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木蓮の白  作者: 高野倉けいし


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タイトル未定2026/04/11 20:06


豪農の家に待望の跡取り息子が生まれた。

親の喜びようは大変なものだった。

生活の中心が息子になったようだった。

子守が一日中、赤子の息子の世話をし、息子の部屋は庭に面した日当たりのいい部屋になった。

庭には一本の木蓮の木があって、春になると綺麗な白い花をつける。

赤子の息子はこの木蓮の木が好きなようで、障子を開けて、木蓮が見えるようにしているとご機嫌だった。

息子が自分で歩き回れるようになると、木蓮のそばにずっといるようになった。

木の根本に腰をかけて、独り言をいっていたり、幹に抱きついたりして、1日を過ごす。

親が気を逸らそうと、お菓子や玩具を差し出しても無反応。

今だけだろうと思っていたが、それが何年も経つと、流石に親は心配しだした。


ある、春の夜中。

父親が厠に起きると、ふと、庭の方に人の気配がする。

目を凝らすと、月明かりの下、満開の白い花をつけた木蓮の木に、寄り添うように座り込む息子の姿を見た。

その顔はまるで陶酔しているように、微笑を浮かべている。

これはいけないと思った。

息子は木蓮の木に魅せられている。

今年から息子は小学生になるというのに、このままでは、ちゃんとした人間にならない。父親はそう思った。


翌日。

父親は業者に頼んで木蓮の木を切ろうとした。

息子は発狂し、それを女中が数人で取り押さえた。

木が完全に切り倒された瞬間。大きく息を吸うような声にならない悲鳴をあげて、息子は後ろにひっくり返った。

それから3日間、息子は寝込んだまま、目を覚さなかった。



その後、息子は、まるで人が変わったかのように、素直な子になり、文武両道の好青年に育った。

成人後、見合いの話は山程あったが、息子は首を縦に振らない。

女性に縁はないが、家業は栄えていた。

息子が40手前になった頃、突然1人の娘を家に連れてきた。


「お父さん、お母さん、僕はこの人と世帯を持ちます」


女っ気がない息子がやっと連れてきた娘だ。

両親は最初は歓迎した。

しかし、座敷の座布団の上に座っている娘の貧相なこと。

痩せて、髪は乱れ、肌は日に焼けて黒く、落ち着きなく動く目が、なんとも品がない。

茶をすする様子や、茶菓子を一口でばくりとやる様子など、豪農の我が家の嫁に相応しくないように思えた。

この娘と世帯を持つなんてやめなさい。そういった両親に、息子は激昂した。



「やっとこの子に会えたんだ。今度は邪魔をしないでくださいよ。次に僕たちを引き裂くなら、僕にも覚悟はあります」


今度はって、今まで何も女性関係で邪魔などしていないじゃないか、と反論したが、


「したじゃないですか。僕の木蓮の木を切り倒したじゃないですか。彼女は木蓮の生まれ変わりです」


などという。全く呆れて言葉にならない。


しかも、なんと娘には住む家がないというので、屋敷の一室に寝泊まりさせることになった。

息子は家業をサボるようになり、一日中、娘のそばにいるようになった。

娘の膝枕で幸せそうに昼寝などしている。

その間に、娘の素性を調べさせれば、とんでもないことばかり。

家はなく、親も誰だか分からない。その日暮らしの生活で、過去に性病になった記録もでてきた。


「あなた、どうするの?あんな娘を嫁にすれば、世間の皆様になんていわれるか」

「ああ、息子はとんでもない娘を連れてきた。とても結婚を認めることはできない」


息子に黙って、娘に大金を握らせ、別れさせようとした。


「あたしたちを別れさせようなんて無理な話ですよ、お父さん。あたしとあの人はもうずっと前から結ばれるのを待っていたんですから。やっと同じ時間で、同じ種類で出会えたんだ。今度は絶対に別れないから」


理由の分からない話をして、娘は金など見向きもせずに、そのまま駆け出していってしまった。

どうしようかと夫婦で話し合って、明日にもう一度息子と話をつけようとなった。


次の日。

息子と娘の姿はなく、息子の部屋の机の上に、書き置きが置かれていた。




家を出ていきます。探さないでください。




両親は必死に息子の行方を探したが、見つかることはなかった。

毎年春にになると、木蓮の花を見かけるたびに、両親は息子を鮮明に思い出し、胸が苦しくなった。

あの娘を見る息子の表情は、幼い頃に木蓮に陶酔していた時とそっくりだった。

今頃は、どこかで幸せにしているだろうか。


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