないから、かき揚げを付けたと申しておりました」
「見事」
「すごいね」
僕は心底感心した。
クライアントの要望の上をいくサービスとは中々できるものではない。
一通りの説明を終えた仲居さんは「ごゆっくり」と言い残して退室した。
「料理長すごいな」
「うん。何かかっこいいよね」
「うん。かっこいい。120点。ここにはまた来ようか」
「そうだね。ファンになっちゃうね」
「うん。もうすでに友人に勧めたいレベルだね」
「私はもう全世界に発信したいレベル」
僕らは食事を終えるとテレビを付けて小休憩をした。
「何か思いついた?」
隣りの彼女はお酒の影響か普段より少し体温が高い。
「いや、何も思いつかない」
「11個作る理由かぁ。鍵コレクターとかじゃないよね?」
「それならきっと部屋を調べた時にわかると思うよ」
僕は伸びをして、首をコキッと鳴らして頭を回転させ始めた。
「うーん。そうだよねぇ」
「うん。誰が持ってるんだろうね」
僕の携帯電話のバイブレーションが反応した。
「もしもし」
「夜分にすいません」
「いえいえ、何かわかりましたか?」
電話の相手は岡崎。
カーナビの音声が聞こえる。
忙しく走り回っているのだろうと想像した。
「わかりましたよ。わかったんですけど何とも」
「えーっと、誰がお持ちだったんですか?」
「御社の相沢さんです」
「え?相沢!?」
「はい。10個。彼女がお持ちでした。あと、今調べてる限りでは、葛西さんは他の合鍵業者には依頼してないようですね」
「え?相沢が10個持ってたんですか?」
「そうなんですよ。ただ彼女は誰の鍵か知らないんです。ひたすらポストに入れ続けられていたようです」
「はぁ。でも10個なら1個足らないですよね?」
「えぇ。その1個は不明ですが、10個は間違いなく葛西さんの部屋の鍵です」
「あぁ。そうですか。相沢が、、」
僕は彼女の顔を見る。
彼女は心配そうに僕を見上げた。
「葛西さんの死亡推定時刻の2時頃なんですが、彼女、ご自宅で一人だったようです。アリバイとしては無いですね」
「はぁ。そうですか。でも彼女に葛西を担いで移動させる腕力はないですよね」
「そうですよね。うーん。進展すると思ったんですが、また行き止まりでした」
行き止まりだろうか?僕の頭の中が高速回転する。
僕は右手の手のひらを上に向けて彼女に差し出す。
彼女はその手に煙草とライターを置いた。
煙草をくわえ、火を点ける。
携帯電話から「もしもし、もしもし!」と岡崎の声が聞こえる。
僕は聴覚に割り当てているメモリを少しずつ頭の回転に割り当てていく。
岡崎の声は少しずつ遠のいていった。
僕はその場に立ち上がり、吐き出した煙を眺めていた。
勢いよく吐き出された煙は瞬く間に部屋の空気にかき消された。
白い煙がこの無色透明な空気のどこへ消えてしまうのか、ふと不思議に思ったが、この件についての思考の優先順位を下位に移行した。
目を閉じて、今までに得た情報を頭の中で整列させる。
一つ一つの事柄。
一人一人の人物が僕の中の図式にはめ込まれていく。
いい感じだ。
構築中の難解なシステムがENTERボタン一つで完成し動き出すような、パズルの最後のピースを入れ込むような高揚感が身体を巡り、背中から頭へと震えが伝わる。
「後藤の家はお調べになりました?」
「え?えぇ。簡単にですが。すいません。電波悪くて、移動中なんですよ」
岡崎は僕が無視したことを電波が悪いと処理したようだ。
「彼の家を調べると鍵は出てくるかもしれませんね」
「え?でも彼はアリバイがありますよ?」
「犯人がもし同一犯なら彼を犯人にしたいはずです」
「あぁ。手配します」
岡崎は同乗者だろうか、「後藤宅で葛西の鍵探すように伝えろ」と指示している。
結構、偉いポジションなのだろうか?
「あと。葛西発見時は、葛西の家は鍵がかかってましたか?」
「え?えーっと、少々お待ち下さい。かかってますね。かかってます」
「なるほど。鍵を掛けて出たということは、葛西の家。例えば見つかりにくい排水溝とかにはないわけですね」
「おそらく。神谷さんやっぱりすごいですね。あと、今さらですが、私が神谷さんに色々聞いていることは内密にお願いします」
「あぁ。わかってますよ。本当に今さらですね。あと後藤が自殺である可能性が非常に低くなりましたね」
「え?どうしてですか?」
「おそらく後藤の家から鍵は出てきますよ。しかも見つかりにくい所から。後藤が僕に連絡しなかった意味も一つ可能性として浮上しました」
「なんですか?」
「残念ながらおそらく後藤は犯人と繋がっていたんでしょう」
「えーっと、全く話が見えません。どういうことですか?」
「ちなみに仮説ですよ?僕の仮説ではなぜ犯人と繋がっていたかはわかりませんが、後藤は犯人と繋がっています。ご説明いたします」
「え?はい。お願いします。すいません書く物を。はい。どうぞ」
「まず、犯人は後藤を動かす力を持っていました。それは脅迫なのか恩義なのかはわかりません。そして後藤はその人が葛西を殺すことを知っていました。では最初からお話ししますね。犯人は葛西を浴室で殺します。それは先日お話しした通り、都合がいいからです。血は洗い流せばいいだけだから。その際、本に血がかかります。それも先に言った通り、それ以外の本が全てあり、ネットショップで買っていれば購入履歴でばれることから、葛西にそれを持たせます。そして犯人は路上に葛西を運び出します。ドアには鍵をかけて。鍵を閉めた理由は自宅で犯行が行われていないというカモフラージュでしょう。ここまでいいですか?」
「はい」
「では、なぜ後藤は私への連絡を遅らせたのか。それは犯人から『警察から連絡があっても、誰にも伝えるな』もしくは『15時まで誰にも伝えるな』という指示を受けていたからです。時間は適当ですよ。要するに伝達を遅らせろということです。どうして犯人はそんな指示をしたのか?それはその後藤が会社に出社している間に後藤の家に鍵を隠すためです。すぐに僕が事件のことを知ってしまった場合、会社から強制的に退社命令が出る可能性があります。だからおそらく後藤は理由を知らなかったんでしょう。ここで問題になるのは警察からの電話を必ず彼が出なければならないということです。ちなみに僕はほとんどの土曜日は出社していますし、他の連中もよく出社しています。でも他の連中が電話に出てしまってはいけないんです。ここで彼が財布の紛失届を出していることが効いてきます」
「紛失届ですか?」
「はい。あれだけ騒いでいれば、警察から連絡となるとうちのチームの人間はもちろん。それ以外のチームでも後藤だと判断するでしょう。そのために彼は紛失届を出していたんです。おそらくそれも犯人の指示です」
「おぉ」
「そこで犯人はゆっくりと時間をかけて後藤の家のどこかに鍵を隠す時間が取れます。ではなぜ僕への連絡を遅らせるという危険を冒してまで時間が必要だったのでしょうか?最優先で行う必要がある鍵を隠す行為は数十分もあれば十分ですよね?ではなぜか。彼はその時、忙しかったんです。抜ける事が難しい状況だったんです」
「どういうことですか?」
「ちなみにこの仮説は僕の知っている人間のみで構成されています。もし僕が知らない人間が犯人であればわかりません」
「えぇ。わかりました。勿体ぶらずに教えて下さい」
「すいません。僕も自分でまとめながらなので。鍵はあくまでも相沢のポストに届けられたものです。相沢のポストに戻してしまえば、それで済みますよね?そうすれば相沢が犯人になっておしまい。しかし相沢が犯人では困るんです。犯人は、わざわざ後藤を犯人にしようとした。しかも後藤を殺して口を封じてから。尚且つ血が付いたトラブルを利用して、同一犯であるように見せるために、トラップの行進を持たせた」
「あぁ。はい」
「犯人の条件は2点です。『警察からの会社への連絡時、自由な行動が取れない』『相沢が犯人では困る』この2点から一人の人物が浮かびあがります」
「あぁ・・」
岡崎から『ため息の悲鳴』のような声が上がる。
「僕は三浦さんが犯人である可能性が最も高いと思っています。彼には全てにおいて理由がつきます。時間を遅らせた理由は葛西の事件の捜査中にいつ抜けることができるかわからなかったからです。あと、実の娘を犯人にするわけにはいかなかった。そして葛西は相沢のストーカーですよね?」
「え?はい。可能性としては高いと思います」
「それを三浦さんが知れば、殺す理由もありますね。ドラマっぽく言うと動機って言うんですか?未だに三浦さんと後藤との関係性はわかりませんが、三浦さんは後藤に直接的な恨みはないので、優しい薬殺を選択したのかもしれません。最後のは仮説でも何でもない。僕の感想です」
岡崎は黙っている。
深刻な顔をして、携帯電話を耳に当てる岡崎の顔を想像した。
これは僕がつい先日経験した絶句というものだろうか?
それとも思考を巡らせているのだろうか?
なるべくこのショッキングな内容には温度を持たせないのに話した。
モデルは高橋先生。
メトロノームとまではいかなかったが、ある程度定温は保てたような気がする。
「岡崎さん?」
「はい。三浦を探します」
「はい。よろしくお願いします」
僕は通話を終了すると、その場にへたりこんだ。
彼女が僕の肩を持って、何か話しかけているが、今は上手く聞き取れない。
頭の回転がまだヒートアップしている。
徐々に通常の割り当てに戻さないと。
三浦は葛西がストーカーであることを知った。
そして葛西を殺そうとした。
何かで後藤の存在を知り、後藤を利用した。
セキュリティで後藤にアリバイがあることだけが、彼にとって誤算だったのだろう。
決定的な誤算。
後藤を殺人犯にすることを徹底すれば、本を持たせる意味がない。
本を持たせたことで、わざわざ『後藤以外の別の殺人犯』を想起させた。
同一犯にする理由は相沢に矛先が向かないようにするためだけだろうか?
三浦が捕まればわかるだろう。
後藤はドジを踏んだな。
何が理由かはわからないが、仕事でも貧乏くじを引く奴だった。
最後までお読み頂きましてありがとうございました。
次話もよろしくお願いします。




