限界が近い
「改めて!
優勝は『らーめん研究所』だあ!!』
『うおおおおおおおおおおっ!!』
身の潔白が証明されたことで、司会が再び勝利宣言すると、それに応じて、こちらも再び観客から割れんばかりの歓声が上がった。
もしかして初めからやり直すつもりか?
……勘弁してほしいんだが……
「そ……そんな……」
私が辟易していると『魅了の賢者』の疑いをかけてきた女性が、深い敗北感を浮かべた表情でふらふらと後ずさっていった。
そして女性の店のスタッフの表情を見ると、ここからではどう頑張ってもひっくり返せないことを悟っているようだった。
そんなに優勝したかったのか?
しかしその気持ちもわからないでもない。
この町に滞在中、至る所で熱苦しい宣伝合戦が行われており、アリスも決めきれないほど迷っていたからな。
らーめん店にとって『勇者王』という称号は何が何でも得たいのだろう。
でもおまえの店、確証はないけど、行ったことのある審査員の反応から察するに、エロい店だよな?
必要なくない?
「わ……私の魅了魔法が……こんな小娘のただの歌に負け……はっ!」
女性店員はそこまで言って慌てて口を押さえるが、私の耳は重要情報を決して逃さない。
「んんん?
おまえ今、なんて言った?
私の耳がおかしくなければ『私の魅了魔法』って言ったよな?
つまり、客に囁いていたのは不正行為だった、というわけか」
あまりにショックだったのか、女性店員は墓穴を掘りやがった。
詰めが甘いな。
不正をするなら最後まで堂々とやらないと。ちょっとでも隙を見せたら、徹底的に詰められるのに。
「ち、ちが……」
女性店員は否定しつつも、さらに一歩足を引いて視線をスタッフ、そしてまるで逃走経路を確認するかのように、この会場の一番人が少ない場所へ視線を移す。
計画的な逃走の可能性もあるが、わざわざ詰め寄って無駄な時間を使う必要もない。
とにかく休みたい。これ以上面倒ごとを増やしたら、私が先にぶっ倒れるかもしれない。
私はただ賞品がもらえればそれでいい。
それに今回は相手が悪かった。
まさか女性店員も魔女を相手にしているなんて、夢にも思わないだろう。
「私の耳にも聞こえましたよ」
「うぇ……」
湧き上がる歓声の中、女性が逃走動作に入ろうとした瞬間、司会がぬるりと動いて女性店員の背後に立つ。
その圧倒的な筋肉の壁に、女性店員は顔を青くして足がすくみ、その場で硬直してしまう。
この動き、そしてこの威圧感。
司会の筋肉は、ボディビル用の見た目だけではなかったというのか……
もし正面からやりあったら、一方的にボコられるぞ。
「『勇者』の名において、不正は許されません。
厳正なる処置として、今後この町での商売はもちろん、足を踏み入れることも禁止となります」
その処遇は理解できるが、司会にそんな権限が?
まさかこの町の権力者か何かか?
司会が腕を組んで圧倒的な威圧感を示し、口調が先程までのイベント用から断罪用へと変わったことで、周囲もその空気を察したようだ。
歓喜の空気から一転、獲物を狩るような目で『不正者』を取り囲み始めた。
しかもただ近寄ってくるのではなく、鍛え抜かれた胸や腕の筋肉をビクンビクンと誇示しながらだ。
……こわ……私も不正がバレてたら、こんな集中攻撃を浴びていたのか……
よかった。特訓しておいて。
『『勇者』の名において『不正者』は許されない』
そして司会の言葉を審査員と店員が繰り返し、周囲が一体となって様々なポージングを取りながら、どんどん女性店員に詰め寄っていく。
怖い怖い怖い怖い……
というか『勇者』を神格化しすぎて、もう宗教じゃないか、これ……って、今更か……
……どうするか?
このままだと、拷問、磔、火あぶりと、魔女裁判のような凶行が行われかねない雰囲気なんだが……
でも下手に助けて私までグルだと思われるのは嫌だからなぁ。
……ま、不正を隠しきれなかった報いということで。
それと、できればとっとと終わらせてほしい。私はこの間も隠蔽魔法を使用し続けて、どんどん魔力を消費しているのだから。
「だがしかし! 今回は『勇者王決定戦』により、新たな『勇者』が誕生しました!
裁量権は『勇者ルシア』さんにあります!」
「へ?」
『おおおおおおおおおおおおっ!!!』
なんか巻き込まれてるしっ!?
「では『勇者ルシア』さん。この『不正者』に裁きを」
そう言いつつ、司会は私にマイクを差し出してきた。
……どうしよう……
というか、私の魔力のほとんどを奪い取ったのは、憎っくき『狂人変態勇者』だというのに……
その私がまさか『勇者』という称号をもらうことになってしまうとは……
…………
複雑な思いはあるものの、まずはこの場を解決してしまおう。
普段なら私の不正は棚に上げて、この『不正者』は絶対に許さない。
そして慰謝料と今回使用した魅了魔法の内容について詳しく話してもらうところだ。
しかし今回に限って言えば、私の限界も近い。とにかく早く終わらせて賞品をいただき、この場から立ち去りたいのだ。
「……許す」
『おおっ!』
そして私の下した判断に、周囲からどよめきの声が上がった。
「今回の『勇者王決定戦』にかける情熱があまりにも熱すぎたあまり、そのような行為に出たのだろう。
ただ、方向性が間違っただけだ。
今後『勇者』を全うに目指すというのなら、許す」
「……はい」
女性店員は私の言葉に感銘を受けたのか、あるいは命は助かったと思ったのか、その場に膝から崩れ落ちた。
「『勇者ルシア』さんの寛大な判断に、皆様盛大な拍手を!」
『おおおおおおおおおおっ!!』
そして審査員、店員、観客から、今回で1番の喝采を浴びることになった。
「…………ぅ」
「ルシアさん、大丈夫ですか?
おトイレはあまり我慢しないほうが」
そんな中、小刻みに震える私にアリスは、心配そうに声をかけてくれた。
「いや……大丈夫だ……」
「ならいいのですが」
ただ、表現としては当たらずとも遠からずといったところ。
100人に対して隠蔽魔力を持続させているが、私が『魔女として存在できる魔力の限界』まではまだ余裕はある。
しかしそれでも、アリスが言ったように、例えるならトイレを我慢している状態に近くなってきた……
早く……早く進行を……
「では『勇者ルシア』さん。
最後にこの者に、勝者の『ルシアリスらーめん』を提供していただけませんか?
それを食し、次に目指す道を示すのがよろしいかと」
さすがプロの司会は予想外の展開が起こっても、何事もなかったかのように進める。
……101人目……




