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無気力なあり、歩き出す。

作者: 島島

ただ働くだけの日々。

周囲と同じように動いて、疲れて、眠る。その繰り返しに、ふと虚しさを覚えたとき、自分が「ただの働きあり」になっていたことに気づく。

でも、そんな無気力のなかにも、ほんの少しだけ希望が残っているとしたら――。

これは、静かにくすぶる一匹の“あり”の、小さな目覚めの物語を短編で書きました。

真二は都内の中小企業に勤める30代の中堅社員。毎朝、混雑した電車に揺られて出社し、日中はパソコンの前に座り続け、夕方には無表情のまま帰宅する。気づけば、もう十年以上もそんな生活を繰り返していた。


それなりに経験も積み、後輩からの信頼もある。けれど、心の奥はどこか空っぽだった。日々に意味を見出せず、ただ働くだけの存在。まるで巣のために黙々とエサを運ぶ「働きあり」のように、命じられた業務をこなしては、疲れ果てて眠る。その繰り返しに、いつしか嫌気がさしていた。


そんなある週末、大学時代の先輩・高橋と久々に再会した。会社を辞め、今はフリーランスとして自由に働く高橋は、真二とは対照的に、どこか軽やかな雰囲気をまとっていた。


「真二、無理して頑張るのも大事だけどさ、ずっとそのままだと、本当に潰れちまうよ。俺も会社員時代、何度も限界を感じた。こんな生活、おかしいよなって思ったんだ。だからこそ、最低限の業務をこなしながら、コツコツと独立の準備を進めてたんだよ」


その言葉は、真二の中にかすかに残っていた何かを静かに揺り動かした。もう、自分には頑張る気力なんて残っていない――そう思っていた。けれど、「頑張らずにできる努力」なら、少しだけやってみてもいいかもしれない。そんな気がした。


「あと五年だけ、会社員として静かに働こう。その間に、昔から好きだった文章や映像の勉強をしてみよう。ゆっくりでも、何かにつながればいい」


それは逃げ道かもしれない。でも、自分なりの生き方を探す五年間にしたい。出世や評価はもう求めない。ただ静かに、でも確かに、自分のための一歩を積み重ねていく。


今も職場では、働きありが群れをなして忙しそうに動き回っている。だが真二は、群れから少し離れた場所で、ぽつりと歩く“無気力なあり”として、自分だけの小さな道を探していた。静かに、地を這うように、それでも確かに歩き始めていた。

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