脳筋魔女アリス
「無理です無理です無理です!
狙撃って、ルシアさんが持っている魔銃で、こう、ぱーん、ですよね?
絶対無理ですよ!?」
アリスはそう言いつつ、狙撃するポーズを取る。
そういえば、アリスはこの手のポーズをよく取るが、見た感じでは意外とちゃんとしてるんだよな。
例えばここにスナイパーライフルを置いてそのまま引き金を引かせれば、上手いこと狙い撃ちできそうなくらいに。
「いや、アリスに使ってもらう狙撃用魔術は、スナイパーライフルの試作魔術だ。
魔力阻害などがなければ、基本的に狙ったところにまっすぐ飛んでいくよう設計されている。
その分、組み上げて移動はできない。だから魔銃というより固定砲台だな」
この固定砲台という響き、結構好きなんだよな。魔導戦艦を撃ち落とせるような、高威力魔導砲なんてロマンの塊だ。
しかし私の趣味は理解してもらえないようで、アリスは少し首を捻る。
「……うーん……固定されていればできそうな気はしないでもないですが……
自信は全くありません……」
アリスは力仕事となれば自信満々で行うのに、魔力の扱いとなった途端にテンションが急降下する。
脳筋上位魔女とか、魔女史上アリスだけなのでは?
あまり魔法が使われていない村の出身らしいから仕方ないとはいえ、生まれが違っていたら、と思わずにはいられないな。
「狙いを定める練習だと思えばいい。
それに今回は狙った場所にピンポイントで撃ち込む必要はないからな。
ただ、私には仲間がいるんだ、と思わせればそれで成功だ」
ついでに言えば『強力な仲間』がいる、と認識させられればなお良い。
「……上手くいかなくてもいいのなら、お手伝いさせてもらいますけど……」
「そのぐらいの気持ちで大丈夫だ」
脳筋魔女のアリスに、魔力の扱いを絶対に成功させなければならない、というプレッシャーはタブー。
失敗してもいい、という前提なら、今後も上手いこと丸め込めそう。
あとは漫画の影響を受けてきているので、それにそった特訓方法などを考えれば、順調に育ってくれそう。
あとはご褒美に美味しいお菓子でも用意しておけば大丈夫だろう。
「……ここらへんでいいか」
私が疲労で根をあげそうな頃、ようやくエレナがいるであろう会議室の窓が肉眼で見える場所まで戻ってきた。
ここまで戻ってくると樹海に入る一歩手前ぐらいなので、あともう少し歩けば道も綺麗に舗装されている。
「アリス、こっちだ」
「え? ここからだとよく見えますけど、違うんですか?」
「そんなところで魔術なんて構えてたら、捕まえてください、って言っているようなものだぞ」
「言われてみれば確かに……」
まだ森から出る一歩手前ぐらいなので、迷っている風を装えば大丈夫だろう。
私たちは道から外れ、身を隠せるような木々が生茂る場所に移動する。
「バーズム・アース」
周囲に溶け込み隠れる魔法。
魔力防御ではないので攻撃は防げないが、魔力探知阻害効果があるので、狙撃には向いている。
「迷彩人間の実力を見る限り、多分収穫に特化した社員なのだと思う。
だからこの場所が見つかることはない」
もしあいつらが優秀なら、草刈り魔法で身が露わになった時点で即動けているはずだ。
それが私が魔力弾をぶっぱなすまでぼーっとしていたんだ。
とてもこの場所を探知できるほどの戦闘熟練者とは思えない。
「つ、つまり……ここは安心できる場所、ということでしょうか?」
「そういうことだ」
変な特殊能力者がいなければだが。
「で、でも……ここから私が狙うんですよね……?」
見つかる心配はほぼない。
だが、位置関係を確認したアリスに安堵の表情は見られない。
ここから会議室までの距離は、先ほどの栄養付与魔術の射程距離5メートルの比ではない。
窓がポツンと見える距離、およそ200メートル程度。
私ならこの10倍の距離があっても楽勝で打ち抜ける。
しかしアリスにとっては、少しだけ芽生えたやる気が粉々に打ち砕かれる距離だろう。
「大丈夫大丈夫。アリスでも上手くできる魔術だから」
私はそう言いつつ、ツールバッグから試作型長距離射撃魔術を取り出す。
私の掌を大きく広げた二つ分ほどの長さの銀の棒18本と、黒い棒2本。
「これ……で狙うんですか?
まさか、ここから投げつけるとか?
でも私、そんなに肩は強くないですよ?」
アリスは私の取り出した魔術を見てキョトンとした表情を浮かべる。
それと同時に、とても魔術には見えない棒に安心したのか、若干安堵したような様子を見せる。
「まさか。ここから素手で投げるとか、プロアスリートでも難しいぞ」
「……ですよね」
アリスは魔力を行使するとわかった途端、また不安そうな表情を見せる。
それにしても、直接投げつけるとか……やっぱり脳筋魔女だな。




