セガは先の時代の敗北者じゃけぇ
「セガは……敗北者じゃけえ」
「ハァ…ハァ… 敗北者……?」
朝一番に聞く言葉じゃなかった。
よりによって「敗北者」である。
「セガは先の時代の敗北者じゃ」
「待て」
「家庭用ハード戦争で負けたじゃろうが」
「待て待て」
「サターン」
「おい」
「ドリームキャスト」
「やめろ」
「ハード事業撤退」
「取り消せよ!!」
「スーファミ・プレステに阻まれ ゲハ戦争の「王」にもなれず終いの永遠の敗北者がセガ”じゃァ どこに間違いがある…!!
セガセガとフリーク共に慕われて… 家族まがいの茶番劇でのさばり」
「………やめろ……!!」
「……何十年もの間 ゲはに君臨するも 「王」にはなれず…何も得ず……!!」
「実に空虚じゃあ、ありゃあせんか?」
思わず立ち上がった。
こいつは何なんだ。
しかも、こいつはファミコンからPlayStationへ乗り換え、さらにSwitchへ戻ってきた男だ。
勝ったハードに乗り換える。
ただ、それだけ。
「お前にだけは言われたくない!」
「わしは勝ち馬に乗っただけじゃ」
「それを節操がないと言ってるんだ!」
「合理的と言え」
「言い換えるな!」
腹が立つ。
だが、俺にも意地がある。
「俺は生粋のセガフリークだ!」
「ほう」
「メガドライブも持ってた。ゲームギアも持ってた。メガCDもスーパー32Xも――」
「サターンは?」
「当然だ!」
「ドリームキャストは?」
「当然!」
「今でも持っとる?」
「…………持ってる」
「筋金入りじゃのう」
「お前とは違うんだよ!」
俺が特に好きだったのは、セガサターンだ。
ゲームセンターではバーチャファイター。
バーチャコップ。
セガラリー。
家に帰ればサターン。
カプコンの格闘ゲームだって遊んだ。
俺にとっては、それだけで最高のハードだった。
だからこそ――。
「なぜ負けた?」
俺が聞くと、そいつは待っていましたとばかりに笑った。
「まず価格じゃ」
「ぐっ」
「そして、時代が変わった」
「3Dか」
「そうじゃ」
セガ自身が、その変化を誰より早く知っていた。
バーチャファイター。
バーチャコップ。
セガラリー。
ゲームセンターから飛び出した3Dゲームは、家庭用ゲーム機にも新しい時代を持ち込んだ。
世間は夢中になった。
「3Dすげえ!」
その流れに対応する必要があった。
だが――。
「サターンは3Dを扱うには複雑じゃった」
「…………」
「ハードの構造も複雑で、開発も難しい」
「…………」
「一方、PlayStationは3Dを前面に押し出した」
「つまり……」
俺は嫌な予感を覚えながら言った。
「ソフトメーカーがPlayStationに集まりやすくなった?」
「そういうことじゃ」
ソフトが増える。
だからユーザーが増える。
ユーザーが増えるから、さらにソフトが集まる。
「…………」
俺は頭を抱えた。
「待て」
「なんじゃ?」
「これ、最初から全部繋がってないか?」
「うむ」
「価格で出遅れる」
「うむ」
「そこへ3D時代が来る」
「うむ」
「サターンは対応できた。でも開発が難しい」
「うむ」
「その間にPlayStationへソフトが集まる」
「うむ」
「ソフトが増えるからユーザーも増える」
「うむ」
「ユーザーが増えるから、またソフトが集まる」
「その通りじゃ」
俺は天井を見上げた。
「……セガ、自分で3D時代を盛り上げて」
「うむ」
「その波に自分のハードが飲まれてないか?」
「見事な流れじゃろう?」
「褒めるところじゃない!」
しかも厄介なのは、サターンが何もできないハードではなかったことだ。
むしろ2Dでは強かった。
格闘ゲームも豊富だった。
アーケードからの移植も魅力的だった。
俺にとっては、それだけで十分だった。
だが――。
世間が求めるものが変わった。
サターンの強みだけでは、押し切れなかった。
「まさか……」
俺は呟いた。
「俺が歴代でも一番好きだったサターンは、駄目なハードだったのか?」
そいつは首を振った。
「そこは違う」
「え?」
「勝てなかっただけじゃ」
「…………」
その言葉が、妙に残った。
そうだ。
面白いゲームはあった。
好きなゲームも山ほどあった。
それでも市場では勝てなかった。
好きかどうかと、売れるかどうかは別の話なのだ。
「じゃあ、ドリームキャストは?」
俺は話を変えた。
「ネットワーク!」
「ほう」
「オンラインゲーム!」
「ほう」
「ファンタシースターオンライン!」
「それは面白かったのう」
珍しく意見が一致した。
ドリームキャストには、未来を感じていた。
あの起動画面を見ただけでワクワクした。
コントローラーにメモリーカードを差して、テレビの前に座る。
そして、PSOで知らない誰かと一緒に遊ぶ。
あの頃の俺には、それだけで十分に未来だった。
「でも、セガはもう疲れ切っていた」
「…………」
サターンで消耗した。
ドリームキャストでも戦った。
それでも、ハード戦争を続けるだけの余力は残っていなかった。
そしてセガは――。
ハードを降りた。
「……結局、ハードでは勝てなかった」
「ああ」
俺は俯いた。
「でも」
顔を上げる。
「セガは消えなかった」
ソニックもいる。
龍が如くもある。
ペルソナだってある。
ハードを作らなくなっても、セガのゲームは残った。
俺は、それが嬉しかった。
だから。
「俺はセガが好きだ」
「勝ったからか?」
「違う」
「では?」
「面白かったからだ」
ゲームセンターで夢中になった。
サターンで夜更かしした。
ドリームキャストでPSOを遊んだ。
あの時間まで、勝ち負けで否定されたくはない。
俺は思わず声を荒らげた。
「俺の青春まで負けたことにするな!」
「そこまで言っとらん」
「じゃあ最初から言うな!」
「何をじゃ?」
「敗北者ってやつだ!」
「ハード戦争の話じゃろう?」
「分かってる!」
分かっている。
ハード戦争では負けた。
それは事実だ。
でも――。
俺がサターンで遊んだ夜まで、負けたわけじゃない。
ゲームセンターで夢中になった時間も。
ドリームキャストを起動したときのワクワクも。
PSOで誰かと遊んだ夜も。
全部、俺のものだ。
「だから俺は、セガフリークだ」
勝ち負けなんて関係ない。
好きだったものまで、負けたことにはならない。
それが――。
俺にとってのセガなのだから。
『愛してくれてありがとう』
どこからかそんな声が聞こえた気がした。




