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勝手に魔王認定された魔女は勇者に魔力を奪われたので取り戻すために旅をする~なお500年経っても魔力は戻っていない~  作者: 山岡桃一


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術式ドーナツ

「これでよし、と」

 単純な術式なので、数秒ほどで付与できる。

「見た目は変わらないんですね」

 アリスは術式付与が完成したイチゴドーナツを、上から見たり横から見たりするが、色や形に変化はない。

「見た目に変化が見られたら、それは変化魔法だからな。

 今回は術式が付与されていればいいから、魔導回路としての役割もないからな。

 なので普通に考えると、これだけでは何も起こらない」

「え? でも今回は、おいしくないドーナツを食べる、ってことですよね?

 他に何か調味料的な魔法を使うんですか?」

「いや、さっきも言ったが『術式を付与した料理は不味くなる』から、今回はこれで完成なんだ」

「なるほど?」

 アリスは小首を傾げながら、術式ドーナツをじっと見つめる。

 見た目が全く変わらないことに納得しづらいのだろうか?

「ルシアさんが不味い不味いって言うから、もっと邪悪な変化をするのかと思っていました。

 こう、ツノが生えてくるような」

 アリスは言いつつ、両手の人差し指をツノに見立てて額に当てる。

「それはそれでちょっとおもしろそうだがな。

 で、どうだ? 食べ物として認識できているか?」

 普通のドーナツの味を知って美味しいと認識できていれば、見た目による拒否感はないと思って先に食べさせた。

 その上で、この術式ドーナツをどう認識するか?

「私の勘では、食べても問題なさそう、と言っています。

 でも、もしかすると美味しくないかも? と、ちょっと思ったりもします」

 その勘って、長い野生生活の中で培われたものなのだろうか?

 それとも、上位魔女の自動防御の一種なのだろうか?

 私は見た目では一切判別がつかない。

 あの変態一家の戦闘メイドが出してきた、あからさまな痺れお茶やドクロクッキーとかなら話は別だが。

「そうか。

 では早速試食といこう」

 まずドーナツを3分割し、1つをアリスに、1つを残し、1つは私がいただく。

 本当は食べたくないけど、実験の確認作業は必須だ。

 万が一、私とアリスの味覚がズレていては検証に支障が出てしまう。

 残りの1つは、アリスに作ってもらう術式ドーナツとの比較のため。

「分けても味は変わらないんですか?」

 アリスは手に取ったドーナツを眺めつつ、そう聞いてきた。

 単に食べ物が絡むからかもしれないが、こうやって興味を持ってくれるのは嬉しいことだ。

 今後にも期待しよう。

「それは問題ない。

 術式料理は『書き込む』というより『染み込む』んだ。

 だから料理を分割したからといって、全体に染み込んだ術式が分割されるわけではない。

 これが部品を細分化した魔術や、魔法の阻害……」

 と、関連する詳細を説明し始めると、その表情はあからさまに興味が失われていくのがわかる。

「とまぁ、小難しい説明はさておき。

 ではいただくか」

「ルシアさんも食べるんですか?」

「変化の確認は必須だからな。魔導研究者なら当然のことだよ」

 ……本当は食べたくないけど……

「では」

 いつもながら術式料理を食べるには覚悟がいる。絶対に不味いからな。

 一番酷かったのは、食べた瞬間は不味いと思っただけだが、時間が経つにつれて気分が悪くなり、激しい嘔吐や下痢になってしまったことがある。

 美少女にはあまりにも似合わない光景だが、耐えることができなかったので仕方がない。

 唯一の救いだったのは、ちょっといいホテルで実験したので、部屋のトイレが広かったこと。

 これが万が一、あの廃屋のような場所だと簡易魔導トイレが足りず……

 悲惨な目に遭っていたこと間違いなし。

 だからアリスに説明した私に関する症状については、実は嘘。

 お腹も壊したし気絶もしたし、のたうち回ったし。

 嘘も方便、というやつかな。

 本当のことを言ったら食べてくれないかもしれないから、まずは安心を与えること。

 実際、今回の術式ではそんなことはおきない、はず……

 まぁ違った結果が出たとしても、これが魔導実験。避けては通れない道だ。

 では覚悟を決めて、いただきます。

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