駅前らーめん対決・開始
「それで、アリスはどうするんだ?
現状、すんごいサービスに、天使様と褒めてくれた青色が優勢だと思うが。
他に行きたいところがあれば、無理せず断ってもいいんだぞ?」
この手の誘いは後出しが優位。これに対して赤色はどうするか?
もうやれることもなく、汚い罵り合いの末に、殴り合いになるのは勘弁してほしい。
昔、ちょっと貴重な魔術欲しさに演じた『私のことで争わないで事件』みたいになると面倒だ。
あとできれば、アリスには第三の選択肢を取ってもらって、この場から離れたい。
「そうですねぇ……」
どうやらアリスの心はサービスと、天使様という褒め言葉では決定打にならないようで、赤色、青色、マップと視線をうろちょろとさせている。
そして、この異様な雰囲気に周囲が飲み込まれたか、駅前の人混みとは思えないほど異常な静寂に包まれる。
つまり私たちは今、すんごい注目を浴びていて、写真や動画を撮られているのだ。
だが、心配ご無用。
私には認識阻害魔術、別名『自前モザイク魔術』というものがある。
なので、一般人が扱う程度の魔力撮影では、私たちの顔がはっきりと映ることはない。
「むむぅ……」
そんな静寂の中、アリスはなかなか決められないでいる。
「お嬢ちゃん。迷っているようだな!」
そこへ、静寂を破るかのように、赤色が大きな声を出す。
「ならオレが決着をつけてやるよ!
『元祖勇者みそらーめんレッド』の漢気! 見せてやるよおお!」
どゆこと?
まさか、無理やり連れて行くことで、解決しようとするつもりじゃないだろうな?
「野郎ども! 持ってこい!」
私が警戒していると、赤色はこの大通りの端から端まで届きそうな号令を出した。
そして号令に応えて、これまた屈強な赤色エプロン姿の男三人が、テーブルとイス、そして調理器具と食材を持ち運んできた。
……まさか、やるのか? 今、ここで……
『うおおおおお!』
『なんだなんだ!?』
『すげええええ!』
静寂を破った赤色に応えるように、周囲のボルテージが急上昇する。
まぁ、これだけ派手にやれば盛り上がるし、店の宣伝にもなるだろうなぁ。
美味いかどうかは別として。
「こちらも負けていられませんよ!
厳選された食材をここへ!」
負けじと青色が号令を出すと『元祖正義みそらーめん』の看板を掲げた店から、これまた青色のエプロン姿の屈強な男三人が、調理道具一式を持ち運んできた。
……うーん……ここまで用意周到だと、さっきのひったくり犯といい、やっぱり全てが仕込みなのではと疑ってしまう。
「お席にどうぞ!」
声でっか……
私が少し考えていると、あっという間に特設調理コーナーが設置され、声のでかい赤色店員から、イスに座るよう促された。
興味ない面倒ごとに巻き込まれたくないし、目立ちたくもないのに、ここで座るともう逃げられない……
「あなた方のために用意した、特別なステージです」
一方の青色店員は、やはり変なポーズを決めつつ、言葉だけは紳士的にアリスに座るよう促す。
「ど、どうも……」
そしてアリスは簡単に受け入れ、少し大きめイスにちょこんと座る。
……仕方がない。
煙幕魔術でも使って逃げることはできるが、この後のことを考えると、それはやめた方がいいか。
「本来なら漢気でここにいる全員に振る舞いたいところだが、さすがに今日は食材が足りねぇ。
だが、これだけの人の前でお嬢ちゃんたちが『美味い!』と言えば、オレが『勇者王』に君臨することは確実よ!」
いきなり下心を暴露しやがったな。何が漢気だよ。
結局目的はそっちか。
「つまり、私たちに審査員をやれ、と?」
「おうよ!」
赤色はあっさり認めやがった。
となると、やっぱりあのひったくり犯も仕込みか?
と思っていると、誰かが通報したのか、気絶しているひったくり犯を、警察が連れて行く姿が目に映った。
いやいや、そっちも大事だけど、この駅前のど真ん中でらーめん食わせる店を注意しろよ。
まさかとは思うが、これも許可をとっているイベントなのか?
「『勇者王』ってルシアさんが研究していて、最後は元気がなくなっちゃう、あの『勇者』の一番凄い人ですか?」
アリスはそんな盛り上がりをよそに、きょとんとした表情で私に問う。
私は自分の魔力を取り戻すために、手持ちの『勇者資料』とにらめっこをすることが多い。
だが、結局仮説ばかりで確証が得られることはない。
なので、最後はお決まりのように机に突っ伏している。
「その『勇者』とは違うけど、この町に限らず『勇者』の名を冠したイベントは、年中どこかしらの町で開催されているんだよ。
まぁ、それだけ『勇者』は数多くの人、地域を救った英雄ってことだな」
ただし『初期勇者に限り』と言ったほうがいいかもしれない。
後期勇者は魔女の魔力を食うことだけを考えており、結果的に町は救われた、というのだから、救いはついでだった。
「見てわかるようにこの町では『勇者』って名前を冠したお店が多くて、年に一度『勇者王決定戦』っていうイベントが開催されるんだ。
そこで優勝したら『勇者王』っていう栄誉が得られるってわけだ」
「なるほど!
つまり、一番美味しいらーめんを作る人のことですね?」
アリスは、ぽんっと手を叩いて目を輝かせた。
「まぁ、そうだな」
アリスは食べ物のことになれば理解が早いのか、それともいつもの天然理解がたまたま正解だったのか。
「では、これを食べたら次は『勇者王』さんのお店ですね」
「お、おぅ……」
アリスは目を輝かせたまま、らーめんマップに視線を移した。
……これを食べた後……
まぁ、アリスにとっては前菜でしかないか……
私は水だけ飲んでいようかな……?
「はあああああ!」
「ふおおおおお!」
私が雰囲気だけでお腹がいっぱいになったところで、ついに筋肉野郎二人による調理が始まった。
……暑苦し……




