1.初出勤は波乱の幕開け
化粧良し、忘れ物なし、戸締まり……オッケー!
今日はやっと受かった一流企業への初出勤!
一般事務で採用してもらえたし、これなら勉強しながらでも大丈夫、だよね。
今までの仕事の分、貯金して買ったグレーのスーツとおろしたての黒のハイヒール。
黒の革のバッグには軽く荷物を詰めた。
髪はちょっと癖っ毛でふわっとしていて、地毛が焦げ茶だから不真面目に見られないようにって黒いゴムで一本にまとめたし。
黒い丸眼鏡は真面目の象徴だから、問題ないと思う。
普段はパンツスタイルが多いからスカートって何だか落ち着かないけれど、今日はスカートにしてみた。
「緊張するけど……今日から頑張らなくっちゃ!」
気合いを入れて、アパートの階段をカンカンと音を立てながらおりる。
駅から少し離れているこのアパートはちょっとだけ家賃が安かった。
最寄り駅はどうしても快速が停まる駅にしたかったから、駅チカが選べなかったんだよね。
築十年だけどリフォームされてるから綺麗だし、ご近所さんも普通の人たちだし、この辺りは閑静な住宅街だから治安もまあまあ。
出勤時間に一時間はかからないから、普通くらいかな。
そんなことを考えながら、駅までの道を歩く。
最寄り駅までは大体二十分くらい。
雨の日以外はウォーキングにもなるし、靴ずれだけが心配だけど絆創膏たくさん持ったからいいかな。
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満員電車に揺られて、オフィス街でも目立つ立派なビルの前まで無事に到着。
「橘コーポレーション。超有名企業に受かる奇跡……このチャンスを大切にしなくちゃ!」
改めて外観を眺めて頷く。
多くの人が入り口を潜る中で、私も一緒に自動ドアを潜る。
初出勤の人は一応受付で名前を名乗るって言われていたっけ。
綺麗なお姉さんが座っている受付カウンターに近づいて声をかける。
「あの、すみません。今日から新規で働くことになりました、小鳥 風音と申します。こちらで名前を言うように、と言われていたのですが……」
「はい、小鳥さんですね。人事に問い合わせますのでこの場で少々お待ち下さい」
「はい。お願いいたします」
お姉さんが内線で何やら話を始めた。
その間にもたくさんの人がやってきて、エレベーターホールへと向かって歩いていく。
とにかく大きくて広いこの会社に慣れるまでは迷子になってしまいそう……。
それにしても、私がぼんやり色々見てるって言っても時間がかかっているような?
私、何か間違ったことをしているのか不安になってきた。
「お待たせしました。お知らせしていた部署ではない部署に急遽配置換えになったとのことで、御本人へのお知らせが当日になってしまって申し訳ありませんがそちらのエレベーターで五十三階へどうぞ。そちらでご説明するとのことです」
「五十三階ですか? 分かりました」
急遽配置換えってどういうことだろう?
良く分からないけれど、行くしかないし。
妙な緊張感のまま、エレベーターホールへと向かう。