野生の上位魔女
「ありがとうございました。
お菓子は贅沢品なのでなかなか食べる機会もなく、堪能させていただきました」
お高い、とは言ったが、飴玉ひとつで銃撃したことはなかったことになり……気づいてなかったぽいが……そこまで感謝されるとは……
これでは良心の呵責が……とかは特にない。やっぱり保身は大事だから。
しかしここまでの態度を見てしまうと、やはり貧困育ちだろうか?
というか、そんなことはどうでもよくて、問題なのは魔力弾よりも即効性も効果も高い飴玉魔術がまーったく効いてないこと。
食べたふりして捨てた、とかでなければ、考えられる理由は魔術の不備か、膨大な魔力保有による『自動魔力防御』が機能しているかの二つだ。
前者の場合は仕方がない。私だって完璧ではないのだから、研究所をぶっ飛ばすレベルの失敗なんてしょっちゅうある。
問題は後者。その名の通り、魔力による攻撃を自動で魔力防御する現象で、特に今回使用した幻覚魔力や毒、麻痺などといった侵食系魔力は、体内にある膨大な魔力に押しつぶされて侵食しきれず、身体に影響が出ることはない。
一応弱点としては、物理攻撃は自動で防げないこと。
なので魔王戦争以前、私の魔術研究をバカにしていじめてくる『魔法至上主義』上位魔女連中(魔女至上主義とはちょっと違う)に、今でいう花粉症の原因となる花粉を大量にぶちまけてやったことがある。
あのときの、余裕ブッこいて実弾型魔力弾を着弾直前に叩っ斬って、顔面花粉まみれになったのは爽快だったわ。
なお、この弱点を克服しなかったため、魔力を奪いつつ物理で突撃してくる勇者には物理系魔力防御が間に合わない、あるいは機能せず、どんどん食われていった。
それはさておき、この『自動魔力防御』は中位以下の魔女では魔力不足で発現しないため『上位魔女専用魔力防御』とも言われている。
当然、普通の人間では使用できないため、目の前の浮浪者っぽい少女は、私の魔術の不備がなければ、上位魔女ということになる。
唯一の例外は、狂人変態勇者は使用できていたが、あれは上位魔女のさらに上位、バケモノの類だから、別枠。
それにしても、過去に何度か魔女狩り、魔女裁判から身を隠すために、このような森でひっそりと暮らす下位魔女と会ったことはある(魔導素材の争奪戦に発展)が、野生の上位魔女なんて初めてだ。
しかも魔力攻撃に対して無抵抗で、状況的にも随分と貧困生活を送っている様子。
もしかして最近産まれたばかりで、自身を魔女と認識できる時間も経っておらず、ただただ貧困生活を送っている、という可能性もある。
となると、いくら上位魔女とはいえ、ぽっと出の魔女に私の魔術が負けたということか……
……なんかこの1日、負けを味わってばかりだな……なんなんだこの屈辱の日……
一年でこの日だけは魔術から離れましょう、と私の中の休日に認定したくなるわ……
と、落ち込んでいる場合ではない。
あくまで可能性の話で会って、少女の目的ははっきりとしていない。
少なくとも侵食系魔力が通用しない(不備以下略)ので、上位魔女なのは間違いないわけで、普通なら反撃を恐れた私は逃げの一択なのだが……
仮に自分の才能に気づいていない気弱で貧困な上位魔女なら、言葉巧みに騙くらかして魔力庫として利用できるのではなかろうか?
そうなれば魔導研究用の魔力をわざわざ買う必要もなくなる。
……よし。ちょっと賭けになるが、少女の機嫌を損ねないよう目的を聞き出し、魔女だと再認識してから口車に乗せていくか。




