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VTuberについて5000文字も書くの無理ゲーなのだがw

謝罪よりも先に説明が始まる、超めんどい話である。乱暴だね。


ブラウザバック推奨。


大学の講義を選択する際、

「レポートの提出およびその結果で成績・単位を取得可能かが決められる」

「テストへの出席およびその結果で成績・単位を取得可能かが決められる」

くらいの判断材料はまず提示される。

大学の掲示板に貼ってあることが多い。もしくは大学内の専用ウェブサービスなんかでもわかる。


人によっていろんなふうに大学の授業を選ぶ。


“ふわふわと“惹かれるように、

人によっては“きちんと“調査して自分の意思で、

あるいは友人知人に相談したりして“しっかり“と他者に判断を委ねてしまい、


どうでもよくテキトーに、

じゃあ楽そうだからこれ。

興味もなくはないからいけるでしょ。


と、表現のしようがないくらい向こう見ずに講義を選ぶ者、たち、も、ぜんぜんいる。


あるある、よくある。


『VTuberと現代社会』という、ゆる〜い名前の講義のレポートの最低文字数はなんと5000文字だった。


彼らが今までとってきた授業は、3000文字くらい書けばよいのよーというものがほとんどであった。


基本的にまとまった休みの前、期末が近くなるまでレポートの主題と最低文字数というのがやっと発表されるのだがまさかのハードルの高さであった。


VTuberを好きなら、きっと学歴なんか関係なく、小学生でも、ちょっと頑張れば自由研究くらいの努力で提出ができるのではないかな。


VTuberを“すき”という、選ばれた者にだけ生まれる、あるいは与えられる、尊いきもちさえあれば。


あれば、の話ね。


彼らは選ばれなかったのだ。


彼らは自分たちって全然、尊くないと思った。


無念だった。


虚無で、寂しかった。


やっと謝罪ができる、この話の主人公くんのひとりが。


「まず謝る。

申し訳ない。

まさかレポートの文字数が最低5000文字、になるなんてさー、なっちゃうなんてさあ、思わんかった。こんなさあ、『VTuberと現代社会』なんてVTuberに失礼でねえですかみたいなナメた名前の講義でさあ、俺らが結構ナーバスになるところ第1位と言っても過言じゃねーのにさあ、レポートの文字数をさあ、ねえー、なんで5000文字要求してくるかね。

だりぃがすぎますわよ。なにこれまじで。

誤算、さすがに謝罪案件だこれは」


駅前のふきさらしの、治安がそれはそれは“善い”喫煙所で、思わず優王…ゆうおう、という控えめに言っても珍しい名前の男が頭を抱えてうんこ座りする。


「ゆうおうがあやまることじゃないよ」


厳しい留奈子もさすがに、優王をなだめた。

留奈子は思った。小さくて華奢なからだを精一杯強く、背が高く見せるようなBUBBLESの、例の地雷女子ご♡よ♡う♡た♡“つ“ 』♡っ!!の厚底靴がなんだか薄くなった気がした。


単にすり減ったのだろうか。


足元を見ると、別にそんなことはなかった。


全然知らねえ、わからねえ「VTuber」という文化で5000文字書くのはしんどい。

しんどすぎる。

さすがに。


「ほんとるなこの言う通りだよおゆーおー、ありへんやろ5000文字も、ぜんっぜんしらんカルチャーでさあ、書くのはさあ」


2本目のたばこに火をつけ、七見もうつむくほかなかった。


「うん、うちら全員よくない。ごめんなさいだよ、反省だね」


「留奈子のごめんなさいはきつすぎる〜、そんなストレートに殴らないでくれえ、はは︎はは」


優王は思わずあはは、あははと素直に笑った。

優王はゲラだから。ほんとは楽観的な男なのだ。


「るなこもプライドあるから、困ったときは“であるからして”とか“というふうにはいうが”系のことばいくらでもあるけど、ゆうおうもななみもやだよね、かっこいくはないさすがに」


「さすがになー」


「さすがにがすぎるんよお〜」


七見がふーっ、と煙草を駅の方向に向かって吐いた。


「なんだよもう、煙草嫌いな留奈子をさあ〜こんな治安終わってる喫煙所まで呼んでさあ〜俺終わってる」


「俺“ら”なんだよ、ゆーおー」


七見は愛おしそうに優王の頭を撫でて、彼女自身が5000文字に対して、優王がヒステリーを起こすまで、なんで弱音を一言も吐かなかったのか不思議だったが、撫でながら、あーそんくらいどうでもよかったからだわこの講義、と冷静になった。

優王がきちーくらいならとりゃなきゃよかったな、てかもうこの単位捨てようよ。いやあやっぱやめ、うちが頑張るから優王、早く遊びに行くか寝に行くかしよう、留奈子も心配するよ。と思った。


「単位落とすのいやだ、かっこわるい。るなこそれはないけど絶対」


「それはそう、俺たちそうだけど」


そう言った優王と、七見は笑いまじりに頷く。


「さすがにチラ裏みたいなレポート、うちは全然出せるけどあなたたちやでしょ」


「嫌だあ〜、厭だあ〜、ひいーへへへ」


「やだ、るなこも」


留奈子がふんふん、と首を横に振った。


「ゆうおう、ななみ。るなこは、終電ないとおもった、井の頭線」


「だいちょぶだよ中央線もないよー」


七見は笑いながら歩いて行けるラブホがないか検索をかける。


「VTuber、好きになれると思ったんだけどなー。うち感性ださいのかな」


それ言うと全員感性ださいとも言えるんだよとつっこむのもめんどくさくて2人とも七見の方をつらそうに笑いながら見つめていた。


「るなこー、服ににおいつくのにさあ、まぢありがとねえ」


「ふたりともよんだりとめられるほど家広くないし、そもそもゆうおうとななみはいつせっくす、するかちょっとわかんないから、ななみとゆうおうはひとんち行くのやだでしょ」


留奈子はそーゆーとこだぞななみたち、と言うようににやりー、とわらった。


「さすがに人前でやるシュミないよ、ふふ」


「ひとんちでやるシュミもねーわ、ラブホねーかこのへん、留奈子」


「しらん」


留奈子がポカッ、ポカッと優王の頭をこぶしで殴った。


「大体おまえさんたち、最大の疑問点…留奈子、指輪が痛い、指輪が結構パンチにバフかけてるぜ」


「すまねえ、ろりに殴られるしゅみもないだろ」


「ない」


目を見て、優王はまた留奈子に謝らせたことを恥じるようにわらって会釈した。


「ねえるなこ彼氏さんとか家族なんも言わんの」


「かれしいるかとかかのじょいるとかななみに言ったことない、妄想してて」


留奈子がきっと七見を睨んで腕組みをした。


「はかどり〜」


「あのさ、俺の疑問点に興味なさすぎチミ達」


へらへら笑いながらアディダスのジャージのジッパーを開けて優王が立ち上がる。


「俺らなかよしごっこがすぎるな」


「るなこもそう思う、今回はノリでふざけすぎた、ノリで講義とるのいくない」


むすっ、と車道側を向いて留奈子はしゃがみこんで頬杖をついた。


「そうだ疑問についてなんすよ。

なんでこの授業全カリなんだ」


「いやそれなゆーおー、なんでなんでなんだよお」


七見はそう言うとはっはっはっ、と笑った。


全カリとは全学共通カリキュラム、の略であり、どの学部のどの学科であろうと必ず決められた単位数を取得する必要があった。


「俺らの学科のみの任意の履修ならわかる」


「なんでだ、まじで。ふかい、VTuberというもの」


留奈子が爪を見つめながら言った。


七見も優王も、もっと早く言ってくれたらかんたんなネイルぐらいしてきたのに。


「VTuber、儲けてるっぽいとは言えなんで。なんかよくわからんけどサブカルチャーに留まらんぽいことくらいはわかる、でもさすがになんで、全カリなんだ、わけがわからんがすぎる、難解すぎ、高尚すぎるよVTuber」


「だるいよもーうち。ゆーおー、るなこTikTokとらして」


「うらあかなのか」


「そだよー」


「ならるなこはよい」


「俺も顔だけ隠して、いつも隠してないけど裏垢に上げるのは、でも今回は恥さらしがすぎるぜ」


事後の寝顔はアップされてるのに、と優王は苦笑いした。


「留奈子」


「なに」


「音声データあるかな」


「講義のか。あー、Macになら、ある。にがした」


「さすがっす」


七見はサムズアップし、優王もつられて親指を立てた。


「いーね」


留奈子も同様のアクションをする。


「とりま寝てから考えよっかゆーおー、脚つかれち」


「俺も眠いんだけど恥ずかしくてはっずくてさあ、寝れる気がしないこれはもう」


「まだ2日もあるからまだブラッシュアップできる、るなこたち。ゆうおうもななみもいっかいすやすやしてからかんがえよう」


「あぐりー」


「そうだね。睡眠不足はよくない、健康に悪すぎ」


優王もラブホを検索しようとしたら、既にLINEに七見からホテル情報が送られていたので、七見の肩を抱いた。


「せんろっぴゃくにじゅーにもじ」


「急にどした何が」


「んーとね、


さっきまでの会話のもじすー」


ちょっと盛ったかもな。


たぶんもっと少ない。


いやわかんない、と思ったが留奈子はスルーした。


爆発音のような静けさが夜の駅前中を包みそうだった。


優王と七見は同じ感覚を共有しつつ、口をぽかんと開けて留奈子を見ている。


「あの、何いまの、やは、こわ」


「何、何の文字数て、えなんて」


「さっきまでの会話の、大体の文字数」


留奈子は肩をちょっとすくめて自販機の方に視線をやる。


チルアウトが飲みたいけど、ない。


「ごめん、適当なこと言って」


「いや正確だったらこわすぎるんだよ留奈子、いいんだよいいんだよおねがいだからそこは適当でいてよ、嘘じゃなくても嘘って言ったほうがね、しあわせなんよ俺も七見も、こわくないやん留奈子もさ、適当じゃないと、ハズレじゃないとキショすぎんのよそこは」


俯く留奈子の顔を、177cmの華奢な優王が覗き込みながら語りかける。


許されるなら頭を撫でたいきもちだった。


「適当にさーって話してるだけで1622文字くらい、たぶんもうすこしすくないがいった、だからだいじょうぶなの、るなこたちは」


先に七見を見つめ、次に優王に視線を合わせて言う。


「るなこひとりでもできるし、ゆうおうとななみふたりだけでもできるけど、んなこたしっているが、るなこがたすけたる」


「おー」


おう、と返事し留奈子はハイタッチを求める優王の手にふんっと笑いながらぱんちして、七見に駆け寄って、抱きついてやってよしよしした。

小さくてやわらかい手に、量産型系カルチャーのインフルエンサーが有名ブランドとコラボしたリボン型のシルバーリングが光っている。


「るなこままぁ」


ほへー、と普通に息を吐く七見から煙草のにおいがしても、留奈子は抱きしめてやる腕は離さなかったし、なでなでも止まらなかった。


「るなこまま、カップヌードル食べたい」


「ねえコンドーム買ってあげようかゆうおうななみ、コンビニいって、VTuberの雑誌とか、広告とか、お菓子とか、さがしてみて、もしあったらちゃんと見て、りすぺくと持っていろいろかんがえよ。

VTuberはきっとすごいし、つよいし、かっこいい」


留奈子は背中を向け、ファミマに行きたいと言う目を、まっすぐにしていた。

やわらかく微笑んでいて、可憐でしなやかでつよく、それでいて不思議と、勇ましく見えた。


うん。

留奈子は一番、いつだって勇ましい。


「んー」


優王は七見たちに近づいて、ガールフレンドの方の頭に手を置いてから紳士的に目を閉じ、こうべを垂れる。


「certainly,your Majesty」


「は、えっあっはいよあまじぇすてぃーへへへ」


「いじんないでばかっぷるめ」


留奈子はずんずん、ずんずん、と北に向かって駅前の道を歩いて行く。

どんどん、駅から離れてく。


BUBBLESの厚底は最高なのだ、可愛くて、黒くて、強くて、ある界隈でスタンダードで、


もしかしたらかっこいいから、


それは人の見方や好みの問題なんだけれど、きっとぜんぶ。


ぜんぶ、そうなんだよ。

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