子連れのレディー②
「よぉ、レディ。久しぶりだなぁ」
先頭に立つ大柄な男が、ニヤついた笑みを浮かべる。
傷だらけの顔に、不揃いな歯。
レディもよく知る顔だった。
「この町に顔出すってことはよ……」
男の目が、ゆっくりと細くなる。
「金、返す気になったっつうことか?」
そう言いながら、レディの隣にどかっと座る。
カウンターの上に肘をつき、レディのグラスを手に取ると、そのまま一気に飲み干した。
「ちっ……安酒じゃねぇか」
レディは無言で、空になったグラスを見つめる。
その後ろで、別の男が動いた。
無造作に、レディのこめかみに銃口を押しつける。
「……で? どうする?」
周囲の客が、そっと席を立ち始める。
巻き込まれたくない、という雰囲気が場に広がる。
だが、レディはまるで気にした様子もなく、
グラスの底を指先で軽く回しながら、面倒くさそうに口を開いた。
「ドーザー。三年前の金のこと言ってんなら、あれはあんたがよこした仕事のせいだろ?」
男――ドーザーは、ニヤついたまま、黙って聞いている。
「あたしは自分の仕事をしただけだよ。むしろ報酬を弾んでもらえると期待してたのに、あんたがよこしたのは鉛玉だった。……忘れたの?」
ピクッ、とドーザーの部下の指がトリガーにかかる。
「おいっ……!」
その刹那、レディの視界の隅で、カイルが動いた。
ポケットに滑り込む手。
冷たい刃が、月光を反射する。
殺すつもりだ。
レディは即座に叫んだ。
「カイル!」
同時に、手を伸ばす。
カイルの手首を掴み、力いっぱい引き戻す。
その衝撃で、ナイフがカウンターの上に滑り落ちた。
刃先が木の表面に突き刺さる。
レディは、その瞳を覗き込んだ。
──冷たい。
暗い。
まるで、何か別のものがそこに宿っているような──
「やめろ、カイル」
レディはさらに力を込める。
「危険はない、死ぬほどのことじゃないよ」
カイルは微かに瞬きをした。
その瞳が、じわりと揺らぐ。
ゆっくりと、カイルの体から力が抜けていく。
レディは、そのままカイルの肩を押さえながら、ドーザーへと視線を戻した。
ドーザーはゆっくりと笑い、未だ銃を握る部下の肩を軽く叩いた。
「おいおい、やめとけやめとけ」
「実はよ……ちょっとした仕事があってな。お前にピッタリな案件だ」
レディは眉をひそめた。
「仕事?」
「ああ。お前にとっちゃ悪くねぇ話だ」
ドーザーは、わざとらしく間を置いて囁く。
「──賞金首の護衛だ」
レディは、一瞬だけ目を細めた。
賞金首の護衛──
用心棒家業の中でも、とびきり厄介な仕事だった。