意外と丁寧
『むううううんんん!』
筋肉店員が2人そろって改めて気合を入れ、両手に淡い青色の魔力を纏わせ、そして始まる豪快な魔導料理。
その首藤は包丁よりも切れ味がよく、握った材料は握力で砕く。
ここだけ見るとパフォーマンス重視の魔導料理にも見えるが、2人のダイナミックな動きにもしっかり魔力がついてきているので、意外と魔力の扱いは丁寧だ。
おそらく2人ともやろうと思えば、材料の加工に音一つ出さない、上品で優雅な、それこそ上流階級専属魔導料理人のような調理もできるだろう。
だが2人が作っているのは庶民の味、誰でも気軽に食べられるらーめんだ。
ダイナミックなパフォーマンスの方が客受けがいいだろうし、実際、周囲の観客たちの盛り上がりがそれを証明している。
「あの、たまにキラキラしたものが飛び散っているのですが、あれは汗ですか?」
アリスの言う通り、2人が調理を進めると同時に何か光るものが飛び散って、材料や鍋に付着している。
一見すればクレームものではあるが……
「いや、あれは手に纏わせている魔力が散っているものだ。
ダイナミックな料理が故に、材料に付着させた魔力が材料の破片とともに飛び散っているんだ。
一見雑なようにも見えるが、それだけ材料に魔力を行き渡らせているということだから、魔導料理としては高レベルだと言える。
まぁ汗も混じっているかもしれないがな」
そうアリスに説明していると、赤青若衆がほぼ同時に、何か書かれた看板のようなものを掲げた。
そこには『飛び散っているものは魔力です。汗ではなく当店オリジナルの魔導料理が故の現象なのでご安心を』と書かれていた。
「今のご時世、ちゃんとわかりやすいように説明しておかないと猛批判を受けて営業どころじゃないだろうからなぁ。
多分、店にある看板を持ってきたんだろうな」
「なるほど。でも私たちが生まれた時代なら、文句を言えるほどの余裕はなかったですよね」
「……わかる」
と、数百年を生きる魔女の意見だが、アリスは私よりさらに100年先に生まれ、さらには貧しい村の出身だというから説得力が違う。
それが故の食物魔法だし。
それに比べれば私はかなりマシな方で、謎に包まれたおばあさんのおかげで、お菓子を食べる余裕もあった。
それでも現代ほど料理は清潔ではなかったので、アリスの言うことに共感はできる。
そうこうしているうちにダイナミック魔導料理は進んでいき、お湯から麺を上げる時も当然魔力を帯びた素手だ。
これが三流となるとお湯に手を突っ込むことに躊躇してしまうが、2人は流れるように鍋の中に手を突っ込み、麺を上げる。
そして先ほどまでのダイナミックから一転、まるで赤子を扱うかのように優しく麺をスープが入った丼へ移す。
そのスープだが、短時間で作るのは不可能だからか、スープが入った大鍋は店から持ってきたものだ。
その鍋にもしっかり魔力加工がしてあり、そのスープをすくい上げる時も、魔法によってスープを球体状に変化させ、道具を使わずに丼へ移していた。
ここまで見る限りは完璧な『真の魔導料理』である。
あとは肝心の味。
工程は完璧でも、その工程ばかりに気を使いすぎて、肝心の料理がクッソ不味いケースは意外と多く、元宮廷料理人の料理もそれだった。
『へい! おまちい!』
調理時間は3分ほどで、完成されたそれぞれのらーめんを若衆たちが私たちの前に持ってくる。
ここで評価したいのが、丼の大きさは二つで1人前くらいであり、女性がそれぞれのらーめんを食べることをちゃんと考慮してあること。
まぁアリスなら普通の一人前でも余裕で2杯食べられそうだが、私にはちょっと無理そうなので、これはありがたい。
これが完全な脳筋やろうだと『文句言わずに黙って食え!』って言ってくるんだよなぁ。
残せばいい、と言う人もいるが、私は吐くほどクッソ不味い料理でない限りは残さないようにしている。
そういえば昔、すんごいお腹が減っていた時、適当に入ったお店が頑固オヤジが経営している店で、クッソ不味い上に量が多く、お残しは許しません、というスタンスだったので、さすがにその時はお金だけ払って逃げようと思ったことがあったな。
結局その時はとある事件に巻き込まれたため完食せずに済んだが、その事件がまたクッソ面倒だった……
それはさておき。
1杯ずつ食べるのだから、そこはちょっと調整してほしかったが、食べている間にダイナミック魔導料理なんてしてたら、観客もどっちに注目しいいかわからないし、食べている方もそれはちょっと視覚的にもうるさいから仕方ないか。
でも、手をつけないもう一つは少し冷めちゃうからなぁ。せっかくのらーめんなのだから、熱々で食べたかったが。
そこが評価に響いても私のせいじゃないぞ。
ではいただくとしますか。




