形勢逆転
戦力的には問題なし。
それにジジィを盾にしていれば私は無傷でいられる。というか、ジジィの言葉を信じるならジジィだけで十分勝てるはず。
しかし戦局的に不利なはずのシルヴァだが、焦る様子は見られない。単にプロ魂の現れなのか、あるいはライセルを盾にするつもりなのか?
それならジジィも迂闊に手を出せないかもしれないけど、魔女狩り一家なら『これも試練』の一言で終わらせるかもしれない。
そうでなくても、私は容赦なくライセルを攻撃するつもりだけど。
「警告はいたしました。他の皆様方はこれでお帰りになられたのですがね。
ルシア様。まさか私の言葉を『本当にやるはずがない。冗談に決まっている』と、思われているでしょうか?」
……実はちょっと期待してた……
「確かに戦力的には不利ですが、ロージィ様からは魔術の使用を許可されていますので」
だからなんだ? という話である。
戦闘時に魔術を使用するのは当たり前の行為であり、現代ではスポーツでも使用されている。
中には己の肉体のみで勝負する、今時珍しいスポーツもあるが、私は魔術が使用されない時点で興味がないのだが、それはそれでおもしろいらしい。
あとは魔術の機能差、そして使用する人間の強さで勝負は決まる。
条件が同じなら、肉体的に強そうなジジィの圧勝……というか、パンイチでどこに魔術を?
……もしかして、もう形勢逆転した?
少し考えている間にシルヴァは、袖から手のひらに収まる程度の棒状のスイッチを取り出し、躊躇なく押す。
爆破スイッチ……ではないようで、スイッチを押した瞬間に応接室全体に淡い緑色の魔力導線が出現すると、即座に魔力障壁を展開し、私たち3人は応接室に閉じ込められてしまう。
この次にくる展開は、毒、麻痺、睡眠等の魔力攻撃。しかし、私のバッグの中にはそれらに対応できマスクが、私の分だけ用意してある。
あとは魔力に侵されたふりをして、魔力障壁が解除されたら隙をついて逃げるだけ。もしくは、あまりやりたくはないが私の魔力を使えば、この程度の魔力障壁はゴリ押しで突破できる。
つまり、魔力勝負に出た時点で私の勝ち確ということだ。
「シルヴァよ。閉じ込めて反省を促すだけでは無駄じゃと知っておるはずじゃろ?
前回は7日飲まず食わずじゃったが、今回は一月程度か?
「おじいさん、僕は5日ほどしか保ちそうにありませんけど……」
「まだまだ訓練が足りんのう」
「え……?」
……まーた私だけ驚いてるんですけど……
というか、魔力勝負じゃないんかい。
…………いや、ちょっと待てよ……バッグの中には非常食も入っているが、何日分あったっけ? この前、闇目猫の観察の時、少し食べたから……
……そもそも、状況的に狙われるのでは?
ご飯も。身体も。
男女閉じ込められて何も起きないわけがなく……
「その心配はありません
私が受けた指令は『始末しろ』ということなので」
「!?」
次にシルヴァが取り出したのは、エントランスに飾られていたロケットランチャー。
どこからそんなもの……と、また私だけが驚いている場合ではない。
元は魔女狩りのために作られた魔導兵器だ。魔力障壁によって多少威力は落ちるものの、閉じ込められた私たちをぶっ飛ばすには十分だ。
ジジィを肉壁にし、防御魔術と私の魔力をギリギリまで使用すれば……無理か……装填魔力にもよるが、中級魔女の魔力防御もぶち抜くんだ……
ジジィと共闘ならいけると思ったが、一瞬で心折られたな……
……………………
チラリ、と部屋に飾られた貴重な魔術に視線を向ける……欲しい、欲しいけどなぁ……でも仕方ない。やっぱり命の方が大事だ。
全力で逃げる。




