20.助けてくれたのは
「ちょっと、何とか言いなさいよ!」
イラっとはするけど、こんな場所でケンカするだなんて目立つに決まってるし。
無視よ無視。
まずはこの染みを少しでも何とかしたいんだけど……。
ナプキンを手に取って、ドレスを軽く叩いていると今度は間に影が指す。
「……そんなに声を荒げて、皆が貴方に注目していますがよろしいのですか?」
「だって、この子が私の……」
「え? あ……」
間に入ってくれたのは、同じく紺のスーツを身に着けていた氷室さんだった。
社長の側にいたと思ったけど、いつの間に?
「貴方……海音のボディガードの……」
「レディとして恥ずかしくないのですか? 今のはあからさまにただの嫌がらせに見えました。何か仰りたいことがあるのでしたら社長の橘に直接抗議してください。その際はこちらもそれ相応の対応をとらせていただきます。あと、こちらのドレスの弁償代も別途請求を。あぁ、今のはあちらの監視カメラに映っていますから先程の主張は時間の無駄ですよ。お嬢様は頭の回転が早そうですからお分かりですよね」
うわぁ……一息で言い切ってる。
表情も、周りの空気も、一気に冷え切った気がする。
ちょっとした騒ぎになってくると、離れていたところにいた社長も駆け寄ってくる。
「大丈夫? じゃ、なさそうだけど……」
「とりあえず、彼女を控室に連れていく。社長、すみませんが一旦席を外します」
「分かった。彼女のことをよろしく。さて、話を聞かせてもらいましょうか?」
うわぁ、社長。
笑ってるけど、笑ってない。
あの人も怒る時ってあるんだなぁ……。
何か、嫌がらせしてきたお嬢様が可愛そうに見えてきた。
真っ赤な顔が真っ青になってるし。
橘コーポレーションを敵に回したら商売できなくなりそうなのは目に見えてるはずなのに……。
こういう世界ほどスキャンダルって大変そうだけど、ケンカ売ってきたのは彼女だしご愁傷さまとしか言えない。
氷室さんは私の方に自分の着ていたスーツの上着をかけてくれる。
ふんわりとかけられた上着に優しさを感じて、緊張した心が少し解きほぐされた気がした。
氷室さんはそのまま私の肩を軽く抱いてエスコートしてくれる。
二人で何となく無言のままパーティー会場を後にすると、氷室さんがこちらに軽く顔を向けてきた。
「よく言い返さずに我慢したな。あれは賢明な判断だった。ヒステリックになるとああいう幼稚な嫌がらせをする女性もいるからな」
「本当にいるとは思いませんでしたけど。氷室さん、助けてくれてありがとうございます。どう切り抜けようかと思っていたので」
「いや、もう少し早く気付けたら君が恥をかくことはなかったのだが。こちらこそすまない」
「いえ、氷室さんもお話されてましたし。別にドレスが濡れただけですから。でも、皆さんへの挨拶が中途半端になってしまった気がして……」
私が苦笑しながら俯くと、肩をポンポンと叩かれた。




