逆転の道筋
シルヴァの表情は、初めて見たときから変わらず、澄ましたような事務的なものである。
だが『始末する』という言葉に嘘はないようで、若干ピリっとした空気を感じる。
それでも、今まで、それこそ500年もの間、様々な経験を積んできた私だ。
本物の殺気を浴びても若干チビる程度で済む。
しかし一般女性がこんな『殺人未遂』ともいえる圧力を体験してしまったら、失神は間違いないだろう。
そして『口外するな。もし喋れば』と脅されてしまえば、口も硬くなる。
となると、本当の意味で『始末』された女性はほぼ皆無。
情報屋からも、この地域で女性が謎の失踪をした、という話は聞いていない。
いや『魔女狩り』は『後始末』にも秀でていると聞く。
情報屋の網に引っかからずに『処理』することなんて容易いことだろう。
となると、この警告は私が無事にこの家から出られるチャンスということになる。
このまま近接戦闘が始まってしまうと、私はシルヴァ相手に1秒ももたない。
ならば、威圧を浴びてチビるかチビらないか、この瀬戸際の時点で撤退するほうが賢い。
「ご理解いただけたようですね」
私が考えをまとめると、シルヴァは澄ました顔から、にっこりと笑顔を浮かべる。
そして『とっとと帰れ』と言わんばかりに、玄関の方へ手を向ける。
「ガルド様、今回も残念でしたね。
これで成功率は0%を維持したままです」
「ぐぬぬ……」
やっぱり被害に遭った女性ゼロじゃん!
まぁシルヴァには負けないというジジィが、無理やり行動を起こさないのが超絶奇跡レベルなんだよな。
やはり命あって物種。
ここにある貴重な魔術を狙う機会は必ずある。
後継者であろうライセルの頼りなさは100%。
ジジィが普通の人間なら、長くてもあと2、30年で寿命だ。
移動させても追えるようにマーキングをしておきたい。
だが、こいつらに気づかれずに行うのは無理そうなんだよな……
ここから無事出たら、遠距離からマーキングを狙うか……
窓の位置から『シュレイドの壺』を狙うには……
よし。
「んじゃ、帰るわ」
直後の作戦は決めた。
ここは大人しくシルヴァに促されるままに、軽く右手を上げて玄関に向かう。
「そうそう。
こんなことは今まで言わんかったのじゃが『ルシア・ガルブレイ』という奇跡に、独り言でも言ってみるかのう」
なんだ? 私を引き止めたいのか?
気持ちはわかるが、止まらんぞ。
「ワシの持つ魔術の中には、かつて『勇者』が使用したとされる魔術があったというのにのう。
魔導研究者であるなら、喉から手が出るほど欲しい一品じゃろうて」
その言葉を聞いて、一歩踏み出した私の足が、ピタリ、と止まる。
私が何がなんでも、それがたとえ些細なことであっても手に入れたい『勇者』の情報だと……?
「ルシア様?」
それに対するシルヴァの圧が強い。チビる瀬戸際を超えてきそうだ。
しかし『ドラゴンと対峙しなければ鱗は手に入らない』という格言がある。
つまり、貴重なものを手に入れるためにはリスクを冒さなければならない、ということだ。
まぁ『ドラゴン』とは『魔王戦争』より遥か昔の魔女が作り出したとされる、架空の生物ではあるが。
各種物語の最強格、それこそ魔女より強い生物として設定されていることが多い。
そして例えるなら、シルヴァ=ドラゴンだ。
普通にやりあえば勝算はゼロ。
私は自分の命に関わるリスクを冒すことは、絶対と言っていいほど行わない。逃げの一択だ。
だが今回の場合、一転して確実な勝利の道筋が見えた。
「ほっほっほ。やはり興味をもったな。
なぁに、心配することなどない。
シルヴァではワシには絶対に勝てん」
そう。まさかの『魔女狩りジジィ』との共闘だ。




