待ちに待った魔術
「次は、みなさんに収穫していただく『クレナイ』の特徴ですが、全身が紅いヒマワリのような見た目をしているので、一目見ればわかります。
そのヒマワリで例えると、種がある部分にクレナイは蜜を溜め込んでいます」
ヒマワリの魔物化は昔見たことがあるが、アレに近いのだろうか? 種が美味しかったんだよな。
「ただ、現在全てのクレナイは収穫基準である紅色にはなっておらず、蜜は緑色となっています。
これが収穫に適した紅色にまで成長するとクレナイは少し凶暴化し、収穫の手間が増えてしまいます。
そのため、現段階で当社が開発した仕上げ用魔術を使用すれば、クレナイは一切凶暴化することはなく、完全に動きを止め安全に収穫することが可能となっております」
魔導植物の栽培事業には必須魔術だな。
たまに『そんなもの必要ねぇ!』と、イキがって魔物が出現しそうな場所へ赴く愚か者がいるが、そういうやつは痛い目をみないとわからない。
ただの一般人なら、魔物化したタンポポにも勝てないだろう。
「魔導植物って本当に動くんですか?」
アリスは私に少し近づき、先ほどよりも小さな声で問う。
「魔物でなくても植物は普通に動くぞ。
それが魔導植物となると、漫画に登場する人を襲う魔導植物を思い浮かべると、イメージに近いんじゃないかな」
私の説明を聞いて、アリスは少し宙を見て思い出している様子。
「……私、そんなの相手にできないんですが……」
アリスは『希少魔物食材』のことばかり考えていたようで、収穫の具体的なイメージはできていなかったのか、急に不安そうな表情を見せる。
「心配することはない。
この手のことは私に任せておけばいいし、アリスはちょっとした社会経験と思っていればいい」
「は、はい。わかりました」
私の言葉にアリスは、少し安堵した表情を見せる。
こうやって信頼ポイントを稼ぐのは重要だし、アリスがいるだけで報酬2倍なのだ。
今後も同じようなことは何度でもあるから、少しずつでも経験を積ませておかなければ。
他の参加者は……命の危険ともなれば助けてやるが、報酬の半分はいただくかな。
まぁそもそもそんなことが起きるような現場であれば経営を続けられないはずなので、心配ない……と思うが……
「では実際に使用してもらう魔術を用意するので、少々お待ちください」
そう言ってエレナは作業着の男性に視線を向けると、男性は一度退室し、おそらくすぐ隣の事務室から今回使用する魔術を手に戻ってきた。
キタキタ。そう。これだよこれ。私がずーっと楽しみにしていた魔術。
ワクワクしながら男性が持ってきた魔術に視線を向ける。
そこには私の手のひらぐらいの紅い透明プレートと、タンクを背負うタイプの水鉄砲のようなもの。
見た目に特別感はなく、どちらもそのへんのお店で手に入りそうなものだ。
まぁ見た目の話はどうでもいい。
私も誤魔化すために、オモチャっぽい攻撃魔術を作ったことはある。
「このタンクの中にはクレナイの栄養魔力と活性化魔力、そして抑制魔力を配合した侵食系魔力が装填されています。
文字通り栄養を与えて活性化させ、蜜が完成したと同時に動きを抑制する魔力です。
そしてこの混合魔力をクレナイに直撃させるのが理想です。
しかし仮に上手くいかなくても、クレナイの周囲1メートルぐらいに着弾させても構いません。
直撃させた時よりも少々時間はかかりますが、クレナイが魔力を吸い上げて同じ結果となります。
なお最大射程は5メートルとなっており、3回使用できるので、一度外しても慌てず落ち着いて再度狙ってください。
そもそも軽量で発射による反動もなく、ピンポイントで狙う必要もないので、水鉄砲を使ったことがない方でも、落ち着いて狙えば一度で成功できます」
話を聞く限り作業としては確かに簡単で、これなら未経験者でも問題はなさそうだ。
気になるのは、タンクに装填されている魔力。
魔力合成は個々の効果が弱くなる、あるいは打ち消してしまうので機能しなくなる場合がある。
しかしそれを上手く配合できたからこそ、こうやって『クレナイ』で商売ができている。
しかもそれを射出させるのは、私の持つスナイパーライフルのような、まさに魔銃、というわけではなく、見た目が軽量タンク式水鉄砲だ。
当然普通の水鉄砲に魔力は装填できないので、特殊な素材に何かしらの術式を施してあるはず。
さすが金と人を持っている企業の開発力は羨ましい……
とはいえ私が負けたわけではないぞ。
私だってやろうと思えばできる……けど、1人だとどうしても優先順位があるし、個人では手に入れづらい素材だってある。
なので、今後の研究のためにどうにかして一式持って帰りたいところなのだが……
今までも気になった魔術はなんとかして……変態一家では失敗したけど……持って帰ったわけだし。
最悪でも、射出魔術の一部を壊れたことにして持ち帰り、タンクからは少量の魔力を抜き取って持って帰ろう。
クレナイ専用の配合かもしれないが、今後の研究に役立つかもしれないし。




