85.二人に託したもの
リディアは、最後の演習を思い出していた。
これまで魔獣と戦ったことがない人間が、いきなり平均二メートル以上の異形を見て、落ちついて魔法を繰り出せるか。
――絶対無理。
砂漠を通り制限時間内に目的地につく、それだけで精一杯だ。
でも、やらせなきゃいけない。
本当は事前に、対魔獣のシュミレーションをしたかったのだけど、そんな装置は大学にない。魔法師団に個人的に頼めばなんとかなりそうだけど、大学にばれる。
だからシュミレーション装置ではなく、リディアの幻覚魔法で魔獣を出現させて、全員で対戦をさせてみた。
――結果は――微妙。一応、一部の生徒が魔法を放つことができるようにはなったが、命中率も、そもそも魔法の選択も悩ましい。
(でも、ウィルとキーファの動きは予想以上にいい)
ウィルは身体能力が高い。昔から、色々なスポーツをやっていたらしいが、本気で続けているものは、ないらしい。けれど、何でもそつなくこなすとキーファから聞いていた。
武術の経験はないらしいが、キーファと共にすでに剣の扱いも危なげなくこなす。
それに、キーファはアーチェリーという武器も扱える。
競技でしかやっていなくても、あの腕ならば十分に戦力になる。
そんなキーファでも、ウィルを気にかけていた。
(……ウィルも、アーチェリーの経験者なのかもしれない)
二人は様々な力を秘めている。けれど、もっと準備時間が欲しかった。魔法剣にアーチェリー、それらで補っても、主力魔法を使える生徒がいない。
対魔獣戦で、効果的な攻撃方法を彼らが持たないのが不安だ。
――最後に、リディアは二人に告げていた。
「多分、みんな本番は動けない。あなた達は一番身体能力が高く、反射神経が優れていて、とっさの時も冷静に判断できる。あなた達がフォローすることになる。『敵を倒せ、刃物を持て』、なんて大学では命じていない。けれどあなたたちに託すから、攻撃することに躊躇しないで」
リディアは生徒たちに託したのだ、彼らの力を信じるしかない。




