首都フィリーでお買い物
「やっぱり首都は人が多いですねぇ」
「そうだなぁ」
バスで移動中は『私たちの設定』を話したり、アリスの言動についてよく観察していた。
そこでわかった……というか、再確認したのは、アリスの知識源はやはり漫画であり、ある程度現実との区別はできてはいるものの、やはり漫画で起こることは現実でも起こると思っていたようだ。
ただ、喋り方や知識、仕草などは見た目相応の十代前半を思わせることが多いが、お菓子で汚れた手を服で拭いたり、お菓子のかけらをこぼすことはないし、バス内で大声を出すこともなかった。
どちらかと言えば、と言うまでもなく、行儀はいい。
数百年孤独に過ごしてきた野生児でも、こんなことあるんだな……と、私がびっくしりしたぐらいだ。
さて、バスから降りると、そこはさすが首都だ。人が多いこと多いこと。
現代では九分九厘起こらないことはわかってはいるが、魔女狩りがいつどこから襲いかかってくるかわからないという昔の経験から、人混みはあまり好きじゃないんだよなぁ。
でも、人が多い町ほど最新の魔術が使われていたりするので、そこは大好き。
一方アリスは、特に周囲をキョロキョロと見回すような田舎者丸出し感はなく、都会の喧騒に驚く様子はない。
「アリスは人ごみは平気か?」
「はい。
服を拾ったりするときはこういう大きい町の方が手に入りやすいので、実は意外と慣れたものなんです」
「なるほど」
私にビビって命乞いをした姿からは想像できないくらい肝が座っているというか、意外と逞しいというか。
まぁ、あのときは魔銃を持っていたから、仕方ないか。
私だって急に目の前に魔女狩りが現れたらチビるわ。
「ここでは何をするんですか?」
「まずはアリスの生活用品だな。
ホテルに泊まればアメニティがあるが、衣類はそうもいかない。
今着ている服は私のものでサイズも若干違うから、ちゃんとアリスに合った服を買う。
それに、旅の最中は手持ちが少ないから、その少ない衣類を二人でローテーションするわけにもいかないからな」
「よくわかりませんが、そういうものなんですか?」
ずっと同じボロシャツを着ていたアリスにはまだわからないか……
「そういうものだ。
乙女は常に可愛くが私の信条であり、それには年齢なんて関係ない。それがたとえ生まれたばかりの赤ん坊だろうが、天寿を全うしそうなおばあさんであってもな。
さ、行くぞ」
「は、はい……」
アリスの表情を見れば私の言い分を理解していないようだが、これに関しては譲るつもりはない。
魔導教育も大事だが、今日は乙女教育だ。
「そういえば、服ってどういうものを選ぶんですか?
ルシアさんってバトルものですか? それとも現代ものですか?」
…………
アリスの質問に私は一瞬固まるが、知識源を整理すれば自ずと答えは出てくる。
「いわゆる『私たちの物語』は現代ものだよ。
そもそも、この現代でバトルものなんてやろうものなら、傷害や器物破損ですぐに捕まるぞ」
警察などにバレない『特殊な事情』というのもたまにあるが、それは秘密だ。
私の危ない橋を教えるのはまだ早い。
「ということは、魔物を相手にしたりとか、悪の組織に乗り込む展開はないということですね」
「え……うん。
えーと……私たちの旅に強いてタイトルをつけるなら『のんびり魔導研究旅』かな?
ほら、私は魔導研究者って言っただろ?」
嘘は言っていない。私の行動原理は常に『魔導研究』なのだから。
でもたまーに、危ないことだってある。けどそれも『魔導研究』だからしかたがない……で、しばらくは押し通すしかないな……
「そういえばそうでしたね」
アリスは納得して手をポンと叩く。
「そうそう。だからバトルもののような、それ防御力大丈夫? と疑問に思うビキニアーマーなんて着たりしないぞ」
そういえば、昔の『冒険者ギルド』があった時代は、それに近い人もいたな。
身軽に動けるらしいが、それと引き換えに羞恥心を捨てる必要があったそうだ。
「それに現代ではカジュアルな衣服でも、魔術さえ施せば旅はもちろん、探検や戦闘だってできるからな。
アリスが今着ている服だって、私が術式を付与した魔導衣服だから、結構丈夫なんだぞ」
「え!? ルシアさんって服も作れるんですか?
さすが魔導研究者はすごいですねぇ。私なんてお裁縫もできませんよ」
「だろ。凄いだろ」
と、私は自慢げに笑うが、実際のところ、服は市販のものでそれに魔術を付与しているだけだ。
ちなみに、逃亡時代はお金も限られていたので、ある程度は裁縫もできる。
「これにはな、覗き見防止、防水、防塵、強度上昇だな。
簡単に言えば、丈夫な服で真下から覗かれても大丈夫な服だ」
私が必ず付与する術式で、派手に動いても敗れることなんてない。
「なるほど。つまり、ラッキースケベが起きない服ですね」
「……まぁそうだな……」
そう言われると、なんか急に安っぽい感じに聞こえてしまう……
なんか変な小ダメージを受けているうちに、目的の店に到着する。
ここは、この首都でもお手頃な価格で衣類が購入できるアパレルショップだ。
「私、お店に入ることは滅多になかったのですが、挨拶とかした方がいいですか?」
「いや、必要ないよ」
バス内でも思ったが、なぜ孤独な野生児がこんなにも礼儀正しく育ったのか?
アリスの善性がちょっと眩しくて目が潰れそう。
店内に入ると、そこには当然ながら無数の、服、服、服。
「少し見て回ろうか」
「は、はい……」
アリスに合わせて私が適当に選んでもいいが、まずはアリスが興味を示すかどうかを観察してみる。
元野生児とはいえ女の子なのだ。私に遠慮しているだけで、実はお気に入りのブランドなどがあるのかもしれない。
「どうだ? 気に入ったものがあれば遠慮なく、なんでも言っていいからな」
店内を一通り見て回ってアリスに聞くと、アリスは少し困ったような表情を浮かべた。
「え……うーん……全部同じに見えてしまうのですが……」
どうやら乙女心はなかったらしい。
「わかった。それじゃあ今回は私が選ぼう。
これから普通の生活をしていて、気に入ったものができたら、次回はそれを買おう」
「わ、わかりました」
とはいえ、食事をモチーフにした衣類とか選ばれたらどうしよう……
……まぁアリスが気に入ったらならいいか。意外と上手に着こなすかもしれないし。
さて、どれにしようかな?
昨夜の健康診断時にアリスのサイズは測ってあるから、アリスのイメージに合いそうなものを……それと下着もだな……
選び終えたら、店員にはフィッテングは私が行うので、何かあれば呼ぶと伝えてフィッテングルームへ。
カーテンを開けると、二人は余裕で入れる広さに、荷物を多くスペースもちゃんと確保されている。
これぐらいの広さなら、小規模の実験ができそうと即座に考える私は、魔導研究者の鑑だ。
さて、と。
「失礼します」
「……用があればこちらから呼ぶと伝えたはずだが?」
これからアリスに試着してもらおうとしたところで、いきなり店員……女性が入ってきた。
普通の店員なら、まずは外から声がけするだろう。
ならば、同性を狙った犯罪者なのか、あるいはこれがこの店の本来のやり方で、私が言った言葉が伝わっていなかったのか?
とりあえず、何があってもいいように、防犯魔術を手に取る。
「用があるのは私のほうです。
単刀直入にお聞きしますが、巨乳が憎い、絶滅させたい、と思っていますよね?」
「……なんだその質問……」
昔も大概だったが、最近の首都はこんな変な奴が出没するのかぁ。




