自作小型魔導通信端末(通称スマホ)の機能
「ところで、スマホを使ったことは?」
「ありません。
でも漫画ではよく見かける魔術なのでよく知っていますよ。
遠くの人とお話しできるのはもちろん、お手紙のやり取りみたいなことができるんですよね?」
お手紙って……スマホの感想がおばあちゃんみたいだな。
「それに確か、呼びかけると凄い巨人が現れたりするんですよね?」
ん?
「中にはスマホの中に閉じ込めたりもできますし、逆にスマホの中に入れていた魔物も自由自在に呼び出すこともできたり」
「はい、ちょっと待った」
「なんでしょう? もしかして間違えてますか?」
私が話を止めると、アリスは不思議そうに首を傾げた。
なぜスマホに関しては、これほど信じているのだろうか?
「はっきり言うぞ。
通話とメッセージ以外は全部不可能だ」
「えぇ!? でもスマホって現代の万能魔術なんですよね?
てっきりなんでもできるものとばかり思っていました」
現代を舞台にした漫画だと、まず間違いなく使われる魔術だからなぁ。
アリスの知識は漫画によるものだから、勘違いしてしまうのも仕方のないことかもしれない。
そうなってくると、他の知識も心配だな……
だが今はスマホの説明だけしておくか。
「万能魔術であることは間違いないぞ。
ある程度なら、魔法と同等の効果を持ったアプリも使えるしな。
通話なんて最たる例だよな。
昔は遠くの人と話をするのも魔法が使われていた。それもほぼ魔女専用という、魔力量が必要になっていた。
しかし今は微弱な魔力で、誰でも遠くの人と話せるようになったからな。
魔導技術の進歩は素晴らしい。
だから、そのうち今言ったようなこともできるようになるかもしれないな。
ただ、10年以上先なのは間違いない」
しかし、アリスの魔力を研究に注ぎ込めば、もっと早く私だけの高度なアプリを開発できるかもしれない。
それこそ時代の最先端どころか、未来の魔導技術だ。
でも今一番開発したいのは、勇者の行方を追える魔術なんだよな。
とにかく私の魔力を返して欲しい。
「ルシアさん?」
「んあ?」
……と、豊富な研究用魔力を手に入れたことでできる幅が広がり、ついつい色々な可能性について考えてしまった。
「すまんすまん。ちょっと考え事をしていた。
アリスが今言ったようなことはできないが、基本的な機能はもちろん、私が開発したアプリをインストールしてある。
セキュリティ面もバッチリで、偽造身分証だとバレる心配はないが、紛失したら必ず私に知らせること。
万が一のことを考え、中身を遠隔で消去できる術式を組んでいるので、見つからないようであれば即座に実行する。
それに自作とはいっても中身を改造しただけだから、スマホそのものはいくらでも手に入る。
それから、あくまで危機に瀕した時だが、自爆術式も組み込んであるから、起動の5秒後には装填した魔力に比例した爆発力を発揮できる。
証拠隠滅にもなるし、単純な攻撃としても使える」
「……あの……使っている途中でいきなり爆発とかは……」
興味津々で私の説明を聞いていたアリスだが、一瞬にして顔が引きつる。
「そこは大丈夫だ。意識して使用しない限り起動はしない」
けど自作を始めた当初は、様々なスマホを用意していたので、1つが爆発すると連鎖爆発を起こしてしまったことがある。
結果、当時の木造研究所が大火事になってしまったが、ちゃんと消火魔術は準備していたのでことなきを得た。
そんな失敗を経て完成したのが、今の私のスマホだ。
「私が他に作った魔術もだが、ちゃんと誤作動防止が働くようになっている」
でも開発当初は以下略。
「それに他人の魔力ではスマホの起動すらできないから、安心して使えばいい」
「……そ、それならいいのですが……」
アリスはイマイチ信用できていないようだが、とりあえず説明を続ける。
「それとスマホを使用する際、本来なら基本料金というものが必要になるが、私のスマホは……
詳しい説明は省くが、通常のスマホ魔導回線に『割り込む』ため、料金は不要だ。
ただし『割り込み』分の魔力を余計に使用する必要があることと、スマホでの買い物には正規の料金がかかるから、そこは注意だ。
特にお金。
余裕があるとは言ったが、無限にあるわけでないからな。
一応お金の偽造もできるし、バレない自信もあるが、万が一にでもバレた場合、あまりにもリスクが大きい。
お金の偽造はどこの国でも罪が重いからな。
魔女狩りとはまた違った、制服を着た人たちに囲まれちゃうぞ」
「あ、わかります。
お金関係の漫画に『お金は命よりも大切』って言ってる人がいました。
でも私は生きている方が大事だと思うんです」
「そう。その通りだ。
だから私もお金の偽造だけはしないんだ」
私は昔、罠に嵌められて偽金を掴まされ、制服組に囲まれたことがある。
あれは魔女狩りとは違った居心地の悪さだったな。
「説明はこんなところだが、何か聞きたいことはあるか?」
説明が終わるとほぼ同時にスマホの作業が終わったので、アリスに手渡す。
「……ありがとうございます」
すると先ほどの自爆の件があったからか、アリスは恐る恐るスマホを受け取り、そして色んな角度から眺める。
「質問、というか、使い方がわからないのですが……どちらが上なのでしょうか?
間違えると爆発しますか……?」
確かに。起動させなければ真っ黒だもんな。
「まず、爆発はしないから安心しろ。
とりあえず基本的な動作を私が少しずつ教えるから、まずは身分証の提示方法と買い物の仕方を覚えよう。
あと当然だが、スマホも魔術だから使用するためには魔力が必要になるからな」
「……よ、よろしくお願いします……」
アリスにスマホの操作を教えながら、少し遅めの夕食を摂ることにする。と言っても非常食だが。
これもあとで補充しておかないとな。
「こ、これがカップラーメンですか……
いい匂いですね。
本当にいただいてもいいのですか?」
アリスはカップラーメンを前に目を輝かせ、今にも涎が垂れそうな表情で、視線が私とカップラーメンを行ったり来たりしている。
「あぁ。今は手持ちが少ないが、町に行けばいくらでも手に入るからな」
「それを聞いて安心しました。
では早速」
「待て、まだ早い。
これは3分待たなければいけないやつだ」
「そ、そうでした……お湯をかければ即完成ではなかったですね……」
アリスははやる気持ちをおさせるも、まるで『待て』と命令されている犬のように、カップラーメンの前でじっとその時を待つ。
…………
沈黙が流れること3分。
スマホにセットしていたタイマーが鳴る。
「よし、いいぞ」
「ではいただきます!
あつ……は……あつ……」
待ちに待ったこの瞬間だったが、アリスの想定以上に熱かったのか、猫舌の子猫が慎重に食べているような姿は可愛らしい。




