種目別勇者王
「『勇者王』ってルシアさんが研究していて、最後は元気がなくなっちゃう、あの『勇者』ですか?」
アリスは『勇者王』と聞いて、いつも私を悩ませる『勇者』と連想し、テーブルの下でこっそり傍受阻害アプリを起動させて、私に問う。
私は魔力を取り戻すために、いつも手持ちの『勇者資料』とにらめっこするが、結局仮説ばかりで確証は得られない。
なので、最後はお決まりのように机に突っ伏すのだ。
アリスもよく見ているなぁ。
「いや、その『勇者』とは違う。
この町に限らず『勇者』の名を冠したイベントは、年中どこかしらの町で開催されているんだよ。
つまりそれだけ『勇者』は数多くの人、地域を救った英雄ってことだ」
ただし『初期勇者に限り』と言ったほうがいいかもしれない。
後期勇者は魔女の魔力を食うことだけを考えており、結果的に町は救われた、というのだから、救いはついでだった。
「この町では年に一度『勇者王決定戦』というイベントが開催されていて、その優勝者が『勇者王』というわけだ。
だから私が研究している『勇者』とは別物だよ。
でも、私としては、些細な情報でも欲しい。
だから自分の都合に合わせて、近隣で開催されている『勇者系イベント』には、どれだけ胡散臭くても参加するようにしているんだ。
今のところ、ハズレばかりだけどな」
その中でも『勇者ボディビル大会』は苦痛でしかなかった。
賞品が『勇者も愛用。伝説のタンパク質』とかいう、魔力を奪って筋肉を大きくした『勇者』とは全く関係のないものだった。
それでも一応、念のため、万が一のことを考えて、絶対に関係ないとは思いつつも、その賞品が何かを確かめるために見に行ってみた。
結果、その賞品の正体はとても高級なお肉で、ちゃんと料理すれば美味しいんだろうなぁ、と思っただけ。
まぁ『勇者筋肉巨漢説』は有名であり、実際そうだったのだから、参加したボディビルダーにとっては、栄誉のほうが大事なのだろう。
「でも『勇者王』って名乗っちゃって、他の町はそれに文句を言わないんですか?」
「昔はそれが原因で争いになったこともあるが」
何度か巻き込まれたこともあるが、とてつもなくくだらない争いではあった。
「結局、長い年月を経て、各町それぞれで似たようなことをやりはじめたから、もう、お互い様みたいなものになったな。
今となっては、町同士の交流で『真の勇者王決定戦』なんてものがあるぐらいだしな」
「ということはつまり『勇者王』という名に意味はなくて、各競技……というと違うかもしれませんが、それぞれの分野の頂点が『勇者王』ということでしょうか?」
「まさにその通りだな。だから『勇者王』はいっぱいいるんだ。
今回の『勇者王決定戦』も言い方を変えれば『モールトンらーめん王決定戦』だな」
「言い方を変えるだけで、随分と規模が小さくなっちゃった感じがしますね。
それに私『勇者王決定戦』ってバトルものだと思っていましたが、意外と平和なんですね」
「そう。世の中は意外と平和なんだよ。
戦争をしている地域もあるが、魔王戦争時代のように魔物が溢れかえっているなんてことはないからな。
あの時は魔王という、明確な人類の敵がいたから、人間同士の争いも……あるにはあったが、今よりも少なかったと思う」
それまでいがみ合っていた人類も、魔王という驚異の前には結託せざるを得なかった。
しかし、それでも上位魔女どころか下位魔女にすらお手上げ状態であり、結果として各地域の魔法使いやら魔導研究者やらが集まって『勇者を召喚』したらしい。
私は魔王状態だったので、そんなおもしろそうなイベントに参加できず、勇者が本当に召喚されたのか、という真実も分からずじまいとなってしまった。
そして私はとんでもない迷惑を被ることとなりましたとさ……
「それにしても、このお二人もらーめん王……いえ『勇者王』を目指す人なんですよね?
つまりお味には期待ができる、ということですよね?」
食の話になった途端、アリスの目が輝く。
「それはどうだろうなぁ?
多分『勇者らーめん』の看板を掲げている店は全て目指しているだろうから、この二人はその中でも大ハズレという可能性もあるぞ?」
見た目のインパクトだけなら『勇者ボディビルダー』にも劣らないが、それと料理の腕は全くの別物。
昔、元宮廷料理人だったという経歴を持つ男の料理を食べたことがあるが、クッソまずかった。
詰めに詰めて話をよくよく聞いてみると、経歴を詐称しまくったクソ野郎ということが判明した。
この二人もインパクト重視の、ソレ系な可能性はある。
「そうなんですか?
ではお口直しのデザートを考えていたほうがいいかもしれませんね」
「確かにな」
私の言葉に二人の実力を期待できなくなったか、アリスはテーブルの下でマップを広げて、改めて店を探し始める。
ってそれ、らーめんマップ……デザートにらーめん、いや、口直しにらーめん食う気か?
「はあああああ!」
「ふおおおおお!」
とりあえずあまり期待はせず、ぼーっと料理の開始を眺めていると、赤青は同時に気合を入れはじめ、筋肉がどんどん膨張していく……
ドーピング魔術……を使った形跡はない。単純な身体強化魔法か。
しかし、それは何のために? やっぱりパフォーマンスで誤魔化す気か? いや、待てよ……
『ふん!』
そしてついに、膨張した筋肉は衣服(上だけ)を弾き飛ばし、キレッキレの筋肉が姿を現した。
そしてそれに呼応するように、観客のボルテージはどんどん上がっていく。
これだけ見ると、私にとっては卒倒ものなのだが……




