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勝手に魔王認定された魔女は勇者に魔力を奪われたので取り戻すために旅をする~なお500年経っても魔力は戻っていない~  作者: 山岡桃一


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希少魔物食材『クレナイ』

 やりたい実験は山ほどあるが、次の予定は超重要案件だ。

 絶対にキャンセルなんてできない。

「ここではどんな実験をするんですか?」

 アリスは周囲を見回しながら、そう聞いてきた。

 さすがここ数日間、私の実験に付き合っていただけのことはある。

 この村に到着して最初の質問がそれとは。

「今回の目的は実験じゃない。

 『クレナイ』という『希少魔物食材』を手に入れるためにやってきたんだ」

 私たちが今回やってきたのは、首都フィリーからやや北東方面。

 この国でも有名な農業地域の1つ、シャインニーバ地方モンド・ラーズ地区のヴェルズネイという村。

 そして今日の私の服装は、ホワイト系の肩開きニット、ブラウンのティアードスカート、ブラウンのニットブーツ。

 アリスは、白のフリルがついた水色のワンピースに、厚底パンプス。

「『魔物食材』ってあれですよね?

 普通の食材よりも美味しいと噂の」

「よく知ってるな。その通りだ」

「ですよね!

 それに手に入れるのが難しいから高級品だそうで、料理漫画でもお金に物を言わせる展開だと必ず『高級魔物料理』が出てきますし」

「その漫画の知識は当たりだな。

 細かいことは省くが『魔物化』した動植物は、魔力を大量に保有している。

 なのでそれが旨味となるから、普通の食材よりおいしいんだ。

 まぁそれでも、その素材を活かすも殺すも料理人の腕次第だけどな」

「ということはつまり、ついに私も『魔物食材』を食べられるということですね!?

 一度食べてみたかったんです。あの口から光線が出るほど、美味しいんでしょうね」

 その知識は間違っているが……

 アリスの食欲にはもう慣れたな。

 食に関することは意外と真面目に聞く。それにいっぱい食べる。

 ただ気になるのは、どれだけ食べても一時的に増えるだけで、基本的には同じ体重という不思議。

 やはり特殊な上位魔女は謎が多すぎる。

「そういうことだ。

 でも、ここでは1つ仕事をしなければならない。

 その報酬として『クレナイ』が貰えるんだ」

「なるほど。

 私はあまり難しいお仕事はできませんが、やれることは精一杯がんばります。

 それで、こっちですか?」

「いや、違う」

 張り切るアリスは、私たちが降りたバス停から見える小さなお店が並ぶ方へ向かおうとする。

「え? お仕事って店の前で、ばんばん、って叩きながら売るんじゃないんですか?」

 アリスは言いつつ、上下に何かを振る動作をする。

「ここは『クレナイ』の生産地ではあるが『クレナイ』を直接売っているわけではない。

 生産地という名目で、加工された『クレナイクッキー』などのお土産は置いてあるようだがな」

「ふむふむ。わかりましたよ」

 アリスは何かを悟ったのか、腕を組んでうんうんと頷く。

「つまり、私たちは工場で加工する作業のお仕事ですね。

 その報酬が『クレナイ』と」

 アリスは人差し指をピンと立てて、自信満々に言い切る。

「いや、違うぞ」

「え……違うんですか?」

 私が否定すると、その人差し指がへにょっと曲がる。

「ではどんなお仕事を?」

「アリスの言う加工も近いが、もっと前の段階、つまり収穫だよ。

 周囲にも人が集まってるだろ?

 これらはみんな、その収穫のアルバイトで集まっているんだ。

 そして報酬が『クレナイ』ってのは合っているぞ」

 改めて周囲を見回すと、十数名の人たちが本を読んだりスマホを眺めて、この場所で待機していることがわかる。

「なるほど。私も村で収穫のお仕事を手伝っていたことがあるので、少しは力になれると思います」

「うんうん。がんばろうな」

「はい!」

 元気に返事をするアリスだが、実は危険が伴う可能性がある。

 応募内容には、こう書かれていた。

『18歳以上で魔術を扱えること。

 『若干特殊な魔術』を使用するので、農作業未経験者でも構わない。

 なお作業内容や施設に関する情報を漏洩するなど、規約に反する行動が認められた場合は法的措置を行う』

 つまり『クレナイ』の収穫は通常の方法ではないということだ。

 私としては『クレナイ』もそうだが、この『特殊な魔術』というのが非常に気になる。

 だからこの予定だけは絶対に外せなかった。

「ところで『クレナイ』とは、どういう姿をしているのでしょうか?

 間違ってそのへんの雑草を持って行ったら怒られそうですし」

「私も『クレナイ』の本体は見たことがない」

 情報統制がしっかりされているようで、そこらへんは情報屋に聞いてもわからなかった。

 それに魔導ネットワークから潜り込んで見ても『クレナイ』本体の姿を探し出すことができなかった。

 トップシークレットもそうだが、農園内で『クレナイ』に関する情報保存は厳禁となっている可能性が高い。

 写真1枚でも撮って持ち帰ったのがバレたら、闇に葬られそう。

「ただ加工品は見ることができるぞ」

 私はスマホを取り出して操作し、赤い水晶玉のような『クレナイ』の画像を見せる。

「へぇ、とても綺麗ですね。

 でもこれは本当に魔物から採れたものなんですか?

 怪しげなお店で売っている水晶玉のようにも見えますが」

 アリスは画面に映る『蜜の塊』に、疑惑の目を向ける。

「もちろん嘘の情報を載せている可能性もあるが、対外的に見せるものにおどろおどろしい魔物の原型なんて載せないだろ。

 だから加工品なんだ」

 私も昔、勇者対策として原型をとどめない、見た目のインパクト強烈な魔導植物を作ったことがある。

 しかし、勇者はそんなものには微塵もひるまず、あっという間に魔力だけ奪い取って去ってしまった。

 弱点収集のつもりで作ったから仕方ないとはいえ、あまりにもあっさりしすぎて、私の開発時間を返して欲しいと思ったレベルだった。

「確かに言われてみればそうですね。

 私なら美味しいと思ったらかぶりついちゃいそうですけど」

「商品にかぶりついて怒られないようにしてくれよ……」

 食欲魔女はブレないなぁ……

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