草刈り魔法
アリスを瞬時に助けるには『クレナイ』を爆散させてしまえば一発だが、それだけは避けたい。
『クレナイ』は貴重な魔導素材になりそうだから、それはもったいない。
それに、私が勇者対策で作った魔導植物もそうだったが、根だけでも生きている、あるいは根が本体の場合もある。
爆散して無数に根が広がり、包囲されたらおしまいだ。
それでも、アリスを助け出すためにはあの根は切断しなければならない。
ただし、切っても切っても根が動いてアリスを捕らえ続ける、堂々巡りは回避しないと。
余計な魔力は使いたくなかったけど、この手の仕事は昔からトラブルばかりだ。
「フューネル・ノルドノーム」
「えぇ!? こ、今度はなんですか!?」
アリスは球体状の魔力に閉じ込められ、顔を真っ青にして声をあげた。
「心配するな。アリスを助けるための魔法だ」
「あ、ルシアさんの……よかった。このまま食べられちゃうのかと思いました」
「守るって約束だからな」
対象の周囲に球体状の魔力防御を展開する『全方位型防御魔法』で、あやらゆる方向からの攻撃を防ぐことが可能だ。
それは地中も例外ではなく、展開された球状の魔力防御は、地面を抉って根を断ち切る。
私が使用できる最上位の防御魔法だが、底辺魔女の私にとっては使用魔力が多すぎる。
なので、ガチ戦闘になりそうな緊迫した状況以外では滅多なことでは使わないのだが、今回ばかりは仕方がない。
アリスの無事が最優先だ。
魔力制御を行い、アリスごと浮遊させて私の側に引き寄せる。
すると思惑通り根は完全に切断されており、抵抗されて引っ張られることはなかった。
懸念していた、根が生きている、ということもなく、これ以上拘束する力もないことを確認して魔力防御を解除する。
「あ、ありがとうございます……あと、できればこれもとっていただければ……」
切断したとはいえ根は複雑に絡み合い、アリスは表情以外動かすことができない。
「もちろんだ。まかせておけ。
エッジ・レイ」
魔力マーキングしたものだけを断ち切る切断魔法。
ただし、距離が離れるほど威力が落ちる上に、なぜか人間は切れないため、通称『草刈り魔法』と呼ばれている。
なので根だけをマーキングすれば、アリスはもちろん、衣服に傷1つつけることもない。
「……た、たすかりました……おかげで私がご飯にならなくてすみました」
無事解放されたアリスは、地面に座り込んで大きく息を吐く。
アリスはいつも食に絡めた例えをするが、今回ばかりはそれが正解の可能性があるんだよな。
「怪我や痛むところは?」
「転んだ時に打った頭がちょっと痛いです……それ以外は大丈夫かな、と……」
アリスは言いつつ、打った場所をさする。
「大事ないならいいが、一応冷やしておいたほうがいいだろうな」
私はツールバッグからアイシングバッグを取り出し、
「ロック・アブサード」
製氷魔法で氷を作り出し、アイシングバッグに入れてアリスに渡す。
「ありがとうございます」
「いや、事前に防げなかった私の責任でもあるしな」
アリスは無事に救出できた。
だが、ここまで私に無駄魔力を使わせたのだから、成果の1つや2つ持って帰らないと割りに合わないぞ。
しかし、こういう時だからこそ落ち着いて観察だ。
栄養付与魔術の射程外に出たからか、根が追撃してくる様子はない。
それに『クレナイ』自身が動いて追ってくる様子もなければ、これ以上の蜜部分の変化も見られない。
推察するに、タンクの中身は少量の栄養魔力で、最初に変化を起こさせ、それを観察する収穫者を油断させる。
そして時間をかけて根を伸ばし、収穫者を捕縛するのが目的か。
事故である可能性も否定しきれないが、それにしては蜜部分の変化がなさすぎる。
ここは農園側が仕込んだものと判断して、次の行動はどうするか。
蜜が完成すれば当然収穫は必要となる。
しかし素人収穫者はクレナイに囚われ、あるいは魔力を奪われて動けない。
となると、他に回収する人材が必要になる。
しかしこの樹海。
周囲を見渡しても、草、草、草、木、木、木……この状況で周囲に紛れて隠れている人間を探し出すのは容易ではない。
気配が読める系の人間なら可能かもしれないが、私には不可能だ。
一応魔力探知アプリで周囲にスマホを持っているものがいないか探してみるが……やはり探知できない。
しかし考えようによっては、こんな樹海の中、スマホも持たずわざわざ草木に紛れて何をしているのか?
道に迷った収穫者なら、ほぼ確実にスマホを持っているはず。
なので試してみる価値はある。
「エッジ・レイ」
周囲を見渡し草木をマーキング。
位置的に樹木は切断できないが、広範囲に渡って雑草を切断する。
これこそがこの魔法の正しい使いかたとも言える。
そして人間は切断できない。
となると、茂みに隠れて様子を見ている輩がいれば……
「みーつけたぁ」
発見できる、という寸法だ。




