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地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!  作者: あざらし かえで
第四章 私たちが歩む道

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75.どうしても止められなくて

 いくら人気がないからって、会社で抱きしめられるだなんて。

 秦弥さんの性格からしたら考えられないんだけど、今、抱きしめられているし。

 逞しい腕とスーツの下の鍛えられている胸板とか、近くで感じてしまうと心臓のドキドキが止まらない。


「え、ええと……」

「小さくてか細くて、心配になる」


 聞こえてきた声は本当に心配そうな声色だったから、やっぱり突き放すなんてできない。

 少しの間じっとしていると、やんわりと身体が離される。

 まだ両腕はしっかりと掴まれたままなので、身動きは取れない。


「安心しましたか?」

「そうだな。今はこれで我慢しておこう」


 フッと笑った顔は、涼しげなのに妙に色気があって。

 何か反論したくても、見惚れてしまうだけで何も言葉は出てこない。

 私、さっきから黙ってばっかりだ。

 

「もう用事は終わったし、帰りましょう?」

「そうだな」


 今度こそ大丈夫だと安心して、ホッと息を吐き出した。

 上から呼気で笑う気配がして、ムッとした顔で秦弥さんを見上げる。


「キャラじゃないことはしないでください。心臓がいくつあっても足りませんから」

「風音にも乙女なところがあって安心した」

「失礼ですね。そういうこと言うと、私は可愛くないことしか言えませんけど」


 プイッと顔を背けて、踵を返そうとすると今度は左腕を取られた。

 反論しようとすると、あっという間に影が下りてきて唇にふわりと柔らかいものが触れた。

 一瞬すぎて分からなかったけど……もしかして、キスされた?


「先ほどし損ねた分だ。後は帰ってからしようか」

「もうっ! 絶対悪影響受けてるじゃないですかっ! 帰ってからって……何が?」


 どういう顔をしていいか分からないまま、腕を振り払ってじっと見つめると、近距離のまま小声で呟かれる。


「今日は家へ来る日だろう。だから、帰ってからゆっくりと」

「ゆっくりと……って、だから低音で囁くの禁止です! 分かっててやってるでしょう?」


 妙に積極的な秦弥さんに転がされっぱなしで、本当に腹が立っちゃう!

 私だって楽しみにしてるけど、改めて言われると逆に動揺する。

 コピー用紙の束を秦弥さんにグッと押し付けて、今度こそ振り返らずに扉まで向かう。


 笑う気配はするけど、大人しくついてきてくれているみたいだし。

 気にせず扉を開けて、さっさと自分の席へ戻る。

 

 恋愛的な駆け引きは苦手なのかと思えば、たまにグイグイくるから止められない。

 いくつ心臓があっても足りないけど、つまらないよりかは刺激的なのもアリなのかな。

 

 でも、ゆっくりと少しずつだと思ってたのになんだか調子が狂うというか。

 別に、仲良くする分には構わないんだけど……このままだと全部、主導権握られちゃう気がする。

 もう少し優位でいられると思ったのに、ちょっと残念な気持ちと、ドキドキする気持ちとがせめぎ合う。

 これはこれで楽しいって思っちゃう時点で、私も駆け引きにハマっちゃってるのかも。

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