輪廻転生
地獄に落ちてしまった。いったい俺が生前何の悪事を働いたのかは記憶にない。どんな死に方をしたのかさえも覚えてはいないのだが、気がつくと俺は閻魔大王の前に座らされていた。いや、果たして閻魔大王と呼べるかどうかはわからない…が、今目の前にいるこいつはまさに俺の中のイメージにあるそれにピッタリと当てはまっている。
真っ赤な顔に全ての嘘をお見通しだと言わんばかりに大きく見開いた黄色い目。下顎から突き出した牙は鋭い光を放ち俺だけでなく周りに立ち並んでいる鬼共さえをも威嚇しているようだ。
地獄の支配者である閻魔大王はしばらく俺をじっと見ていたが、やがてその恐ろしいまでに牙の生え揃った口をゆっくりと開いた。
「今から格付けチェックを始めます。あなたには黙秘権があります。御自分に不利な発言はしなくても結構です。」
「へ?」
俺の耳に聞こえてきたのは予想していたものとはおよそ遠くかけ離れた、なんとも丁寧で涼しげな声だった。
いまの俺はたぶん拍子抜けをした間抜けな顔をしているであろう。
「さて、あなたの生前の行いですが…」
閻魔大王はペラペラと自分の前に置かれたファイルをめくりながら話を続けている。
「あの…ちょっと聞きたいことがあるのですが…」
俺はどうにも自分の中の違和感を抑えきれなくなった。
「何でしょう?」
またしても涼しげな声。この声を聞くたびに力が抜けてしまう。
気を取り直して
「ここは地獄ではないんですか?あなたは閻魔大王では?」
「ハァ… あなたもですか…」
「なにがです?」
「いや、ここに来た人はみんな同じ事を質問するんですよ。やれ地獄がどうとか閻魔大王がどうとか」
あからさまにうんざりした様な溜め息をつき、そいつは続けた。
「いいですか、そもそもあなた方がおっしゃっている地獄というものは存在しません。それは地上界の人間が勝手に作り上げた想像上の世界にすぎないのですから。それに私も閻魔大王という名前でもありませんし…」
いやいや、どう見てもあんたは閻魔大王だけど。
そう心の中で呟いてみたが口に出すことは出来なかった。
代わりに
「じゃぁここは何なんですか?それにあなた方はいったい…?」
素朴な疑問をぶつけてみる。
「ここですか?ここは地上界で修行を終えた魂の格付けを行う管理局です。その格付けによってあなた方の次の修行の時期が決まります。私共はその格付けを行う管理官ですね。私共の身分をお疑いでしたら当局から発行された免許証をお見せしましょうか?」
そこかよ!とツッコミを入れたかったが、もちろん言えるはずがなかった。
「いえいえ、そこまでは結構です。」
俺は目の前で掌を横に振った。
今ひとつ理解しがたい話ではあったが、ただ一つはっきりした事がある。どうやらここは本当に地獄では無いらしい。これから先に待ち受けていたであろう永遠の責め苦を想像していた俺にとってはありがたい話だった。
なんだか肩すかしを食らった気分だったが、もしエンマちゃん(急に馴れ馴れしくなってしまった)の話が本当であれば、俺はまた生まれ変わって地上に降りることが出来るらしい。いわゆる輪廻転生というやつだな。
それにしても…目の前のエンマちゃんは何度見てもやっぱり恐ろしい姿をしている。この姿を見てここが地獄であることに疑いを抱く死者は皆無に等しかったであろう。俺の前に来た死者の諸先輩方も同じような質問をして同じように次の生を受けてまた地上界に戻っていったのであろう。
オホン…
エンマちゃんの咳払いが俺を目の前の状況に引き戻した。
「納得していただけたでしょうか?」
「はい。」
「それでは本題であるあなたの格付けを行います。」
「はい。どうぞ。」
気持ちが180度変わりなんだか今のこの状況を楽しめるようになった自分がいた。
「あなたは、生前かなりの悪事をしていますね。」
「そうなんですか?全く記憶には無いんですけど。」
「人の命を相当数奪っていますよ。」
なんと言われようと記憶に無いものは仕方ない。
「…………………。」
しばしエンマちゃんの沈黙。
やがて、横に立ち並んでいた鬼らしきたぶん書記官の面々とひそひそと話をしだした。
エンマちゃんが俺に顔を向き直して口を開いた。
「あなたの罪の重さは私共では手に負えません。よって……。格付けは最低ランクのEと致します。」
「Eですか…。」
記憶に無いとはいえ、俺は生前の自分の行いを後悔した。
Eか…。まぁどちらにせよ生まれ変われることには違いない訳だから、次こそまともな人生を送ってランクを上げるしかないな…。
「で、Eランクといったものはどのようになるのでしょうか?」
幾分気持ちは落ち込んだがまたやり直せばいいと思い直して聞いてみた。
「Eランクは…死刑です。…この世界で死刑になった者の魂がどうなるのかは私共にはわかりません。噂では、終わることのない永遠の責め苦を受け続けるとか…。」
またもや駄作ですが…