『イチゴ』生け捕り?
「あそこです。また変な踊りを踊っていますね」
アリスに案内された場所では、やはり『イチゴ』が体を左右に揺らしていた。
全ての『イチゴ』が同じ行動を取るということは『同じ栽培ロット』なのだろうか?
「とりあえず、どういう動きをするのか見てみたいから、もう一度やってくれるか?」
「わかりました」
とは言ったものの、多分無理だろうな。
私の指示に、アリスは『イチゴなんて興味ありませんよ?』と言わんばかりに、少し空を見上げて口笛を吹きつつ、少しずつ『イチゴ』に近づいていく。
一方の『イチゴ』には表情がないので、そのアリスをどう見ているのかはわからない。
そしてアリスが手を伸ばせば『イチゴ』に触れられる位置まで近づいても『イチゴ』は逃げようとはしない。
もしかして生け捕り成功するのか?
アリスは一度『イチゴ』に背を向け、5秒ほど経ったところで急回転して手を伸ばす。
「やあっ!」
ひょい。
しかし『イチゴ』はそんなアリスの手を、いとも簡単に回避した。
「むむ……あっ!」
次に『イチゴ』の後ろを指差して、何かある、というありがちな騙し作戦。
だが、そもそもこの『イチゴ』に前後があるのすら怪しいのだが……
「それ!」
それでも『イチゴ』は少し反応したように見え、アリスは再び飛びかかるが、やはり見事にかわされた。
アリスなりの生け捕り作戦なのだろうが、端から見ていれば特に素早いわけでもない。
私でもかわせそう。
続いてアリスはストレートに『イチゴ』を狙うが『イチゴ』の無駄のない動きに、アリスの手が触れることはなかった。
「……というわけです」
「うん。ご苦労さん」
5分ほど『イチゴ』相手に奮闘していたが、アリスの完敗。
残念ながら諦め、悔しそうにとぼとぼと私の元へ戻ってきた。
「ほらこれ、私がさっき絞った『イチゴジュース』だ。
これでも飲んで休憩していろ」
言いつつ、搾りたて『イチゴジュース』の入った魔導ボトルをアリスに渡す。
「わぁ、ありがとうございます。
あま! おいしいです!
ルシアさん、らーめん勝負の時もそうでしたが、意外と魔導料理人とかに向いているのかもしれませんよ?」
「んー、料理そのものを魔導研究と思えばやれるが、いまいち興味を持てないんだよな」
研究という広義では同じかもしれないが、私自身があまり食にこだわりがないからか、興味が持てない。
「でも、もったいないですねぇ」
アリスは残念そうな表情を見せつつ、魔導ボトルの『イチゴジュース』を一気に飲み干した。
そんな甘いもの、一気に飲み干したら胸焼けしそうなんだが……
それはさておき。
双方ともに疲労の色はなく……というか『イチゴ』の疲労なんて見てもわからないが。
『イチゴ』は再び体を左右に揺らし始め、やはり逃げる様子はなければ、アリスに反撃したり私たちに襲いかかってくる様子もない。
これではますます、農園に入る前に聞いた悲鳴の正体がわからない。
突然変異した『イチゴ』にやられた、という可能性もあるにはあるが……
となると、オッサンが疲労困憊だったのは、アリスと同じように生け捕りしようとして失敗したからでは?
『イチゴ』の回避能力は確かに高い。
だが、私ほどではなくても、ある程度の精度を持って『狩用魔術』を使えば『イチゴ狩り』は可能だ。
ただし『狩用魔術』のラインナップを見ても、全て『狩用』だったので、生け捕りには向かない。
ここはやはり私の捕縛魔術を使うしかないな。
バッグから取り出したのは、手のひらサイズの球状型捕縛魔術。
これを浮遊魔法で浮かせて『イチゴ』の真上、1メートル程度に移動させるも、やはり『イチゴ』は逃げようとしない。
正体がなんなのか理解していないのか、それともかわす自信があるのか。
見せてもらおうか。どういう動きをするのか。
私が、ぱちん、と指を鳴らすと、球状型捕縛魔術が破裂し、4メートル四方の魔導縄が瞬時に広がる。
さぁどうだ?
しかし『イチゴ』の様子をじっくり見ていても、やはり逃げる様子はない。
ついには『イチゴ』に魔導縄が覆いかぶさる。
「おぉ! ついにやりましたね!」
アリスが歓喜の声を上げるも、まだ完成ではない。
捕縛魔術は、ここから自動で対象に絡みついて縛り上げていく。
これで生け捕りかんりょ……
『ぷしゃぁぁ……』
「え……?」
と、魔導縄が縛り始めるより早く、というか、魔導縄が『イチゴ』に覆いかぶさった時点で、例の悲鳴(?)を上げ、果汁をこぼしつつ『イチゴ』はその場で動きを停止する。
……いくら何でも防御力が弱すぎるだろ……
「……失敗、ですね……」
アリスは残念そう。
しかし魔導研究に失敗はつきものなので、このぐらいの失敗で私は落ち込まない。
むしろ次の手段を考えるのが楽しくなってきた。
「とりあえず食べてみるか?」
「はい。ではいただきます」
アリスは早速魔導縄の中の『イチゴ』を手にとって一口。
「……おいしいです。けど、今まで食べた『イチゴ』と同じですね」
生け捕りの期待感があったからか、アリスはおいしいと言いつつも複雑な表情を浮かべる。
どこまでも貪欲な奴め。
「というか、もう気分の問題じゃないか? どんな状態で食べても味そのものは変わらないんじゃないか?」
と、アリスを説得にかかるが、アリスは人差し指を左右に振る。
「ルシアさん。肉汁を思い出してください。
肉汁を閉じ込めたお肉は美味しい、と漫画で読みました。
だから果汁も同じだと思うんです」
と、アリスは絶対に諦めない模様。
……まぁ、美味しいとは私も思うが、どこかの記事で『肉汁を閉じ込めるのは誤解』と読んだことがあるが……
それはさておき。
どのみち、失敗したままでは私も引き下がれないから、絶対に生け捕りにしてやろうという気持ちになっている。
さて、どうしてやろうか?
ガサ……
と、考えていると草木が揺れた。
ちょうどよく次の『イチゴ』が現れてくれたか。
「お困りのようだな」
……オッサンかよ……




