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旧刊 × 新刊 = 共通点

昼食はピザを取った。


僕がピザ好きだということもあるが、徹底的にダラダラしようという僕の提案を彼女は受け入れた。


インターネットで注文をし、僕が席を立つと携帯電話のバイブレーションが反応した。


液晶には岡崎が表示されていた。


まだやり取りをするだろうからと思い、メモリに登録したものの、1時間弱でかかってくるとは思わなかった。


僕は彼女を見てうんざりした顔を作ってから、彼も仕事だと自分に言い聞かせスイッチを入れて着信を受ける。



「もしもし」


「もしもし。何度も申し訳ございません」



先ほどの電話とは話し方もテンションも違う。


ピリピリとした空気が声を通して伝わった。


「いえいえ」


「今、お時間大丈夫ですか?」


「えぇ。大丈夫です」


「実はですね。神谷さんの同僚の後藤さんですが、自宅で死体になって発見されました」


「え!?」


「連絡が取れないこともあって、ご実家にご連絡させて頂いたんですよ」


「え?えぇ」


「ご家族の方が合鍵をお持ちだったので、お越し頂きました。ご実家は車で30分くらいのところですね。そして後藤さんのお母さんと一緒に警官がお部屋にお邪魔しましたら、カーペットの上に倒れてらっしゃいました」


「また包丁で刺されてたんですか?」


「いえ、今調べていますが、外傷がないことと、特有の黄疸ができているので、薬殺だと考えています」


「そうですか。じゃあ服も着てたんですね」


「そうですね。今回は葛西さんの時のようなセンセーショナルなものではなく、普通と言えば普通ですね」


「そうですか。えー。まだイマイチ処理が追いついてないんですけど、この件は立花とかにはもうお伝え頂いてますか?」


「いえ、これからです。葛西さんの件でお伺いしたばかりなのですが、後藤さんの件でお話しをお伺いしたいのですが、今ご自宅ですか?」


「えぇ。自宅です」


「お邪魔してよろしいですか?」


「はい。どうぞ。何時頃ですか?」


「近くですので、15分もあれば」


「了解しました。お待ちしております。では」



薬殺。


何というか今回はあっさり殺人として紹介されたな。


と自分の中で感想を呟いてから彼女を見た。



「あの、後藤って知らないよね?」


「後藤って人は知らないかな。あ。昨日電話してた人?」


「そうそう。移転してからの俺の部下やねんけど、家で死体で見つかったって」


「え?」


「うーん。関係してるのかな?してるよなぁ。ごめん。今から15分くらいで岡崎さん来るって」


「わかった。着替えるね。丁度いいかも。しっかり見とくね」


「うん。あと、明日からしばらく会社休めへんか?」


「どして?」


「俺の周りで殺人が2件も起こってる。正直、心配やねんけど」


「でも、一切外に出ないわけにもいかないし」


「いや、実家に一時帰宅とか。さすがにできないよな」


「うーん。難しいかなぁ」


「だよな」



彼女は銀行で働いている。


有給はそれほど使っていないと思うが、急に長期休暇はどんな会社でも使いにくいだろう。


終わりが不明確であれば尚更。


よくよく考えれば命の危険よりも仕事を優先しようとするのはおかしな話ではあるが。


着替えを済ませて、しばらくするとインターフォンが鳴る。


モニタには昨日よりも険しい顔つきの岡崎が映し出されていた。



「今開けますので」


ドアを開けると岡崎はカメラに向かって一礼してからモニタから姿を消した。


僕はドアに先回りし、ドアにもたれる形でドアを開けて岡崎を出迎えた。


エレベータ方向から現れた岡崎が僕の姿を確認すると早足で一礼した。



「連日、すいません」


「いえ、事が事ですから」


「えぇ。そう言っていただけますと助かります」



岡崎はキャラクターを使い分けているのだろうか?今の岡崎はとても紳士的で好感が持てる。


彼女がコーヒーカップを両手に持ち、岡崎に差し出し、僕の前に置いて自分も僕の隣りに座った。



「早速ですが、後藤さんの件で伺いました」


岡崎は手帳の該当のページを探し、めくり始めた。


「えぇ。何というか感情のコントロールが難しいですね」


「お気持ちお察しします。こんな時に申し訳ないですが」


「それは、はい。わかってます」


「まだ死亡推定時刻もまだ詳細にはわかっていません。ただ会社を出たのが深夜23時だとしたら、それ以降で発見は今日の12時30分頃。ちなみに私が連絡したのが携帯の履歴で9時11分。その時刻からコールはしていません」


「そうですか。その間の僕たちの行動をお話しすればよろしいでしょうか?」


「えぇ。まずはそうですね」


「一言で終わってしまうんですが、2人で家にいました。寝たのは3時頃かな。岡崎さん達が帰ってから、特に何も。外部との連絡と言えば先ほどピザをネット注文したぐらいかと思います。電話は岡崎さんだけです。香織かかってきた?」


「電話はかかってきてないし、かけてない。でもメールを数件。朝に」


「何時頃ですか?」


「ちょっと待って下さい。9時32分、37分の2通です」


「差し支えなければ、その相手は?」


「会社の同僚です。買い物のお誘い。彼といたので、お断りしましたけど。名前まで必要ですか?」


「いえ、十分です。ありがとうございます」


「すいません。たぶん何の参考にもなりませんよね」


「いえいえ。正直、どこから手をつけたらいいのかまるでわからないんですよ。葛西さんの件も証拠という証拠はなく、後藤さんは自殺かもしれない。色んな人に話を聞いて回っていますが、決定的な何かはまだ掴めていません」


「そうですか。大変ですね」


「ちなみに神谷さんはどう思います?」


「何がでしょうか?」


「この2件の事件について」


「私の私見ですか?」


「えぇ。こんなことを言うのもおかしいんですけどね」



岡崎は苦笑いを浮かべている。


疲れているのだろうか?


こんな素人。しかも犯人の可能性のある僕たちにこんなことを聞くのは問題があるのでは?


いや、これが彼の本心を聞くスタイルなのかもしれない。



「えー。あまり深くは考えていないので、話はまとまるかわかりませんが、葛西の件はおそらく他殺だと思います。葛西の性格上あんな派手な自殺をするとは思えないですし。詳しくはわかりませんが、包丁を死ぬまで刺すのは結構大変ですよね?それを自分でやるのは相当なんというか、いかれてないとできないと思います。彼のその当時の精神状態はわかりませんが、彼は非常に理論的、建設的な考え方のできる人物です。自殺ならもっと確実性の高いものを採用すると思います」


最初は軽い気持ちで岡崎は言ったのかもしれない。


でも岡崎は「ほうほう」と言いながら一度内ポケットにしまったボールペンを取り出しメモを取り出した。


僕はそれを見て少し調子に乗っているかもしれない。


「あと、今回の後藤の件ですが、僕の持ってる情報だけでは自殺か他殺かはわかりませんね。でもどちらにしても葛西の件に絡んでるのではないかと考えてしまいます。でも、もし自殺なら薬を使った死に方は後藤らしいですね。彼は非常に慎重で几帳面で臆病な性格ですから、首を吊るやら飛び降りるなど決断が必要な方法は採用しないと思います。自殺なら薬を飲むだけの方法は最も彼に適しているでしょうね。他殺なのであれば、先ほども言いましたが、葛西の件に関係しているのでは?と考えます。何の根拠もないですけど。後藤は好奇心旺盛ですし、葛西の件を話した時もすぐにインターネットで関連ニュースが出ていないか調べていました。何かの情報を手にして殺されてしまったなど、いくらでも動機は作れそうですね。ただ、殺すなら薬殺は適していない気がします。彼は見た目通り貧弱ですしね。わざわざ面倒くさい薬殺をする意味は僕にはわかりかねます。先ほども言いましたが、『自殺に見せかけるため』というなら一定の理解はできますが、その為だけとしては、リスクに対してパフォーマンスが悪いような印象です」


「なるほど。葛西さんと後藤さんの事件が関連していると思うのはどうしてですか?」


岡崎はメモを取りながら興味津々に僕に訪ねた。


今しがた根拠はないと言ったのに。



「先ほども言いましたが、根拠はないです。ただ、2日で僕のチームの人間が2人死ぬとなると、関係しているのでは?と思うのが自然じゃないでしょうか?2人の関連性も特に葛西と後藤は仲がいいとかは無かったんですよね。先輩と後輩。支社が本社に吸収されて、その時から後藤と葛西は僕のチームで部下になりましたが、葛西は人づきあいが極端に下手だったので、ほとんど話したこともないでしょうね。とりあえず業務連絡以外で彼らが話をしている姿を見たことはありません。僕と横田が殺されてなら絶対何か関係していると思いますけど、彼ら2人であればうーん。。と言ったところですかね。簡単なのは「後藤が葛西を殺して、それに恐くなって後藤が自殺」が一番スムーズで無理がない。ただ、葛西の死亡推定時刻は2時でしたよね?その時間後藤は働いていたんじゃないですかね。おそらく」


金曜日の夜は納期に漏れた他チームのヘルプをしていた。


聞く限りだと相当タイトスケジュールで最後までいなかったとしても朝までかかることは必須だった。


「その通りです。記録では3時15分に記録があります。それ以前の入退室はないですね」


「ならそれも難しいですね。一応金曜に出勤していた連中に聞いて回られた方がいいかもしれません。セキュリティカードを借りて出入りをすることは可能ですから、カードを忘れて貸し借りをすることは結構ある話しです」


「あぁ。なるほど。週明けにでも聞いてみます」


「何か他に情報があれば、思いつくかもですけど。あぁ。葛西って名刺で名前が分かったんですよね?裸で名刺を握ってたんですか?」


紳士的キャラの岡崎の表情が一変した。


眉間にしわが寄り、目つきは鋭くなった。


しかし、ほんの一瞬で表情を元に戻す。


そのスピードは素晴らしかったが、変化の振り幅が大きく余計に目立ってしまった印象を受ける。


「おそらく私は神谷さんにそのお話しはしていないかと思うのですが」


「そうでしたか?あぁ。名刺の事は高橋先生から伺いました」


「高橋先生?あぁ病院の先生ですか」


「はい。話を聞きに行ったことはお話ししたかと思いますが。私が知ってると問題がありますか?」


「いえいえ。すいません。なぜ?という点から食いついてしまいました」


「いえ、知らない方がいいなら忘れることはできませんが、話さないようにすることは可能です。ただミーティングをした連中は全員知ってます」


「なるほど。すいません。私、変な顔しましたよね。すいません。他意はないです」


素直に表情の変化を認めたことは意外だった。


やっぱりこのやり方で岡崎は僕の本心やボロを待っていたのだろうか?


疑われている?


岡崎は思っていたより能力が高いのかもしれない。


あとで香織に聞いてみよう。


「いえ、大丈夫ですよ。まぁ私見としましてはそんな所です」


「ありがとうございます。別に隠すことでもないのでお伝えしますが、葛西さんは本を持ってらっしゃいました」


「本?全裸で本ですか?」


「ええ。小説ですね。私は本を読まないので、わからないんですけど、えーっと、S社から出ている『トラップの行進』という本ですね。それを持ったまま亡くなっています。発行年は違いますが、ちなみにお二人共です。また、名刺はその本に挟んでありました」


「え?二人ともですか?」


僕は立ち上がり、本棚から『トラップの行進』を取り出した。


「えぇ。お二人ともお持ちでしたね」


「そうですか。奇妙な話しですね。これですよね?」


「えぇ。これは初版の方ですね。表紙がもっと黒っぽいのが最近発行された物みたいです」


「あぁ。あまりないですけど確かに表紙が変わるのはありますね」


「ちなみにこれ、推理小説なんですよね?」


「そうですね。なんかの賞を取ってたと思いますよ」


「そうですかぁ。どうして本を持ってたんですかね?」


「うーん。それはわかりませんけど、僕も名刺を本に挟みますよ」


「え?どうしてですか?」


「しおりの代わりに」


僕は言いながら席を立とうとすると、彼女が立ちパソコンデスクから本を持ってきた。


「こんな感じに。たぶん葛西にも後藤にもこの話はしたことあります。葛西が名刺を忘れた時に『こうしてれば緊急時にも大丈夫だ』って。冗談の一つですけど」


名刺の挟まれた本を岡崎に見せる。


「でもこれ、紐もあるじゃないですか?なのにわざわざですか?」


岡崎は本の上部に付けられた紐のしおりを持って不思議そうに尋ねた。


「あぁ。そうなんですけどね。一種の習慣ですかね」


岡崎は「そうですかぁ」と納得しないままに返事をする。


確かに明確な意味はない。ただの癖というか習慣だから。


「犯人は小説に意味を持たせたかったんでしょうか?それともこの名刺に意味を持たせたかったのでしょうか?」


「うーん。名刺の方は自分で言うのもなんですが、一般的ではないですからね。それに名刺を持たせたいなら本に挟む意味ありますか?あぁ風に飛ばされないようにとかなら意味あるか」


「確かに当日は風は強かったですしね。貴重なお話しありがとうございます」


「いえ、大したことが言えなくて申し訳ないです」


僕と彼女は並んで深々と頭を下げて出て行く岡崎を見送った。

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